軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43.互いを見破れる関係

「さて、と……」

水の竜を倒した後、俺は改めてまわりを見回した。

ガリューダ三角、魔の海の底。

海神の視力は障害物がない限りはどこまでも見渡すことができて、それで多くの沈没船、そしてその残骸を見つけた。

「海神様? どうかされましたか?」

まわりを見回す俺を、女王は不思議がってきた。

「今思ったんだけど、これらをなるべく遺族の元に返してあげられないかなって」

「これって……どれのこと?」

今度はサラが聞いてきた。

ついつい感覚的に言ってしまって、わかりにくかったか。

「沈没船の中に積載しているものだよ」

「ええ!? それって、財宝を人間達に あげて(、、、) しまうって事?」

「そういうことになるのかな」

「どうして!?」

「明らかに数百年とか、そういう古い沈没船とかはしょうがないけど、ここの沈没船は数が多くて、見た感じ新しい物も多いんだ。たぶん最近沈められた物だと思う」

「おっしゃる通りだと思います。あの水の竜、継続的に『楽しんでいた』と思います」

女王がそう言い、俺は頷いた。

さっきのあの様子からして、下手したら船が直上を通過する度にそんなことをしてただろう。

だからこそ、沈没船は新しい物もちょこちょこ見えるわけだ。

「そんなの別にいいじゃん。もう海の底まで沈んできてるんだから、海神のマテオの物だ」

「サラ、海神様にそんなことを言ってはいけませんよ」

女王がサラをたしなめた。

「なんでさ」

「サラの言う通り、沈んできた船はその中身ごと海神様の物です。この海全てが海神様の物なのですから」

「でしょ? だったら――」

「だから、その処遇も海神様が決めるべきで、サラが口を出して良いものじゃありませんよ」

「うっ」

「海神様が人間に分け与えるとおっしゃるのならそれが正しいのです」

「そ、それはそうなんだけどぉ……」

サラは唇を尖らせた。

女王の言うことはわかるけど、それでも……という不満だ。

「ごめんなさい、困らせちゃうかな」

と、俺は言ったが、サラは慌てて手をぶんぶんと振った。

「そ、そんなことないよ」

「本当?」

「うん! ちょっとあれだけど……本当に困ってないから」

「そうなの?」

「大丈夫ですよ、海神様」

女王はにこりと微笑んだ。

「大丈夫って?」

「サラは嫉妬しているだけなのですから」

「嫉妬?」

「海神様の大いなる愛が、海の民の自分達ではなく、地上の人間に向けられた事に嫉妬しているだけなのです」

「えええ!? そ、そういうことなの?」

俺は驚いた。

そういう話だとはまったく想像もしていなかった。

「ち、違うよ! そんなことない!」

違うのか。

よく見たら女王はニコニコと笑っている。

なんだ冗談だったのか。

俺は気を取り直して、考えた。

遺族、もしくは沈没する前に逃げ出せた者もいるのかな?

その者達に、船の財宝とかを返す方法を考えた。

「まずは……船の名前からかな」

「名前、ですか?」

「うん、新しい船なら、名前さえ分かれば調べようがある。確か、ちゃんとした船は行政に登録をしなきゃいけなかったはずだ」

なんかの本でそんなことを読んだ記憶がある。

「なるほど」

「名前は船のどこかに刻んでるか、それを証明する物があるはずだと思う。臨検とかもあるし、船の身分を証明する物がどこかにあるはずだ」

「わかりました、それは私達にお任せ下さい」

「いいの? お願いしちゃって」

「この程度の地味な作業、海神様のお手を煩わせるまでもありませんわ」

「そっか」

俺は少し考えた。

そういう申し出なら……任せちゃった方がいいか。

どのみち、その先の事もあるし。

「うん、わかった。ありがとう。それじゃあ僕は船の名前が分かった後の事を調べてくるよ」

「はい」

女王は一度頷き、真顔で。

「海底にある船全てを調べておいた方がいいでしょうか、それともこのガリューダ三角にあるものだけでいいのでしょうか」

「……せっかくだし、返せるものは全部返しちゃおう。大変だと思うけど、全部調べてくれるかな」

「わかりました、お任せ下さい」

「じゃあ僕は一旦地上に戻るから後はお願いね」

「はい、いってらっしゃいませ」

女王母娘に見送られて、俺は地上に飛んだ。

水から水に飛ぶ、海神の力で海底から脱出した。

マテオが立ち去った後の、人魚の親子。

巨大サイズの女王と、魔力がきれて二重の意味で 小さく(、、、) なったサラ。

女王は、娘に言い聞かせるような口調で言った。

「覚えておきなさい、サラ」

「な、なにをよ」

「あれが神の愛という物よ、きっと」

「神の愛……」

「何かを集める事だけを考えて、与える事をまったく考えてないサラとは違う。偉大なる神の愛なのよ」

「う、うん……」

サラは頷き、マテオが飛んで行ったであろう海上を見上げた。

「やっぱりマテオ……すごいなあ」

水間ワープで飛んできたのは、地上にある避暑地で割り当てられた屋敷だった。

屋敷の裏の池に飛んできて、屋敷を眺めながら考えた。

さてと、これからどうしようか。

やっぱり……皇帝の力を借りた方が早いな。

今の俺は海神の力をほぼ自在に操ることが出来るようになっている。

が、ここは地上だ。

水が少ない地上だ。

この地上だと、海神の力は色々と実用上制限がかかる。

使えるのはせいぜい、水間ワープくらいのものだ。

というか、そもそも。

この件は海神の力でどうにかなるようなものでもなさそうだ。

ここはやはり……地上の最高権力者、皇帝の力を借りてしまおう。

俺はそう思い、独りで頷いた後、池に飛び込んで再び水間ワープで飛んだ。

屋敷の池から飛んだのは、裏路地の水溜り。

前に自分でぶちまけて作った水溜りはまだあって、そこから出ることができた。

その裏路地からも出て、一直線に離宮に向かう。

夏の避暑地、皇帝の別荘。

皇帝の別荘扱いだが、人数が数千人も居るため、皇帝に直接関わらない人達は通常の日常を過ごしていた。

多くの人々が、様々な商店が林立する大通りに行き交っている。

ここはいわば、別荘の庭。

庭が事実上街のような物になっているのは、ひとえに皇帝の持っている権力あってこそ。

この権力があれば……俺はそう思いながら、離宮に直行した。

すぐに辿り着いた。

俺は見知っている門番を見つけて、彼に近づいた。

「止まれ! 何者だ!」

「僕だよ、陛下に謁見を申し込みます」

「何者だ」

「え? マテオだけど……?」

どうしたんだろう、と目を剥く門番を見る。

すると、その門番はより警戒を強くした。

「マテオ様……だと?」

あれ? どうしたんだ一体。

なんでそんな反応をしてるんだ?

ここは何回も来てるし、なんならこの門番、昨日も会ってて普通に通してくれたし。

などと、思っていたのだが。

「ふざけるな! その見た目でマテオ様を騙るか!」

「え? あっ……」

言われて、自分を見てハッとした。

そうだった。

今の俺はマテオじゃなかった。

マテオの体じゃなくて、レイズデッドで蘇った海神の肉体だ。

我ながら似ているなと思ったマテオと海神の肉体だが、やっぱり完全に同じというわけじゃない。

「あっちゃ……ちょっと迂闊だった」

「一体何者だ! マテオ様の名前を騙るなんて!」

門番が叫ぶ、武器を突きつけてきた。

すると、それを聞きつけて、次々と衛兵達が出てきた。

衛兵達は場の空気を「正しく」察知して、俺を取り囲んだ。

そりゃ……こうなるよな。

一瞬にして取り囲まれた、衛兵に、武器に、――殺気に。

「気を抜くなよ。マテオ様の名前を騙る輩だ、マテオ様の立場を利用して陛下に近づき害をなそうとしてるのは明白」

「あぁ……」

なるほどそうなっちゃうのか。

確かに、今この避暑地で俺が一番皇帝に近しい立場の人間だ。

俺を語るのは皇帝に近づきたいから――うん、そういうことになるな。

「首謀者か共謀者が居るはずだ。殺すな、捕縛しろ」

「うわっ!」

衛兵達は一斉に攻撃してきた。

ついてきた槍をかわして、俺は身を翻して逃げ出した。

倒してしまう事は造作ないのだけど、それではなにも解決しない。

俺は考えた、追われながら考えた。

何か自分の身分を証明出来る物はないか、と。

「ここは……エヴァに助けてもらおう」

それが一番だな。

レイズデッドの後、海神の体からマテオの体に戻れないかと色々試してみたけど、まったく戻れなかった。

もしかして今度はマテオの体にレイズデッドを? と思ったが、それはすぐには試せなかった。

なぜなら、海神の体になって魔力は大きくなったが、レイズデッドは「持ってる魔力を全部使う」というものだから、一日一回という制限は前とはかわらなかった。

見た目を戻せないのなら、人間達じゃなくて、俺の魔力を見るエヴァに頼るしかないだろう。

エヴァなら魔力で分かってくれるはずだ。

わかる……よな。

若干の不安を抱きつつ、俺は走った。

離宮の正門から離れて、一直線にさっきの裏路地に向かった。

途中でもなにか水たまり的な物はないかと探したが、いい感じに露わになっている水たまりはなかった。

しょうがないから裏路地まで――と思っていたら。

前方からやってくる一行と遭遇した。

それは……皇帝の一行だった。

若干の衛士と使用人、そして官吏に守られている皇帝。

皇帝はそもそも離宮に居なくて、外に出てたのか。

まあ、これだけの街が「庭」にあるのなら、散歩の一つもあるだろう。

その皇帝の隊列と遭遇して足を止める。

そして――

「陛下」

と、皇帝を呼んだ。

向こうも立ち止まった。

皇帝のまわりの人間は、俺と皇帝を交互に見比べた。

皇帝本人はと言えば、俺をしばし見つめた後。

「……かっこいい」

とつぶやいた。

何言ってるんだ? と思った。

まるで俺みたいな事をいってら。

ん? 俺みたい?

なんだっけそれは。

と、首をかしげていると、皇帝がハッと我に返った。

「な、何者だ」

直前のつぶやき、失言をごまかすかのように誰何する皇帝。

それで周りの人間は警戒を強めた。

俺はその場で片膝をついた。

「マテオだよ、陛下」

「マテオ!?」

驚く皇帝。

まあそうなるか。

「……面を上げよ」

皇帝はすぐには否定しないで、確認? のためにそう言った。

俺は顔をあげた。

「確かに似ている……いやしかし」

迷う皇帝、これも当然の反応だ。

その間に離宮から追いかけてきた衛兵達も追いついた。

追いついたが、俺が跪いてるのと、皇帝が考えごとをしている、

という光景をみて、俺を捕まえる事をためらった。

街(庭) の者達も静まりかえって、成り行きを見守った。

しばらくした後。

「その者よ」

「マテオと名乗ったが、余が信じるに足る証拠はあるのか?」

「証拠? ……えっと」

何か証拠になるものは……。

エヴァじゃなくて、人間である皇帝にわかる証拠……。

「あっ」

俺はハッとして、思い出した。

「一つだけあるけど……ごめんなさい陛下」

「うむ?」

「綺麗だね」

俺はそう言った。

皇帝はハッとした。

俺は俺が初めて皇帝と会ったときに思わず言ってしまったこと。

そしてさっき皇帝が「かっこいい」と言った時に、俺が「俺みたいな事」と思い出したこと。

俺達だけの秘密だ。

さすがに周りの目があるから主語は一切使わなかったが、それを皇帝にもう一度言った。

すると――

「うむ、まさしくマテオだ」

皇帝は少しだけ顔を赤らめながらも、納得してくれたのだった。

そして――

(また言ってもらえた……嬉しい)

皇帝が何か言ったようだけど――口は動いてなかったから、空耳か。