軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決闘《1》

「父さま、絶対敵わないからやめた方がいいっす。というか、すでに手加減したご主人にボコボコにされた後でしょ」

「フン、そんなもの、やってみなければわからないだろう」

「いや、すでにやった後だと思うんすけど……」

「……頭領、私も、やめた方がよろしいかと思います。我々は一度彼に命を救われておりますし、何よりリューお嬢様も無事だったんです。頭領は思うところがあると思いますが、お嬢様が無事だと知れて、しかも今、幸せに暮らせているなら……」

「知らぬ! お前は黙っていろ、ビジガル!!」

腕を組み、聞く耳なしといった様子のリューの親父に、リューと壮年のウォーウルフの男性が揃って「ハァ……」とため息を吐き出す。

そのまま彼らは、「ビジガル……かばってくれてありがとうっす。そしてわからず屋の父親で申し訳ないっす」「いえ……これも補佐の仕事です故。お嬢様がご無事で、本当に何よりです」と会話を交わしながら、今度は俺の方にやって来る。

「あの……ご主人、ホント申し訳ないっす。ウチの父親のわがままを聞いてもらって……」

「……まあ、それで納得してくれるなら話は早いしな」

非常に申し訳なさそうな顔を浮かべるリューに、俺は苦笑いを浮かべてそう答える。

――結局あの後、決闘はすることになった。

旅館から草原へと出て、DPで安かった簡易ステージを作製し、そこに彼らギロル一族と俺とが対峙している。

突然地面に簡易ステージが出現し始めた時の彼らの驚きようが、ちょっと面白かった。

まあ、俺が決闘に付き合う義理はないかもしれないが……こういう何でもかんでも力で解決しようとする種族には、こちらの力を見せつけることが一番だろうからな。

今一度、若干の鬱憤も込めて、ボコボコにしてやればいいだろう。

ちなみに我が家の面々もまた、城から出て来てこの場にいるが、完全に物見遊山な気分らしく、草原にレジャーシートを敷いてレイラの作った菓子を食べている。

ネルもまた、普通に菓子を食ってこちらを見物しているのを見る限り、彼女も大分ここの生活には慣れて来たのだろう。

「……ユキ殿、本当に申し訳ない。頭領はああ言っておりますが、我らギロル氏族、リューお嬢様をお救いいただき、また我らの命もお救いいただいたこと、一同心より感謝しております」

そう言って俺に頭を下げるのは、リューと一緒に彼らのボスを 諫(いさ) めていた、壮年のウォーウルフの男性。

「……なぁ、ちょっと興味本位で聞きたいんだが、アンタ今、何歳?」

「……? 私ですか? 今年で六十三になりますが」

……えっ、マジで?

どう見ても四十過ぎぐらいなんだが……。

というか彼らの一族、こうして改めて見るとよくわかるが、どういう訳か皆見た目が若々しい。

この壮年の男性と同じくらいの見た目の者は何人かいるのだが……やはり彼らも六十過ぎなのだろうか。

「じゃ、じゃあ、リューの親父は?」

「ウチの父さまっすか? 確か今年で、四十五ぐらいだったはずっす」

「…………君の種族、皆見た目若過ぎない?」

あれはどう見ても二十代後半か三十代入ってすぐだぞ。

「ウォーウルフ――というより、獣人族はそんなものっすよ。寿命は人間より少し長いぐらいで、老い方も人間より遅いんす」

……なるほど。つまり、エルフ方式か。

……なんか、すごい久しぶりに異世界!って気分を感じた気がするな。

と、俺が何とも言えないような表情を浮かべていると、リューが思い詰めたような表情で、続けて口を開く。

「……あの、ご主人。ウチがこう言うのは、お門違いだってわかってるんすけど……あんな頑固者でも、ウチの父親なんす。皆も、ウチの仲間なんす。だから、その、決闘と言っても殺したりは……」

「いや、流石にリューの身内をどうこうしようとは微塵も思わねーよ。安心しろ、ちゃんと手加減はするさ。んで、お前を渡す気も微塵もない。お前はただ、ウチのヤツらと一緒に、のほほんと観戦してろ」

俺がそう言うと彼女は、少しだけ頬を赤く染め、ペコリと小さく頭を下げると、我が家の面々がいる方にトトト、と向かって行った。

「おにいちゃーん! 頑張ってー!」

「がんばっテー!」

「……負けたら駄目」

「おーう、頑張るぞー!」

「ユキー、無様な闘いを見せたら笑ってやるからのー」

「おにいさーん! あんまりお馬鹿なことしちゃだめだよー!」

「君達はもうちょっと俺を応援してくれてもいいんじゃないですかね」

幼女組と違い、淡泊な反応を見せるレフィとネルに、思わず苦笑を浮かべてそうツッコむ。

ちなみに声を上げなかったレイラは、ニコニコしながらこちらの様子をただ眺めていた。

「……余裕だな、魔王」

と、決闘前だというのに余裕をかましている俺に、若干目付きを鋭くさせるリューの親父。

「そりゃ、一回倒してる相手だからな」

「ぐっ……だが、勝負とは時のもの。一度勝ったからと言って、二度目も勝てると思わぬことだ!!」

いやぁ……流石に無理じゃないかなぁ。

この森の、真ん中より若干弱いぐらい魔物どもにも負けるぐらいだしなぁ。

そりゃ、俺だって敵わない魔物はここには多いが、流石にそのレベルに負けることはもう無いぞ。

「……で、誰が俺と戦うんだ。アンタでいいのか?」

「俺がやってやりたいところだが、違う。――ライノート!」

「ハッ!」

そのリューの親父の呼び掛けに、ウォーウルフ達の背後から一歩前に出たのは、周囲の者達より一回り身体の大きい男。

ソイツはそのまま彼らの族長より前に出ると、どんと槍を構え、こちらを睨み付けて来る。

ライノートって、確かリューと結婚の予定だったっていう、リューが里を抜け出す原因になった男か。

……それと、どうでもいいんだけどさ、リューのケモ耳は可愛いけど、男のケモ耳ってぶっちゃけ気持ち悪いだけだよな。

歴戦の戦士然としたヤツらが全員、頭からケモ耳を生やしている様子は、正直グロテスクですらある。

そんな大分失礼なことを心の中で思っていると、前に出て来たその男が、やたらとデカい声で口を開いた。

「魔王ユキ!!仲間の命と、死に掛けだったこの命を救ってくれたこと、誠に感謝する!!」

「おう、どういたしまして」

この言い草からすると、彼は直接俺と対峙した組ではなく、魔物にやられて重傷で、俺が暴れた時にはすでに倒れていた組だろうか。

「だが!!それとお嬢とのことは話が別だ!!貴様は、お嬢を誑かす元凶であるそうだな!!」

……元凶ね。

まあ、話を聞く限り一応リューの婚約者候補であったらしい彼からすれば、その認識は正しいと言えるのだろう。

つか、何と言うか、典型的な体育会系っぽいヤツだな、コイツ。喋りがいちいち暑苦しい。

リューが、コイツと結婚するのは嫌だって言うその心情も、理解できようものだ。

その親父の方は、この体育会系君を気に入っているようだが……まあ、この世界は割とどこも、実力主義社会らしいしな。

そういうところじゃ、比喩的な意味でも文字通りの意味でも、声が大きい者は 頼り甲斐があるよう(・・・・・・・・・) に見えて(・・・・) 、気に入られやすいのだろう。

「例え恩人であれども、未来の妻であるお嬢を誑かす男に、容赦はせん!!魔王ユキ!!貴様に決闘を申し込む!!」

「あ、はい」

「そして――お嬢!!見ていてくれ!!この、未来の夫の勇姿を!!」

「お、モテモテじゃな、リュー。やったの」

「モテモテだね、リューおねえちゃん!」

「アレにモテても何にも嬉しくないっす!!――誰がアンタなんかと結婚するっすか!!勝手に妻とか何とか言うなっす、気持ち悪い!!」

「……お嬢は乙女で恥ずかしがり屋だから、照れ隠しでああ言っているが、本心は違う!!その心を汲み取ってやるのが、真の男というもの!!魔王、貴様にはお嬢の俺に勝ってほしいという心の声が聞こえるか!?」

「いや、ごめん、全然聞こえない」

「フッ、だろう!!なればこそ、貴様はお嬢の夫として相応しくないのだ!!」

すげーな、すげーポジティブシンキング。頭大丈夫かコイツ。

「…………ま、まあいい。お前の言い分はわかったから、さっさと武器を構えろ。 相手してやる(・・・・・・) 」

と、思わずげんなりしてしまった意識を切り替えるため、若干挑発気味にそう言った俺は、彼らを気絶させる時にも使った木製の大剣を虚空の裂け目から取り出し、それを無造作に片手で構える。

向こうの槍は当然ながら本物の槍だが、だからと言って俺もエンを武器として使用すれば、殺してしまう可能性が高いからな。

鞘入りだったらそんなこともないかもしれないが……まあ、もう彼女は我が家の面々と一緒に観戦に回ってしまったので、これでいいだろう。

「ッ、相手してやる、とは言いやがる!!それに何だその武器は!!俺を舐めているのか!?」

「あぁ、そうだ。流石にリューの身内の部族を殺しちゃ悪いからな。感謝しろよ、リューに」

「グゥゥッ、その傲岸不遜な態度、見せかけではないと証明してもらおうかッ!!」

そう怒鳴ると、体育会系君は槍をグイと大きく引いて構え、そのままこちらに向かって勢いよく走り出したのだった。