軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63話 地上階のリペア開始

地下の強化を終えた俺は、ようやく地上階へと歩を進めた。

「よし、次は一階から順番にやっていくか」

壁に手を当て、スキャン魔法を起動する。

黒く染まった地下に比べ、こちらは一見まともに思えるが……映し出された内部の様子に思わず顔をしかめた。

「……うわ、ヒビだらけじゃん」

細かいひび割れがあちこちに走っている。さらに、部分的に鉄筋が露出し、赤茶けた錆が広がっていた。

その中で妙に目を引いたのが、丸い筒状の空間だった。中は黒ずみ、ところどころに詰まりの影。

「ん……これ、スリーブか? いや、配管通しっぽいな」

『解析完了。給排水管、トイレや水道用の可能性が高いです。加えて電気配線用の管も含まれています』

「あー……やっぱそうか。RC造は打設の時に管を一緒に埋め込むんだよな。

現場でも“後から替えられないから気をつけろ”ってよく言われてたっけ」

『はい。RC造は建築時に管を壁や床スラブに埋め込みます。外からは見えませんが、この中で錆びや詰まりが起きると水漏れや漏電の原因になります』

「……ちょっと待て、それもう完全にヤバいやつじゃん」

壁の向こうに潜む、目に見えない爆弾。

俺は冷や汗をかきながら、ごくりと唾を飲み込んだ。

『まずは配管を優先すべきです。外壁を補修しても、中の水道管が破損していれば水漏れで全て台無しになります』

「……なるほど、確かに」

スキャンで再度覗き込むと、錆びと一緒に、なんだかドロッとした塊が詰まっているのが見えた。

「……え? これ……まさか……」

嫌な予感がして、思わず声が震える。

「これ詰まってるの、う◯ちってことだよな!?」

『確率は高いです。廃墟化の際に流れきらず、管内で固着したまま腐敗した可能性があります』

「ちょ、ちょっと待て! リペアで封印する前に……!」

俺は慌てて両手を合わせ、魔力を叩き込んだ。

「クリーン! クリーン! クリーーーン!!!」

廊下に響く、必死で情けない雄叫び。

スキャン映像の塊がみるみる溶け、光の粒となって消えていく。

『……完全に除去されました。消毒も完了しています。太郎さん、今のは正しい判断でした』

「ふぅ……危ねぇ……! 知らずにリペアで固めてたら、一生分の呪いを背負うところだった……!」

『ただ……冷静に言えば、仮にリペアしても分子レベルで分解・再生されますので、“呪われた化石”になることはありません』

「えっ、そうなの? じゃあ今の俺の慌てっぷりは……?」

『無駄に必死な中年男性、というだけです』

「ぐはぁっ!? 言い方ァ!!」

俺は膝から崩れ落ちそうになりながら、なおも壁に手を当てた。

……とにかく、中はクリーンになった。次はリペアだ。

魔力を流し込むと、スキャン映像の中で錆びていた管がみるみる光を帯び、内壁まで滑らかに整っていく。

新品というより“ライニング補修後”みたいな仕上がりだ。

「よし……じゃあ、通水テストいくか」

古びた蛇口をひねる。

ゴボゴボッ……ドバァァァッ!!

赤茶色の水が勢いよく噴き出し、シンクに叩きつけられる。

鉄臭さが鼻を突き、思わず顔をしかめた。

「うわっ……血の池地獄かよ!」

『長年の錆と堆積物が一気に吐き出されているだけです。想定の範囲内です』

慌てて蛇口を閉め、スキャンで内部を追う。

黒く再生された管の中を、勢いよく水が駆け抜けていった。

「……おお、ちゃんと流れてるな」

『はい。配管は完全に復旧しました。水質については別途対応が必要ですが』

「はぁ……とりあえず第一関門クリア、か」

『次は電気です。配管と同様、壁内の劣化が深刻な可能性があります』

「だよな。RC造は管と一緒に電気配線も仕込むからな……スキャン」

壁に手を当てて覗き込む。

細い黒線が蛇のように這い、ところどころ白い点滅……導通不良だ。

被覆は粉をふいて、芯線は緑青でボロボロ。ジョイントには焼け焦げ跡まで見える。

「……完全に火事コースじゃん」

『はい。現状で通電を続ければ、ショート・発熱・出火の可能性が高いです』

「前は業者に全部任せたけど、今回は自宅だ。自己責任でやるしかないな。リク、サポート頼む」

『了解。まずは安全手順です。メインブレーカーを落とし、各分岐も遮断。残留電荷の消失を確認してから作業に移行してください』

「はいはい、ブレーカーオフっと」

再度スキャン。

配線の中を流れていた電気が完全に途絶えたのを確認して、意識をルート全体に走らせる。

「よし、まずはクリーンで煤と埃を飛ばす……クリーン」

分電盤の中、ジョイントボックス、壁内モール――スキャン上の煤や粉がさらさらと消え、銅線が顔を出す。

「次、リペア」

魔力が配線の芯まで浸透し、裂けた被覆が自動で巻き戻るみたいに閉じていく。

酸化した銅が艶を取り戻し、焼けていたジョイントも均一に再形成。

古い差込コネクタまで、バネの弾性が蘇っていくのが分かる。

『良好です。導通は全系統で安定。抵抗値も規定範囲内、漏電兆候なし』

「ナイス。……でも“強度アップ”は配線に使わないぞ。絶縁死んだらマジでシャレにならん」

『賢明です。結晶化の硬化は構造体専用にしてください』

「了解。じゃあ配管と並走してるラインも全部まとめて直すか」

一階のパイプスペースから二階、三階へ。

スキャンで給排水管と縦配管を追いながら、横に這う電気配線もクリーン&リペア。

トイレまわりの換気扇回路、各室のコンセント、古いインターホン線まで、建物の“血管と神経”を一本一本、地道に手当てしていく。

『二階トイレ系統、復旧完了。三階の分岐、あと一本です』

「リペア――よし。……これで全部だな」

最後に分電盤の端子を確認し、ゆっくりとメインブレーカーを上げる。

――カチン。

非常灯がぽっと灯り、スキャン上の波形が綺麗な正弦に整った。

「通電、安定。……生き返ったな」

『はい。配管と配線、主要系統のリペアは完了です。これで“中身”は安全になりました』

「じゃあ次は“外側”――壁の補修と強度アップだな。……中二病ビルにならない範囲で」

『保証はできません』

「そこは自信持って否定しろよ!」

苦笑しつつ、黒結晶の未来を想像して肩をすくめる。

それでも――インフラが整った今、いよいよ外殻を仕上げる準備ができた。

次は壁だ。足元から、順番に固めていく。