軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 榊の異常進化と密造酒

次の日。修理作業もひと段落したところで、いよいよ秘密基地の続きを始めることにした。

今日の予定は――脱出口の作成と棚づくりだ。

「さて、今日も行くか」

電気はまだ通してないので、ランタンを片手に地下へ降りる。

……と、足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑んだ。

「なんだ、これ……」

壁一面に、びっしりと根っこが張り巡らされている。まるで地下神殿の装飾みたいに、うねる根が光を反射し、神秘的な模様を描いていた。

「昨日までは真っ黒な壁だったのに……」

慌ててスキャンを発動すると、原因が見えてきた。

《榊の根が異常成長し、秘密基地を丸ごと覆っています》

「はぁ!? 上に伸びるんじゃなくて下に来るのかよ!?」

《強度アップを壁に発動しているため、それを吸収するように根が壁沿いに伸びたと考えられます》

「ちょっと待て。強度アップかけてんのに、根のほうが強いってどういうことだ……自然の力、怖すぎだろ」

《自然の力か、この榊が特別なのか……判断はつきません》

頭を抱えながらも、ランタンの光に浮かぶその光景はどこか幻想的で、心を揺さぶられる。

「……まぁ、雰囲気あるから、これはこれでアリ......なのか」

気にしないようにして、棚づくりに取りかかることにした。ゴミ捨て魔法から土を取り出し、板状に成形して壁に固定していく。さらに土魔法で固めると、簡素ながら棚が完成する。ここに、結界と隠蔽のカード、曽祖母の金製品、酒壺、ランタン……外に出たらまずいものを保管する。

「ふぅ。これで最低限の収納はできたな」

続いて、脱出口の検討だ。

「なぁリク。榊の根っこごとゴミ捨て魔法で切り取ったらマズいかな?」

《土魔法で土ごと空間を開ければ、根を切らずに通せます》

「なるほど……じゃぁ逃げる時に作るのが正解か」

《その通りです。ただし酸素の確保は別問題です。空気穴は必須です。酸欠になれば最悪、死にます》

「おいおい、怖いこと言うなよ……でも確かに、気づいたら酸欠で倒れてましたとか笑えないな」

現実的に、自然換気用のパイプを外に通す必要があるだろう。

「……ホームセンターでパイプ買ってこよ」

ランタンに照らされた根っこの壁を見上げながら、そんな結論に落ち着いた。

ホームセンターから換気用のパイプと金具を買い込み、作業再開だ。

まずはスキャンで位置を確認。駐車スペースから社宅の外壁まで最短距離で、配管や基礎の鉄筋に干渉しないラインを探す。

「……よし、ここならいける」

ゴミ捨て魔法で土を抜き、直径十センチほどの通り道を作る。そこへパイプを通し、内側は土魔法で固めて固定。外に出る部分は壁際に沿わせ、パッと見では排水管かエアコンダクトにしか見えないよう偽装しておいた。

仕上げにリペアで隙間を塞ぎ、換気口カバーを取り付ける。

「これで酸欠の心配はないな」

胸を撫で下ろし、片付けをしようとした時だった。

酒壺に目が止まる。

「……おいおい」

酒壺の縁から、根っこが一本――いや、複数本――伸びて、酒壺の中に浸かっていた。

置いたときは何もなかったのに、この数時間でここまで成長したのか。しかも中を覗くと、液面が明らかに減っている。

「なんでピンポイントで酒壺だけ狙ってんだ……?」

普通じゃない。榊に意思でも宿っているのかと錯覚するほど、狙い澄ました動きだった。

《太郎さん。このまま見境なく成長すれば、いずれ社宅にも影響が出ます》

「……だよな。榊には悪いけど、切るしかないか……」

そう口にしたとき、根が――動いた。

ゆっくり、だが確実に。

酒壺に浸かっていた根が引っ込み、代わりに別の根が壺の縁から伸び、水滴を垂らしはじめた。ぽたり、ぽたりと澄んだ水が落ち、壺の中へ溶け込んでいく。

《確認しました。垂らしているのは魔力水です。空気中などから吸収し、溜め込んだ魔力と水をここから出していると推測します。このままにすれば、酒壺の効果でお酒に変換されるでしょう》

「……つまり、自動で密造酒を作り出してるってことか?それより、根っこが動いてる事はスルーでいいのか?」

《密造酒に関しては、祖父様の件で世界に類を見ない“ポーション”生成の可能性も示唆されています。根に関しては……異世界アーカイブにあるドライアドやトレントの記述が近いですが、この榊は該当しません。太郎さんの魔力を吸収して特殊進化した存在だと考えられます》

「ポーションって大げさだろ……。いや、もしそうなら世に出したら絶対ダメなやつだよな、これ。……ってか最近、ニワトリだのカラスだの白兎だの、いろいろありすぎて感覚が麻痺してるけど、木が勝手に進化してるとか、普通に考えたらホラーだからな!?」

《それこそ今更です。能力を使って拝み屋・祓い屋・占い師・陰陽師・霊媒師などは調べれば出てきますが、魔法で修理屋を営んでいるのは、この世界では太郎さんだけです》

「……ほんとに俺だけなのか。いや、なんかもう笑うしかないわ」

根っこが酒壺に水を垂らす様子をぼんやり眺めながら、頭の片隅では「やべぇもん抱えちまったな……」と冷や汗をかいていた。

そのとき、スマホが震えた。画面には「小鳥遊」の文字。

「……おいおい、今度は何だ」

通話ボタンを押すと、向こうからはいつもの元気な声が飛び込んできた。

『太郎さん!親父に話してみたら、清掃とリフォーム、ぜひお願いしますって!』

「お、話早いな」

『クロス張り替えと厨房の清掃で、できれば今週中に一度見積もりしてもらえないかって言ってます!』

「了解。じゃあ早速だけど明日はどうだ」

『相変わらず、仕事が早いですね!明日準備しときます。住所送っときますね』

通話を切ると同時に、酒壺の奥で「ぽたり」と一滴。

魔力水が落ち、また酒が育っていく。

「……よし、明日は居酒屋の見積もりだな。秘密基地の相棒が密造酒生産してるとかは、とりあえず忘れよう」