作品タイトル不明
49.神、降臨
次の日、この日はまた、皇帝と海を眺めていた。
砂浜に神輿を置いて、その神輿の上に乗る。
皇帝の代理という形で雰囲気が似ている美女達が波打ち際で遊んでいるのを眺める。
俺と皇帝は神輿の上に乗ってて、エヴァが俺のそばで寝そべっている。
海神ボディの俺のそばでだ。
「やはりお前はマテオなのだな」
俺とエヴァを見て、皇帝はふっと微笑みながら言った。
「今朝までなんだかんだで半信半疑だったが、レッドドラゴンがああしてなつく以上本当なのだな」
「陛下に嘘はつかないよ。信じてもらえないのはしょうがないと思うけど」
「マテオにはいつも驚かされてばかりだ。これからも更に驚かされる事になるのだろうな」
皇帝は楽しげに言った。
「あまり驚かさないように気をつけるね」
「それはもったいない、もっと余を驚かせてくれ。マテオがもたらす驚きは心地よい」
「そうなの?」
「うむ」
「そっか……」
そういうことなら今まで通りでいっかー、と思った。
「さあて、そろそろ、ここともお別れだな」
「お別れ」
「うむ。夏休みも終わりだ、そろそろ帝都に戻らねばな」
なるほどそういう話か。
確かに、ここに避暑に来てしばらく経つ。
徐々にだが、夜になると肌寒い日も増えてきたし、日中も今のように決して暑いとまでは言えない日が続く。
「避暑」は着実に終わりに近づいてるとは俺も思う。
思う、が。
「でも、陛下って夏休みというほど休んでないよね。ここに来てても毎日のように政務を執ってたし。今朝だってなんか大事な事を話してたみたいだし」
そうなのだ。
実はこの砂浜でくつろぐのは、最初はもっと早い時間帯に始める予定だった。
しかし皇帝の元にまた重大な知らせが舞い込んできたから、その対処に追われて開始が少し遅れた。
「その事でマテオには感謝をしているよ」
「僕に?」
「また反乱が起きた。マテオがもたらしてくれた空軍――亜竜のおかげで最速の知らせと対処ができた」
「そっか、それで海辺に来るのが遅れたんだね」
「それもあるが、ついでに一つ決議をしてきたのだ」
「決議?」
「マテオの亜竜は確かに早い、しかし乱用してしまってはやがて何が緊急なのかが分からなくなるだろう。余の体は一つなのだから」
「それって良くないことなの?」
「真に緊急な時だけ使うようにすれば、亜竜で届けられたものは吟味なしで余の所にあげてこれる。普段から乱用しては、余の所にあげるべきかどうかで一度大臣らの吟味が入る。あいつらの吟味はやっかいだぞー? 下手したら余に報告するべきかどうかというだけで丸一日激論を交わすことがあるのだ」
「そうなんだ!?」
それは驚きだ。
「そうなってくると、亜竜の速度が意味を成さなくなる。だから今朝は、必ず余にあげるべき事柄を制定して、それらの事だけに使うようにという取り決めをしていた」
なるほど。だから遅れたのか。
エヴァを通して、亜竜を十頭くらい帝国に預けた。
その十頭の使い方を俺は深く考えなかったが、皇帝は色々と考えてたみたいだ。
皇帝って頭いいな、と思った。
俺の中身は6歳の 子供(マテオ) でもなく、12歳くらいの 少年(海神) でもない。
トータルで40近いいいおっさんだ。
そのいいおっさんがまったく思いもつかなかったことをこの皇帝はやっている。
純粋にすごいなと思いつつ、俺も普段からもっと深く物事を考えなきゃな、と思った。
ふと、そばに寝そべっていたエヴァがビクッとして、体を起こして空を見上げた。
「どうしたエヴァ」
「みゅー」
小さい姿だから、エヴァは可愛らしい鳴き声で答えた。
「空?」
その鳴き声でも俺には通じる。
俺は空を見上げた。
すると、ぱっさぱっさと、一頭の亜竜が羽を羽ばたかせながら着陸してくる。
神輿のすぐ前に落とされた影は徐々に大きくなっていく。
まわりを囲っていた衛士が慌ててやってきて、皇帝のまえに人の壁を作った。
「よい。マテオがいる。その方らはさがれ」
皇帝の命令が出たから、衛士達は人の壁をといて、直前までいたそれぞれの持ち場に戻っていった。
「ふふっ、恐ろしいものだな」
「え?」
「余のまわりはそのもの達が守っている。今までの常識なら鼠一匹逃さないレベルの厳重な護衛だ。しかし、空から降りてくるものにはまるで無力。今のも、下降がもっと早ければ護衛が集結する前に余に攻撃を加えることができた」
「そうだね……うん、僕もそう思う」
「空軍……いずれもっと拡大しなければな。助けてくれるか、マテオ」
「うん、任せて」
皇帝の事は嫌いじゃない。
力になれるところがあるんならなりたいと素直に思った。
そうこうしているうちに、亜竜が神輿の前に着陸した。
その背中から一人の男がとびおりて、神輿の前にパッと跪いた。
「ご注進申し上げます! ガーリスにて反乱発生。民衆の蜂起です」
「ふむ」
皇帝は静かにうなずいた。
その表情は一瞬で厳ついものになった。
皇帝は手をすぅ、と横に伸ばした。手の平を上にだ。
すると報告に来た男が書状か何かを差し出し、衛士の一人がそれを受け取って、神輿にやってきた。
神輿の前で別の使用人が受け取って、その使用人が神輿の上の女官に渡して。
そうして何重かの受け渡しをへて、ようやく書状が皇帝の手に届いた。
皇帝はそれを読んで――眉がビクッと跳ねた。
「どうしたの?」
「反乱だ、規模が大きい」
「そうなの!?」
「しかも……」
「しかも?」
「ルイザン教だ」
「ええっ!?」
声がでてしまう位びっくりした。
「ルイザン教って……どうして?」
「一部の原理主義者どもが民衆を先導して乱をおこした。理由は、神が再臨する前に帝国を撃ち倒し、神に統べてもらう――というものだ」
「そ、それって……」
もしかして……俺のせいか?
俺のことがルイザン教に伝わった、だからこうなったのか?
言葉にせずとも、それが皇帝に伝わったようだ。
皇帝は書状を折りたたみながら、言った。
「いいや? ルイザン教の原理主義者どもは元からこうだ。唯一にして絶対なる神を差し置いて、所詮は人間である皇帝が最高の権力者として振る舞っているのはおかしい、とな」
「そ、そうなんだ――ねえ、それってどうなってるの?」
「反乱軍は民衆を率いてきた上、現地の守将は兵を率いて迎撃に出発。このままではガイエン湖周辺にて交戦に入る見込み、だそうだ」
「もう!?」
「恐れながら申し上げます」
亜竜にのってきた男が口を開いた。
「なんだ、申せ」
「竜にのってここまでの時間を考えれば、既に交戦に入っているものかと。その程度の距離です」
「そうか。その規模だと……1000人くらいの死者がでるな」
「――ッ!!」
皇帝があっさりと言い放った数字は衝撃的なものだった。
「エヴァ!」
俺はエヴァに手を触れた。
海神にとっての わずかな(、、、、) 魔力で、エヴァをレッドドラゴンの本来の姿にもどした。
『偉大なる父マテオよ、どうしたか』
「いくよ」
『承知した』
俺はエヴァの頭の上に飛び乗った。
エヴァは一瞬で空に飛び上がった。
「ガーリスのガイエン湖、わかる?」
『任せてパパ、最速で飛んでけばいいんだよね』
空の上で、誰にも聞かれないからエヴァは娘の口調でいった。
そして、ものすごいスピードで飛び出した。
亜竜の三倍は早い速度で空を飛ぶ。
景色がものすごい勢いで後ろに流れていくほどの速さ。
それでも――遅いと思った。
こうしている間にも――。
ふと、視界にちらっと小さな湖が目に飛び込んだ。
「エヴァ」
『なあにパパ』
「あの湖の中に突っ込んで」
『え? うんわかった』
エヴァは一瞬戸惑ったが、何も聞かずに言うとおりにしてくれた。
空中で急速な方向転換をして、俺が指示した湖に向かって斜めに突っ込んでいく。
ノーブレーキで水の中に突っ込んでいった――瞬間。
水間ワープ。
俺は、繋がっているエヴァからガーリスのガイエン湖を読み取って、海神の力でそこに水間ワープした。
水面に突っ込んだのと同じ速度で、一瞬で変わった景色の場所で斜め上に向かって上昇。
すると――修羅場が見えた。
正規軍と民衆の反乱軍、それがぶつかり合っている地獄絵図。
「エヴァ、とにかく止めて」
『分かったパパ』
即答するエヴァ。
直後、エヴァは人間を余裕で丸呑みできる巨大な口を開け放って。
『ぐおおおおおおおおお!!!』
と、咆哮した。
天地を震撼させるほどの咆哮。
空が割れ、大地が揺れる。
双方あわせて一万人はいるであろう戦闘中の集団であっても、全員がその咆哮にやられて、戦闘がとまった。
「な、なんだあれは」
「ドラゴン!?」
「見ろ、人間が乗ってるぞ」
俺はエヴァとともに下降した。
空という、誰もが見あげれば視認できた場所だから、全員がこっちに目が釘つけになって、戦闘はとまったまま。
下降する俺の目に、 それ(、、) が飛び込んできた。
あっちこっちに散らばっている、両軍の死体。
既に数百人はいる死体の数々。
まさに死屍累々。
しかし――今ならまだ!
俺は目を閉じて、大地から魔力をもらった。
海神ボディだから 余計に(、、、) 必要だが、大地が持ってる分で事足りた。
「レイズデッド・コンティジョン」
レイズデッドを唱えた。
オーバードライブしたままの神の心臓がそれを全体化した。
一人がよみがえった。
よみがえったものの体から光が次の死体に移った。
そのものもよみがえった。
その光がさらに移っていき――。
やがて、死者が次々とよみがえった。
「ど、どういう事だ!?」
「死んだやつが生き返った!?」
「何が起きている!!」
あっちこっちから驚愕の声が起きる。
戦闘どころじゃない。
その驚きと、戸惑いは、やがて一つの声によって裏返る。
「神様だ! 神様が降臨したんだ!」
その声で、まわりは一瞬静まりかえった後、波打つように広がっていく。
死者の蘇生、神の御業。
その声があっという間に広がっていく。
民衆は全員俺にむかって跪いた、帝国正規軍も5分の1位は同じように俺に跪いた。
五分もしないうちに、戦闘は完全に、もはや再起しようがないくらいとまったのだった。