軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.それぞれの関係性

「……そんな事を言われたのは初めてだ」

「そうなの?」

「私はどうやら価値観が他の人と違うようだからな、はみ出し物がはじき出されるのは世の常だ」

「でもそれって研究のためなんだよね。その価値観を突き詰めていったらあんなすごいテクニックが身についたんだから、やっぱりすごい事だよ」

「……」

俺は本気でそう思っていた、だからダガーの目をまっすぐ見つめ、それを伝えた。

ダガーの振る舞いをヘカテーが怒っているけど、一つの事にとことんのめり込めて、その上技術を身につけ、成果を出せてしまう。

そういう人は純粋に尊敬に値する。

俺の気持ちに少し変化があった。

もちろん皇帝、イシュタルの事を助けるという目的は忘れていないけど、今は本気でダガーの研究の手助けになりたいなと思った。

「ねえ、それってどういう形になればいいの?」

「うむ? どういう形とは?」

「お医者さんだから、最終的には患者さんに使えるようにしなきゃいけないよね。でも健康法みたいなものだから、患者じゃない人にも使うのか」

「うむ、少年の言うとおりだ。最終的には私の手から離れて、独立した形で使えるようにしなきゃ話にならん。各々が心拍数を測って、医者がその数値だけを知ればいい、というのが理想の形だな」

「だよね……ねえ、オノドリム」

俺は少し考えて、今度はオノドリムのほうを向いた。

「また、契約していいかな」

「契約?」

「うん。ほら、オノドリムが帝国と、昔の皇帝と結んだ契約みたいに。今度はちゃんと、祈りじゃなくて魔力との引き換えにこの心拍数を出す事ができるようにする契約」

「いいけど、なんでわざわざ契約?」

「だってオノドリムは魔力を取らないと死んじゃうんでしょ? だったら、ちゃんと魔力をもらえるような形にしようよ。ただ働きはダメだよ」

「……」

俺がいうと、オノドリムはまず驚き、それから目がうるうるとしだした。

その潤んだ目で「んんんんん――」って感じで握り拳を作って 溜めて(、、、) 、それから俺に飛びつき、抱きついてきた。

「その事を覚えててくれたんだね」

「わっ! も、もちろん。忘れるわけがないよ」

「ありがとう、ありがとうね。んーっ! 大好き!」

オノドリムは俺の首にしがみつくような抱きつき方で、ものすごい勢いでの喜び方をしつつ、ほっぺに何度も何度もキスをしてきた。

彼女らしい、ストレートで、ちょっとくすぐったいけどこっちまで嬉しくなるような愛情表現だ。

悪い気はもちろんしないので、オノドリムの好きにさせてやった。

「……オノドリムといったか」

「へ? なに?」

名前を呼ばれたオノドリム、俺の首にしがみついたままダガーのほうをむいた。

ダガーが何故か真顔――いや、ちょっと不機嫌な顔でオノドリムを睨みつけていた。

「お前は大地の精霊と言ったが、少年と契るつもりでいるのか?」

「へ? なに、ちぎるって」

「ん? 言葉を間違えたか? 人外の存在が人間と交尾するときは契約などをももちかけて文字通りに契るとほとんどの文献に書いてあるのだが」

「えええええ!? 何いってるのよあんた!」

雲行きが一気に怪しくなってきた。

ダガーの言葉に反応したオノドリムはめいっぱいのけぞって、めちゃくちゃ驚いた顔をした。

その信じられないものを見てしまったような顔でダガーを見つめるが、ダガーはちょっとだけ不機嫌なという表情をくずさないままオノドリムを見つめ返したままだ。

「なんだ、大地の精霊は頭がゆるいのか? 少年と契るつもりなのかと聞いて――」

「そういうことじゃなーい!」

パシーン! という、実際には叩いていないが叩くジェスチャーをするオノドリム。

このあたりの大げさだけど愛嬌のある仕草も彼女らしいな、とちょっとだけ思ってしまった。

「じゃあなんだ」

「そういうことはあけすけにきくもんじゃないの! デリカシーを持ちなさいって事」

「なんだ、その事か」

ダガーはフッと、シニカルな感じで微笑んだ。

「デリカシーはどうやら母の腹の中に置いてきたようでな、生まれてこの方、そう言われなかった日はなかったくらいだ」

「わかるよ! それすっごく分かるよ! デリカシーがないって事は!」

目一杯の大声で突っ込むオノドリム。

なんだろう……うん。

ダガーはデリカシーがかけているのは同感だ。

もっとも、彼女の研究に対するスタンスとか、それで出したせいかとか身についた技術とかを見た後だと、ダガーはそれでいいのかもしれない、と思った。

「で、実際どうなのだ」

「そんな事答える義務はありません!」

「義務はない? ふむ……ならば報酬を払えば話してくれるのか? いくらだ」

「そういう意味でもなーい!」

二人のやり取りは更に続き、次第にコントじみてきた。

このままやらせておいて、それをみているのも楽しいと思ったが、イシュタルの事もあるし、ここは話を先に進めようと思った。

「二人ともそこまで。話を元に戻させてもらってもいい?」

「うむ? まあ、いいだろう。どのみち生産性のない話だ」

「そう思うなら最初からしないの!」

「オノドリムどーどー」

俺はオノドリムを止めつつ、形式的な咳払いをして、話を元にもどした。

「じゃあ、オノドリムに検査する人が魔力を払って、オノドリムがそれに加護を与えて、っていう形でいいのよね」

「うむ」

「うん、全然オッケー」

「問題は技術面の事なんだけど……オノドリム、どういう風にすればいいのかわかる?」

「契約の事? うーん、どうだったかな、前のとちょっと形ちがうし、まるっきり同じって訳にもいかないよね」

「うん」

俺は小さく頷いた。

オノドリムは時の皇帝と契約して、魔力をもらう代わりに国を守るという契約を結んだ。

その契約のやり方を流用できればいいんだけど、そう上手い話はないって事みたいだ。

「神よ」

「うん?」

背後から声がした。

振り向くと、ここまで静かにしていたヘカテーが小さく手をあげる形で、俺を見つめてきていた。

「どうしたのヘカテー」

「話をずっと聞いていました。ダガーよ」

ヘカテーは硬い表情のまま、ダガーのほうにむかって問いかけた。

「人間が使う導具と、精霊との間の力の受け渡しをする、ということでいいのですね」

「うむ、そういうことだ」

「でしたら教会がそういう技術を保有しております」

「本当に!」

俺はちょっと驚き、ヘカテーに体ごと振り向いて、ちょっと詰め寄った。

ヘカテーは驚き、体をのけぞって顔を逸らし、何故か横顔がちょっとだけ赤くなっていた。

「ち、近いです、神よ」

「あっ、ごめんなさい」

「……ごほん。はい、技術はあります」

「ふむ……お前はルイザン教の神職者なのか?」

「ええ、大聖女の位を拝してます」

「へえ、代替わりしたのか」

ダガーは爺さんと同じような反応をした。

それが当たり前の反応なんだろうな。

「いいえ、神の奇跡で若返りました」

「へえ……ちっ」

「なぜ舌打ちをするのです」

「若返りは長寿健康の究極の形、研究材料にしたいが大聖女相手では到底不可能だろう。その舌打ちだよ」

なるほど、って思った。

ダガーはとことんブレないな、とも思った。

「まあいい、それよりも本当にいいのか。私が知る限り、お前がいっているそれは第二種指定の禁呪に指定されているもののはずだが?」

「よく知っていますね、その通りです。でも、なんら問題はありません」

「ほう?」

「私は大聖女、そしてそれを使うのは神。つまり私は神のお告げをきいて、それを代行する。正統性しかありませんのでなんら問題はありません」

堂々と言い切ったヘカテー。

そういういい方をすると、なんだかすごいって思った。

俺のお願いを聞いてもらうのが、「神の意思を代行する」といういい方をされるとものすごい大事のように聞こえてしまう。

ヘカテーが本気でそう思ってて、彼女の立場からしてそれは事実なのもすごさに拍車がかかってる。

俺は心の底から「すげえ……」って思ってしまった。

「なるほど。では技術面の問題は解決されたも同然か。もうひとつ聞かせてもらおう」

「なんでしょうか」

「少年の事を神と呼んでいるのはどういう理由だ?」

「今更!?」

横からオノドリムが大声で突っ込み、ヘカテーは呆れたような瞳をしてしまうのだった。