軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:ペットは意外と、飼い主をよく見ている

――本当に、 奇矯(ききょう) な主だ。

「いやー、リル、お前のモフモフはいつ触ってもモフモフだなぁ。素晴らしい。もしかして、俺達が来る前に自分で手入れでもしているのかぁ? 全く可愛いヤツめ!」

自身の身体に頭を 埋(うず) め、指を這わせて来る主のことを見ながら、彼は、内心でそんなことを思っていた。

――彼は、自らの役割をよく理解している。

この世に生まれ出でると同時に、それを脳内に植え付けられたためだ。

彼は自らのことを、武器であると考えている。

主の縄張りに対する侵入者を阻み、そして噛み殺すための武器の一つだ。

それが自分の生きる目的であり、そのために生きて死んでいくことを良しとする価値観の下に生まれた訳だが……。

「かわいいやつめー!」

と、その主の隣で、彼の真似をしてグリグリと頭を擦り付けて来るのは、主の妹君。

まだ幼体のヒト種で、自分を生み出すきっかけとなった、彼にとってはもう一人の主と呼ぶことが出来る存在だ。

「……クゥ?」

「え? 用事? いや、別に、お前と遊ぼうと思って呼んだだけ」

「…………」

全く悪びれた様子もなくそう言い放つ主に、彼は思わず押し黙って、ジト目気味の表情を向ける。

……何か用事があるというから、呼び出されて来てみれば、これである。

この主は少々、自分の存在意義を勘違いしている節がある。

こちらのことを慈しんでくれているのはよくわかるので、嫌という訳ではないのだが……戸惑うことが多いのも、また確かである。

「あ、リルだ!」

「……ん、ホント」

と、二人に身体を撫でられ続けていると、目の前に立つ城の入口から、さらに三つの人影が現れる。

一つが楽しそうにニコニコとしているスライムの幼体、一つが無表情で幼体の姿をしているものの、その正体は全てを斬り裂かんばかりの斬れ味を持った、擬人化状態の主の剣。

そしてもう一つが、彼と彼の主よりも小さな身体ながらも、その身に宿す力はあまりにも絶大で、この森の頂点に位置する実力を持った龍族の成体だ。

この主の下には、本当に多種の種族が 集(つど) っている。

彼にも、望んだ訳ではないがいつの間にか配下となっていた数多の魔物と、そして主がこの縄張りを守護するため新たに生み出した彼以外の『武器』も彼が面倒を見ているため、その苦労はよくわかるのだが……この主がそういうところで苦労している様子を、彼は見たことがない。

器が大きいのか、それとも普段の様子から見るにただ無頓着なのか。

……後者の可能性の方が高そうだ、と思ってしまったのは、頭の片隅に隠しておくことにしよう。

「お、来たな、お前ら。――って、レフィも来たのか」

「うむ、断り切れなくてな……」

「あぁ、なるほど」

ハハ、と笑ってから主は、彼女らに向かって口を開く。

「それじゃあお前ら、何して遊ぶかー?」

「リルに乗るー!」

「のるー!」

「……乗るの、楽しい」

「よし、リル、聞いたな? 頼むぜ」

彼は、「やれやれ」と思いながらも、その場に膝を突き、幼体達を自身の背に乗せた。

* * *

「――ありがとな、リル。お前がいて、本当に良かったぜ」

眠そうにウトウトしている妹君と手を繋ぎながら、主は彼の身体をポンポンと撫でてそう言った。

こんなことでそう言われるのも、何だか複雑な気分だが……まあ、主のご要望に応えられた、ということで良しとしておこう。

「リル、またネ!」

「……ばいばい」

こちらに手を振る幼体達を連れ、主は城の中へ帰ろうと 踵(きびす) を返し――と、一人帰ろうとしない者がいることに気が付き、足を止める。

「あれ、レフィ、帰らないのか?」

「うむ、少々此奴に用事があってな。すまぬが童女どもは頼んだぞ」

「? おう、わかった」

少し不思議そうにしながらも、しかし特に何かを聞くことなく、彼の主はそのまま去って行った。

「…………」

彼女は一度キョロキョロと周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると――突然、ボフンとリルの身体に顔を埋める。

「……ク、クゥ?」

「……フフ、この毛並み、確かに素晴らしいの。あの童女どもとユキが気に入るのもようわかるわ」

戸惑う彼を気にした様子もなく、彼女はしばしそのまま彼の身体にグリグリと顔を押し付けると、やがて満足したらしく顔を上げて離れる。

「――よし。リル、今のことを誰かに話したら……わかっておるだろうな?」

そう、若干凄みながら言う彼女に、彼は苦笑しながら、コクリと頷く。

彼女は、自分より長生きしているはずなのだが、その言動は、ここに住む幼体とあまり変わったところがない。

彼女は主の 番(つがい) であるようだが……やはり主が主なら、その伴侶も伴侶ということか。

「うむ、ならばよい。――それじゃあの、リル。ま、お主もおかしな主を持って大変じゃろうが、精々あの阿呆を支えてやってくれ」

若干失礼なことを考えている彼に対し、そう言ってニヤリと笑みを浮かべると、彼女もまた城の方に帰って行った。

……本当にここには、変わった者達が多い。

空が赤く染まり始め、夕の陽に照らされる黒の居城を見上げながら、一匹、彼は物思いに浸る。

――もしかすると、自分もまた、その変わった者達の中に含まれるのかもしれない。

あの主達に付いて行き、振り回されるだけの、変わった ペット(・・・) だ。

そんなことを考え、彼は、微かに口元を笑みの形に変えた。