軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな住人

「へー!エンちゃんって言うんだ!よろしくね!」

「ヨロシク、ネ!」

「……ん。よろしく」

イルーナとシィが、彼女達と同じぐらいの背丈の少女に向かって、ニコニコと言葉を掛ける。

その少女の方は、無表情で平坦な口調ながらも、どこか少しだけ楽しげな雰囲気で、彼女達に返事を返した。

「幼女が三人……来るぞ、遊馬!」

「は?」

「いえ、何でもありません」

訝しげな顔を向けて来るレフィに対して、思わずそう叫んでしまった俺はすぐに誤魔化す。

怪訝な様子のレフィだったが、しかしすぐに表情を取り繕い、俺――正座させられている俺に向かって、言葉を続けた。

「……で、アレは誰なんじゃ?どこから攫って来たのかの?」

そう言って彼女が指差したのは――イルーナ達と一緒にいる、見慣れぬ一人の少女。

黒と紅の二色で彩られた紐のリボンがサイドに結われた、濡れ 烏(ガラス) の羽のような艶やかな黒髪。

肩口に掛かるか掛からないかぐらいまでの長さで、おかっぱのような髪型をしている。

その下には、まるで人形のように整った無機質で中性的な相貌が覗き、その髪と同じ黒い瞳からは、ほとんど感情を感じられない。

彼女の細く白い肢体は、鮮やかな紅色の甚兵衛のような和服に包まれており、しかしその袖は巫女装束のように袖が長い。

いや、これはどちらかというと、丈の短い紅色の巫女装束、と言った方が近いかもしれないな。

全体的に和風テイストの、何だか見ていると眠くなってくるような印象を受ける少女だ。

「さ、攫ってねぇよ!物騒なこと言うな!」

「ほう、では、誰だと言うのかの?」

「……コイツです」

レフィの質問に俺は、正座している俺の隣に置いてあるその武器―― 罪焔(・・) を指し示す。

罪焔の柄には、彼女の髪に結われているリボンと同じものが巻かれていた。

「罪焔、じゃったな?」

「……はい」

こうして例の如く詰問するレフィと詰問されている俺の二人の様子を、「いつもよくやるっすねぇ」とリューが苦笑しながら眺め、そしてレイラが特に何も言わずほわんほわんした様子のニコニコ顔を浮かべて見守っている。

あんな澄まし顔のレイラだが、アイツはさっきまで「ほうほうほうー」とか言いながら、興味深そうにずっと罪焔と少女エンのことを観察していた。

興味津々で目が爛々と輝いていたその表情に、エンが怖がって俺の後ろに隠れたぐらいだ。実際俺もちょっと怖かった。

全く……取り繕うのが上手いヤツめ。

もしかしてあのほわんほわんしている様子は、その内部に 燻(くすぶ) る知識欲を隠すための仮面なのではないだろうか。

……あり得るな。

「ふむ、おかしなこともあったものじゃ。その武器が特殊なインテリジェンス・ウェポンであるとは知っておったが……いつから実体化するようになったのかの?」

「いえ、その……ちょっと試してみたら、出来ちゃいまして……」

罪焔、エンが、ああして身体を持ってイルーナ達と一緒にいる理由。

それは、俺がDPで出現させたスキルスクロール――『擬人化』を罪焔に使用したためだ。

スキルスクロールは、そこに書いてある内容を脳内に写し取り、その状態でスクロールへと十分な魔力を流すことが出来れば、スキルの取得が可能となる。

そして、罪焔には意思があり、自身のみで魔力を保有している。

ならば、もしかしたらスキルスクロールが使えるかもしれないと考え、そして外にずっと出しておくのであれば、身体を持って皆と一緒にいられる方がいいだろうと思い、試しにエンの刀身にスキルスクロールを押し付けて発動させてみたら……まあ、ホントに出来ちゃった訳だ。

……何だか、彼女のために鞘も作ってしまったし、子供に甘い親のようになっている気もするが……。

ま、まあ、刀とは元々鞘があるのが普通であり、そしてウチの幼女ズやメイドさん達にも、危なくないようにと有用そうなスキルはいくつか覚えさせている。

これで対等だろう。

一人だけ差別するのも可哀想だから、これでいいのだ。うん。

ちなみに、擬人化して出現した時から少女のような恰好をしているコイツだが、実際のところ性別はない。

一度それを聞いてみた時に「……別に、どちらでも、ない」と言いながら、自身の服を脱ぎ出してそれを証明しようとし始めたり、という事件もあったのだが、どうも基本的にはシィと同じように男も女もないらしい。

まあ、元々武器だからね。無機物だからね。男女などある訳がないだろう。

と言ってもコイツ、どう見ても男の子か女の子かと聞いたら確実に女の子の見た目をしているし、趣味も女の子っぽい。

それに、我が家の幼女二人はエンのことを初めから女の子だと思っており、エンもまたそれを特に否定することもなかったので、ウチではこれからエンのことは少女扱いになるだろう。

エンも……まあ、その、さっきまではどちらでもない身体をしていたようだが、今は『擬人化』スキルを用いてちゃんと少女の身体になっているそうだしな。

この辺りから、別に本人も女の子扱いを嫌がっている訳じゃなさそうだし、『彼』ではなく『彼女』ということでいいだろう。

そして擬人化のスキルに関しては、エンが本体とは別に擬人化した身体を持っていられるのは今はまだ半日だけで、その行動範囲も武器から約半径百メートル以内であるようだ。

まだスキルを取って間もないから、スキルレベルも1だしな。この辺りは仕方ないだろう。

擬人化している間は一定のMPも消費するので、俺が魔物狩りに出かける時には、擬人化するのは少しだけ我慢してもらうように頼んである。

せっかく身体を得たのに、そう言うのはちょっと申し訳ない気分だったのだが、彼女としては別に全然構わないそうで――というかむしろ、魔物狩りに行く時にはこれからもずっと自分を使って欲しいと、少々躊躇いがちながらも、必死にお願いされてしまった。

不謹慎だが、寡黙ながらも必死に彼女がお願いしてくる様子は、正直とっても可愛かったです。

きっと、武器としての矜持でもあるのだろう。

もし、彼女が嫌がるなら……とかも考えていたのだが、これからも俺の主武器は、是非ともエン一本で行かせてもらうとしようか。

「ハァ……今のここに住む幼子だけに満足出来ず、自身でさらに新たな幼子を作り出すとは……お主の性癖が、よもやそんなレベルであると見抜けなかったとは、儂も浅はかであったか……」

「その見解には断固異議申し立てをする。やめてください、その俺がド変態であるかのような物言い」

「ご主人……安心して欲しいっす!ウチらメイド隊は、ご主人がどんなご主人でもずっとお仕えするっすから!」

「そうです、魔王様ー。少々魔王様が特殊な性癖をしておられても、まあ、殿方とはそういうものでしょうし、私達は気にしませんよー?」

「お前らってアレだよな。いっつも俺を肯定するフリをして、遠まわしに俺のことディスってやがるよな」

あとレイラのその男性観はどこで培ったんだ。いや、間違ってないんだけどさ。

男なんて、誰しもちょっとアレな性癖を一つは持っているもんだ。

いや、まあ、俺は違うけど。俺にはそんな、特殊性癖などありません。健全な男なので。ロリコンでもありません。

ちょっと人より太ももが好きなry

「ディス……?」

「馬鹿にするってこと」

「あぁ…………まあ、そんなことは、ないっすよ?」

「オイ、その間は何だ?何で俺から眼を逸らす?」

クソッ、なんてメイドだ!というか、レイラもクスクス笑ってるんじゃなくて何か言え!

うぎぎ、と我が家のメイド達に恨めしい視線を送る俺だったが、その時、理不尽に怒られて正座をさせられている俺のところまで、エンがその短く白い足でトテトテと近寄る。

「……主、苛めたら、駄目」

そのまま彼女は、まるでその小さな身で俺を守るかのように、俺の頭を抱えるようにしてひっしと抱き付き、そう言った。

ふわりと、少女の甘い香りと、子供特有の高い体温が伝わって来る。

おぉ……!いいぞ、エン!

この理不尽で横暴な世界から、俺を守ってくれ!

「ううん、違うよ!エンちゃん!みんなおにいちゃんをいじめてる訳じゃないの!」

が、しかし俺の援軍は、新たに現れた強力な伏兵によって、苦戦を強いられることになる。

「……そう、なの?」

「え、あの、イルーナさん」

やって来たニコニコ顔のイルーナの言葉に、エンが無表情にこてんと首を傾げる。

「うん!これ、いつものことだから!おにいちゃんとおねえちゃんはお互いさまだし、ああやってじゃれ合って仲良くしてるの!だから、放っといていいんだよ!」

「……そう。なら、いい」

「え、あの、エンさん」

イルーナの言葉にあっさりと説得されたエンは、俺から離れるとそのままイルーナに連れられ、再び幼女達との遊びに戻って行った。

か、陥落された……!

というか、何気にイルーナの言葉がひでぇ!

「フッ、これで、お主の味方はいなくなったなぁ?」

「グッ……やってられるか!!こんな横暴に、俺は屈しない!!我が身は我が身で守るのみよ!!」

そう言い放って俺は、正座などやめて立ち上がる。

「ぬっ、お主、開き直ったな!?」

「違うなぁ!!開き直るとは、悪いことをした者が居直ってふてぶてしい態度を取ることを言う!!そして俺は悪いことなどしていない!!よってその言葉は不適切だ!!」

異議あり!といった感じで、ピシッとレフィを指差し、俺はパーフェクトな反論を行った。

フッ、決まった……!

「ぐぬぬ、揚げ足取りおって……!いいじゃろう!!反省が足りないのであれば、儂が直々に反省という言葉をお主の骨身に叩き込んでやるまで!!勝負じゃユキ!!いつものように賭けも行う!!」

「浅はかなり、レフィ!!この流れから俺が負けたことがあったか!?」

「フン、そう言っていられるのも今の内だ!!儂は、前回勝った勝者の権利を行使し、リューとレイラを含めた三人でお主と戦わせてもらう!!」

「な、なにっ!?」

前回は神経衰弱で、たまたまレフィがすごい連鎖を起こして負けてしまったのだが……クッ、それがここに来て仇となったか……!

「えっ、ウチらもやるんすか?」

「フフフ、楽しそうですねー」

リューはどうでもいいが、レイラはマズい。あののほほんおっとりさんはその実、メッチャ頭が良い。

ボードゲーム類の戦績では、俺はかなり負け越してしまっている。

「グッ……いいだろう。逆境に勝ってこそ魔王というもの!!三人ならば俺に勝てるというその幻想を、ぶち壊す!!」

どこかの高校生の決め台詞を俺が言い放った後、俺達は勝負のための場を整えてから――といっても、ボードに駒を並べるだけなのだが――権謀術数の渦巻く、戦乱の世界へと繰り出していった。

そんな騒がしいダンジョンの様子に、エンが少しだけ笑みを浮かべていたことは、最後まで誰も気が付かなかった。