軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.皇帝まで俺を溺愛するわけがない

あくる日。

いつものように書庫で本をよんでいたら、メイドの一人がノックをして、入ってきた。

「おくつろぎの所すみません」

「どうかしたの?」

俺は本を置いて、メイドを見あげる。

服飾からして、ハウスメイドの一人だ。

俺が本を読むのが何よりも好きなのは、メイド達も分かってる。

そんな俺が書庫で本を読んでるときに来るなんてよっぽどの事だと思った。

のだが、微妙にちがった。

「大旦那様から書物が送られてきました。いかがいたしましょう」

「本? そっか、ここ僕がいるからか」

メイドは無言で頭を下げた。

俺を呼びに来たのは何かがおきたからではなく、じいさんから新しい本が送られてきた、しかし搬入先の書庫は俺が使っている。

ちなみに、主が部屋を使っているときに清掃とか整理とかは普通はしない。

まあそれやるとホコリが舞ったりバタバタしたりってなるから、当たり前の事なんだけど。

「どれくらいあるの? 案内して」

「承知致しました、こちらへどうぞ」

メイドは一揖して、先に書庫から外にでた。

俺は少し遅れて外に出て、メイドの後についていった。

しばらくして、一階の玄関ロビーにやってくる。

そこには三箱ほどの本が積み上げられていた。

「すごいね、こんなにたくさん」

俺は素直に感嘆した。

本は高価な物だ。

一冊あるだけで一財産と言われるのに、当たり前の様に三箱――たぶん数十から百冊くらい一気に送ってきたじいさん。

じいさんは相変わらずすごくて、そしてすごくありがたいじいさん。

「うん、これくらいなら、とりあえず書庫の方に運んじゃって――」

「あっ、ご主人様」

玄関のドアがおもむろに開かれて、一人のメイドが入ってきた。

俺が玄関にいるとは思ってなかったって顔で、俺を見てびっくりしている。

パーラーメイドである彼女は、しかしすぐに落ち着きを取り戻して、行き届いた教育を感じさせる一礼をした。

「ご主人様にお客様でございます」

「お客様? だれだろう、おじい様?」

俺は送られてきた三箱の本をちらっと見た。

このタイミングならじいさんかな? と思ったけど違った。

「ローレンス卿ではない、余だ」

そう言って現われたのは――皇帝!?

「へ、陛下!?」

「陛下!?」

取り次いだパーラーメイドは、俺の言葉を聞いて驚愕した。

びっくりして、血相を変えて皇帝に向かって両膝を突く。

「も、申し訳ありません! 陛下だとは知らず大変失礼を」

「よい、余がそうだとは名乗らなかったのだ、責はない」

「は、はい」

「……みんなはもう下がっていいよ」

皇帝に言われても恐縮したままのメイド達にそういう。

このままここに居続けさせるのはかわいそうだ。

メイド達は俺に言われて、腰を低くしたままさがっていった。

玄関ホールで、俺は皇帝と二人っきり向き直る。

「今日はどうしたの? 陛下」

「うむ、マテオに渡したい物があってな――これだ」

そう言って皇帝が差し出してきたのは、帝国の紋章が入ったバックルだった。

差し出したのを受け取って、皇帝を見る。

「これは?」

「先日、聖皇后のティアラを回収したであろう? あれは国宝だから致し方なかった。だから、あれと似たようなものを作らせた」

「似たようなもの……」

「同じ材質に同じ製法。オリハルコンとミスリル銀の複合素材に、配合も同じ割合で作らせた」

「ミスリル銀に……オリハルコン?」

なんだろうそれ。

「知らぬか、無理もない。幻の金属と呼ばれているものだ」

「幻の金属!?」

なんかすごいものが出てきた。

「製法は不明でな、帝国の宝物庫に現存してある分しかないものだ」

「そ、そんなものを使ったんですか!?」

「なあに、国宝よりはたいしたことは無い。人間の感情と歴史を背負っておらぬものは所詮、大した価値にはならぬよ」

皇帝は平然とそう言った。

いやいや、そんな事はないだろ。

幻の金属。

製法は不明。

現存している分だけ。

どう考えても超希少で貴重なものじゃないか。

こんなの、受け取ったらまずいんじゃないのか?

「さあ、あの時のあれを見せてくれ」

「え?」

「オーバードライブ、これでもできるのか?」

「あっ……」

皇帝は期待の眼差しで俺をみた。

じいさんと似ている目だ。

じいさんと同じだったら、謙遜つまり遠慮するよりは、それを使って何かができる所を見せた方が喜ばれる。

そう思って、俺は小さく頷いた。

「わかった、ちょっと待って陛下」

俺は受け取ったバックルをベルトにつけた。

そして、魔力を込めて――オーバードライブ!

すると、魔力の光りと共に、バックルが溶けた。

溶けて、俺の全身を包み込んだ。

「おおっ」

声をあげる皇帝、そうした理由はすぐに俺にもわかった。

聖皇后のティアラのときは、ほとんど透明にちかい、うっすらと見える程度のもの。

しかしこのバックルは、はっきりと見えるくらいの、半透明の黄金色になって、俺の体のまわりを包んでいた。

それが立ちこもり、俺の体の周辺で対流している。

まるで、俺の体からオーラが立ちこめているかのように。

「すばらしい、勇ましくいい。うむ、マテオに持ってきたかいがあった」

皇帝はそれを見て、ご満悦そうな声をあげた。

それは俺もいっしょだった。

この見た目に、俺もテンションが上がる。

「ありがとう! 皇帝陛下」

「――ッ!」

皇帝は息を飲んだ。

上半身をわずかにのけぞって、見開いた目で俺を凝視。

何かまずい事を――はっ。

「ご、ごめんなさい。興奮しすぎてすごい無礼を」

えっと、こういう時どうだったっけ。

たしか、貴族の作法は――。

「え? あ、ああ、よい」

俺が膝をつこうとしたところ、皇帝が手をかざして、止めた。

「え?」

「そういうのは大人達にやられて、あきあきしている。マテオまでそんなのをしなくてよい」

「え? あ、うん……えっと……じゃあ、ありがとうございます、陛下」

大人が良くするヤツはあきあきだというから、俺は子供っぽく、マテオに転生してから良くするヤツをした。

すると、皇帝はまたしても驚いた。

どこからともなく、「キュン」、という音も聞こえてくる。

なんだこりゃ。

「えっと、陛下?」

「う、うむ。それよりもこれはなんだ?」

なんとなく話を逸らされた気がする。

陛下は同じ玄関ホールにある、積み上げられたままの箱に目を向けて、聞いてきた。

「あっ、それはおじい様からの贈り物」

「贈り物?」

「いろんなご本だよ。僕がご本が好きなのを知ってるから、おじい様、いつもたくさんのご本を送ってくるんだ」

「そうなのか……嬉しいのか、それは」

「うん!」

俺は大きく頷いた。

本気で、ものすごく嬉しい。

俺は本がすきだ。

本は知識、知識は消えることのない財産だ。

だから本が送られてくると、ものすごく嬉しい。

「……余の贈り物よりも嬉しそう……」

「え? 陛下、今何を?」

「いやなんでもない」

皇帝は口元に手を当てて、思案顔をした。

「よし、余からも本を送ろう」

「え?」

「三箱あるな? 明日にも四箱届けさせよう」

「ええっ!?」

「すぐに手配をさせよう。楽しみにしているといい、マテオ」

そう言って、皇帝はそのまま玄関からでていった。

立ち去る皇帝の背中をみて、俺は言葉を失う。

なんで……じいさんとはりあってるみたいな事になってるんだ?

皇帝まで、じいさんと同じように俺を溺愛する……。

いやいや、そんなの、あり得ないよな。