軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍王

――物事はいつも、唐突に発生する。

いつものように、真・玉座の間でレフィと共にダラダラしていた、その時だった。

「――――ッ!!」

突如、レフィが外へ繋がる扉を向いて、立ち上がった。

「あん?どうしっ――」

と、対面に座っていたレフィに問い掛けようとしたところで――マップが、勝手に開く。

――侵入者だ。

俺は即座にマップを確認し、敵の詳細を確認する。

侵入地点は……上空。

「ッ、コイツ……!!」

「……この気配は恐らく、儂の知り合いじゃの」

その敵性反応を確認し、険しい表情を浮かべる俺に、レフィは扉の方へと向いたままポツリとそう言った。

「……どうやらそうらしいな」

チラリと彼女の方へと視線を向けた俺が見たのは、俺と同じく険しい表情を浮かべているレフィ。

それは決して、ただの知人程度に向けるような表情ではない。

……なるほど。あんまり良いお友達じゃないってことか。

「……しばし待っておれ。何用か知らんが、彼奴の目的は多分儂じゃ。話を付けて来る」

そのまま外に出て行こうとしたレフィを、しかし俺は、その肩を掴んで止めた。

「――待て。俺も行く」

「やめておけ。彼奴は基本的に他者を下に見ておる。儂にすら喧嘩を売って来るような奴じゃから、危ない目に遭うぞ」

「なら、なおさらだ。そんなヤツのところ、一人で行かせられねーよ」

レフィがこんな顔を浮かべる相手だ。ならば、相当に厄介なヤツなのは間違いない。

万が一が生じた場合、俺よりレフィの方が圧倒的に強いのは、依然として変わらないが……それでも、だからといって彼女に全てを任せて、ここでのんびり待っているなど、あり得ない話だ。

何より――ここは、俺のダンジョンだ。

ならば、俺が守らなければならない。

「馬鹿言え、儂は覇龍じゃぞ?お主の心配することなど、何一つありゃあせん」

「……それでも、だ」

これは……意地だ。男の。

レフィが、この世に敵なし、と言える程に強いことはわかっている。

でも、それでも俺は――コイツを一人、危険な目に遭わせたくないのだ。

俺は邪魔にしかならない可能性もあるが……しかし、その判断をするのは今じゃない。

じっと、お互いに視線を交わす。

やがて、折れる様子のない俺にレフィはフッと苦笑を浮かべ、口を開いた。

「……フフ。仕方のないヤツじゃの。じゃ、しっかり儂を守ってくれ。頼りにしておるぞ?」

「勿論だ。任せとけ、相方さんよ」

そう言って肩を竦めた俺に、レフィは小さく口元に笑みを浮かべた。

* * *

エンに武器本体へと戻ってもらい、ダンジョンの住人達に俺とレフィが戻ってくるまで今日は絶対に外に出て来るな、と言いつけてから、俺達は洞窟を抜け外へと出て来ていた。

俺の肩に担いでいるのは、すでに抜き身の罪焔。こちらの緊張が伝わっているのか、彼女もいつもより幾ばくか緊張している様子が伝わって来る。

俺の後ろ腰には魔法短銃と短剣が装備され、太ももに巻いたポーチにはすぐに取り出せるようポーションが入っている。

これは、俺が外で戦闘を行う際の完全装備だ。

ポーションをアイテムボックスにしまわず外に出しているのは、クソ獣、マンティコアと前に戦った時、アイテムボックスを開くような暇が無かったからな。それを反省してのことだ。

やがて、外へ出て来た俺達の視界に映ったのは――遠くの空に浮かんでいる、 一匹の(・・・) 、 龍(・) 。

ソイツは洞窟から外に出て来た俺達の姿に気が付くと、空からこちらへと急降下し、俺達の眼前で滞空した。

全身を覆う、黒の鱗。

ソイツの全長は以前見たレフィの龍形態の時より一回り大きく、そして流線的なフォルムのレフィより、全体的にゴツゴツとした、骨張った印象を受ける。

名:ジロディオ=ギュオーガ

種族:黒龍

クラス:龍王

レベル:402

称号:簒奪者、龍族の王

レフィが感付き、俺のマップに映った侵入者が――この龍だった。

その存在感に、ツー、と頬を汗が伝う。

コイツもまた、他者にわざとステータスを見せているのだろう。今の俺では見えないはずのレベル差なのに、いくつかの情報が分析スキルで見えている。

レフィに比べたら、まだ半分以下のレベルだが……しかし、俺にとってはあり得ない程に実力差のある相手だ。

魔力眼で見る限り、その身に宿す魔力もまた、途方もないものがある。

恐らく、ヤツが全力戦闘を行っても、三日三晩ぐらいであればずっと魔法を放ち続けることも可能だろう。

『――フン、ようやく見つけたぞ、覇龍レフィシオス。何故そのような人の真似事なぞしている?』

その龍は、周囲の全てを見下しているような、非常にムカつく眼でギロリとこちらを見下ろすと、レフィのことを鼻で笑いながらそう言った。

ヤツの浮かべた表情に、少々焦りを感じていた内心が、スッと冷える。

――あぁ、ダメだ。

コイツとは、絶対に仲良く出来ねぇ。

「――何用じゃ、ギュオーガ。儂は、貴様のような小僧を相手にする暇はないのじゃが?」

いつもより大分険のある口調で、睨め付けるような表情を浮かべるレフィ。

『ハッ、言いよるわ。今の俺に小僧などと言う輩は、お前しかおらぬだろう』

「……何故貴様が龍王の位に付いておる?ベルムはどうした」

レフィもまた、黒龍のステータスを覗いたのだろう。

簒奪者という称号を見る限り……奪ったんだろうな、きっと。

『あの耄碌ジジィなら俺が殺した。故に俺が龍王となった。龍の里の奴らは今、全て俺に従っている』

「貴様如きがベルムを殺した、じゃと?」

戸惑いを感じさせる表情で、レフィはそう言った。

彼女の言い草からすると、元はそのベルムってヤツが龍の王だったのだろう。

……今度々話に出て来た龍の里とやらで、何かコイツが行動を起こすきっかけとなったような動乱でもあったのだろうか。

『そうだ!今や俺が王なのだ!お前が小僧と呼ぶこの俺がな!』

「フン、片腹痛いの。古龍の連中はどうしたんじゃ?彼奴らが貴様のような輩に従う訳がないと思うが?」

『あのジジィどもは、龍として生まれながらも野心を無くした老害だ。だから、俺の配下を使って全員里から追い出した。俺はこれから、この配下どもを使い、世界を取りに動く!故に、お前を誘いに来た!』

「……何?」

怪訝そうなレフィに、黒龍は熱の 籠(こも) った声色で、言葉を続ける。

『覇龍レフィシオス、お前も俺と来い!お前と俺であれば、この世を統べることなど造作もないはずだ!!俺の 番(つがい) となり、俺と共に世界に覇を唱えるのだ!!』

――そこまでレフィの隣で大人しくしていた俺は、ついに黙っていられなくなった。

「黙れよテメェ」

『……何だ、貴様?』

ようやくその時、黒龍は初めて俺の方へと視線を向ける。

「さっきから聞いてりゃベラベラベラベラと。気持ち悪いんだよ、その気取った言い方。何だ?自分大好きちゃんか、お前?」

煽られ慣れていないのか、俺の言葉にピクッと黒龍の表情が動く。

「それにな。世界でも何でも、取りたきゃ取ってりゃいい。けど、テメェで勝手にシコシコやってろよ。テメェの事情に他人を巻き込むな。人に迷惑を掛けちゃいけませんって、誰かに教わらなかったのか?」

『俺を愚弄するかッ、虫がッ!!』

歯を剥き出しにて吠える黒龍に、俺は嘲笑の表情を浮かべる。

「愚弄とは違うな。俺は常識知らずのアホに常識を語ってるだけだ。そんなこともわからねぇのか。立派なナリして、おつむはガキってか?ハッ、笑えねぇ」

その俺の言葉に、隣のレフィが続ける。

「そう言う訳じゃ。悪いな、小僧。儂は世界を取ることに興味もなければ、貴様の 番(つがい) なぞになるつもりも毛頭ありゃあせん。里に帰って里の娘でも口説くんだな」

『…………なる、ほど。わかったぞ。お前が人の真似事をしているのは、そこの虫のせいか』

「ま、そうじゃの。儂の相方じゃ」

『なるほど、なるほど……』

――全身に伝わる、強烈な、危機。

「ッッ――――!!」

攻撃は、一瞬しか見えなかった。

黒龍が動いた、と思った瞬間には、すでに目の前にいた。

防御が間に合ったのは、ほぼマグレのようなものだ。

脳が訴える強烈な生存本能に従い、担いでいた罪焔を即座に前に構えた瞬間、その刀身にまるで爆走中のF1レースカーに激突されたんじゃないかと思わんばかりの衝撃が加わり、俺の身体が宙に浮いて吹き飛ぶ。

目まぐるしく変化する視界。

そのまま俺は、数十メートル吹き飛んだ辺りで、認識がようやく追い付き翼を出現させ、空中制御することでようやく停止した。

防御した腕が、ジンジンと痛む。

『ほう、今のを防ぐか』

先程まで俺が立っていたところに、腕を振り切った格好で立っている黒龍が、俺を小馬鹿にした様子でそう 嘯(うそぶ) く。

「ユキ!!ッ、貴様ッ!!」

『フン、反応が追い付いていなかったぞ、レフィシオス。やはり人の形を取っているせいで、大分身体能力が落ちているようだな。この様子ならば、伝説の覇龍の実力も底が知れる』

「いいじゃろう、小僧!!そこまで言うのであれば、貴様の余命、ここでッ――」

そう、黒龍の挑発に答えようとしたレフィを、しかし止めたのは俺だった。

「――やめろ、レフィ」

ギリィッと歯を食い縛って黒龍を睨め付けていたレフィが、俺の声にバッとこちらに顔を向ける。

「ユキっ、平気か!?」

「こんぐらい平気だ。――レフィ。コイツは、 俺がやる(・・・・) 。お前は、黙って見てろ」

そう言って俺は、黒龍へと罪焔を構える。

「エン、大丈夫だな?」

『……平気。主こそ、平気?』

「あぁ。俺はお前の主だからな。余裕だ」

娘とも言える存在が平気と言っているのだ。

ならば、その親もまた、仮に腕が吹っ飛んでいようが足が吹っ飛んでいようが、平気に決まっている。

『ハッ、虫如きが、俺の相手をするだと?たまたま一度攻撃を防いだぐらいで、いい気になったものだ』

「うっせーボケ。テメェに話し掛けてねぇ」

『ッ……どこまでも腹の立つッ――!!』

キレた様子のクソ龍を無視して俺は、さらにレフィへと言葉を続ける。

「レフィ、お前はそこで見てろ。俺がお前を、守るんだろ?」

「…………フッ、そうじゃったな。ならば、しっかりと儂を守れ。このような輩程度を相手に、不覚を取るでないぞ」

そう言うとレフィは、スタスタと端に歩いて行くと、そこに胡坐で腰を下ろし、腕を組んだ。

彼女なりの、手を出さないという意志表示なのだろう。

本当に……良い女だ。

俺は、ニヤリと笑みを浮かべてから、クソ龍の方へと向き直る。

……コイツと俺には、覆せない圧倒的な実力差がある。レベル差だけ見ても、五倍じゃきかない数値だ。

今の攻撃を見ても、コイツと俺の力の差が窺える。

恐らく俺が勝てる道理など、一パーセントもあれば良い方だろう。

だが―― そんなことは関係ない(・・・・・・・・・・) 。

このクソ龍は、言った。レフィに向かって、「俺の番となり――」と。

であればコイツは……レフィではなく、俺が倒さなければならない。

何があろうとコイツだけは、俺が倒さなければならない。

それは――コイツが俺にとっての、明確な敵であるからだ。

「気張れよ、クソ龍。今の俺は強いぞ」

『ほざけッ、虫がッ!!その減らず口、いつまで叩けるか見てやろう!!』

――そうして、俺は、世界最強の種族を相手に殺し合いをすることとなった。