軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都到着

「……何?」

いつも口元に薄い笑みを絶やさない、紳士風の男――アルゴスは、思わず真顔になって聞き返す。

「ハ、どうやらカクザは扇動に失敗した模様です。申し訳ありません、あの男に任せておけば問題ないだろうと、確認を向かわせるのが遅れてしまいました」

「……いえ、それは構いませんが。報告の続きをお願いします」

少しだけ顰め面を浮かべた後に、しかしすぐに笑みを口元に携え、アルゴスは部下へとそう促す。

「まず、勇者が街に到着すると同時、魔物をおびき寄せるところまではカクザも成功したようです。確かな数の軍勢が襲撃に来たらしいことは確認が取れました」

「? そこに成功して、なお扇動に失敗したと?」

「えぇ、どうも勇者が、街の者に一人も被害を出させず、襲撃を完全に撃退したようで」

部下の言葉に、面食らった様子を見せるアルゴス。

「……それは、本当にそうであれば、扇動の失敗も頷けようものですが。しかし、あの勇者にそこまでの実力が? 私の見知っている限りでは、あの勇者は先代勇者の実力に遠く及ばない能力しか持っていないはずですが……」

「失礼を承知で言わせていただきますれば、仮にも勇者に抜擢される者が秘めるポテンシャルを、甘く見積もり過ぎていた、ということでしょう。流石に、一人で数百の魔物の殲滅し切る程の実力を有しているとは想定外が過ぎますが……」

「……あくまで彼女は、勇者である、ということですね。了解しました、次からは彼女がその実力を発揮出来ない方向で罠を組むとしましょう。それで、カクザ君は?」

「……それが、少し妙でして」

「妙、ですか?」

いつもは簡潔に、わかりやすく報告を済ます部下が、若干言葉を濁す様を少し怪訝に思いながら、アルゴスは報告に耳を傾ける。

「カクザの遺体が、魔物の巣から発見されました。魔物どもに見せしめとしてやられたらしく、大分損傷が激しかったのですが……その傷の中に、小型のナイフで刺されたものがありました」

「っ……なるほど。魔物の誘導に成功したはずなのに、魔物の巣で遺体が見つかり、しかも魔物ではない者にやられたと思しき傷があると。つまり、魔物の巣にカクザ君を放り込んで後処理をさせようとした、第三者がいるということですね?」

「恐らくは。そして、それに関連してもう一つ報告が」

「聞きましょう」

「勇者の、婚約相手を名乗る者が現れました。その者は現在勇者と同行しており、そして道化のような仮面を被っていた、と」

「! 例の王都の騒動に現れた、『仮面』ですか!」

目を見開いたアルゴスに、部下の男はコクリと頷く。

「確証はありませんが、以前『仮面』が現れた時もまた、近くに勇者の姿がありました。その可能性は高いかと思われます」

「ふむ……つまり君は、カクザ君を始末したのは、その仮面であると考えているのですね? そして、その者にこちらの情報を抜かれた懸念がある、という訳ですか」

「まだ漠然とした情報しかわかっておりません故、本当にそうなのかは定かではありませんが……情報漏洩の可能性がある以上、警戒するに越したことはないかと」

「同感ですが、厄介ですね。本当にその仮面が以前に現れた仮面と同一人物であるならば、相当の実力があるはず。仮にも私の部下の中で、最も武闘派で頭の回ったカクザ君を始末したことから見ても、一歩間違えればこちらが食われますね」

アルゴスはしばし黙考してから、徐に口を開いた。

「……とにかく、情報が足りません。この際勇者はいいです。監視するのみにしておきましょう。部下を半分使っていいですので、その男の情報を至急集めてください」

「ハ、了解致しました」

部下の男は、アルゴスに 頭(こうべ) を垂れると、そのまま部屋を去って行った。

一人になったアルゴスは、浮かべていた笑みを消し去り、一切表情の見えない無気味な真顔で、ポツリと呟く。

「……全く、忌々しい。勇者などと持て囃された生意気な小娘に、その小娘一人陥れられない、使えない役立たずめ。せめて、潔く自害して果てればよかったものを」

ギリィ、と歯を食い締めてから、アルゴスはふっと表情を和らげると、再びいつもの微笑を口元に携える。

「……まあいいでしょう。どちらにしろ、彼女が今更王都に辿り着いたところで、もう遅い。私の策に泥を塗っただけ、彼女には絶望してもらいましょう」

小さな冷笑が、部屋に響き渡った。

* * *

翌日。

ネルの出立を何処かから聞き入れたらしく、多くの民衆の歓声に包まれながら街を出発し、早数時間。

「……それにしても馬車って結構暇だよな。俺、馬車旅ってもっと楽しいものだと思ってたんだが……」

「まあ、この辺りはずっと代わり映えがしない、殺風景な景色だからねぇ。――はいおにーさん、フルハウス」

「んなっ……ツーペアだ。お前、ポーカーフェイスが上手くなったな……」

「毎日皆と遊んで、鍛えられたからね」

ニコニコしながらそう言うネルに、俺はぐぬぬと唸りながら、トランプをシャッフルする。

しかし、良かった。

昨日の笑顔は、裏に般若が見える笑顔だったが、今日の笑顔は裏表のない、純粋に勝って嬉しいというだけの笑顔だ。

一晩が経ち、機嫌を完全に直してくれたらしい。

昨日あの後、少し寝て休んでから、一日彼女に付き合って買い物をしたのが功をなしたのかもしれない。

……昨日は、やはり女子は、どの世界でも買い物好きなのだということを思い知った一日だった。

何故女子というものは、あんな疲れる買い物を何時間もぶっ続けで行えるのだろうか。

元々一日動き続けた後だから、というのもあるかもしれないが、俺、もう途中から精神的疲れでげんなりして来ていたのに対し、ネルは最後まで元気溌剌だったからな。

魔王の疲れ知らずな肉体でも、買い物中の女子にはどうも敵わないらしい。

――と、そうしてネルとトランプで暇潰しをしていたその時、ガタタンと小さく振動し、馬車の速度が低下する。

「お?」

トランプを切る手を止め、馬車の窓から外へと顔を覗かせると、視界に映るのは、壁。

視界の限りでどこまでも続く、外壁である。

「! 着いたか」

王都、アルシル。

見ると、俺達領主と勇者一行の馬車群の前方にも、別の馬車が数台止まっており、そのために速度を緩めたようだ。

「……!」

ネルもまた俺に続いて外を確認し、そして一瞬だけ身体を強張らせる。

……この様子だと、俺とトランプしている時も内心は、王都に到着した時のことを想像して怯えていたのかもしれない。

「……大丈夫だ」

俺は、彼女の頭に手を置き、クシャリと撫でる。

「お前の隣には、ずっと俺がいる。俺以外にも、お前の味方をするヤツはもっといる。だから、堂々としてりゃあいいんだ。怖がる必要なんて、どこにもない」

「……うん。わかってる。ありがと、おにーさん」

ネルは、ただしっかりと王都の外壁を見据え、ゆっくりと、だが覚悟を決めた表情で、コクリと頷いた。