軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:帰路

「ハァ……まったくもう、おにーさんは」

彼らと別れた後、ネルとロニアは、自分達の泊まっている宿へと向かって夜道を進む。

すでに月が昇り、そこかしこに光を放つ魔導具が設置された魔界の王都の夜道は、淡く光に照らされ幻想的な雰囲気を醸し出している。

そんな一枚の絵画のような美しい光景の中で、きゃいきゃいと話す二人の姿は全くの無警戒のように見えるが、実際のところ無意識の動作で周囲警戒を行える程に訓練されているだけであり、自分達に近付く姿や、尾行する者がいた場合には、二人ともすぐに気が付けるようになっている。

「ホントに、いっつもいっつも無茶苦茶な人なんだから」

ヤレヤレといった様子でそう言葉を溢しながらも、しかしどこか楽しげに見える友人の姿に、ロニアは少々怪訝に思いながら言葉を掛ける。

「楽しそうね」

「えっ……そ、そう?」

言葉少なな友人に、少しだけ動揺しながら聞き返すネル。

「そんなに、あの青年と出会えたことが嬉しかった?」

「……ま、まあそりゃあ、おにーさんはとっても強いからね。ここで出会ったのはビックリしたけど、いてくれるととっても心強い思いだよ」

「……そんなに?」

「うん。ちょっと前見た時より比べても、何でかわかんないけどすっごく強くなってるように感じたし、多分今だと僕が本気で戦っても、全然敵わないと思う」

こくりと頷く勇者に、信じられないといった様子で彼女の方を見るロニア。

確かに、先程魔族の者達と喧嘩をしていたあの青年の姿からは、相応の実力を感じることが出来たが……しかし、勇者であるこの友人よりも強いとは、正直信じられないというのがロニアの思いだ。

彼女は、今では人界において最強クラスと言っても過言ではない存在である。

冒険者達のトップである、オリハルコン級冒険者の中でも、彼女程の実力を持っている者は数名いるかどうかだろう。

しかも、ネルは未だ成長途中だ。

人間よりも、個々の実力においては魔族の方が圧倒的に強いことは明白だが……しかし、高い身体能力に物を言わせ力押しで戦いがちになる魔族に対し、人間には技術がある。

この魔界においても、十分渡り合っていけるだけの腕を彼女は有しているのだ。

だが、そんな彼女ですら全く敵わないとなると……やはり、明言はしなかったが、あの青年は魔族。その中でも、かなりの実力を持つ者。

……「ちょっと前見た時」と彼女が言ったことに加え、酒場での二人の共通の話題に「イリル様」と呼ばれる、一人の少女の名が出ていた。

勇者であるこの少女が様付けで呼び、そして「イリル」という名の付いている少女と言えば、人間の国には一人しかいない。

この隣の少女と知り合いであり、勇者を凌駕する実力を持っており、あの魔族の青年が 彼(か) の王女のことを知っているらしいこと。

これらのことを鑑みるに――恐らくあの青年の正体は、少し前の王都における内乱騒ぎで活躍した、ピエロ面の男。

なるほど……国王様が、その正体をはぐらかそうとする訳だ。

魔族に国を救われたとなれば、やっと治安の回復して来た国内に、再び色々と問題が出て来るのは目に見えている。

教会所属のネルが魔族と友人であるということに関しても、問題になる可能性がある。

――まあ、いい。

この友人が信頼しているのであれば、自分も信頼するに 吝(やぶさ) かではない。

他の仲間達にも……まあ、詳しいことは言わなくともいいだろう。

ただ、一人魔界で協力者を得たと言えば、あのメンツであれば深くは聞いて来ないはずだ。

「そう……でも、それだけ?」

隣の少女に、そうさらに問い掛ける。

「え、そ、そんなに楽しそうだった?」

「えぇ。とっても」

隣の少女の先程の様子からは、ただあの青年が強くて安心した、という感情以上のものが窺えた。

まるで……恋する乙女のような、そんな感情を。

「……そっか」

そのロニアの言葉に、ネルは少しはにかんだような苦笑を浮かべた。

――実際、ネルは偶然にもこの魔界で彼と出会えたことが、嬉しかった。

ハチャメチャで、自分勝手で、よくわからない理念を持っている、少年のような人。

今回など、彼の方が全面的に悪いのに、よくわからない逆ギレをして、結局相手を全員 伸(の) してしまっていた。

まあ、相手もあまり素行が良くなく、血の気が多くて、多少仕方のない面があったと思わなくもないが……誰が悪いかについては、今回に関しては議論の余地はないだろう。

本当に、無茶苦茶な人だが――彼の周りは、いつも騒がしく、楽しいのだ。

恐らくは、何か人を惹き付けるものが、彼にはあるのだろう。

それが、魔王としての力なのか、彼自身の魅力なのかはわからないが……彼と共にいた羊角の少女と、彼が自身の子といったあの少女と――そして自分も、そういうところに少々惹かれている節があるのは、間違いない。

――でも、そうか。おにーさんとレフィ、とうとう結婚したのか。

――あの二人、いっつもいがみ合っているように見えて、実際は相性バッチリだったもんね……。

そのことを考えた時、チクリと彼女の胸に、痛みが走る。

ネルは、ブンブンと頭を振って脳内からその想いを追い出し、意図して元気に隣の少女へと話し掛ける。

「ま、おにーさんは愉快な人だからね。きっと、ロニアもおにーさんと一緒にいれば、すぐわかるよ。――さ!それより早く帰ろう。皆もそろそろ宿に戻ってる頃だろうしね」

そう言って、再び元気よく――元気よく見えるように、歩き出すネル。

「……ん」

ロニアは友人の内心の感情に気付いていながらも、どう声を掛ければ良いかわからず、ただこくりと頷き、その後ろを追って行った。