軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒場《1》

「――という訳で、俺としては受けてもいいと思ってるんだけど、どう思う?」

そう俺は、俺達の寝床として宛がわれた部屋の一室で、彼女達に問い掛けた。

「……そうですねー、少々難しいところですが、私としても受けてしまってよろしいかと思いますがー……しかし、今回の話を受けた場合、魔王様が大分危ない目に遭ってしまうことに……」

「あぁ、いや、それは別にいいんだ」

その辺りはすでに、織り込み済みだ。

魔族とは、良くも悪くも力の信奉者。

つまり――俺が暴れて、俺の方が強いということを理解すれば、敵側に味方する魔族であろうと、大体のヤツはこちらに従うようになるのだ。

なかなかに理解し難い価値観だが、ヤツらの根底には、俺が考えている以上にそういう意識が根付いているらしい。

勿論、そういうヤツらばかりではなく、特に悪魔族の中枢のような者は、俺が暴れれば思いっきりこちらを敵視するだろうが、しかしソイツらは元々、相容れない俺の敵。

ちょっと前フードちゃんが言っていたように、いずれ対立するのが見えている相手であれば、ここらでこちらからぶっ潰してしまえばいい。

人間の王都に行ってやったことと、大して差はないと言えるだろう。

「……大丈夫。主は、エンが守る」

「ハハ、あぁ。ありがとな」

俺はエンの頭を撫でてから、さらに言葉を続ける。

「ただ……問題なのは味方に裏切られる可能性だな」

「……断言出来る訳ではありませんが、それは恐らく大丈夫だと思いますー」

「へぇ?そうか?」

俺の問い掛けに、レイラがこくりと相槌を返す。

「同盟者は何も、魔王様だけという訳ではありませんー。ここで魔王様を裏切った場合、他の同盟者からの信用は失墜してしまいますからねー」

「……なるほど」

確かに、同盟を組んで、そして俺に対する裏切りが発覚した場合、レイラの言う通り魔界の王一派の他の同盟者からの信用の失墜は確実だ。

味方の少ない魔界の王一派にとって、それは致命的。

あの王が信用出来るかどうか、ではない。

対外的な関係が、それを許さないと。

……と言ってもまあ、あの王は元々かなり融和的に政策を進めて来たそうだからな。

腹黒だっつっても、上に立つ者は多かれ少なかれ腹黒だろうし、その辺りは信じてもいいだろう。

「……とすると、あとは、俺の関係者としてレイラやエンが危険に晒される可能性があるのが問題だな。俺も、そうならないようには立ち回るつもりだし、お前らのことは絶対に守るつもりだが――もしもの時のために、これを持っておけ」

そう言って俺が渡したのは―― ネックレス(・・・・・) 。

シンプルな銀のチェーンに、その中心には透明で小さな水晶がくっ付いており、後ろで長さが調整出来る仕様になっている。

「これは……?」

「 ダンジョンへの(・・・・・・・) 帰還装置(・・・・) だ。ちょっとデザインがシンプルなんだが、まあ宝飾品じゃないから勘弁してくれ」

「っ……つまりこれは、空間転移の魔導具、という訳ですねー?」

「一回こっきりだがな」

息を呑むレイラに、肩を竦める。

これは、ダンジョンのレベルが上がったことにより、DPで交換出来るようになったシロモノだ。

魔力を流して発動することにより、瞬時にダンジョンコアのある部屋――つまり、真・玉座の間へと一度だけ転移することが出来る。

こちらでもしものことがあった場合を考え、そして ダンジョンの方でも(・・・・・・・・・) もしものことがあった場合を考え、魔界に来る前に交換しておいたのだ。

まあ、これだけじゃダンジョンの方で危機があってもわからないのだが、その辺りに抜かりはない。

もし仮に敵が、俺の本拠地であるダンジョンを直接攻撃に出ようとしても、察知出来るようにはすでに向こうを出る前に仕掛けをしておいた。

ま、向こうにはリル達がいるし、最悪の場合にはレフィがいるからな。

例え襲われたとしても、あそこはガチで世界一安全な場所であると言えるだろう。

そうならないようには、俺も十全に気を付けて立ち回るちもりだが。

「……主、これ、どう付ける?」

「付けてやるよ。向こう向け。……お、美人さんだ」

「……ん」

俺がエンの首にネックレスを巻いてそう褒めると、エンは頬を少しだけ赤く染め、乏しい表情を笑みの形に変え、嬉しそうにする。可愛い。

エンは、まあ罪焔に戻っている時はこの魔導具を使えないのだが、擬人化して、今も俺の横に布を被せて立て掛けてある罪焔を掴んでから魔導具を発動すれば、ちゃんと彼女一人で帰還することも可能だからな。

渡しておくに、越したことはないだろう。差別するのは可哀想だしな。

罪焔を掴んでおかないと帰還出来ない理由は、彼女がスキルの範囲外に出た場合、勝手にスキルが解除されて武器に戻ってしまうためだ。恐らく魔導具を発動しても同じ結果になるだろうから、武器ごと転移する必要があるのだ。

ちなみに、エンがその身体に付けた装飾品は、彼女が武器に戻ると一緒に消え、そして再び擬人化するとちゃんと身に付けている。なかなかに不思議現象である。

「レイラも付けてやろうか?」

「フフ、ならお願いしますねー」

こちらに背中を向けたレイラの細く白い首に、俺は腕を回してネックレスを巻いた。

「ん、似合ってるぞ」

「ありがとうございますー。今のは、レフィ様には内緒にしておきますねー」

「ちょ、ちょっと待て、今のは別に、口説いた訳じゃないからな?」

「フフ、冗談ですー」

いたずらっぽい笑みを浮かべ、レイラはそう言った。

……そういうドキッとする冗談はやめてくれ。

「……あとは、そうですねー。報酬に関して、魔王様はもう少し要求しても良いように思いますー」

「え?そう?俺、これでも結構十分だと思っちゃってるんだけど」

「……魔王様は少々、感覚がズレていらっしゃいますからねー。その辺りの交渉は、私にお任せいただけないでしょうかー?もっと有利な条件を引き出してみせますのでー」

「え、お、おう、わかった。……じゃ、じゃあ、頼もうかな」

腕の見せ所だと気合を入れた様子のレイラに、俺はコクコクと頷いた。

……そんなに俺、感覚ズレてる?

* * *

――翌日、レイラを連れてあの王と再び話し合った結果、以下のことが結ばれた。

・魔界の王一派は、魔王ユキの支援を最大限に行い、最大限に庇護する。

・魔界の王一派は、魔王ユキを傭兵として扱う。

・魔界の王一派は、今回の事態が解決しようがしまいが、魔王ユキに対し定められた報酬を支払う。

一番目はわかるが、二番目の俺を傭兵として扱うというのは、つまり俺が雇われた存在であると大きく喧伝しろということだ。

これにより、俺が目立ったとしてもそのヘイトの行先を魔界の王一派へと向けることが可能で、俺は力を 揮(ふる) いながらも 柵(しがらみ) を少なく自由に動き回ることが出来るようになる訳だ。

戦争が起こった際に、恨まれるのが実際に戦った兵士か、兵士を派遣することを決定した上の者か。

その結果は、前世の第二次大戦における戦後処理を見ればわかるだろう。

……うん、これ、あれだな。もう最初から全部レイラに任せとけば良かったじゃん。

よく考えてみたら俺、別に特別優れた頭を持ってる訳でもねーし、絶対レイラの方が地頭良いもんな。

やはり、人は適材適所、ということだ。

俺、学習した。

俺、一つ賢くなった。

……それにしても、レイラもにこやかに、あの王もにこやかに話を進めながらも、その実凄まじい舌戦を繰り広げている様は、なかなかに見ていて迫力があったわ。

俺達のお世話係に任命されているのか、一緒にいたフードちゃんも、もうなんか二人の迫力にプルプル震えてたもんな。

「ユキ様は、もう少し周りを頼りにされた方が良いと思いますよー?いつもご自身で解決しようとなさるんですものー」

「……ん。同意」

人目のあるところなので、俺をいつもの魔王呼びではなく名前で呼び、そう窘めるレイラにエンが便乗してこくりと頷く。

「お、おう、悪かったよ」

俺は二人の追及に苦笑いを浮かべ、卓のグラスをクイと呷った。

――ここは、迷路のような魔界王都、レージギヘッグにある酒場の一つだ。

レイラが交渉を纏めた後、魔界の王フィナルが「お手伝いしてもらうのはまだ少し先になるから、城下を楽しんで来なよ!」と言うので、俺達はお言葉に甘えさせてもらうことにして、こうして飯を食いに来ているのだ。

ここの酒場は一階席と二階席があり、そして二階席は中央が吹き抜けのバルコニーのような造りとなっている。

二階からは一階へとツタのような植物が所々に降りており、そのツタのような植物から淡い光の玉ようなものが生まれ、天井の明かりとは別に室内を照らしている。

なかなかに幻想的で、お洒落な内装をした店だ。

併設されているステージでは、小規模な楽団が穏やかな曲を演奏しているし、雰囲気としては酒場、というよりレストランに近い感じだな。

まあ、その楽団の演奏をほぼ無視して、ガヤガヤと騒がしい喧騒は、酒場らしいが。

と、そうして彼女らと飯を食っていたその時――ふと、俺の視界の隅に、俺達と同じく二階席の一つに座っている、二人組のフード姿が映る。

フードといっても、フードちゃんことハロリアとその仲間ではなく、また別の見知らぬ者だ。外套の色が全然違うからな。

――特に、何かを思った訳じゃない。こっちではフード姿を街中でもよく見るし、特段その二人が怪しいとか思った訳でもない。

ただ、明るい雰囲気のこの酒場で顔を隠し、端の方の机に座っている者達の姿に、少し興味が湧いたのだ。

そんな、何となくの思いで、分析スキルを発動させた俺だったが――。

「………… ネル(・・) ?」

フードの一人が、その俺の声にこちらを振り返る。

「! おにーさん!?」

――フードの奥に覗いたその顔は、 教会の勇者ネル(・・・・・・・) だった。