軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闘技場

喧噪。

人ごみ。

笑い声と客引きの声。

「……おー」

目に映る光景に、俺と手を繋いでいるエンが目を丸くしながら小さく感嘆の声を漏らす。

「へぇ、確かにこりゃあ、まんまお祭りだな」

周囲から感じる熱気と活気に、俺は気分良くそう呟く。

――魔界の王に闘技大会へ出ろと言われた日から、早五日。

準備を整えた俺達は、その闘技大会が行われる闘技場付近へとやって来ていた。

道を埋め尽くさんばかりの人の往来に、道の左右で開かれている出店の店主がひっきりなしに上げる客引きの威勢の良い声。

ふと見ると、すれ違う誰も彼もが笑顔やワクワクしたような表情を浮かべており、王都全体が非常に活気ある様子が窺える。

数日前から、少しずつ街が騒がしくなっていく様子は感じていたが、今日のこれは一段と凄いな。

今の魔界は、結構ピリピリした情勢だと思っていたんだが……やはり祭りは別、ということか。

極端に娯楽の少ないこっちの世界だと、こういう日々の息抜きが出来る数少ないイベントは、非常に重要なものなのだろう。

「? その言い方ですと、ユキ様はこのような大規模な催し物に、参加したことがおありになるのですかー?」

「ん?あ、あぁ。まあちょっとな」

俺は苦笑して誤魔化すようにそう言ってから、俺達のお世話係として付いて来ていたフードちゃんことハロリアに顔を向ける。

「それで、フー……ハロリア、まず俺はどうすればいいんだっけ?」

「まずユキ殿には、闘技場の入口にて出場の受付を済ませていただきます。その後は申し訳ありませんが、どの試合に出ることになるのかは、完全にランダムで決定されるために我々にも介入の余地がないので、運営スタッフの指示に従っていただくことになります」

「ええっと……予選は、バトルロイアル形式だったか?」

「はい。大体五十名程の者達が一斉に戦い、最後に残った上位三名を選出することになります。まあ、貴方であればこの程度は余裕でしょう」

はいはい、出来る限りでやりますよ。

「それと、運営スタッフの中にも我々の手の者が数人潜り込んでいますので、何か用件があった場合にはお渡しした鈴を鳴らしてください。すぐに我々の内の誰かが駆け付けますので」

「あぁ、あの鳴らない鈴な」

どうも特定の波長の魔力を周囲に発する魔導具のようで、振っても音が鳴らない鈴を出て来る前に貰ったのだ。

今俺が指に嵌めている変装用の指輪もそうだが、流石魔界のトップに立つ派閥だけあって、色々と面白いモンを持ってやがる。

――そうして会話を交わしながら、大通りを進むこと数分。

俺達は、デカい円形の建物――闘技場の目の前へと辿り着く。

感じとしては……野球ドームが近いか。

この辺りは一際喧騒が大きく、人が混雑しており、そして俺と同じく出場選手なのだろう、結構な数の武装した者達が正面エントランスで並んでいる様子が窺える。

武装集団が律儀に列に並んでいる様は、少々シュールな光景だ。

……それにしても、何と言うか、こう……ヘンな装備のヤツが多いな。

なんだ、ありゃあ?箒か?箒の枝の部分を、鋭い針にしてるのか?

大鎌の柄の反対部分を、ハンマーにしたような武器を持ってるヤツもいるな。

それ以外にも、各々の種族で使われているものなのか、色んな外見をしたヤツらがそれぞれ特殊な武器や防具をしているために、すごくカオスな場となっている。武器の見本市か、ここは。

……いや、まあ俺も、結構な刃渡りの大太刀を主武器として使っている訳だし、あんまり人のことは言えんかもしれんが。

「――っと、そうだ、受付する前にもう変装しておくべきだよな。レイラ、一人にさせて悪い。何かマズいと感じたら、前に渡したヤツを使ってすぐにダンジョンまで帰還しろ」

「はい、畏まりましたー」

変装した後は一緒にいられないので、一応ダンジョンへの帰還装置であるネックレスに関して少し言葉を濁しながらそう言うと、すぐに意図を理解しコクリと頷くレイラ。

「ハロリア、レイラのことは任せたぞ。何だかレイラ、有名人みたいだし、ヘンな虫が寄り付かないようにも頼む」

「ハッ、お任せください。この身を 賭(と) しましても、お守りさせていただきます」

いや、そんな緊急事態になったら、レイラは逃げるから君も逃げてください。

「――それではユキ殿、こちらへ」

その後フードちゃんに促され、俺はエンだけを伴って誰もいない物陰へと入り、マップと『索敵』スキルを使用して周囲の状況を確認する。

やがて誰もこちらを注視している者がいないことを確認した俺は、指輪に魔力を込めて髪色と瞳の色を銀色に変更し、アイテムボックスからソレ――白の仮面を取り出す。

この仮面は、以前王都で使用したものとは大分意匠が異なっている。

以前のがピエロ面だとすれば、これは……アレだ。電流を自在に操る能力を持つ、黒い死神さんが被っていた仮面に近い。

あ、目のところに稲妻みたいな紋様は走ってないです。

ただまあ、何だか大分無機質な表情の仮面となってしまったためにちょっとホラー風味を感じてしまったので、飾りとして左眼の目端の下辺りに、星型に加工された宝石が嵌め込まれている。

宝石は、魔界の王に言ったらポンとくれました。やはり金持ちか。

これも武器錬成で作った訳だが、武器としての要素は『ブーメラン』だ。

まあ、投げたりしても帰っては来ないので、ブーメランの性能としてはすごく悪いのだが、実際に投げることは恐らく一度もないと思われるため、全く問題ない。

ちなみに、口元が空いてるバージョンの仮面は作っていない。今回はずっと仮面を被っていないといけない訳じゃないので、別に構わないだろう。

「よし、これでオーケー。――ごめんな、エン。祭りはこれが終わった夕方辺りにでも、絶対連れて行ってやるからよ」

「……ん、大丈夫。主と一緒なら、どこでもいい」

そんな嬉しいことを、いつもの無表情に少しだけ恥ずかしそうな表情を貼り付けて言ってくれる着物の少女。

クゥ……なんて可愛いヤツなんだ。

こんな可愛い生物が、この世に二つとあるだろうか。いや、ない。反語。

俺は彼女の頭を撫で、表情に笑みを滲ませながら言葉を掛ける。

「ありがとな、エン。俺もエンが一緒だったら、どこでも嬉しいぞ。――それじゃあ、しばらく武器に戻っててくれるか?」

「……ん」

小さく彼女は頷くと、俺が目の前に差し出したエンの本体――罪焔に軽く手を触れ、まるで融合するようにしてその場から消えていった。

彼女が武器へと戻ったのを確認してから俺は、罪焔を肩に担ぎ直し、フゥ、と小さく息を吐き出す。

「さて、そんじゃあ――いっちょやりますか」

* * *

「おはようございます。選手の方ですね。登録証の提示をお願いします」

闘技場の正面エントランスで俺は、ポケットから取り出したカード型の選手の登録証を、角と尻尾を生やした魔族の受付嬢に手渡す。

「確認させていただきます。――ユプシロン様ですね。出身はここレージギヘッグで、使用武器は大剣……その担いでいらっしゃるものですね。……あら、すごいですね、王の推薦で今回の闘技大会に出場ですか」

彼女の言葉に、俺はコクリと頷く。

ユプシロンは、当然ながら俺の偽名だ。

由来は、ドイツ語の『 Y(ユプシロン) 』をそのまんま持って来ただけのわかりやすいものである。

「フフ、ご活躍を期待しております。――それでは、ご本人様確認のため、登録証に魔力をお流しいただけますでしょうか」

彼女から登録証を返された俺は、言われた通りにソレに魔力を流し込み、小さく発光させて本人であるということを示す。

それにしても、結構しっかりと本人確認してんだな。

ぶっちゃけもっとズボラな管理体制で、選手の成り代わりとか普通にあることなのかと思っていたが……この様子だったらそんなことも無さそうだ。

と言っても、その選手登録自体をする際に、色々手回しは出来るようだが。実際俺も、偽名で嘘出身だし。

まあ、あの王のことだから、そういう偽登録に関しても何か手を打ってあるのかもしれない。

俺に要注意選手を教えて来た時も結構自信満々な様子だったし、何かしらの手段を用いて裏付けは取れているのだろう。

「――はい、ありがとうございます。選手名簿とも確認が取れました。それでは、こちらの番号札をお持ちください」

そう言って彼女に渡されたのは、『113』という番号の書かれた、一本の四角い木の棒。

サイズとしては、リップクリームより少し大きいぐらいか。

「そちらは、試合を行う際の、ユプシロン様のお呼び出し番号となっていますので、今大会中は絶対に無くさないようにお願いいたします。選手控室に関しましては、あちらの通りから奥へ入ったところに係員の者がいますので、その者の指示に従って向かってください。――ではユプシロン様、良い戦いを!」

小さく頭を下げた彼女に、ヒラリと手を上げて礼を示してから俺は、ようやく混雑した正面エントランスから闘技場の中へと入り、観客席に向かう道とは違う、受付嬢に教えられた一本外れた通路へと向かう。

ようやく人ごみから抜けられたな。

そのまま少し道なりに進むと、その先で待っていた係員のおっさんに選手かどうかを尋ねられたので、コクリと頷いて登録証を見せる。

「ここから先にある部屋は全て控室ですので、好きなところにお入りください。しかし、扉の前に赤文字で『満室』の札が掛けられているところは入れませんので、それ以外のところにお願いします」

特に選手ごとで控室を分けている訳じゃないのか。

まあ、最初の予選はバトルロイヤルの、完全に人数減らしのための試合だそうだから、そんなもんなのだろう。

係員のおっさんと別れた後、再び闘技場内部の通路を進んでいると、ボソリとエンから念話が伝わって来る。

『……面白い』

「ハハ、エンはこういうところに来たの、初めてだろ」

『……ん』

「試合場に出たら、多分もっと面白いぞ。まあ、血生臭いところではあるから、あんまり面白がられても困るんだがな」

本来ならこういうところに子供を連れて来るのは、絶対に教育に悪いだろうが……エンは、元が武器だからな。

少々悩ましいところだが、呪いの魔剣時代の過去がある彼女は『力』の恐怖をよくわかっている。

それならば、こうして色んな経験を積ませてあげた方が、彼女のためにもなるだろう。

『……エンが、力を揮うのは、主といる時だけ』

「あぁ、いつもありがとうな。頼りにしてるよ」

やがて俺は、空いていた一つの控室の前に辿り着くと、扉を開いてその中へと入り込む。

――瞬間、こちらに突き刺さる、数多の視線。

ある者は射殺すようにこちらを睨み付け、ある者は興味深そうにこちらを眺め、ある者は周囲に気取られないように存在感を出来る限り薄くしながら、入って来た敵を観察している。

アァ……良い雰囲気だ。

何らかの試合に出たことのあるヤツなら、恐らくわかるんじゃないだろうか。

この、勝負が始まる前の、それぞれが発する熱気や闘気。

仄かに感じられる、部屋全体を包み込む高揚感。

――やっぱこういうタイプの祭りは、こうあるべきだよな。

思わず仮面の下で口端に大きく笑みを浮かべて俺は、集まる視線に対し挑発するようにゆっくりと左右へ視線を送りながら、そこそこ広い控室の内部を進んで、空いていたところへと腰を下ろした。