軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155.エクリプスのため

「ねえサラ、このマリンスノーってどれくらいでやむ物なの? そもそもやむの?」

「うーん、決まってはないけど、一回ふりだしたら何日かはつづくよ」

「そうなんだ、じゃあしばらくは色々試せるね」

「うん、それは大丈夫だと思う!」

言い切ってくれたサラの言葉が心強かった。

マリンスノーは天気じゃないが、天気みたいなものだ。

天気の話はその土地に――ここは海だけど――にすむ人間の経験以上に当てになる物はなかなかない。

サラがそうまで言い切るのなら大丈夫だと思った。

「じゃあしばらくはここで待機かな」

俺は皮をエクリプスの力で操作して、マリンスノーをキャッチし続けた。

力の貯蔵の話だ。

マリンスノーを取り込んだ分だけ、俺からの力の供給を絶っても動かせ続けることが出来る。

こういう「何かを溜める」という話は、当然の「どれくらい溜められるか」という話に繋がる。

そしてこの場合、「どれくらいたまるのか」は更に「どれくらい動いていられるか」に直結する。

それをためるには降ってくる雪を地道に集めないといけないから長期戦になると思った――が。

俺はある事をおもいだした。

「……あっ」

「どうしたの?」

「えっとね、ずっとここにいると――」

「いたれす」

「わっ!」

聞き慣れた声、体が覚えている衝撃。

スイカほどの丸い体がいきなり現われて、俺の胸のあたりに飛び込んできた。

慌ててキャッチするも、いきなりの事で、そのまま後ろ向きに尻餅をついてしまった。

「エクリプス!? どうしてここに?」

「ごしゅじんさまさがしたれす」

「ごめんね……って、もうそんな時間か」

俺は上を見あげた。

見あげる海面はいつも通り明るかったけど、それは女王の加護でそう見えているからだ。

どうやらいつの間にか昼夜が逆転し、エクリプスがやってくる時間になっていた。

「ごめんね、さがさせちゃった?」

「ごしゅじんさま、ちからつかってたからすぐにみつかったれす」

「あっ、そうなんだ」

どうやら俺がエクリプスの力を使ってたから、エクリプスは俺の居場所が分かったようだ。

偶然だが、俺はちょっとほっとした。

「それよりもエクリプス、海底は大丈夫なの?」

「なにがれすか?」

俺の腕の中で、エクリプスが器用にグルッ、と体をほんのちょっぴり回転させた。

頭しかない体で、その頭でちょこんと小首を傾げた、そんなシュールな光景だった。

その反応をしたエクリプスは、海底だからという影響は皆無みたいだ。

「大丈夫なんだね」

「よくわからないけどらいじょうぶれす」

「そうだ。ねえサラ、エクリプスになにか海の力が及んでたりする?」

念の為にサラに聞いてみた。

サラはゆっくりとクビをふった。

「ううん、なにもかかってないよ。普通に大丈夫な感じ」

「そうなんだ」

サラが言うのならそうなんだろう。

まあ、そもそもが「夜の太陽」という存在だ。

正直な所、エクリプスは「生物」という枠にはいるのかどうかも分からない。

だから、エクリプス自身が「大丈夫」といったのは妙な納得感もあった。

そんなエクリプスは俺の腕の中でゴロゴロしている。

俺はエクリプスを撫でてやりながら、皮でのマリンスノーキャッチを続けた。

「……そうだ! ねえエクリプス。僕の皮っていまも持ってる?」

「もちろんれす」

「じゃあそれをつかって、あそこにいる僕の皮と同じことをしてみてくれる?」

「はいれす」

エクリプスは応じて、俺の腕の中でぐるっと半回転した。

それまでは「顔の正面」――つぶらな目のある方を俺の体に押しつけてスリスリしてきたのが、半回転して顔の正面をマリンスノーキャッチしてる皮の方にむけた。

そしてどこからともなく、俺がエクリプスにあげた皮が出てきて、同じように動き出した。

エクリプスの操作で、俺の皮はマリンスノーをキャッチしだした。

「あっ、取り込んでる!」

その結果を見たサラが興奮気味の声をあげた。

エクリプスに上げた皮は海神コーディングの皮だ。

それが同じようにマリンスノーを取り込めている。

「あれも海神の血を使った物なんだ。だから、やっぱり重要なのは海神の血だったね」

「そうなんだ!」

いわば「海神スゲエ!」的な話だったから、サラは大いに興奮した。

「ごしゅじんさま?」

「あっ、しばらくこのまましてて」

「わかったれす」

エクリプスはそういって、またぐるりと半回転、顔を俺に押しつけるようにゴロゴロしてきた。

マリンスノーで出来る、出来てほしいと思う事。

俺の力を切っても動ける時間が半日分あってほしいのはエクリプスのため。

エクリプスは一日の半分を空の上に戻っている。

空の上にいるときはやはり寂しいらしいが、でも一日の「お勤め」が終われば俺の所に戻ってこれるからそれは我慢出来るし、戻ってきた時に盛大に甘える様にしてる。

空の上にいるときやっぱり寂しいのは、皮が出来た時俺の皮を一枚もらった事からもよく分かる。

俺の皮をもらって、空の上で操縦しながら一緒にいる感じになりたいためだ。

だけど、それってやっぱり代替品だ。

一日のお勤めが終わって、俺の所に来て盛大に甘えているのが何よりの証拠だ。

マリンスノーの力を理解した瞬間、俺はエクリプスの事をすぐに思い出した。

マリンスノーで半日持つのなら、「俺が操縦した物をエクリプスが連れて行ける」という形に出来るからだ。

それは実質的な意味はない、タダの気分の問題だ。

でも、たぶんだけど。

エクリプスの方も、同じ皮でも自分が操作するものより俺が操作した物の方がうれしいだろう。

そう思って、俺は半日分は溜めれるようにと祈りつつ、エクリプスとサラと一緒に、皮がマリンスノーをキャッチするのを見つめ続けた。