軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.溺愛の基本は全肯定

朝、メイド達に着替えをさせてもらいつつ、ハウスキーパーのリサ・フロムから朝の報告を受けていた。

ハウスキーパーというのはメイドの役職の一つで、その名の通り家の全てを維持ししきる――と言う意味を持つ、メイド達の長だ。

メイド達をじいさんから譲渡されたことをきっかけに、一番経験豊富なリサをハウスキーパーに任命した。

ちなみにそれまでのハウスキーパーは、じいさんの使用人――いわば本家の人間が兼任してた。

そのリサが淀みなく報告をしていく。

「最後に、本日昼前に、皇帝陛下がお越しになるとの通達がございました」

「陛下が?」

ほとんどの報告は定例的なもので聞き流した俺だったが、それには反応した。

「はい」

「来るんだ……何の用事なのかは連絡が来てる?」

「レッドドラゴンの真の姿を、一度直に確認したい、と」

「……ああ」

俺はなるほどと納得した。

エヴァの事だ。

レッドドラゴンは伝説だからな、気になるのも当然だろう。

「わかった、他に何か連絡とか、注意事項は」

「以上でございます」

「うん」

とりあえず、今日も一日が始まった。

昼くらいになって、皇帝が街に入ったって連絡を受けたから、俺は屋敷を出て、屋敷と正門の間にある噴水のオブジェクトの所で出迎えをした。

しばらく待っていると、一台の馬車がまっすぐにやってきた。

華美さとか控えめの、ちょっとした商人が使う程度の馬車だ。

公式的にじゃなくて、お忍び――か、「半」お忍び程度のものか。

あまり大っぴらにしたくないのかな?

そう思っていると、馬車は正門前にやってきて、使用人達が柵作りの門を開き、馬車をまねきいれた。

「行くよ、エヴァ」

「みゅー」

俺はエヴァを連れて、馬車に向かっていった。

まるで愛犬の様に、従順についてくるエヴァ。

門を半分くぐった所で、馬車が止まった。

皇帝が降りてきた。

毎回会う度に思うことだが、やはり綺麗だ。

パッと見て、「本当に男?」って思ってしまうくらい綺麗な人。

普通に男の格好をしててもこんなに綺麗なんだ。

女の格好をしたら、たぶん国が傾くレベルの美女になると思う。

そう思うと――ちょっと見とれてしまった。

「またあったな、マテオよ」

「う、うん。お久しぶりです、皇帝陛下」

「どうした、なにを動揺している」

「ごめんなさい。やっぱり陛下、綺麗だなっておもっちゃったから……」

俺は素直に答えた。

態度に出ちゃったからには、素直に答えなきゃならない。

欺君――皇帝を欺く、嘘をつくのはれっきとした罪で、最悪死刑にもなりうる。

まあもちろん、今の様に心のなかで思ってることに、嘘ついてるかどうかなんて最終的には水掛け論だが、それでも正直にいうことにした。

すると――。

「……ふっ、構わん。マテオの様な子供だ、非公式の場でならいくら言ってもかまわんよ」

「ありがとうございます、陛下」

正直に言って良かった。

あらためてお墨付きをもらった形だ。

俺が子供だというのがよかった。

六歳の子供に、例え男なのに綺麗って言っても怒る人はそうそういないもんな。

まあでも、これからはちゃんと自制して、言うしか無いような場面にならないようにしよう。

皇帝は今も、ちょっとだけ顔を赤くしている。

まったくなにも感じないってわけでもなさそうだからな。

「そっちが例のレッドドラゴンの仔か」

話が一転、俺の足元で犬座りしているエヴァに及んだ。

皇帝はエヴァをじっと見つめている。

「うん、そうだよ。名前はエヴァ――エヴァンジェリンってつけたの」

「エヴァンジェリン、かの竜王の名か。よく知っていたな」

「おじい様がくれたご本の中にエヴァンジェリンの物語があったから」

「なるほど。本当に本が好きなのだな」

「うん!」

俺は大きく頷いた。

「余が送った本も読んでいるか?」

「もちろん! いっぱい送ってくれてありがとう!」

「そうかそうか。うむ、読み終わったらまた言うといい。いくらでも送ってやろう」

「ありがとうございます!」

「さて――」

皇帝は再び、エヴァに視線を向けて。

「さっそく、みせてくれないか」

皇帝はその場に立ち止まったまま言った。

普通、皇帝みたいな賓客がくると屋敷の中に案内してもてなすのが道理だけど、エヴァを元の巨大な姿に戻すから、このまま屋外にとどまった。

「うん。エヴァ、準備はいい?」

「みゅー」

エヴァは従順に一鳴きした。

俺はしゃがんで、エヴァに手をそっと触れる。

後は魔力をそそいで大きくする――。

「何をする!」

「止まれ! ここをどこだと思っている!」

水を差す騒ぎが起きた。

起きたのは正門の方。

皇帝は振り向いた、俺もそっちをみた。

すると、一組の少年少女が、門番になにやら止められているのが見えた。

幼い方の少女は完全に羽交い締めにされていたが、少年は門番を振り切って、よろめきながらも全力でこっちにダッシュしてきた。

「さがって陛下!」

俺はとっさに皇帝の前にでた。

こんなことは今までになかった、もしかして皇帝が来ると知っての狼藉者――。

と、思って皇帝をかばったが、そうじゃなかった。

少年は駆け込んで来るなり、俺の前に滑り込むほどの勢いで土下座してきた。

皇帝は目にも入らずに、一直線に俺の方に向かってきた。

「マテオ様! マテオ様ですよね!」

「やめろ!」

「無礼だぞ! こっちこい!」

追いかけてきた門番は、土下座をする少年に後ろから組み付き、どこかに連れて行こうとした。

「待って。話を聞くから、離してあげて」

忠実に職務を全うしようとした門番達は、俺の言葉がでると、一度互いの顔を見合わせてから、そろり、と少年から離れた。

改めて少年を観察した。

十二か、もうちょっと行ってるくらいの少年だ。

服装は庶民そのもの。

取り立てて貧乏でもなければ、裕福という訳でもない。

ごくごく普通の庶民そのものって感じだ。

その少年は、土埃で服が汚れるのも構わずに、俺に土下座して、額を地面に叩きつけた。

「お願いします! 父ちゃんを、父ちゃんを助けて下さい!」

「お父さんを? どういうことなの?」

「レイナ!」

少年は土下座したまま、振り向いて呼んだ。

すると、たぶん妹だろう――正門の所に残った門番につかまれている少女が、その門番をふりほどいた。

そして、少し離れていた所に止めてあった手押し車を押してきた。

あまりにも重たいもんで、ふらついてうまく押せなかったところに、少年がかけよっていき、協力して一緒に押してきた。

そして、俺の前に来ると――手押し車の上に一人の男が寝かされているのがわかった。

「これは……」

男は、年齢的にたぶん二人の父親だ。

包帯を巻かれて、その包帯から絶えず血と黄ばんだ水っぽいのが染み出ている。

「父ちゃんが、昨日仕事で山に入ったら、崖から落ちてしまったんだ」

「崖から……」

なるほど、と思った。

男を改めてみた。

手足は折れているようにみえる、片目もたぶんつぶれている。

顔も思いっきり変形している。

虫の息で、普通に考えて、命が助かるかどうかも怪しい――というレベルだ。

「マテオ様なら、マテオ様なら助けられるって噂を聞いて! お願いします、父ちゃんを助けてください」

「お願いします!」

兄妹そろって、俺に土下座した。

なるほど、そういうことか。

そんな噂どこから……じいさんかメイドかかな?

まあいい、そんなのは今追求する事じゃない。

「わかった、やってみるよ」

俺はそう言って、手押し車に近づいた。

そして、手をかざして男に回復魔法をかける。

俺しか使えない古代魔法――回復魔法。

白と黒の魔力を織り交ぜて、術式に沿って発動する。

癒やしの光が手の平から放たれて、男を包む。

それが数分続いた。

それまで虫の息で、弱々しいながらも苦悶していた男が、静かな寝息を立てはじめた。

「……よし」

魔法をかけ終わって、包帯をちょっとめくって傷口を確認。

そして、兄妹に振り向く。

「これでもう大丈夫だよ」

「本当ですか!」

「お父さん! お父さん大丈夫!?」

兄が俺を凝視し、妹が父親にすがりついた。

「う、ん……」

父親がゆっくりと目を開けた。

「ここ、は……」

「お父さん!」

「父ちゃん!」

目覚めた父親を、兄妹がうれし泣きしながらすがりついた。

しばらくそうしてから、先に我に返った兄が俺に向かって再び土下座し。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

妹もそうした、父親だけがまだ状況を理解できてないかのようにポカーンとしていた。

俺はそばにいる門番にいった。

「もう大丈夫だから、落ち着いたら帰してあげて」

「いいんですか、侵入してマテオ様に無礼を働いた罪は」

「そういうのはいいから」

そんな事にいちいち腹を立てても意味がない。

親が死ぬかもしれないって時だ、必死にもなる。

兄妹達の件が一段落した、さて――あっ。

俺ははっとした。

思い出した。

振り向いて、皇帝をみた。

つい――やってしまった。

皇帝との約束をないがしろにして、こっち優先しちゃった。

これはまずい!

「ごめんなさい陛下! つい――」

「よい、気にはしてない」

「え?」

「そういうのはいいから、だろ?」

皇帝はふっと笑った。

俺が門番に言ったことを、そのまま俺にも言った。

「それよりも、マテオは偉いな」

「え?」

「この世の本当に大事な物がなんなのかを理解している感じだ。まったく賢い子だ」

陛下は俺を褒めた。

この世で本当に大事な物……?

はて、どれの事を言ってるんだろうか。

「この件で何かご褒美をあげないとな」

「ご褒美って、僕、陛下になにもしてないよ? むしろ失礼だったくらいで」

「余は、賢くて偉いマテオに褒美をやりたいのだ。ローレンス卿に負けていられんしな」

「えっと……」

それは嬉しいけど、本当になんで、皇帝はじいさんと張り合ってるんだろう。

「なにがいいだろうか……そうだ」

皇帝はポン、と手を叩いた。

表情的に、ものすごい妙案を思いついた、って顔だ。

「例の学校、皇帝領にしてしまおう」

「例の学校って……僕の?」

「そうだ」

皇帝は大きく頷いた。

皇帝領って……どういう事だ? それ。

「皇帝領……ですか?」

「うむ、天領ともいう。そこでの出来事の、なにが罪になって罪にならないかは、皇帝たる余の一存になる」

「陛下の一存……」

「『どうでもいい事』は、罪にならないと言うことだ」

「あっ……」

そういうことか。

つまり、今みたいな事があったら、遠慮無くまたやれって事だ。

俺のやったことを全肯定した、という意味でもある。

もちろん、皇帝領なんて普通に名誉だから、二重にご褒美ってことになる。

よく考えれば――いやよく考えなくてもすごいことだ。

すごすぎて、絶句するほどだ。

「むっ、嬉しくなかったか? やはりローレンス卿くらいじゃないと子供の喜ぶことはわからないのか……? 金か、やっぱり子供でも金がいいのか? 金貨を1000枚くらい持ってこさせるか?」

皇帝がトーンダウンして、なにかぶつぶつ言い出したが。

「ううん、うれしいよ! ありがとう陛下!」

「そうか? うむ、ならばよし」

俺が嬉しいといったのを聞いて、皇帝もまた、嬉しそうに笑うのだった。