軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガチャをしよう

うちの新たな住人となったイルーナは、俺の思っていた以上に綺麗な子だった。

輝かしいばかりの金髪に、はしばみ色のくりくりとした大きい眼。アイドル顔負けの均整に整った顔立ちと、思わず撫でてしまいそうになる、ちょうどいい背丈。

ヴァンパイア族やサキュバス族には見目美しい者が多いとレフィが言っていたが、この子はその中でも群を抜いているのではなかろうか。

皆殺されたとイルーナは言っていたが、この子だけ生き残ることが出来たのも、人攫いどもが俺と同じようなことを思ったからかもしれない。

最初見た時は、浮浪者とまでは言わないが、正直それに近しい恰好だったものの、レフィより一回りサイズが小さい、お揃いのワンピースとその他一式を着て、ちゃんと身なりを整えた今の彼女は、あと数年も経てば、確実に男が放っておかなそうな美幼女っぷりである。

レフィも人間形態だと相当な美少女だし、二人が並んでいるのを知らないヤツが見れば姉妹だと思うかもしれない。

片や角と尻尾が生えていて、金色と銀色という対照的な髪色をしているが。

「おにいちゃん、これなあに?」

一晩経って、死にかけだったのが嘘のようにすっかり回復した様子のイルーナは、今更ながらにこのダンジョンのことに興味を惹かれたのか、辺りをキョロキョロしながらこうして時折、質問を投げかけてくる。

「ん?あぁ、そこにちっちゃいおもちゃの剣みたいなのあるだろ?その樽の穴に、それ刺していってみな」

イルーナは言われた通り、無数の穴が開いた樽の側面におもちゃの剣を刺していき、そして――。

「わひゃっ――おにいちゃん何か飛んで来た!」

イルーナは飛んで来たそれを掴むと、嬉しそうに俺に向かって見せる。

彼女が遊んでいるのは、お察しの通り『黒ひげ危機一髪』だ。

ダンジョン暮らしは便利でいいのだが、如何せん暇な時間が多い。

その暇を潰そうと、レフィもできるようなお手軽なものを出してみた訳だ。

まあ、当のレフィは、飛んで来た黒ひげが顔面に直撃してから、触りもしなくなったのだが。

俺は、すっかり座り心地がよくなってしまった玉座の上に胡坐を掻いて座り、イルーナの様子を微笑ましく眺めながら日課となっているメニューの確認を行う。

DP収入は、実にいい感じだ。

まだまだ拡張作業は続けていくつもりだが、もう足りなくなって悩むことは、何か大きくDPを使う用事などができない限りないだろう。

結構早く安定させるのに成功したものだ。

……なら、これ、ちょっとやってみてもいいよな。

そうして、俺が指を滑らしたのは、『ガチャ』の項目。

今まで他にDPの使い道があったので触ってこなかったが、今は余裕がある。

実はずっとやりたかったんだよな、これ。気になってたもんで。

……うむ、検証は大事だもんな。

今日はまだ使ったことのない機能、ガチャの検証を行うことにしよう。

という訳で、ガチャのところをタップし、ページを開く。

項目はシンプルで、百、千、一万、十万の四つが表記されているのみ。

費やすDPによってレアの確率でも上がるのだろう。出て来る商品の一覧でも見たいところだが、残念ながらそこまで親切設計ではないようだ。

上二つはちょっと手が出ないから……よし、千にDPぶっこんでみるか。

そうしてDPを消費すると、すぐにシィが現れた時と同じような光の粒子が出現して、それが一点に集まりだし――。

「……こりゃ、拳銃、か……?」

現れたのは、いわゆるデリンジャーと呼ばれるタイプの物と同じ形状の、しかしそれを二回りぐらい大きくして、シリンダーを追加したような拳銃。

いや、ここまで来ると変わった形のリボルバーと言った方が近いかもしれない。

表面には彫金が為され、銃身とグリップに紋様が走っており、なかなかにいい味を出している。

魔法短銃:銃弾の代わりに魔力を充填し、魔弾を放つ。込める魔力の量により威力が可変。装弾数七。

「お、おぉ……」

分析スキルを使って詳細を確認した俺は、思わず感嘆の息を漏らす。

すげーかっこいいぞ、これ。

FPSとかだったら、思わず課金してでもゲットしたいぐらいのカッコ良さだ。ロマン武器だ。

……メチャクチャ撃ってみたいが、性能の確認は後にしよう。どうせまだ色々出るだろうし。

それにしても、幸先がいいな。

この魔法短銃は間違いなく当たりの部類だろうし、もしかしたら、レアの確率は結構高いのかもしれない。

この調子で、どんどん回していくとしよう。

――今にして思えば、そこでやめておけばよかったのだろう。

タワシ、タワシ、石鹸、木のコップ、何かの布、塩、石鹸、木のスプーン、麻紐、ぬいぐるみ、タッパー、鍋のフタ、ゆび人形、ビニール袋、何かのコード、鍋のフタ、鍋のフタ、キーホルダー、鉛筆、鍋のフタ――。

……その後、調子に乗ってガチャを回し続け、積み重なったゴミの山。

出て来たのはどれもこれも、百DP以内で入手出来る物ばかり。

次こそは次こそは、と回し続け、典型的な大爆死をして、真っ白に燃え尽きた俺がそこにはいた。

……そういえばすっかり忘れていた。

俺は運の値が、全モンスター中最弱のステータスを持つスライムのシィにすら劣るのだった。

一番最初の当たりも、俺を油断させてガチャにDPをつぎ込ませるための罠だったかもしれない。

何とも極悪なガチャだ。完全にしてやられた。

クソ、クソッ……何で一番多いのが鍋のフタなんだよ。フタだけそんなたくさんあってもいらねーよ。せめて被るなら消耗品にしてくれ。

ゴミの山を前に、玉座の背もたれへと無気力に身体を預けていると、不思議そうに俺を見上げるイルーナ。

「おにいちゃん、それ何見てるの?」

「……あぁ、これはメニュー――え?」

イルーナの質問に反射的に答えようとして、そこでようやく、停止した俺の脳みそが働き始める。

「……イルーナ、俺の見てるこれ、見えてるのか?」

「その透明な板?見えてるよ!」

……これは、どういうことだ?

レフィには見えていなかったから、てっきり俺は、他人にはこのメニュー画面は見えないものだと思っていたのだが……。

「おにいちゃん、私もそのいっぱい出すやつ、やってみたい!」

「え?あ、あぁ、まあいいぞ。でも一回だけな」

イルーナの言葉で物思いから戻り、そう答える。

俺みたいに爆死させる訳にはいかないからな。

それに、俺が回しまくったせいでそんなにもうDPが無いし。

「やったぁ!おにいちゃんありがと!」

言うが早いが、イルーナはとてとてとこちらに走り寄り、「んしょっ」と俺の膝の上に乗る。

「おにいちゃん、どれ押せばいいの?」

「これだ、ここ」

そうして俺が指差すと、イルーナは「わかった!」と言って指を伸ばし、ガチャの画面に触れる。

すると――。

「おおっ、おおおっ!?」

「うわぁ、きれぇ」

俺の時とは比べものにならない程の光の粒子が集まりだし、玉座の間を染め上げる。

ど、どうなってんだこれ!?

その光は、物を形作ろうとしている訳ではないらしく、朧気ながらに四肢と尻尾らしい輪郭を形成していく。

やがて光の粒子の収縮が終わり、その中から現れたのは――。

――巨躯。

その体躯を包む毛並みは、雪のように輝く白。

四肢の先に備わる爪は見るからに鋭く、岩すらも切り裂けそうだ。

こちらをじぃっと見詰めるその眼からは怜悧な印象を受け、全体的にどことなく気品を感じさせる。

それは、俺より頭一つ分高い位置に顔がある―― 狼だった(・・・・) 。

「…………」

そのあまりの結果に、口をあんぐり開けて固まる俺。

名:無し

種族:フェンリル

クラス:狼王

レベル:1

HP:1810/1810

MP:5452/5452

筋力:607

耐久:685

敏捷:784

魔力:872

器用:890

幸運:140

固有(ユニーク) スキル:神速、万化の鎖、身体変化

スキル:爪闘術lvⅡ、氷魔法lvⅣ、雷魔法lvⅣ、危機察知lvⅣ

称号:魔王の眷属

……あの、種族がフェンリルって表示されてるんすけど。

フェンリルってあれじゃないの。神話に出て来る狼さんじゃないの。こっちじゃ神話じゃなくて実在するんすか、そうすか。

つか、ステータスメッチャ高くないか、この子。まだギリギリ俺の方が上だけども、同レベル帯になったら確実に抜かされるぞこれ。

敏捷に限ってはすでに負けてるし。なんかヘンなスキルもいっぱいあるし。生まれたばかりのくせにクラスが『 狼王(ろうおう) 』だし。

「わぁー、おっきい狼さんだぁ!」

イルーナは歓声を上げると俺の膝の上から降り、狼へと駆け寄る。

「あっ、こら、イルーナ!」

内心ヒヤリとしながら、慌ててイルーナを追い掛ける。

が、フェンリルはしっかりと俺達のことを主人であると理解しているようで、脚に纏わりつくイルーナに嫌な顔をすることもなく、 頭(こうべ) を垂れて大人しくしている。

「ふさふさぁ!」

「ったく……イルーナ、ソイツが危険だったらどうすんだ」

「だいじょうぶ!だってこの子、悪いにおいがしないから!」

悪い臭いって……もしかして、何かそういう相手を判断するような能力でも吸血鬼は持っているのだろうか?

特にイルーナのスキルにそれっぽいものはなかったのだが……。

と、その時、特に何をするでもなく大人しくしていたシィが、現れたフェンリルを見て新入りが来たとでも思ったらしく、小さな子供が胸を張るような感じで狼の前に立ち、「自分が先輩だから色々教えてあげなきゃ!」といった感じで何か説教っぽいことをし始める。

そのフェンリルは、強さ的には圧倒的格下のシィにそんな態度を取られても特に気分を害した様子もなく、俺にはわからないが何かを話しているらしいシィの言葉にちゃんと耳を傾けている。

大人だ。大人の対応だ。

「……お主、とんでもないのを呼び出したの」

今まで惰眠を貪っていたレフィが、この騒ぎで流石に目が覚めたのか、ポツリとそう溢した。

「やっぱりアレ、相当強い?」

「相当どころではないぞ。今はまだ子供のようだが、成体となるとその強さは儂と同じく伝説級じゃ。昔、一度だけ 闘(や) り合ったことがあるが、あの時は物凄い面倒臭かったの。もう二度と 相見(あいまみ) えたいとは思わんな」

レフィにすらそう言わしめるとは……。

あと、このサイズで子供と言われると、成長された時ちょっと困るんだが……。主に部屋のサイズ的に。

「……それにしても、あの狼を前にしてあの態度とは、童女もシィも、案外大物かもしれんの」

俺もそう思う。