作品タイトル不明
38.女王の蘇生
「に、人魚姫がなんで地上に? それもあんな姿で行き倒れてたの?」
「人間の皇子が見たかったの」
「皇子?」
「そっ。あたしね、みんなから一番可愛いっていわれてるの。人魚の中で一番可愛いって。なぜならあたしは姫だから」
「えっと……」
どう相づち打つべきかを迷った。
サラは可愛い、それは間違いない。
でも、彼女は姫だ。
まわり、っていうのはきっと使用人とか部下とか、そういうのだろう。
そういうまわりの者からいわれる「一番可愛い」っていうのは間違いなくお世辞が入ってる。
お世辞な話にどう相づち打てばいいのかを迷った。
幸い、話はすぐに次に行った。
「でね、あたし思ったの。姫のあたしが海で一番可愛いなら、人間の皇子は地上で一番かっこいいんじゃないかって」
「あ、なるほど」
「それで見たくなったの。でもあたしたちは陸に上がれないし、あがってもこのひれを見られると騒ぎになるじゃない? だからマーメイジに頼んで、人間にしてもらったの」
「それであの姿に」
「うん。でもマーメイジのヤツに騙されたの」
「騙された?」
「人間の姿にしてもらったのはいいけど、声は出なくなるわ歩くだけで足は痛いわ、挙げ句の果てに日に日に体は衰弱していくわでさんざん!」
「そっか、それで行き倒れてたんだね」
「そういうこと」
話が大体分かった。
「それで一年くらい海の近くでさまよってたんだけど。マテオに会えて助かったよ」
「……ねえ、そのマーメイジって何者?」
俺はそこが引っかかった。
サラは吐き出したら怒りが収まったけど、俺はそれが気になった。
違うのならそれでいい。とりあえず聞くことにした。
「え? 何だろう……人間でいうと、大臣?」
「大臣」
「そう、お母様の一番の部下」
「……」
いくつか考えが浮かんでは消えた。
そのいくつかが更に結びついて、ある想像が頭の中で固まってしまう。
たくさんの本を読んできたから、思い浮かべてしまった想像。
「ねえサラさん」
「なに?」
「もしかして、人間の皇子は、っていうの、その魔女からいわれて気づいたことなんじゃない?」
「よく知ってるね」
「……もしかして、サラさんってお母さんの一人娘とか?」
「そだよ。だからお母様すっごい喜ぶと思うよ。あたしのこと可愛がってるから、あたしを助けたマテオにすっごい感謝すると思う」
「……」
なんか……ほぼほぼ決まりだ。
状況証拠にすぎないが、ここまで来れば確定のように俺は思う。
「サラさん、急いで」
「え? なにどうしたの、いきなり真剣な顔になって。声もなんか変わってるよ?」
「いいから、急いで。もしかしたらお母さんが危ない」
「え?」
「急いで!」
俺は強めに言った。
サラは戸惑いつつも。
「う、うん。分かった」
頷くと、速度をあげて、更に海の底に潜っていった。
数分後、海の底についた。
海の底に宮殿があった。
サラは俺を背負ったまま宮殿の門の前に「着陸」した。
「姫様!?」
「も、戻られたんですか!?」
宮殿の門番をしてる二人の人魚。
二人はサラを見て驚いた。
「ただいま。お母様に報告してきて、あたし、大事な人を――」
「早くお入りください!」
「今なら、今ならまだ間に合うかもしれません!」
門番二人、のんきなサラの言葉を遮りながらいった。
くっ、最悪の展開だ。
「サラさん、行くよ」
「え? う、うん」
「待て! 人間は入るな」
「ここは海の一族の聖域」
門番は俺を止めた。
「……どいて! この人はあたしのお客様なの」
「さ、サラ様」
門番はたじろいだ。
表情が変わったサラ、俺を見つめる。
「お母様のところに行けばいいのね」
「ああ」
「わかった!」
サラは再び俺を背負った。
門番が慌てて開けた門の中にはいった。
宮殿に入る、一直線に目的地にむかう。
迷いのない道筋だ。
途中で何十人もの人魚と出会い。
「姫様!」
「今までどこに!」
「その人間の子供は!?」
俺達を見て驚いたが、全員スルーして、とにかく進んだ。
やがて、一際豪華な扉の前にやってきた。
そこにも門番はいたが。
「「姫様!?」」
「通して!」
「「は、はい!!」」
門番は慌てて扉を開けた。
サラはノンストップで中に入った。
中は寝室だった。
巨大な寝室、巨大なベッド。
そして人間の数倍はある、人魚がベッドの上で横たわっていた。
人魚と人間は違う種族――それを差し引いても、人間の俺からでも分かるくらい人魚の顔色は悪かった。
そして――。
「お母様!?」
サラは人魚に飛びついた。
この人魚が彼女の母、海の女王らしい。
「お母様!? お母様!! 起きてお母様!!」
すがりつくサラ、小さな体で母親をゆする。
しかし、無情にも。
そばにいる別の人魚が。
「……一足遅かったです、サラ様。女王陛下は、もう」
「……うわあああああん!!!」
一瞬の戸惑い。
それを経てようやく言葉と状況を理解したサラは、母親の亡骸にすがって大泣きした。
数分間大泣きした後、サラは母親の亡骸から降りた。
「サラ様」
「大丈夫」
まわりの人魚が 駆け(泳ぎ) 寄ったが、サラは手をかざして止めた。
そして、こっちに向かってきた。
「ごめんね、みっともないところを見せちゃって」
「ううん、それよりもお母さんは――」
「大丈夫、お母様なら。きっといつまでもこの海で私達を見守り続けてくれるから」
「この海で?」
「うん。魂になっても、きっとこの海で」
それは、普通に聞けば感傷的な言葉だった。
状況によっては感動的と言ってもいい。
だが。
「ねえサラさん、それって本当?」
「本当って、なにが?」
「魂になってもずっとこの海で見守ってるって」
「う、うん。そうだよねルル」
サラは振り向いて、さっきの人魚に確認風に話をふった。
「はい。我ら海の物は地上の生き物と違い。死んだ後も魂は海にとどまり続けます。母なる海が全てを包み込んでくださいます」
「……サラさん、そこをどいて」
「え? な、なに?」
「いいから、時間がもったいない」
「う、うん」
俺の気迫に押されて、サラはのいた。
俺は女王に近づいた。
顔色が悪いように見えたのは、亡くなったから。
近づくと更によく分る。
慢性の毒による毒殺だ、これは。
いや、それはいい。
今は良い。
俺は魔力を高めた。
自分の全魔力をそそいだ。
足りない分は、海からもらった。
魔力のゴミ、それを再利用。
そして――全魔力の200%をかき集めて、術式を起動――。
「レイズデッド!!」
魔法陣が広がって、女王を包み込んだ。
「な、なにごと!?」
「いけません! 女王の亡骸を冒涜しては!」
俺を止める声もあったが、無視する。
そのまま、女王にレイズデッドをかけ続ける。
すると――。
「……ここは」
「お母様!」
目を開けて、言葉を口にした女王に、サラは飛びついた。
「サラ? 戻ってきたのサラ!?」
母娘は感動の再会をした。
抱き合って、サラは大粒の涙を流した。
「お母様! お母様!! お母様!!!」
亡くなった母親の蘇生、それが分かっているからこそサラはものすごくよろこんだ。
対照的なのは女王で、たぶん自分が死んで生き返ったとは理解してなくて、こっちは純粋に「サラが戻ってきた」事を喜んでいる。
こっちはこれでいい、後は――。
「ちっ……」
扉の外で、一人の人魚が舌打ちをした。
感動の再会で、誰も気にしてなかったが、「その可能性」を最初から頭にいれてここにやってきた俺は見逃さなかった。
さて、マーメイジだっけか。
こいつをどうしてくれよう……。