軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らぬ間の進展《2》

「わーっ!!ちょ、ちょっと、レフィ!そ、そのことについては――」

「何じゃ、今更。誤魔化しても仕方ないじゃろう。お主じゃてその気であったろうが」

「で、でも、こんな急にその話をするとは思ってなかったよ!?」

慌てるネルに、レフィが呆れたような視線を送っているのを見ながら、俺は 堪(たま) らず口を挟む。

「あの、いや、待て、レフィ。どういうことだ?お前は何を言っているんだ?」

「ぬ?お主はそのつもりでこの娘っ子をダンジョンまで送って来たんじゃろ?」

心底不思議そうな顔で、未だ正座しっ放しの俺を見下ろすレフィ。

「流石にそんな、嫁さんを貰った直後に別の嫁さんを貰おうとか考えません!ネルが倒れたその場に敵もいたから、戦闘に巻き込まないよう一度退散させただけだ」

「わざわざここに送る程の敵じゃったのか?」

「……いや、まあ、それは、その……い、色々頑張った後みたいだったから、このままコイツを魔界に置くよりは、一度休ませた方がいいだろって思って、こっちに送ったんだよ」

ポーションを使ったとしても体力は回復しないから、あれだけボロボロになった後であれば、恐らく極限にまで体力を消耗して、指先一つ動かすのも相当億劫だったはずだ。

だが……そんな状態でも恐らくコイツは、生き残りの者達のために身体を酷使して、皆を守ろうとしたことだろう。

例え、あの場にいた敵を俺が全て排除していたのだとしても、途中で放り出すことが出来ず、翼人族の生き残り達のためにと動いたはずだ。

ネルという勇者が、そういう少女なのだということを、まだそこまで長い付き合いじゃないが、俺は知っている。

「そ、そう……おにーさん、僕のために……」

あ、ちょっと、やめて、その照れ臭そうにこっちをチラチラと見て来るの。

すっごい居心地悪いので。

「ウホン……とにかく、下心があってネルをダンジョンに連れて来た訳じゃない。あくまで状況が状況だったからそうなっただけだ」

「しかし、この娘っ子がお主に 好きだと言うて(・・・・・・・) 、それを受けてからここに送って来たのじゃろ?それに此奴も、お主に命を救われ、心底惚れこんでおるのは間違いないしな」

「あっ、ちょっ、レフィ、待ってダメ、言っちゃダメだって!内緒だって言ったじゃないか!」

「ネルおねーちゃんも、おにーちゃんのことが大好きなんだよね!」

「うわあぁっ!?ちょっ、イルーナちゃんまで!?」

「…………」

こういう時、俺はどんな顔をすればいいのだろうか。

笑えばいいのだろうか。なぁ、シ〇ジ君。俺はどうすればいい。

……現実逃避はやめよう。

そうか、最後にネルが何かを言っていたのはわかっていたが……そんなことを言っていたのか。

……俺、難聴系主人公が出て来る作品を、「お前……」という気分で良く読んでいたのだが、何にも批判することが出来ねぇな。

あの時は割と、ネルには見せないようにしていたが、頭の中が沸騰していたし……。

と、黙って何とも言えない表情を浮かべていると、もうこれ以上ないくらいに顔を真っ赤っ赤にした勇者の少女が、本人の前で想いを告げられるという辱めにとうとう堪えられなくなったのか、「うぅぅっ!バカぁ!!」と言い残して、若干涙目で真・玉座の間から外へと逃げて行った。

「あっ……ネルおねえちゃん、怒っちゃったかな?」

「気にするな。あれはただ恥ずかしさに堪えられなくなっただけじゃ」

「……その……あー……と、とりあえず、話はわかった。うん。けど、それが何故、嫁がどうこうという話に……?」

俺は走り去って行った彼女の方に向かって苦笑いを浮かべながら、そう目の前の銀髪少女へと問い掛ける。

「うむ。お主が居ぬ間に少々話し合っての。此奴ならばまあ、お主の嫁として認めてもいいじゃろうと、そういう結論に落ち着いた。何より、飯が美味いからな!お主とレイラがおらん間に、飯の大切さというものを痛い程によく理解したわ」

若干遠い目をして、そう答えるレフィ。

決め手は飯っすか。そうすか。

……つかコイツら、俺がダンジョンにいない間、いったい何を食っていたんだ?

一応ここを出る前、冷蔵庫にある程度の作り置きをしておいたし、レシピも一通り用意はしておいたはずなのだが。

「一つだけ先に聞いておくが、イルーナにはちゃんと食わせてやったんだろうな?」

シィやレイス娘達は何も食わずとも生きていけるからまだいいが、イルーナはしっかり食べないと生きていけないのだ。

お前やリューはどうとでもなるだろうからぶっちゃけどうでもいいが、イルーナにちゃんと食わすもん食わせてなかったら怒るからな?

「そ、それは大丈夫じゃ。お主らが作っておいてくれた飯で一週は持ったし、それにその後は、まあ出来は良くないが、何とか協力して飯を作ったのでな」

「うん、おにーちゃん達がいない間、皆で頑張ってすっごくお料理上達したんだから!」

えっへんと胸を張って、そう言うイルーナ。

「……イルーナ、お料理、上手くなった?」

「上手くなったよ!これで、おにいちゃんの心をわし掴みにしちゃうんだから!エンちゃんにも、今度教えてあげる!」

「……感謝。是非」

そんな会話を交わす幼女達を横目に、俺はレフィに向き直る。

「ならいいけど……話を戻すけどよ、その……お前はいいのかよ!俺が他に、嫁なんか作っちまって」

「無論、思うところが無いと言えば嘘になるし、お主が節操無しになったら当然怒るが……まあ、強い雄には雌が集うのがこの世の真理であるからな。お主は儂より弱いが、しかしそこらの者達よりは圧倒的に実力がある。雌どもが寄って来るのも仕方ないじゃろう」

「それに」と言って、彼女は言葉を続ける。

「龍族においても、強い雄が雌を多く囲ったりということも、普通にあるしの。……儂も、言い寄って来た龍どもを、何体ぶっ飛ばして身の程をわからせてやったことか」

よほどその時のことが面倒だったのか、銀髪の少女はそう言いながらやれやれといった様子でため息を吐き出す。

……レフィさん、とりあえずそのオスメスって言い方、何だかすごく生々しいからやめないか。

――そうか。

魔族でなくとも、割と弱肉強食的価値観が根本にあるこちらの世界において、種族保持的観点から一夫多妻とかは普通にあることなのか。

と、俺は、女に甘いといつも怒るくせに、どういう心境の変化か、ネルを嫁にする、という考えには割と肯定的らしいレフィから視線を横にずらし、隣のイルーナに顔を向ける。

「……じゃ、じゃあ、イルーナはどうなんだ?俺がそんな、嫁さんとか増やしちゃったら、嫌じゃないか?」

「え?別に、そんなことないよ?だって、イルーナもシィもエンちゃんも、レイちゃんもルイちゃんもローちゃんも、皆おっきくなったら、おにーちゃんのお嫁さんにしてくれるんでしょ?」

「――――」

彼女の言葉に、沈黙する俺。

……た、確かに、そんな話は一度、レフィと婚姻を交わしたことを皆に話した時にしたけども。

「知らない人だったらダメだけど、でもネルおねえちゃんならとってもいい人で優しいおねえちゃんだからいいの!皆おにいちゃんのお嫁さんになったら、皆ずっと一緒にいられて、とってもしあわせだね!」

無邪気な笑顔を浮かべ、そう言うイルーナ。

可愛い。

可愛いが……まさか、イルーナが今回の件について賛成に回るとは思わなかったぞ。

「まあ、そう言う訳じゃ。儂らの方で結論はすでに出ておる。……と言っても、確かに儂らが勝手に話し合っておったことじゃ。お主がその気で無いのであれば、忘れてくれて構わん。――じゃがな」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、言葉を続けるレフィ。

「――心底惚れられた女の一人ぐらい、面倒を見るぐらいの男気、見せてみたらどうじゃ?」

――コイツは、ホントに。

それを、旦那に言うのか。

全く……大した女だよ。

チラリとだけ、ダンジョンの角の方に置かれたテーブルに座り、こちらの様子を眺めているメイドさん連中の方に視線を送ると、「特に言うことは無し」とでも言いたげにフルフルと揃って首を左右に振る二人。

そのまま彼女らと一緒に座っていたシィの方に視線を向けると、にへっと笑みを返される。大天使。

――正直に言おう。困ったことに、あんまり嫌じゃない。

俺はアイツが、嫌いじゃない。

勇者なぞクソ食らえとは地で思っているが、しかしネルの覚悟が本物である、ということは、これまで見て来た彼女の態度からして、よくわかっている。

きっとあの勇者の少女にも、譲れない一線があるのだろう。

そうやって、自分の信念を貫いているヤツはすげーカッコいいと思うし、何より魅力的だ。

彼女から感じる若干の危なっかしさからも、何だか一緒にいて、守ってやりたいという気分になる。

俗物的な言いようだが、見てくれもすごい整っているしな。

有り体に言って美少女で、どちらかと言うと好みのタイプだと言える。

加えて、今の俺にとってネルは、死んでほしくない、共にいて欲しいイルーナ達やレイラ達、ダンジョンの面々と同じぐらい大切な存在だ。

故に、恐らく俺がレフィと出会わずに、彼女からこういう想いを伝えられたのであれば、俺も単純な男なのでコロッと落ちたかもしれないが――しかし、今の俺には、レフィがいるのだ。

俺は、レフィが好きだ。ベタ惚れと言ってもいい。

グータラで、わがままで、負けず嫌いで。

気が利いて、細かいところをよく見ていて、懐の非常に深いヤツ。

コイツ程の良い女など、世界中を探したところで、見つけることは非常に難しいだろう。

男としてハーレムに惹かれないと言ったら嘘になるが……何だか感情的に忌避感を感じることもまた、確かなのだ。

――何はともあれ、レフィ達から伝えられた言葉じゃなく、本人と一度しっかり話してみるべきか。

「……俺は、お前が好きだ。すげー好きだ。だから、正直に言うと嫁は欲しくない。けど……ネルのことも、俺は嫌いじゃない」

「ふむ……。一つだけ教えてやると、儂が好いた男は、女には甘い奴でな。ほとほと困ったものじゃが、恐らく其奴であれば、心底から惚れられ、その男のためならば命を捨てても惜しくないと思っているような女のことは、心配で放っておくことはせんじゃろう。――ま、そんな女は一人じゃなく、目の前にもう一人いるがな?」

「ハハ……そうか。モテモテで男冥利に尽きるね」

苦笑混じりの笑みを浮かべてから、俺はその場を立ち上がる。

「――とりあえず、一度ゆっくり、ネルと話してみるよ」

「フフ……そうか。それじゃあ、儂らはここで、待っておる」

にこりと優しい笑みを浮かべ、レフィはそう言ったのだった。