軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者、魔王パーティに入る

いつもの生活空間である真・玉座の間ではなく、城の方に備えられた、滅多に使用しない――というか初めて使う、我が家のペット達も楽々入ることの出来る大広間。

そこに、我がダンジョンに住まう面々が、俺の号令によって全員集結していた。

「――えー、という訳で、彼女にはしばらく療養のため、ウチにいてもらうことになりました」

「え、えっと……よ、よろしくね、皆」

「嫁にするためではなくて?」

「よかったね、ネルおねえちゃん!ネルおねえちゃんもおにいちゃんのお嫁さん!」

「そこ、勝手な憶測で話さない」

あくまで療養です、療養。

俺はコホンと咳払いをしてから、言葉を続ける。

「えー、ですので諸君、今後は彼女ともまた、仲良くするように。拍手」

俺の言葉の後に続く全員からの大きな拍手の音に、「あ、ありがとう、皆」と若干照れる、俺の隣に立つ勇者の少女。

どうでもいいけど、一番後ろのお前達、シィとレイス三人娘以外のダンジョンモンスターである我が家のペットども。お前達は拍手せんでいい。

特に赤蛇、ジャイアント・ブラッド・サーペントのオロチ。

ビッタンビッタン尻尾を振って、地面を叩いて拍手代わりにしているせいで、ダンジョンの床がすんごい揺れている。やめろ。

「――さて、それじゃあ魔王一行に与した勇者さん」

「あの、おにーさん、その言い方はあらぬ誤解を生みそうだからやめてくれるかな?」

「では、魔王一行とも仲良く出来る勇者の 鑑(かがみ) さん。何か、抱負のようなものがあれば、一言どうぞ」

「え、ほ、抱負?あー……え、えっと、僕はまだ、皆とは知り合って短いから、もっと仲良くなれたらいいな、って心から思っています。だから、その……重ね重ねこれからよろしくね、皆」

「よろしくね、ネルおねえちゃん!」

元気良くそう言ったイルーナを筆頭に、ダンジョンの面々がそれぞれ彼女へと言葉を掛ける。

うむうむ、皆、仲良くやってくれそうで何よりだ。

というかまあ、コイツらの方が乗り気で、俺が炊き付けられた方なんだけどさ。

「はい、紹介終わり。じゃ、次だ。俺達がいない間、こっちで何か変わったことはあったか?」

その質問に代表して答えたのは、レフィ。

「いや、ネルが突如としてダンジョンに現れた以外に、特にそういったことは無かったの。お主達が去ってすぐに一度、どこかの魔族どもが外の森に侵入して来たぐらいか」

「……侵入者があったことは、変わったことには入らないのか?」

「実際、何も起こりはせんかったからな。ペットどもに侵入者を告げて、追い払ってやったら、別の魔物に食われて勝手に死におった」

それは……ご愁傷様です。

もしかして、ここ最近縁のある悪魔族どもの手下だろうか。

闘技大会での仮面の正体が俺だってバレたのか?

……いや、俺達が出て行ってすぐ、って話だし、時系列がおかしいか。

恐らくは、王都の方の仮面の正体が俺だと調べ上げたのだろう。

その内、魔界での仮面の正体も俺だと気が付くかもしれないが……その時はその時だ。

やって来た者から順に、蹂躙してやるとしよう。

……あー、クソ、悪魔族のことを考えると、苛立って来る。

悪魔族のトップ、クソ赤毛野郎。

やはりあそこで仕留めきれなかったのが、本当に悔やまれる。

ヤツは、レフィを道具にしようとした過去や、ネルを殺そうとしちゃってくれたお礼もある。

数え役満だ。

絶対、その内俺の手で殺してやる。せいぜい束の間の余生を楽しんでやがれ。

……まあいい、その方法を考えるのは後だ。

――現在、レフィにはダンジョンの権限を一部許可してある。

具体的に出来ることは、ダンジョン領域内マップの確認、ペット達との『遠話』、罠の再設置、DPカタログの一部閲覧など。

まあ、基本的に不器用で、メニュー画面の使い方を説明してもあまりよくわからなかったらしいレフィが使う機能は、ほぼマップと遠話のみだったようだが。

やっぱりあのメニュー画面は、ゲームをやったことがないと、直感的に使い方を理解し難いのだろうか。

「後は、飯に悩まされたぐらいか。ネルが来て、久方ぶりに美味いものを食えた時は、思わず泣きそうになったものじゃの」

「ふむ……じゃあネルにはこれから、俺とレイラと一緒に、飯の準備を手伝ってもらおうかな?」

「うん、頑張るよ!」

ギュッと両手を握って、やる気を見せるネル。

思ったんだが、コイツ、一々動作があざと可愛いよな。無意識でやっているらしい辺りが、特に。

彼女は客人枠だが……まあ、その、今後を考えると、一緒に家事を手伝ってもらった方がいいだろう。

「あと、そうじゃお主。飯で思い出したが、今日の晩はお主は作らんで良い。それまでは、休むなり何なりしておれ」

「へ?いいのか?」

「うむ。いつもの居間以外の場所で、晩飯まで待っておれ。こっちに来るでないぞ。ネルも、ユキと一緒におるのじゃ。そうじゃな……二人で、誰も見ていないところで愛の語らいでもしておるが良い」

「…………」

「…………」

レフィの言葉を聞き、頰を赤く染め、チラリと上目遣い気味に俺を見るネル。

……やめてください、そんな顔で俺を見ないでください。

イルーナ達も見ている前なのに、グッと来てしまいます。

「……ゴホン、まあいい、わかった。俺達は旅館の方にいるよ。幼女組はどうするんだ?」

「この童女どもに関しても、気にするな。お主はただそこな勇者と仲良うやっておれ」

「……お、おう、わかった」

そうして俺は、何かするつもりなのだろうか、と怪訝に思いながらも、ただコクリと頷いたのだった。

* * *

――所変わり、城の裏手にひっそりと佇む、いつもの旅館。

幾度か、ネルにも通したことのある和室の一つで、俺と勇者の少女は、簡素な造りの庭の方を向き、並べて敷いた二枚の座布団の上に、それぞれ座っていた。

「……あー、その……アイツら、何してんだろうな」

「……う、うん。そうだね。ちょっと気になるね」

「…………」

「…………」

場を包む、静寂。

何と言うか……すごく、気恥ずかしい静寂だ。

……これは、アレだ。

レフィが愛を語らえだの、余計なことを言ってくれやがったせいで、お互いムダに意識してしまっているのだろう。

全くアイツは……俺の嫁さんのくせに、ノリノリで話を進めやがって。

世の男性諸君が羨む状況なのかもしれないが、むしろちょっと物寂しい気分だぞ。

「ね、ねえ、おにーさん」

と、やはり彼女もまた少し気恥ずかしさを感じているらしく、若干はにかみながらこちらを見上げるネル。

「お、おう、何だ」

「えっと……おにーさんは結局魔界で、どんなことをしたの?闘技大会に出たっていうのは聞いたけど……」

「あー、まあ、それだけだぞ。他は魔界王都を観光して、訓練所で魔界の王の部下と少しだけ模擬戦したりしただけだな。……そうだ、お前んところの剣聖のじーさん。あのじーさん強過ぎんだろ。かなりのステータス差があったのに、大会で倒すの、すげー時間掛かったぞ。攻撃もいっぱい貰ったし」

「……えっ、おにーさん、レミーロさんと戦ったの?というか、勝ったの?」

「闘技大会でかち合ってな。おっそろしいじーさんだった」

結局、HP自体は大して減らされなかったが、度肝を抜かれる技の数々だったな。

一つ一つの動作に、熟練という言葉を感じた試合だった。

あの試合は、俺にとってすごくためになったと思う。

「……一応あの人、人間界における最強の人物なんだけど……若い頃には、大災害級の魔物も討伐しているらしいし」

若干呆れた様子で、隣から俺を見るネル。

大災害級と言うと……アレか。

魔物の区分で、無害級、有害級、人災級、戦災級、災害級、大災害級、災厄級と七段階分かれているヤツだったな。

大災害級は上から二つ目の区分であり、レフィが確か、魔物じゃないけど最上級の災厄級に分類されているのに鑑みれば、それの一つ下である大災害級の魔物の強さも、わかろうものだ。

普通に考えて、人間はおろか、それより身体能力の高い魔族どもですら倒せるような相手には思えないのだが……まあ、若い頃はもっとステータスが高かったのだろうし、あのじーさんならもしかしたら、と思えてしまうのが、恐ろしいところである。

「これでも一匹、世界最強種族らしい龍は殺してるからな。人間界最強ぐらいは、余裕で下せるようになりたいもんなんだが」

まあ、あの時はダンジョンの力が多大にあったのも大きいのだが。

というか、ほぼダンジョンのおかげ。

俺、クソ痛いのやせ我慢してただけだから。

全く、この世界は強い生物が多過ぎる。

今更だが、俺の転生先が『魔王』という、かなり出来の良い器で、本当に助かった。

……そうだな。それを考えると、最近は魔王の身体能力を過信し過ぎている節が、間違いなくある。

もう少し、周囲の全てを警戒していた頃の慎重さを思い出さないと、ひょんなことで慢心王の二の舞を演じることになるだろう。

慢心、ダメ、絶対。

……うむ。ならば、方針はアレだな。

『いのちをだいじに』、だ。

今までを 省(かえり) みて、それをしばらくは標語に掲げて活動するとしよう。

「……本当に……おにーさんはもう、無茶苦茶なんだから」

「そりゃお前、俺は魔王だからな。魔王とは無茶をごり押して道理を捻じ曲げることを生き様とするのよ」

「フフ、初めて聞いたよ、そんなの」

「あぁ、そうだろう。なぜならばその生き様は、俺が初めて実践しているからな!フハハ、俺こそが真の魔王道の先駆けとなるのだ!」

「何だそれ」

楽しそうに笑ってからネルは、慈愛に満ちた、優しい表情で笑みを浮かべた。

――再び、場をしばし包み込む、静寂。

だが……今度は、先程よりも心地の良い静寂だ。

「……おにーさん」

「ん?」

「……ううん、何でもない」

「何だよ、気になるじゃねーか」

「ううん、ホントに、何でもないの」

そう言って彼女は、笑みを浮かべたまま、コツンと俺の肩に頭を預ける。

「…………」

俺は、少しレフィに悪いと思いながらも、その安らぎと心地良さを伴う重みを、受け入れた。

――そして俺達は、何をするでも無く、ただ二人。

並んで、ゆったりとした時間を、しばし共に過ごしてゆく――。