軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:男は皆昔、ショタだった《2》

「はい! ユっ君、あーん!」

「…………」

「……あーん」

「…………」

左右から交互に伸ばされるスプーンをパクっと口に含み、俺は無心でそれを咀嚼する。

「どう、ユっ君、美味しい?」

「……美味しい?」

「……あぁ、うん、美味しいよ、イルーナ姉ちゃんにエン姉ちゃん」

その俺の言葉に、二人は嬉しそうに頬を緩ませながら身体をクネクネさせる。

イルーナはともかく、エンのそんな姿は、中々に新鮮だ。

二人とも、ウチでは最年少組だから、いつも子供扱いされる側だもんな。

きっと、こうして誰かのお姉さんとして振る舞えることが嬉しいのだろう。

ちなみにシィはと言うと、彼女だけは俺がガキと化しても特に変わった反応をすることなく、よくわかっていなさそうな様子で俺達のことを眺めている。

まあ、彼女の「眼」のように見える器官は、ただ人の眼の形を模しているだけのもののはずなので、俺の姿形が変わっていることには気が付いていても、元々俺達とは全く違った物の見方をしている可能性は高い。

……彼女がどうやって世界を認識しているのか、レイラじゃないが少々気になるところだ。

「フフ、何だかとっても微笑ましい図だね」

と、対面の椅子に座り、あーんをされるこちらの様子をニコニコと眺めるのは、勇者の少女、ネル。

「でも、ユキ君、無愛想な顔よりは、僕は君の笑顔の方が見たいかなぁって」

「……無茶を言うな。今の俺にそんなことをさせたら……血を吐いて倒れるぞ」

「そ、そう。なんか、すっごく力が籠ってたね、言葉に」

そりゃ、お前……俺の今の気分を知れば、よくわかるだろうよ。

――この身体がどうすれば元に戻るのか、と頭を抱えていた俺だったが、その答えは結構あっさりレフィから口にされた。

彼女曰く、今現在の俺は、ポーションに含まれた魔力に浸食されている状態なのだそうだ。

ポーションに含まれていた魔力がウィルスのように俺の魔力を媒介にして身体を浸食し、全身に作用を及ぼした結果が、どういう訳かこのガキの身体であると。

そして元の身体に戻る方法だが、今の俺は一時的に風邪を引いているのと同じような状況であるので、時間が経てば自ずと元に戻るらしい。

俺の魔力眼では全然わからなかったが、レフィ曰く俺の持つ魔力はすでに大分正常に戻り始めているので、明日にでもなればこのちっこい身体から解放されるだろうとのことだ。

また、我が家の物知りお姉さんレイラも、こういう 身体(しんたい) に直接効果を及ぼすようなポーションなどの特殊薬物は、そう長く効果を及ぼすことがないのが定説とのこと。

良かった、マジで。

このままずっと名探偵フォームだったら、絶望に打ちひしがれているところだ。

今なら、彼が黒尽くめの男達を追い求めた気持ちもよくわかる。

「ね、ユっ君、朝ご飯食べたら、お外に遊びに行こっ?」

「……ん。行こ」

「へいへい、付いて行きますよ、お姉様方」

諦めたような表情で俺は、苦笑を浮かべた。

* * *

「ルイちゃん、ローちゃん、そっち行ったよ!!」

イルーナの言葉に、人形に憑依状態であるレイス娘の次女ルイと三女ローが、俺を捕まえようと中空を滑るようにしてこちらに迫り来る。

「甘い甘い!!その程度でこのユキ名探偵フォームを捕まえられると思ったかぁ!?」

「あっ、ユっ君飛ぶのずるーい!!」

「フハハハハ!!何とでも言うがいいさ!!今の俺はスピード特化型!!誰も俺を止めることは出来ないのだぁッッ!!」

俺は、華麗な高笑いをかましながら、背中の翼を存分に用いて迫り来る幼女どもから回避し続ける。

「むーっ! なら、イルーナ達も、合体攻撃しちゃうもん!」

「ほう? いったい何をしようと言うのかね? まあ、何をしてもムダだろうがなぁッ!!」

余裕をぶっこき、若干声が甲高いものの魔王的高笑いをかましながら空中を回避を続けていた――その時。

「みんな! 行くよ!」

イルーナの合図と共に、幼女達が一斉に俺に向かって飛び掛かって来る。

まず、レイス三人娘達。

流石の連繋の良さを発揮し、俺の逃げ場を減らすため、互いに適切な距離を取りながらこちらに迫る。

俺は彼女らの包囲網から抜け出すべく、ほぼ自由落下の勢いで地面スレスレまで高度を下げると、翼を思い切り羽ばたかせて急ブレーキを掛け、そしてジグザグ飛行を始める。

今の俺は、身体が彼女らとほぼ同じぐらい小柄であるため、普段とは違った非常に小回りの利いた飛行が可能なのである。

だが、まあ……我が家の幼女達は、そんじょそこらの幼女とは一線を画した能力を持っている。

俺が地面付近まで高度を下げたためこちらに手の届くようになったエンが、俺がジグザグに避ける先を正確に予想し、俺が来るであろうポイントに向かって鋭くジャンプする。

彼女は剣ではあるものの、ステータス的には伝説級の武器群に仲間入りする程の能力を有しているため、擬人化状態であっても非常に高い身体性能、それも大人顔負けの動きをすることが出来るのだ。

ただ――それでも残念ながら、俺には一歩届かない。

身体は子供でも、身体機能自体は以前と何ら変わっていない魔王の超視力を発揮し、エンが突進ばりのジャンプをして飛び掛かって来る様子を視界の端に収めていた俺は、グルンと空中で回転すると同時、翼でいなすようにして彼女のジャンプの勢いを消し、そのまま怪我にしないように彼女の身体を土の上にすとんと置く。

この間一秒未満。

魔王が、幼女達と遊んだ際にケガさせないよう編み出した、対幼女用安全術である。

「悪いな、エン!!その程度ではお前の主は捕まえられ――」

「――シィ!!」

「うン!!」

ハッとその声に振り返り、俺の眼に映ったのは――視界いっぱいに広がる、 水色の塊(・・・・) 。

通常のスライム形態となった、シィである。

「っ、なんウプッ――」

恐らくは、俺が口上をかますタイミングをイルーナが読んでいたのだろう。

一瞬の油断を衝かれ、俺の顔面を覆うシィに視界を奪われたため、飛んでいた俺の身体の動きが止まる。

その隙を逃さず、一斉にレイス三人娘達とエンがこちらに飛び掛かり、俺の身体を押さえに掛かる。

……まあ、正直に言うと、シィが飛んで来ていることは『危機察知』スキルで把握していたのだが、そこは内緒だ。

面白くないからな。

「ぐわああぁぁ――ッ!?」

そのまま俺は、錐もみ回転しながら落下していき、そして最後にイルーナがこちらに飛び掛かって来たところで、幼女達と団子状態となって土の上に墜落した。

「えへへ、ユっ君、捕らえたり! おねえちゃん達に勝とうなんて、まだまだ早いんだから!」

それはもう嬉しそうなニコニコ顔に、若干のどや顔を混ぜたような表情を浮かべ、間近から俺の顔を覗き込むイルーナ。

「ハハ、そうみたいだな。負けちまったよ。流石お姉ちゃん達だ」

「ねね、あるじ、つぎはナにする?」

「そうだなぁ……追いかけっこはそれはもう全力でやったし、今度は砂遊びでもするか?」

「砂遊び! いいね、ユっ君、砂遊びしよっ!」

「……ん。いい案」

彼女らの言葉と同意見だと言わんばかりに、レイス娘達が俺の周りをクルクルと楽しそうに回る。

――と、そうして幼女達と共に、俺が城の中庭に作っておいた公園的場所へ向かおうとした、その時だった。

「――ご主人……嫌がっていた割に、意外とノリノリっすねぇ」

聞こえて来た声に俺はビク、と身体を反応させ、表情を引き攣らせながら、ギギギ、とそちらに顔を向ける。

――そこにいたのは、生暖かい眼でこちらの様子を眺めている、リューだった。

「……お、お、おう。リューか。ど、どうしたんだ」

割と素ではしゃいでいたところを見られたことが、何だか無性に気恥ずかしくなり、頰をポリポリと掻きながら俺は、彼女の方を見ないようにして口を開く。

「いえ、別に、洗濯物を干しに来ただけっすよ。何やら楽しげな声が聞こえたっすから、ちょっと様子を見に、ね?」

そう言って、ニヤ、と意味ありげに口元を歪めたリューは、さらに言葉を続ける。

「いやぁ、それにしても、身体も小っちゃくなって童心に帰ったって感じっすねぇ。お姉ちゃん、なんて言っちゃってぇ?」

「う、うるせぇ! べ、別に俺が、自分から呼び始めた訳じゃ――」

「……ユっ君、おねえちゃんって言うの、イヤだった……?」

「あ、い、いや、違うぞ。そ、そう言う訳じゃないんだ。た、ただちょっと、色々と思うところが……」

ちょっと悲しそうにしながらこちらを見るイルーナに、俺はたじたじになりながらも慌てて弁明する。

「あぁ~、イケない子っすねぇ、女の子を泣かせちゃって、ユっ君は」

「お前までユっ君言うな! ――って、お、おい!」

ニヤニヤと笑いながら彼女は、そう言って俺の身体をヒョイと持ち上げる。

「ウチも、こんな可愛い弟が欲しかったっすねぇ。ちょっと小憎らしくて、でも可愛い弟。ネルやレフィ様があれだけメロメロになってるのも、よくわかるっす」

「や、やめろって、頬擦りすんな! イルーナ達が見てるだろ!」

「フフ、恥ずかしがっちゃって、可愛いっすねぇ。いいじゃないっすか、ちょっとぐらい。このこのぉ」

こちらを全く気にした様子もなく、頬擦りを続けるリュー。

「くっ……お、お前が良くとも、俺が良くねぇんだよ! 外見は変わっても中身は俺なんだからな!?」

彼女の肌の体温や、超至近距離で感じる良い匂い。

身体全身を抱きすくめられているという、何とも言えないこのむず痒い感覚に、頬に感じる彼女のすべすべとした肌。

今まで抱っこされたり撫でられたりはしたが、頬擦りされる方が感覚的にはよっぽど恥ずかしいのである。

「何言ってるんすか。まだ一年経つまで正式じゃないとは言え、ウチら夫婦っすよ? これぐらいはコミュニケーションの範疇っす!」

「……た、確かに、そうなの……か?」

ま、まあ、夫婦だしな。

彼女との身体的接触は別に、そこまでおかしくないこと、なのか?

「そうっすよ! だからこうしてウチが、ユっ君を可愛がるのは、全然おかしなことじゃないっす!」

「リューおねえちゃんずるーい! イルーナ達が遊んでたのにー!」

「……ん。リューずるい」

「フフ、ごめんなさいっす」

微笑ましそうに笑いながら彼女は、最後に俺の身体をギューッと抱き締め、そして下ろした。

「それじゃあ、ウチはこれで行くっす。皆、暗くなる前には帰るんすよー?」

「「はーい」」

イルーナとシィが元気よく返事をしながら右手を上げ、エンが無言でコクリと頷く。

その後ろで、レイス三人娘がイルーナとシィの返事に合わせ、同じように三人揃って憑依した人形の右腕を上げていた。

「あれ、ユっ君の返事は?」

「……はーい」

ニヤニヤ笑いのリューに、俺は若干頬を引く付かせながら、右手を挙げたのだった。

――頼むから、さっさと戻ってくれないかな、この身体。