作品タイトル不明
第1話 選ばれた恋。
うちの末っ子が、お隣の子爵家の子と婚約することは、じいさんの代から決まっていたらしい。なんでも、もてなかったじいさんにお隣のおばあ様が自分の親友を紹介してくれたらしい。まあ、それがうちのおばあ様だ。
その頃から行ったり来たりしているらしい。いつか親戚になれたらいいわねぇ。と密約が交わされたみたいだな。
おやじの代は両家とも男兄弟だったから、その孫、に順番が回った。
うちの末っ子のエヴェは今日朝から、おやじに連れられて、お隣の領地に顔合わせに行っていた。馬車で行くように、と母上にあれほど言われてたのに、訓練だとか言いながら、馬で出かけたらしい。おやじは母上に今、絞られている。
「で?どうだったんだい?」
帰ってきてからぼーっとしているエヴェに声をかける。こいつは帰ってきてからやみくもに素振りをしていた。今一つ集中できていないみたいだな。
「え?」
呆けた顔で振り返るエヴェ。よく日に焼けた顔に当家、ホルガ―家らしい真っ黒な髪を高いところに結んでいる。俺たち兄弟は父に似て、皆髪が真っ黒で緑色の目をしている。
今日、エヴェはお出かけだったので、新しい真っ白なシャツを着ている。まくった袖から見える腕も日に焼けて傷だらけだ。
「あ。ロルフ兄…もう、こんな小さな顔でさ…」
と、エヴェが自分の両指で小さな円を作る。
「こう…ふわふわの銀髪に透き通るぐらいの白い肌でさ…頬と、く、唇が赤くて…瞳は菫色なんだ…」
「へえ」
「レースが似合ってて、天使みたいなんだ…こ、こんなかわいい子がいるんだ…って…思った。」
あんまり日に焼けてわかりにくいが…耳が真っ赤だぞ?エヴェ。くくくっ。うちの領にはそんな色白の子はいないからな?
「あんな可愛い子と…結婚するのか?」
「ぷぷっ。そうらしいな」
「大事にしなくちゃな…。声も小さくてさあ…。腕なんかもう、棒切れみたいに細いんだ。力仕事なんかさせらんないな。…守ってやらないと!」
「……そうだな。お前の婚約者は体が弱いんだろう?」
「うん。そうなんだって。ようやく少し元気になったんだってよ?あいつの代わりに、力仕事も剣術も頑張んねえとな!!」
「そうだな。頑張れよ。」
うん。と嬉しそうにエヴェが頷く。
おおよそ貴族の政略結婚なんて、いい話聞かないが、エヴェがお相手にそんなにほれ込んだならそれはそれで”選ばれた恋”なのかもしれない。
おばあ様が言っていた。
りんごの花の花言葉は”選ばれた恋”なのだと、じいさんがその辺にあった花の咲いたりんごの枝をバキッと折って、いきなりプロポーズしたらしい。うふふっ。いかつい顔をしたあのじいさんがねえ…。その話が始まると、じいさんは借りてきた猫のようにおとなしくなって真っ赤になる。
いいもんだなあ…そう言うお相手に出会えたエヴェは幸せなのかもな。
ロルフは小さな妹が再開した素振りを眺めながら、思わず微笑んだ。