軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 飛行魔法とステルス魔法

浮かせた結界を見ながら、俺は腕を組んだ。

「……飛べても、バレたら終わりだよな。そこを考えなきゃダメだ」

《それでは隠蔽について整理しましょう。一般的な探知手段は四つです》

リクの声が、淡々と頭に響く。

《一つ、レーダー波――電磁波を跳ね返して位置を特定するもの。

二つ、赤外線――熱を感知して追尾するもの。

三つ、光学――目視やカメラ映像。

四つ、音響――風切り音やエンジン音などの振動です》

「……なるほど。全部に対策できれば、ほぼ見つからないってわけか」

《はい。ステルス魔法として体系化することを推奨します》

『気配を遮断することも忘れるなよ。姿形を隠しても、気配が漏れれば意味がないぞ』

カラスからのアドバイスだが、忍者修行みたいになってきたな……。

「よし……じゃあ、一つずつやってみるか。まずはレーダーだ」

《レーダーは電磁波を飛ばし、反射して戻ってきた波を解析して位置を特定します》

「つまり……電磁波を吸収するか、反射波を打ち消せばいいってことか」

《はい。飛行用の結界を覆う形で二重結界を形成し、その隙間を“ステルス膜”として利用します。イメージ的には、水面にできた波紋へ別の波紋をぶつけて相殺するようなものです》

「……なるほど。波を消すイメージか。やりやすいな」

《さらに赤外線対策として、飛行で発生する熱を周囲と同調させれば、赤外線センサーにも反応しません》

「おお……セットでできるのか」

《次は光学です。現状、隠蔽魔法で人の目は誤魔化せますが、カメラには映り込んでしまいます》

「やっぱカメラには映るのか……」

《光の屈折角を変更し、背後の映像を前面に映し込むことで迷彩が可能です。ただし違和感は残ります》

「んじゃ、まだ実用レベルじゃないのか?」

《いえ。異世界アーカイブの知識を応用すれば、魔法的な偽装で補完可能です》

「それが知りたいんだよ!」

《背部の景色に溶け込むイメージで魔法を発動してください。練度が上がれば、現代機器に対しても隠蔽可能です》

俺は深呼吸し、背景に溶け込むイメージを強く持った。

透明な結界の輪郭が、ぼんやりと薄れていく。

「……おお、消えてきた!」

《音響については、すでに隠蔽魔法である程度遮断可能です。風切り音や振動は膜で吸収できます》

「確かに、さっきより静かだな」

浮かぶ結界は、もうほとんど目に見えない。

風の音も消え、ただ空気の揺らぎだけがそこにあった。

『よし、だいぶ形になったな。だが最後は気配じゃ。存在を消せるかどうかは、修行次第よ』

「……気配まで……完全に忍者だな、これ」

俺は汗を拭きながら、透明な結界を見上げた。

リクとカラスの助言を受けながら、俺は最後の課題に挑む。

『気配を断ち切るのではないぞ。自然と同じ調和を保ち、周囲に溶け込むのだ』

「……溶け込む?」

《はい。魔力や光学と同じ原理です。外界の揺らぎと自分の魔力を同調させることで、存在そのものを“背景化”できます》

「なるほど……“無”になるんじゃなくて、周りと一体化するのか」

俺は深呼吸し、体内の魔力を外へと薄く広げる。

風の流れ、木々の揺れ、地面の温度。

それらと自分の魔力が馴染むように、意識を合わせていく。

次の瞬間――自分の存在感がふっと薄れ、気配が外界へ溶けていく感覚が訪れた。

『そうじゃ! それが“気配遮断”よ。消すのではなく、溶け込ませるのだ』

《センサーに対しても効果的です。赤外線や音響の揺らぎも背景と同調し、検出は困難になります》

「……マジでステルス完成じゃん」

自分の周りに展開していた結界が、すっと静かに広がる。

そのまま全身を優しく包み込み、足元の感覚が軽くなる。

「う、浮いた……!」

結界の内側に守られながら、体ごとゆっくりと宙へ上がっていく。

まるで透明なエレベーターに乗っているような、不思議な浮遊感。

下を見れば、庭や祠がミニチュアのように小さくなっていく。

風も音も感じない。まるで世界から切り離されたみたいだ。

『ふははっ! ようやく空を掴んだな』

《飛行結界の安定性良好。速度も制御可能です》

「……すげぇ。でも……やっぱ怖ぇ!!」

慌てて意識を下げると、結界はふわりと地面に降りる。

膝が震えて、冷や汗がだらだら流れた。

「……あっぶねぇ……。でも、これ慣れとかないとダメだよな」

深呼吸して、再び結界を展開。

今度は一メートルだけ浮かせてみる。

そのまま前へ、後ろへ、左右へ。――まるで電動アシスト付きの原付みたいな挙動だ。

「……おぉ、動ける。ちょっとゲームのフリーフライト感あるな」

次は二メートル、五メートル。

高度を上げてみると、やっぱり心臓がバクバクする。

『腰が引けておるぞ! もっと大きく飛べ!』

《心拍数上昇。太郎さん、過呼吸に注意してください》

「うるせぇ! ビビりながら練習するしかないんだよ!」

結局、何度も上げ下げを繰り返し、ようやく十メートル程度で安定飛行できるようになった。

頭上を鳥が横切り、俺をちらっと見ていく。

「お、お前らは簡単に飛べていいよなぁ……」

空でぼやきながらも、俺は確かに飛んでいた。

ビビりながら、少しずつ――

俺はふと気になって口を開いた。

「……ん? 電波遮断してんのに、なんで普通に会話できてんだ?」

《太郎さんとのやりとりは、すでにスマートフォンを介した魔力リンクに移行しています。外部ネット検索はステルス魔法を展開している間は接続不可能ですが、会話とサポートは継続可能です》

「……おいおい。いつの間に俺の脳内直結AIになってたんだよ」

《便利でしょう?》

「いや、便利とかそういう問題じゃねぇけど……」

苦笑しつつも、俺は目の前に浮かぶ透明な結界を意識して強く念じた。

重力から解き放たれるように、ゆっくりと体が浮き上がっていく。

足元の地面が少しずつ遠ざかる。

緊張で手汗がにじむが、魔力の流れは安定していた。

視界に広がる空は、どこまでも青く澄んでいる。

「……やっと、ここまで来たか」

心の底からこみ上げる感情を抑えきれず、ぽつりと呟いた。

これで、俺は――

どこへでも逃げられる“翼”を手に入れたんだ。