軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.実質二倍

式典が終わって、俺達は学園の中、理事長室に場所を移した。

遮音性の高い理事長室の中であっても、まだうっすらと、外からの歓声が聞こえてくるほどだ。

その理事長室にいるのは俺と、皇帝と、じいさん。

そして、今なお聞こえてくる大歓声の原因となった。

――大地の精霊オノドリムだ。

俺達は全員、座った状態で向き合っていた。

ちなみにエヴァはレッドドラゴンの本来の姿のまま外に置いてきた。

その威容も、歓声が続いている理由の一つだ。

そんな中、じいさんがオノドリムをじっと見つめながら、言った。

「ううむ……確かに、人ならざる存在のようじゃな」

「分かるのか、ローレンス卿よ」

皇帝が感嘆するじいさんに聞いた。

「うむ。魔術的にな。大して素養のないわしでも分かる、魔術的には人間とはまるで正反対の存在じゃ」

「なるほど」

皇帝はじいさんの説明に納得した。

一方で、そんな二人――人間では相当偉い地位にいる二人をまったく眼中にないような感じで、ニコニコ顔で俺だけを見つめてくる精霊オノドリム。

「ねえねえ、もう決まった? あたしになにをさせるのか」

「うーん、あまり思いつかないなあ」

本音半分、嘘半分だ。

して欲しい事を思いつかないのは本当だが、皇帝とじいさんみたいな匂いをオノドリムから感じたから、下手にして欲しいことをいうと大変な事になりそうな予感がする。

「ええ、それは困るよ」

「困るの? どうして」

「冗談抜きで命を助けてもらったから。なにもしないのは気が済まないよ」

「なんか話が大きくなってる?」

命を救われた? 命の恩人?

「おお、精霊の命の恩人か、さすがじゃマテオ」

「守護精霊を救ったとなれば余も何かをせねばならんな」

「精霊を救ったなぞ大臣どもがまた黙っていないのじゃ。無理せん方がよいのじゃ」

「ローレンス卿、そなたは一つ勘違いしている。帝国の全ては皇帝の一存で決めてよいのだ。そして今の皇帝は余なのだよ」

「くっ」

皇帝とじいさんが俺の事でバトルしてた。

皇帝に本気を出されると溺愛で負けるから、それを止めようとしたじいさんが正論っぽい言葉で止めようとした。

しかしそれを、皇帝が――妙にかっこいい言葉で言い負かした。

……うん、かっこいい。

これが俺を溺愛する宣言じゃなかったら格好良かった。

おっと、そんな事は 今は(、、) どうでも良かった。

俺はオノドリムに振り向き、言った。

「命の恩人って、それは言いすぎなんじゃないの?」

「ないない。冗談抜きで命の恩人だから。あのままだと後500年であたし死んでたもん」

「そりゃまた――」

スケールの長い事で。

「というか、あんたが今の皇帝? あんたらのせいでもあるんだからね」

一転、オノドリムの矛先が皇帝に向かった。

ズビシッ! って感じで皇帝を指さしながら非難する。

それを皇帝は少し気後れした感じで。

「むっ、どういう事なのだろうか精霊殿」

地上の最高権力者が、国の守護精霊に対して、やや謙った様子で聞き返した。

「確かに最初の皇帝と契約したよ? 協力するっていった。でもあれは、見返りもくれるって契約だったじゃん」

「見返り……だと?」

皇帝は眉をひそめた。

美しい顔が歪むのが分かる――それでも美しかった。

「ほら伝わってないでしょ? 人間の祈りじゃ腹は膨れないの、ちゃんと魔力をくれなきゃ。それ伝わって無くて、あたしから一方的に加護を持っていくから、何百年も飢えたまんまだったんだからね」

「そ、そうなのか。しかし大地の精霊ともなると魔力くらい――」

「大地の魔力は白の魔力なの。黒もくれなかったらエネルギーになんないの」

ぷんぷん、って形容詞が一番良く似合う感じで怒っているオノドリム。

「そ、そうだったのか」

「途中から声も届かなくなるし、意識ももうろうとしていくしで、きっっっっっ――」

オノドリムは目一杯「溜めて」から。

「辛かったんだからね!」

「そ、それはすまない」

「だから、命の恩人」

話が戻って、オノドリムは俺にそう言った。

「そういう事だったんだ」

つまり……こういうことか。

延々と食べる物がなくて、飢え死にする寸前だったところに、ご飯をあげた。

……それは、確かに感謝される。

俺もそういう状況でそうされたら、涙流して感謝する。

せざるを得ない。

「そう、だから何かさせて。ねえなにがしたい? 体で返した方がいい?」

「それはダメだ!!」

皇帝がいきなり大声を出して、オノドリムを止めた。

「え? なんでさ?」

「え?」

聞き返された皇帝が、何故か戸惑っていた。

美しい顔がはじめてみる様な困惑の色を浮かべている。

「そ、それは――そう! まだ早い! マテオは、人間の子は六歳じゃまだ できない(、、、、) から」

「え? ……」

オノドリムは何故か目を細めて、俺をみた。

「本当だ、子供だった」

「なんじゃ、今までどう見えていたのじゃ」

「精霊は霊的な存在にピントを合わせてみるからさ。肉体的な見た目は目をこうしないとみづらいのよ」

「なるほど、老眼のようなものじゃな」

「老眼いうな!」

オノドリムはパシッと反論した。

じいさんの例えはなるほどわかりやすいと俺は密かに思った。

「むっ? しかしそれは……」

「どうしたローレンス卿」

「マテオが、霊的に大きな存在だという事じゃな」

「おおっ、そうなのか精霊殿」

皇帝は嬉しそうにオノドリムに聞いた。

「うん。このあたりで一番おっきいね」

「そうか! すごいぞマテオ」

「当然じゃ、わしの孫じゃからな」

精霊の「この辺で一番でっかい人間」というお墨付きが出て、皇帝とじいさんは大いに喜んだ。

「体はじゃあなしとして、ねえ、何かさせて。命の恩人になんもしないのはムズムズして気持ち悪いのよ」

「そっか……どうしようかな」

その言い分も分かる。

一宿一飯の恩義、その数百数万倍って感じの恩義だろう、オノドリムの言い分だと。

それなら、何かしてもらう彼女のためにも、何かしてもらおうかなって思う。

とは言えやっぱり思いつかない。

「マテオよ、魔法を教えてもらうのはどうじゃ?」

「魔法?」

俺はじいさんを見つめ、聞き返した。

「うむ、マテオは魔力が高いのじゃ。大地の精霊なら、魔術の知識も多く持っておるじゃろう」

「なるほど」

それはいいかもしれない。

知識をもらう、というのはありといえばありだ。

「なに? 魔法が好きなの?」

「うん」

魔法だけじゃないけどね。

武器になる物は好きだ。

スキルだったり、知識だった、魔法だったり。

そういう、身につけて武器になるようなものは全部好きだ。

「じゃあ、魔力をあげる」

「魔力? 魔法じゃなくて?」

「うん。大地の魔力をそのまま使えるようにしたげる。普通人間は使えないけど」

「……あっ!」

俺はハッとした。

「どうしたマテオ」

「この前習ったんだけど、人間って黒の魔力しかないんだ」

「うむ、そうじゃな」

「で、さっき彼女が言ってた、大地は白の魔力ばかりって」

「言っておったな」

「そして魔力は白と黒の二種類の魔力がないと使えない。だから、人間が使うときは黒を一部白に変換してから魔法を起動させる」

「……なるほど!」

「どういうことだ?」

まだ理解していない皇帝に、俺は更に説明を続ける。

「もし、大地の魔力が使えるんなら、変換する必要が無くて、スムーズに魔法が使えるって事だよ」

「おおっ!」

「ふふん、それだけじゃないよ。大地の魔力は人間のよりずっと多いからあれだけど。人間の黒を黒のまま使えるから、実質魔力が倍になるってこと」

「それはすごい」

「マテオの強大な魔力が更に倍になるのか、それはよいことじゃ」

皇帝とじいさん、二人とも興奮の顔をした。

俺も……そうだ。

魔力が倍に増えるなら、言うことは無い。

「どうかな」

「それは嬉しいな……お願いしていいかな」

「もっちろーん。じゃあ契約しちゃうね」

「契約?」

「うん」

オノドリムはそう言って、顔を近づけてきた。

そして、俺の頬にちゅっ、ってキスをしてきた。

「ああっ!」

皇帝が何故か声をあげた。

「はい、契約成立」

俺から離れたオノドリムはニコニコ顔で言った。

「なにかやってみて」

「わかった」

俺は頷き、魔法を使う。

使おうとした瞬間、今までにない感覚を覚えた。

足元からせり上がってくる、白の魔力。

自分の物じゃない白の魔力が体に流れてきた。

それを自分の体にある黒の魔力と織り交ぜて――魔法を使う。

とりあえず使っても誰にも害を及ばさない、って事で回復魔法をつかった。

「わあ、すごい」

本当に、前の半分の魔力と、半分の手間で魔法を使うことができた。

これは……むしろお礼を言わないとな、って思っていると。

「ええっ! 回復魔法を使えるの君!」

「え? ああ、古代魔法、だっけ」

「うん! この数百年使い手いなかったけど……使えるんだ」

「ふふん、マテオじゃからな」

じいさんは得意げに胸をはった。

「君……もしかしてすごい人、なの?」

ぬぬっ?

恩返しで一段落したって思ったけど。

オノドリムのこの反応……更に気に入られた感じ、か?