軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41.海神転生

俺は、世界中の海を回っていた。

サラの背中に乗って、女王と並走して。

二人に連れられて――という形で海を回った。

しばらく無言のまま泳いでいたが、ふと、女王が口を開いた。

「次の沈没船はもうすぐです、海神様」

「そうなの、近かったね」

「このあたりは、人間の沈没船が世界で一番密集していますので、いくつか見て回れると思います」

「世界中で一番密集している?」

俺はあごを摘まんで、少し考えた。

それ、なんかの本でよんだ記憶がある。

「ガリューダ三角の事?」

「なにそれ」

「はい、人間はそう呼んでいるそうです」

サラは首をかしげたが、女王は即座に頷いた。

ガリューダ三角。

船乗り達に「魔境」とも呼ばれている海の一角。

そこに立ち入った船の大半が事故に遭い、沈没する事からそう呼ばれるようになった。

魔物に食われたとも、悪魔に連れ去られたとも噂されるほどの、恐れられている場所だ。

「そっか、確かにそこなら一番沈没船が密集しているよね」

「はい。ですので、きっと海神様にも気に入っていただける財宝が眠っているはずです」

女王はわずかに意気込んでいった。

普段は女王として押さえている分、わずかな意気込みでもすごく感じる。

「……」

「どうしたのサラ」

「ご、ごめん。ちょっと長く泳いだから疲れちゃった」

「そうだったの? ちょっと休もうか」

「ううん、大丈夫。これでも人魚だから」

サラはそう言ったが、空元気なのは明らかだ。

今まで気づかなかったが、人魚とは言え、海を泳ぐのは少なくとも人間が陸上を歩くのと同じことだ。

それで体力を消費しないわけがない。

人間が泳ぐよりも圧倒的に楽なのは間違いないが、それ自体が体力を消費しないと言うはずはないのだ。

「ごめんね、それなのに僕が乗っちゃって」

「そんな事ないよ!」

「そうですよ。海神様を背中にお乗せするなんて、サラ以外の子にはさせられない位の光栄です」

女王がそう言った。

その横顔は本気でそう思っているって顔だ。

「サラも、もう少し成長したら私のあとを継いで女王になってもらうのだから、これもいい経験よ」

「もうちょっと成長? 女王様位大きくなるの?」

まさかと思って聞いてみたが、そのまさかだった。

「はい、私くらいまで大きくなります」

「人魚ってそうなんだ」

「いいえ、女王の血を継ぐ者だけです」

「なるほど」

女王蟻とか、女王蜂とか。

そういう感じの生物なのかな。

にしても、大きくなるのか。

俺はサラを見て、少し考えた。

「ねえ、ちょっととまって」

「え? うん」

言われたサラは慌ててとまった。

女王も少し行った先でとまって、こっちを向いてきた。

「どうしたの海神様」

「ちょっと待っててね」

俺はサラの背中に手を触れた。

「んっ……」

サラはビクッとした。

「くすぐたかった? ごめんねすぐ終わるから」

「だ、大丈夫」

大丈夫だというサラ。

俺は目を閉じた。

意識をまわりと、サラに集中した。

次の瞬間、魔力がサラの体内にそそがれた。

そして、サラの体が徐々に――徐々に膨らんでいった。

大きくなっていき、やがて、女王と同じサイズになった。

「こ、これは……お母様と同じ?」

「成功したみたいだね、よかった」

「わ、海神様、これは一体……」

サラ以上に驚く女王。

俺は説明した。

「僕はそういう力があるみたいなんだ、生物を一時的に、強制的に成長した姿にする能力が」

「そんな力が!?」

「あっ、なんか、これ……」

「すぐ戻っちゃいそう?」

「う、うん」

戸惑うサラ。

まるで満杯の水が入ったコップを持った時のようにあわあわした。

「うーん、やっぱりサラの魔力じゃ難しいのかな」

「私の魔力?」

「うん。海の魔力を、僕の体を介してサラに届けたけど、あまり上手くいってないみたいだね」

俺の魔力を使ってもいいけど、前からずっと考えてた。

魔法を使うとき、自然の魔力は使うが自分の魔力は使わない方法を。

今回もそうだ。

サラ自身の魔力と、自然の魔力。

それを合わせて、俺が術式を組んで起動。

って、やったんだけど。

サラはプシュウゥゥゥ……って空気抜けした感じで元のサイズに戻っていった。

「あっ、もどっちゃった」

「あまり上手く行かないみたいだね」

「そうかも。あっでも、なんか体力がちょっと回復したみたい」

「そうなの?」

「うん」

「そっか、それならよかった」

完全に失敗したという訳でもないようだが、まだまだ改良は必要だ。

どうやって改良すればいいのかを、俺は、

再び泳ぎだしたサラの上で、考え続けた。

「あっ、ここ」

いくつかの沈没船を回って。

それだけでオノドリムからもらった埋蔵金以上の財宝を手に入れた後。

ふと、サラがとまった。

海中に浮かびながら、サラは斜め前の一点を見つめている。

「どうしたの?」

「あそこ、前の海神様の聖骸があるところだ」

「せいがい?」

「そうですね、あそこに祀ってあります」

聖骸って……聖なる遺骸って意味か。

ようは前の海神の死体って事だ。

「ねえ、ちょっと行ってみない?」

「行ってみる?」

「うん!」

無邪気に笑うサラ。

俺は少し考えた。

用事はないが、興味はある。

海神って一体どういうヤツなんだろうかという興味はある。

「そうだね、行ってみようか」

「うん! いいよねお母様」

「海神様がそうおっしゃってるのなら」

二人は俺を連れて、聖骸とやらがある方角にむかっておよぎだした。

しばらくして、岩陰に隠れた神殿らしきものを見つけた。

神殿の前で降りて、一緒に歩いて中にはいる。

「ぼろぼろだね」

「そうですね。以前の海神様が亡くなってから三百年も経つのですから」

「三百年か」

気の遠くなるような時間だな。

神殿は特になにも仕掛けとかなくて、俺達は一直線で一番奥までやってきた。

すると――驚いた。

盛大に驚いた。

神殿の一番奥の祭壇に、一人の少年が座っている。

足を組んで座っていて、目を閉じている。

「海神様の聖骸です」

「あれが?」

「はい」

「……たしかに、生きてないっぽいね」

この距離からでも分かる、あの少年は生きてないと。

動きもなければ、呼吸とか心音とかそういうのもない。

魔力も一切感じられない。

なるほど間違いなく遺骸だなとおもった。

そして、もうひとつ。

「三百年前なのに、体が綺麗に残ってるね」

「海神様の聖骸だから」

「なるほどね」

これにも納得した。

沈没船を回って、数え切れないくらいの白骨死体を見てきたから素直に納得した。

人間は死ねば骸骨になる、死んで骸骨にならないのは海神――神だって事に納得した。

「やっぱり海神様と似てますね」

「そうね、少し年長という事を差し引けば、すごく似ていますね」

人魚の母娘はそう言った。

似てるって言えば似てるけど、こじつけって気もする。

二人からすれば、まだ軽く否定してる俺をとにかく海神って事にしたいのはあるんだろうな。

「ずっとここにあったんだね、海神の聖骸って」

「はい、ここで私達をいつまでも見守っている、とのことです」

「なるほど……んん?」

「どうしたんですか海神様」

女王の言葉にちょっと引っかかった。

その言葉、聞き覚えがある。

「あっ……そっか、サラさんが言ってたのとおなじだ」

ちょっと前に、サラが女王の亡骸を前にそんな事を言っていた。

……。

「ねえ、海の物は死んだら、魂がずっと海の中に漂っているんだよね」

「え? そうだけど? そうだよねお母様」

「はい。人間とは違い、魂がいつまでも母なる大海が包み込んでくれるのです」

「そっか」

それはつまり、海神の魂も残ってる可能性が大きいって事だ。

体は完全に残っている、魂も残っているかもしれない。

ということは――レイズデッドでの完全復活ができるということだ。

……やろう。

レイズデッドで復活させて、俺が海神じゃないって分からせよう。

それをやると「海神様を復活させた人」ってなるけど、海神本人よりは少しはましになるはずだ。

さすがに……神って言われるのはちょっと恥ずかしいというか、色々複雑なところがある。

俺が海神じゃないのははっきりしてる。

なぜなら、俺は前世の記憶があるからだ。

海神の転生、というのはあり得ない。

前世の俺はただの人間だ。

「二人とも、ちょっと下がって」

「なにをするのですか?」

「すぐに分かるよ」

二人を下がらせた後、俺は海神の聖骸に近づいていった。

手をかざす。

海から魔力を得る、自分の魔力と使う。

聖骸には魔力がないから、100%俺の魔力を使わないといけない。

それを使って――

「レイズデッド」

と、唱えた。

魔法が海神の聖骸を包む。

手応え――あり!

次の瞬間、視界が揺れた。

そしてさらに次の瞬間、自分の体がみえた。

「え?」

驚く俺。

糸の切れた人形の様に崩れ落ちていく「俺」。

とっさに手を出して抱き留めた。

そこで、気づく。

俺は――聖骸に乗り移っている。

聖骸の俺が、今までの俺の体を抱き留めている。

「こ、これは……」

「海神様!?」

「……そっか、お母様の時と同じ」

「どういう事ですかサラ」

「海神様はお母様を復活させた。それと同じ魔法で、前の海神様を復活させた。でも、前の海神様の魂は今の海神様の体に入ってるから――魂が抜けて元の体にもどったんだよ」

「まあ!」

驚く女王。

俺はもっと驚いた。

サラの推測は、状況的にぴったりだ。

レイズデット、成功すれば魂を体に引き戻して蘇生させる魔法。

俺は海神の魂が海に漂っていると思ってやったが、その魂が俺の体に入っていた。

いやいや、それはおかしい、あり得ない。

だって、俺には前世の記憶があるんだ。

マテオになる前のただの人間の記憶。

転生前の記憶がある俺は、海神の転生であるわけがない。

「やっぱり本当に海神様」

「三百年ぶりの復活よ」

「……あ」

三百年と聞いて、はっとした。

俺には、三百年前の記憶はない。

普通に数えれば、それは前世の前世の前世――くらいだ。

前世までの記憶しかない俺は、それを完全に否定することなんて出来なかった。

……って、ことは。

俺は本当に、海神の転生だった?