軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話 沖縄上陸、そして“封印修理”のはじまり

沖縄空港に到着した。

タラップを降りた瞬間、もわっとした湿気が肌にまとわりつく。

自宅では朝夕に肌寒くなってきて、ユニ◯ロの肌着が欠かせなくなっていたのに。

こちらはまだ真夏。電光掲示板の温度は堂々の三〇度を表示している。

「……同じ日本とは思えん」

少し汗ばむ首元を引っ張りながら、空港ロビーへ向かう。

ここに来るまで、特筆することは何もなかった。

朝、自宅を出て、空港近くで愛車のハイエースをアイテムBOXに収納。

持ち込みサイズのバッグに着替えや充電器を少しだけ入れて、念のためにいつものロマンスグレーのおじさんに偽装魔法を展開してから、空港へ向かった。

結果、今こうして沖縄に立っている。

《太郎さん、ハイエースを収納するのは普通ではありませんが》

「いや、駐車料金って結構バカにならないんだよ?」

《前金で五十万円の振り込みは確認しています》

「前金五十万円、成功報酬四百五十万円って時点で、

もう普通じゃないんだよリク」

《やはり、“普通”とは人によって基準が異なりますね》

「哲学か? いやもう、そこ掘り下げなくていい。

とにかく今回は能力者関係の依頼だし、慎重にいこう。俺も結界と偽装は常時発動でいく」

《了解です。警戒モードを強化、偽装は常時展開中。

念話も常に接続状態を維持します》

「助かる。じゃあ、待ち合わせ場所に向かうか」

ロビーの自動ドアが開き、南国の風が吹き込む。

湿った潮の香りと、聞き慣れない鳥の声。

旅の始まりには十分すぎるほどの非日常感だ。

《大城様は一般車両待機場所で黒のセダンでお越しとのことです》

「……よし、行こうかリク。仕事モード、始動だ」

《了解。これより、沖縄任務を開始します》

空港を出て、待ち合わせ場所の近くまで歩く。

人の気配と車の往来が交錯する中、その中で“明らかに違う”ものを感じた。

魔力。

一目でわかった。というか、感じた瞬間にわかった。

「……あれだな」

黒のセダンの横に立つ女性。

ロングの黒髪を後ろでゆるく束ね、

ゆったりしたリネンのワンピースにサンダル。

見た目は穏やかだが、目元には芯の強さがある。

普通の人からはほとんど魔力なんて感じない。

玲子ママでさえ「ちょっと感じるな」くらいだ。

でも、この人からははっきりと魔力が溢れている。

「これが“オーラが見える”ってやつなのか……?」

《たぶん違います。魔力量が多く、少しずつ漏れているような状態でしょう。

ただ、能力者なのは間違いありません。

太郎さんの結界を突破できることは無いと思いますが、注意は怠らないでください》

「オーラじゃないの?! ……ま、まぁ了解。

車も黒のセダンだし、たぶんあの人だな。話しかけてみる」

《ロマンスグレーの寡黙なイケオジ設定を忘れずに》

「わかってるって。……ってやべぇ、また名刺作るの忘れてた!」

《大丈夫です。ユタにも名刺はありません。たぶん》

「“たぶん”って何だよ……」

苦笑しながら歩み寄ると、女性がこちらに気づき、軽く会釈した。

「初めまして。かみはら修理店の方で間違いありませんか?」

落ち着いた声。

口調は丁寧だが、目の奥には独特の圧がある。

「ああ、かみはら修理店の神原だ」

「おっ、やっぱりそんな感じなんだ。玲子から聞いてた通りね」

急に口調がくだけた。

その切り替えの早さに、少し面食らう。

「私は大城舞香。今回は依頼を受けてくれてありがとう。よろしくね」

「急に変わったな……ネコかぶってたのか」

「嫌だった? 玲子が“そういうの気にするタイプじゃない”って言ってたけど」

「……あいつ、そういうとこまで読んでんのか。

いや、大丈夫だ。俺も気を遣わなくていいから、それでいい」

「ありがとう。早速で悪いんだけど、行きましょう。説明は車の中でするわ」

「わかった。よろしく頼む」

南国の陽射しの下、黒いセダンのドアが静かに開く。

潮風と一緒に、わずかな“神気”のようなものが流れ込んだ。

《太郎さん、魔力密度が上昇しています。やはりこの人、本物です》

「だろうな……気合い入れていくか」

助手席に乗り込むと、

車内には潮とハーブが混ざったような香りが漂っていた。

車が静かに走り出した。

窓の外では南国の風景が流れていく。青い空、白い雲、そしてどこまでも続く海の気配。

だけど、車内の空気は少しだけ重かった。

「それでね、修理してほしい石板なんだけど」

ハンドルを握る大城が、前を見たまま口を開いた。

「公園の中に設置してあるのよ。日中は人の出入りがあるから、まずは下見にそこへ向かうわ。

作業自体は夜になるけど、大丈夫?」

「問題ない。けど公園って、夜でも人が来るんじゃないのか?」

「大丈夫よ。地元の普通の人は夜には絶対近づかないから。

いわゆる“心霊スポット”ってやつね。たまに肝試しや配信目的で来る若い子もいるけど、すぐ逃げ出すわ。

それと、こっちで確実に人払いはしておくわ」

「人払いって……」

軽くため息をつくと、大城は笑って肩をすくめた。

「簡単に説明するとね、昔の偉い人が“魔物”を封じ込めた石板なの。

で、ヒビが入って封印が解けそうになってるって感じかな?」

「軽いな。解けたらどうなるんだ?」

「んー、私の神が言うにはね。

“災害に見舞われて沖縄がめちゃくちゃになる”らしいわ」

「いや、それまずいんじゃ……」

「大丈夫。再封印のやり方も伝わってるのよ。

ただ儀式の規模がちょっと大きくてね。

沖縄中のユタとかノロとか能力者を総動員して、十日くらい総力戦する規模になるの。

資金もバカにならないし、それを考えたら五百万ですむなら安いものよ」

「金額で比較する話じゃない気がするが……」

「まあね。ただ再封印の方法はあるから、直せなくても大丈夫。

でも、完全に割るのだけは絶対にやめて。

封印が解けたら、対処が間に合わなくなるから」

「見てみないと何とも言えんな」

「そりゃそうよね。ヒビを埋めるだけじゃ意味ないし。

無理そうなら“無理”って言ってね。

疑ってるわけじゃないけど、正直、石板が“くっついて直る”なんて半信半疑なのよ。

前金は返せなんて言わないから、気にしないで」

「……太っ腹なんだな」

「女性に太っ腹は失礼よ。……ってのは冗談。

出所とか知りたい?」

「いや、知りたくないし、知る必要もない。結果で判断してくれ」

「さすがね。でも本当に無理なら無理って言って。

悪化したら取り返しつかなくなるから」

ハンドルを切りながら、大城が小さく笑った。

その横顔には冗談のような軽さと、どこか底知れない重みが同居していた。

「……もうそろそろ着くわよ」

「わかった」

(リク、これ絶対ヤバいやつだわ……)

《はい。魔物相手では何が起こるかわかりません。

異世界の魔物とこちらの魔物は性質が異なると推測されます。

未知数ですので、全力でサポートに回ります》

(本当に頼りにしてるぞ。……無理そうなら、すぐやめよう)

《了解しました》

車はゆっくりとスピードを落とし、住宅街の外れを抜ける。

やがて木々の奥に、広めの公園が見えてきた。

どこか空気が重い――まるで風が淀んでいるようだ。

遠くからでもはっきりわかる。

……確かに、これは“普通の修理”じゃない。

「到着よ」

大城の声が落ち着いて響く。

その瞬間、背筋を撫でるような冷たい気配が、ゆっくりとこちらに流れ込んできた。