作品タイトル不明
60.もうひとつの肉体
「も、もしかして白き星から来たのか?」
「白き星?」
どういう事なんだろうか、と俺は首を傾げた。
すると、聞いてきた男はちらっと俺の背後、空をみあげた。
振り向き、その視線の先を追いかけていくと――俺達が先までいた大地が見えた。
「あれの事なの?」
「ああ」
「うん、だったらそうだよ。ぼくたちはそこから来た」
認めると、瞬間、男達がざわついた。
ますますどういう事なんだろうか、と疑問が深まった。
「何事じゃ」
ふと、男達の背後からしわがれた老人の声が聞こえた。
声とともに現われたのは、四枚の翼を背中にもつ老人だった。
「長! この少年が――」
「皆まで言わずとも良い」
老人が男の言葉を遮った。
そして俺をしばし見つめ、流れるように跪いた。
「長!?」
「な、なにを」
「お前達、何をしている」
長と呼ばれる老人は頭を下げて視線を下にむけたまま、しかし頭上にいる男達を叱責する様な口調で言った。
「我らが最長老の帰還であるぞ」
「「「――っ!!」」」
瞬間、男達が一斉に武器を捨てて、長を追従する様に、俺に跪いた。
「「「申し訳ありませんでした!!」」」
と、一斉に俺に謝った。
「えっと、ごめん、状況がよく分からないんだけど」
「はい、僭越ながら説明をさせていただきます。ここではなんですから、村までご足労を頂ければ」
「うん、わかった。えっと……カルラも一緒でいいかな」
「最長老のお連れの方でございます、我らにとっても大事な客人となります」
「そっか」
長の宣言にほっとした。
「ごめんカルラ。話を聞きたいから一緒に来てくれる」
「はい、わかりました!」
カルラはカルラで、俺を神だと思っているから、恭しい態度を崩してなかった。
長達が起き上がって、俺達を案内した。
しばらくして、荒野の中にぽつんと佇むようにしている村にやってくる。
殺風景というか、質素というか。
質素ではあるが、ボロい訳じゃない。
そこが少しアンバランスなイメージを受けた。
俺達はそのうちの一軒、長の家に案内された。
「こちらへどうぞ」
家の中も質素そのもので、俺は上座に通された。
少し戸惑ったが、ここで押し問答をしても話が進まないだけなので、まずは座って、話を聞くことにした。
二枚羽の男達は家の外で待機して、家の中は俺とカルラ、そして四枚羽の長の三人になった。
「さて、まずは改めて――」
長はそう言って、再び俺に頭を下げた。
「最長老のおかげで、我らはこうして生きながらえております」
「どういう事なの? 僕があなた達に何かをした?」
「それを説明する前に――これをご存じでしょうか」
長はそう言って、両手を突き出した。
両手とも手の平を上向きにして、そこに黒と白、二種類のエネルギーが現われた。
両方とも、長の中から出てくるのではなく、空気の中から集めてきた、って感じだ。
「白の魔力と黒の魔力?」
「はい」
「それがどうしたの?」
「遙か昔、白き星と黒き星、二つの星はそれぞれ、その名前と正反対の力しかありませんでした。白き星は黒い力を、黒き星には白い力を――と」
「そうだったんだ」
それは初めて聞いた。
どの書物にもそんなことは書かれてない。
それどころか、「それらしき」事すら書かれていない。
「じゃあその頃って、魔法とかはどうしてたの?」
「ございません。一種類の力しか存在しないため、魔法などと言うものはありませんでした」
「へえ……」
「しかし、あるとき。この黒き星に災厄が訪れました。その災厄によって、我々は数を減らされていきました」
「……」
「そこであなたが白き星から黒い力を迎えて、魔法を産み出して、災厄から我々を守ってくれました」
「そんなことをしたの?」
「はい」
長ははっきりと頷いた。
目に迷いはない。
俺というか、前の神がやったことに、俺は驚いた。
これは、かなりの大事だ。
だって、もし長の言うことが本当なら。
それは同時に、向こうの大地にも魔法はなかったと言うことだ。
魔法というのは、白と黒の魔力をこね合わせて使う物。
長は、大昔は両方とも片方のちからしかなかった。
とすれば、向こうの大地も黒の魔力だけで、魔法は使えなかったということだ。
今でこそ黒から白へ「変換」できるけど、白がなかった時代なら、そういうのがあると分からないなら、変換なんていう発想もなかっただろう。
「その後、あなた様は我々のために――ひいては二つの星に魔力を行き来させるために向こうへお渡りになった」
「そうだったんだ」
俺はうつむき、考えた。
長からきいた話を自分の中で消化しようとする。
いきなりの話で、ちょっとだけ混乱してる。
「我々はずっとあなた様の体を守り、帰還を待っていました」
「僕の体?」
「はい」
「僕の体って、この体の事じゃないの?」
俺は自分に触れた。
海神ボディ、神であるこのからだ。
今も六枚羽を生やしている、明らかに人間じゃない体。
「はい、あなた様が二つに分けて、おいていった肉体――あなた様の半身です」
「半身……!!」
「ど、どうしたの神様、ものすごくびっくりした顔をして」
カルラが聞いてきた。
彼女に答えるよりも、俺は長にきいた。
「もしかして、その肉体って今でもちゃんと元のままだったりする?」
「もちろんでございます」
「……もしかして、その肉体って、白の力があったりする?」
「その通りでございます」
「!!」
もうひとつの肉体、白き魔力を持つ肉体。
この海神の肉体ですら、持っているのは黒い魔力だ。
それがあれば、もしかして白と黒と同時に体の中に持つ事ができる……?
「そこへ案内してくれるかな」
「はい、仰せのままに」
頷き、立ち上がる長。
俺ははやる気持ちを抑えて、カルラと共に、長について行く。