軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の練習《2》

――上空。

「おぉ!!おおおぉ!!すげーぞこれ!!」

俺は、歓声をあげながら、大空をジェット機の如き勢いで飛び回っていた。

今までの飛行速度とは段違いに速く、目に映る景色も猛スピードで過ぎ去ってゆく。

まあ、その分身体に当たる風圧も物凄いことになっているので、かなり息苦しくはあるのだが、こればっかりは仕方ない。

次の種族進化に、もっと空に適した身体になることを祈るばかりだ。

何度も何度も全身強打し、上に下にを制御できずに縦横無尽に飛び回って、流石に吐きそうになったりなどを繰り返した結果、俺はジェットエンジンと化した罪焔を制御するのは無理という結論に達した。

なので、今は俺の方で、翼を用いて姿勢制御することにより、暴走コースターとはならずある程度自由に飛行出来るようになっている。

それでも、ちょっと気を抜くと制御が失敗して、あらぬ方向に飛んでくんだけどな。

だが、しかし、どうにか物にはしてやったぞ。

フフフ……情熱さえあれば、何でも出来るのだよ。

今なら、クソ龍を引き離すことも可能だろう。

……レフィにも追い付けるか?

よし、後で自慢しようか。

「エン、魔力は大丈夫か?」

『……ん。まだ平気』

「よし、それなら……おっ、いいところに的が、じゃなくて、魔物が来たな」

と、爆速で空を飛んでいた俺達の下方から、こちらに飛び上がってくる的――もとい、ワイバーン。

「グギャァッ、グギャァッ」

出来損ないの龍のような体躯をしたソイツは、飛んでいる俺達の姿を見るや、すぐさま大地から飛び上がり、耳障りな鳴き声をあげながら、俺達の後ろを追い掛けて来る。

コイツら、基本的に縄張り意識が強いからな。自身の縄張りを侵されたとでも思ったのだろう。

一瞬でソイツの前を過ぎ去ってしまった俺とエンだったが、しかしすぐに俺はぐるんと空中で回転して方向転換し、的に向かって真っすぐぶっ飛んでいく。

「グギャァッ!?」

逃げて行ったと思った敵が、今度はすんごい勢いで自分の方に突っ込んで来たためか、思わずといった様子で驚きの鳴き声を漏らすワイバーン。

俺は、そのままヤツの眼前へと迫ると――罪焔を、振り被る。

振り上げた一瞬だけ炎の出力を下げて姿勢制御し、そして振り下ろす寸前で再び爆発的な炎を発生させ、ジェットエンジンと化した罪焔で、ワイバーンを斬った。

反動で数メートル俺の身体が後ろに下がり――瞬間、爆散。

「うげっ!?」

あまりにも威力が高かったせいだろう。

斬ったところの肉が爆ぜ、原型を失う程に周囲一帯に飛び散り、そしてワイバーンは絶命した。

燃えて火達磨になっているワイバーンの肉塊が、重力に従い地へと落ちていき、ズゥン、と地響きを発して砂埃を巻き上げる。

辺りに残るのは、漂う焼けた香ばしい肉の香り。

……これは、とんでもない攻撃を生み出してしまったな。

相手が亜龍という立ち位置の、そこまで強い魔物ではなかったことも確かだが、しかしこの威力であればもっと強い魔物が相手でも大ダメージを期待出来るだろう。

まさに、一撃必殺。

食らえば最後、哀れ、敵は爆発四散。

ナムアミダブツ。

『……主』

「ん?」

『……火、ついてるよ?』

「へ?――うわっ!?あっちぃッ、あちちッ!」

エンに言われ、そこでようやく俺は自身の服に火が燃え移っていることに気が付き、慌ててパンパンと火の付いている箇所を叩く。

恐らく、火達磨のワイバーンから飛び散った肉片が掠りでもしたのだろう。ホントに爆散したからな。

DPで交換した、謎のガラのあるTシャツの裾がチリチリになったところで、どうにか消火に成功した俺だったが――その時、香ばしい肉の香りとは違う、今度は何か焦げ臭い臭いが鼻に突く。

何だ……?と怪訝に思い周囲を確認してみると――。

「げぇっ!?」

――立ち上る、煙。

燃え上がる、木々。

落ちたワイバーンが火種となったようだ。いつの間にか、燻りの煙と共に眼下の森から火が立ち昇り、それが現在進行形でどんどん燃え広がろうとしている。

し、しまった、俺のTシャツが燃えてた方に意識が向いて、燃えたまま下に落ちたワイバーンの肉塊のことが頭から完全に抜け落ちていた。

実際のところ、さっきまでも練習のためにジェットエンジンをぶっ放しまくっていたため、すでに幾度か森を燃やしそうにはなっているのだが、その度にリルが氷魔法を用いて消火してくれていたので、完全に俺の頭から消火の概念がどっか行ってしまっていた。

いつもごめんな、リル。お前がいてホントに助かってるよ。

「……これから毎日森を焼こうぜ!」

『……?』

「いや、ごめん、何でもない。気にするな」

アホなことを言ってる場合じゃない。

慌てて俺は原初魔法で大量の水を出現させ、それを上からドバドバと下に流していく。

見ると、火と水の共演のせいで、下にいた魔物達がギョッとした様子でどんどん逃げていくのが視界に映る。

す、すまん……ま、まあ、そういう日もあるさ。火達磨になったワイバーンが空から降ってきたり、森が燃えたり、快晴の空から大量の水が降ってきたり。無いか。

やがて、もはや木々をなぎ倒すような勢いで水をぶっ放すことにより、どうにか大惨事となる前に森の消火を終えることに成功するが――残念ながら俺を襲う惨事は、それに終わらなかった。

『ギチギチギチッ――』

消火が完了するや否や俺の耳に飛び込んで来たのは、聞いただけでゾッと総毛立ちそうになる、無数の虫が這いずり回るような音。

バッとそちらに視線を向けると――そこにいたのは、いつか遭遇したことのある、蟻の大群。

いや、以前俺とリルが蟻と遭遇した地点とは大分離れているので、同じ蟻どもではないのだろうが……この森、蟻ども棲息し過ぎじゃねぇか!?

どこからともなく現れた無数の蟻どもは、上空にいる俺の姿を視認すると同時、一目散にこちらに向かって飛び上がって来る。

「ヒィ……ッ!?」

無数の蟻、それも一匹一匹が中型犬並の体躯を持つ蟻がどんどんと迫り来る図に、思わず口から情けない声が漏れる。

もしかすると、俺が水を放ったこの真下の辺りに巣でもあって、俺がぶっ壊してしまったのかもしれない。

ヤツらすんげーキレているようで、虫の表情など微塵もわからないのだが、まるで全てを飲み込まんとばかりにこっちに向かって来る様子からは、滲み出るような激しい怒りが感じられる。

『……アリさん、いっぱい』

「ア、アリさんなんてそんな可愛いもんじゃねぇぞ、アイツら!!」

あんなのに捕まったら、ハムナ〇トラに出て来た、フンコロガシのような虫に骨の髄までしゃぶられ、人間からミイラにクラスチェンジしたヤツらみたいになりかねん。

いや、むしろあの顎で骨まで食われ、何にも残らない可能性すらある。

あまりの気持ち悪い光景に硬直していた俺だったが、その未来を想像してブルリと身体を震わせ、すぐに身を翻してその場から飛んで逃げる。

今ならばあの数も殲滅出来るかもしれないが……無理。ヤダ。エンでアレを斬りたくない。俺が生理的に受け付けない。

蜂の時は、逃げられないから嫌々戦ったが、しかし逃げられるのであればそうするのが得策だろう。

「エ、エン!今こそ練習の成果を発揮する時だ!!風魔法頼む!!」

『……ん。わかった』

俺が刀身に焔を纏わせると、流れるようにエンが風魔法を発動させ――その瞬間、まるで爆発を起こしたかの如く俺が身体が前方にぶっ飛んでいく。

俺とエンの発する轟炎に飲み込まれ、蟻の幾ばくかが消し炭になり地に落ちていく。

仲間が燃えカスとなりながら、なおも俺達を追って来ようとしていた蟻どもは、しかしだんだんとその姿を小さくさせていき、やがて見えなくなった。

* * *

「アァ……酷い目にあった」

洞窟前にたどり着き俺は、思わずそう呟いていた。

どうにか振り切ることが出来たようだ。ヤツら、リルですら振り切れないような足の速さだからな。

俺が新技を会得していなければ、以前のように死の追いかけっこが始まっていたことだろう。

ちなみにそのリルには『遠話』を使用して、俺達がすでに帰還したことは伝えてある。

ついでに、少し用事があるため、明日またお昼過ぎぐらいに洞窟前に来てもらえるように言っておいたので、またすぐに会えるだろう。

よくよく考えてみると、ウチのダンジョンで一番働いているのってアイツかもしれない。

ストライキを起こされないように、時間外手当とか出した方がいいだろうか。

「……でも、主、途中まで楽しそうだった」

「あぁ、うん……」

ヒドい目にあったのは、俺が調子に乗っていたからであり、自業自得だと。

まさしくその通りです。ごめんなさい。

「……エンも」

何かを呟いたエンに、俺は実体化して肩車している上の彼女へと、首をちょっとだけ曲げて顔を向ける。

「ん?」

「……エンも、主と一緒で、楽しかった」

ちょっと恥ずかしげに、ボソリとそう言葉を溢す黒髪着物の少女。

――あぁ、もうホントに……ウチの子達は何でこんな良い子しかいないんだ。

我が家の子供達が、優しい良い子達に育ってくれているようで、お兄ちゃん嬉しい限りです。