作品タイトル不明
122.レイフの実験
「全ての悪魔を一つにしたって……どういういうことなの?」
ノワールに関わること、何よりもその内容が衝撃的だったこと。
それらが合わさって、俺はレイフから詳しく聞こうとした。
「言葉通りの意味なんだが?」
「えっと……それってつまり…………どういう事なの?」
言葉通りの意味と返されて、だったらパッと思いつくような話――だと思ったら、頭を巡らせてもいまいち想像がつかなかった。
やっぱりもっと詳しく教えてもらわなきゃと思った……が。
「おいおい、僕に教師のまねごとをさせるために呼んだの?」
レイフはあきれ顔で言った。
俺は「えっ?」と一瞬きょとんとなったが、そもそも向こうから来た――といろんな意味で困惑した。
そんな困惑をまったく無視して、レイフは更にいった。
「歴史の話はその辺の暇な学者を捕まえてやらせなよ。僕はね、新しい技術の可能性の為に来たんだ」
「あ、うん。そうだね」
俺はおずおずと頷いた。
レイフのその言いようもどうかとおもったが、彼との付き合いで――何回か程度しかない短い付き合いだけでも、こういう時の彼に反論するのは無駄だろうなというのがよく分かる。
間違いなく彼からノワールの情報を引き出せない、食い下がった分無駄に時間がかかってしまうだけ。
そう理解した俺はノワールの話を別の人から聞く事にした。
「じゃあ話の続きを……えっと、合成魔獣、だっけ」
「そう。どういう物をつくるのか、まずは君のその能力とやらを把握するよ」
「把握、ですか?」
「そう。何段階かの死体を持ってきたから、この部屋に運び込ませるよ」
「ええっ!? ちょ、ちょっとまって」
俺は手を突き出すほど慌てて、レイフを止めた。
「死体ですか?」
「何を驚いてるんだ? 君の能力は死体を操る能力だと聞いたが?」
「そうですけど」
「そんな能力の話をしているのに何を驚いている」
「えっと……その、庭でやりませんか」
「うん? 別にいいけど?」
レイフは小首を傾げ、きょとんとしていた。
こっちの反応の理由がまったく理解できない、という感じの反応だ。
さすがというかなんというか。
目的のためとは言え、「持ってきた死体を部屋に運び入れる」なんて普通はやらない。
部屋の主が難色を示せば普通はその理由も分かる。
が、レイフは普通にやろうとしたし、こっちの難色の理由もまったく理解していない様子。
今までの事もあって、驚いたけどいやってほどにはならずに、「しょうがねえなあ」位のやれやれ感をおぼえた。
そんなレイフと一緒に部屋を出た。
レイフは廊下にひかえていたメイドに我が物顔で命令し、「持ってきた物」を庭に運ぶようにいった。
それもレイフというキャラを知っているから、ちょっとした苦笑いですんだ。
先導するレイフについて行って、庭にでた。
レイフの命令通り、庭に数台の荷馬車が入ってきた。
爺さんが俺にあてがった屋敷は、かなりの幅を持つ荷馬車でも余裕で庭に入ってこれるほど広いものだった。
荷馬車の御者達は巧みに馬と馬車を操縦して、綺麗に馬車を俺とレイフの前に並べた。
「まずは一番左のを降ろしたまえ」
レイフがいうと、使用人達は一斉に、バタバタと指示された馬車に集まった。
幌を取っ払って、乗せている物を協力して荷馬車から降ろす。
布でぐるぐるにされていて、その布も取っ払われる。
話の流れで覚悟していたが、それは人間の遺体だった。
荷物を下ろしたのはレイフが連れてきた使用人達で、それを知っていたからか驚きはなかった。
しかし俺の命令を待つためにひかえていた屋敷のメイド達はその遺体をみてざわついた。
「 死体(、、) はこれでいいのかい?」
「あ、うん。まずやってみるね」
俺はエクリプスの力をその遺体に向かって使った。
条件を満たしている遺体だったらしく、地面にそっと横たわっていたのが、むくりと起き上がって、両足で地面に立った。
「へえ、本当に動くんだ。なんで背中を向けてるんだい?」
「なくなった方は顔色がわるいし、瞳もね」
「瞳孔が散大している話? 死体なんだから当然だろ?」
「えっと、うん」
俺はそれ以上言わずに、死体の向く方に移動した。
こっちを向かせるとこっち側の使用人達が遺体と目があって――と言う話をレイフにしてもしょうがないと思った。
だから移動して、レイフはついてきた。
俺の横に立ったレイフに聞いた。
「なにか動きをさせてみる?」
「いや、いい。死体を動かせるという事がわかればいいよ。それ以上は時間の無駄だから君の説明だけでいい。どこまでできる?」
「どこまで……そうですね、生前というか、肉体的に出来る事ならたぶん一通りは」
「つまり人間の死体じゃ空は飛べないってことかい?」
「そうだと思います」
レイフの理解度は高かった。
相変わらずあけすけだが、このあたりさすがだなとおもった。
「痛みは感じるのかい?」
「痛み?」
「生き物は痛みを感じるから様々な制約がかかる。この死体は痛みを感じるのかって事」
「僕が操っていて、僕には感覚は一切共有されないから」
「つまり壁を骨が折れるほどの力で殴れるってことだね」
「えっと、うん。そうですね」
何となくレイフの言いたいことはわかったので、小さくうなずいた。。
「なるほど、大体は予想通りだね。あとはどこまでサボれるかだね」
「サボる?」
「もう二つ用意した――出したまえ」
レイフが命じると、彼の使用人は更に荷馬車から荷物を下ろした。
下ろして、グルグル巻きの布をおった。
今度は人間じゃなかった。
どっちもライオンだった。
「これは?」
「こっちは標本、こっちは剥製だ」
「標本……剥製……」
「どこまで動かせるのかによって、どこまで作るとき手抜き出来るのか、その確認だよ」
俺はなるほどと思った。
そう思いながら、エクリプスの力をライオンの標本と剥製につかった。
すると、両方とも動かなかった。
「ダメなのかい?」
「そうみたいだ」
「一般的に死体じゃないとダメって事か」
レイフはそうつぶやき、少し考え込んだ。
標本と剥製を持ってきたレイフの発想力に驚きながらも、これならもう少しこの力の詳しい検証が出来る。
そう思って、しばらくレイフに付き合うことにした。