軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:朝

カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされ、ネルは目を覚ました。

寝ぼけ眼を数度しばたき、ゆっくりと身体を起こす。

「……ふぁ……」

小さく欠伸を溢し、それからネルは、横へと顔を向け――視界に映る、隣のベッドで眠る、一人の青年。

珍しい黒一色の髪に、まるで少年のようなあどけない寝顔。

こうしてまじまじと見ると、童顔という程ではないが、存外自分とあまり歳が変わらないのでは、とも思ってしまう。

今の彼の様子を見ていると、人間は疎か亜人族に獣人族、魔族ですら敵わない、とてつもない力を内部に宿した魔王ではあるとはとても思えない。

……まあ、彼は起きている時も、良くも悪くも無邪気で子供っぽい人ではあるため、普通に接している限りは魔王であるとはわからないだろうが。

前々からネルは、この青年のことを近所のおにーさんのようだと思っているが、その思いは今になっても全く変わらない。

きっと、自分に異性の幼馴染がいれば、この人のような感じなのだろう。

まだ出会ってから一年程であるが、彼の存在は、ネルの中でそれだけ大きなものとなっていた。

「……フフ」

ネルは小さく笑みを浮かべ、自身のベッドから降りると、隣の青年のベッドにぽふ、と腰掛ける。

手を伸ばし、起こさないよう気を遣いながら、その髪に優しく手を添え、 梳(す) くようにして撫でた。

ツンツンしているのに、思った以上に触り心地の良い、サラサラとした髪の感触。

手の平から伝わる、心が安らぐような、彼の温もり。

トクン、と心の奥の部分が、熱く脈打つ。

普段、他に人がいる時はこんなこと、恥ずかしいので絶対にしないのだが……。

――今ぐらいは、いいよね。

じんわりと胸を温め、きゅっと締め付けられるような切なさと共に、ネルは微笑を口元に携え、彼の髪に指を通した。

「……んぅ」

と、ふと、聞こえて来る小さな声。

目の前のユキではなく、別の方向からだ。

ネルがそちらに顔を向けると、いつの間にか、民族衣装らしい服装に身を包んだ、ユキと同じ黒髪の幼女が一人、眠そうに目を擦りながら部屋に備え付けられているソファに座っていた。

「エンちゃん、おはよう」

「……ん、おはよ」

目をくしくししながら、くぁ、と可愛らしい欠伸を漏らす幼女――エン。

彼女はユキの主武装で、ネルにとっての聖剣デュランダルと同じような存在であるため、当然ながら今回の王都来訪にも付いて来ていたのだが、自分は主といつも一緒にいられるから、とネルに遠慮し、ずっとユキの持つ収納の魔法の中で大人しくしていてくれたのだ。

流石に寝る時ぐらいは、とユキが収納の魔法から取り出し、ソファに立てかけられていたため、ちょうど今起きて擬人化したのだろう。

本当に優しく、思いやりのある子だ。

「……? 何してる?」

ユキのベッドに座るネルを見て、こてんを首を傾げ、そう問い掛けるエン。

「うん、おにーさんの寝顔って、あんまり見たことないなって思って。良い機会だから、じっくり見たくてさ。エンちゃんも見る?」

「……見る」

こくりと頷いて幼女は、ソファを降りペタペタと歩いてユキの眠るベッドまで来ると、彼を起こさないようにゆっくりとベッドに上り、ネルの隣に腰掛ける。

「……主、寝てる」

「うん、寝てるね」

「……主の寝顔、珍しい」

「おにーさん、いっつも起きるの早いもんねぇ」

ユキはいつも、朝が早い。

どうもダンジョンにいる間であれば、ダンジョンからユキに力が流れ込んでいるため、あまり睡眠を必要としないのだそうだ。

それ故、魔王城の住人の中では、非常に寝起きが良いリューの次に起きるのが早く、手伝わなければとは思うものの朝起きたらすでに朝食が出来上がっていた、なんてこともよくあったりする。

前日、レフィと夜遅くまで遊戯盤で遊んでいたような日もだ。

ただ、その代わりダンジョン外の場所にいる時は、とてつもない力を秘めた魔王の肉体を維持するためか多量の食事と睡眠を必要とするそうで、今もこのように、ネルよりも眠りが深い。

確かに、あまり大食漢というイメージはないユキだったが、魔境の森を出た頃から、ちょっとびっくりするぐらいの量を彼は食べている。

変な話だが、その彼の食べる食事の量を見て、魔王としての強さの一端を垣間見た気分だ。

「……なんか、可愛い」

「フフ、わかるよ、言いたいこと」

この寝顔のあどけなさは、普段の豪放でハチャメチャな様子とのギャップが大きい。

ユキはいつも、「自分はレフィ程じゃない」なんてことを言うが、ネルからすればユキも十分やることなすことが派手で、時折彼がふざけて言う「無理を通して道理を蹴っ飛ばす」という言葉にピッタリ来るような人だろう。

――やっぱり、ヘンな人。

「……ちょっと、リルに似てる」

「え、そ、そう?」

「……ん。似てる」

コクリと頷くエン。

その時、二人の声が意識に入り込んだのか、小さく身じろぎをするユキ。

彼は、そのままゆっくり瞼を開くと、数度しばたいてから、ベッドに腰掛ける二人の姿を視界に捉えたらしく、緩慢な動作で首を曲げ二人に顔を向けた。

「あ、おはよ、おにーさん。ごめん、起こしちゃったかな?」

「……主、おはよう」

「……はよ。……? 何で俺のベッドに座ってんだ?」

「ちょっとね。……フフ」

眠たいのか、瞼を半分だけ開いているため、細く鋭い眼になっているユキが確かにリルの顔と似ており、思わずクスっと笑ってしまったネルを見て、エンが無表情ながらも少しだけ得意げな様子で口を開く。

「……ね?」

「アハハ、本当だね」

クスクスと笑う二人に、ユキは不思議そうに首を傾げていた。