軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第730話 アッシュ・トゥ・アッシュ(3)

機能の生きている古代遺跡は、緑に侵蝕されることなく当時の状態を保っていることが多い。雑草一本も生えない人工物の内部だが、決まってモンスターが繁殖しているものだ。

これといった食料もないはずなのに、どうして奴らは生きていけるのかといえば、それは魔力、引いては、精霊の存在である。

魔力が濃ければ、 元素精霊(エレメンタル) という魔力の塊である単純な魔法生命が自然発生する。で、そこからエレメンタルを喰らうモンスターが現れ、食物連鎖が始まるわけだ。

もっとも、エレメンタルベースの食物連鎖の場合、普通の自然とは異なったモンスター生態系が作られる。

緑溢れる第二階層では、ゴブリンは狼にまたがりのびのびと暮らす環境だったワケだが、鉄と油と煙に包まれたこの第三階層は、動植物型よりも、魔法生命型のモンスターが圧倒的に多い。

「グググ、ギゴォ……」

などと唸っているのか軋んでいるのか判別のつきがたい音を発しているモンスターは、『 上級元素土精霊(テラ・ハイエレメンタル) 』と呼ばれる奴だ。

見た目は雑なゴーレムとでも言うべきか。その辺の岩や鉄くずが大ざっぱにくっついて、かろうじて人型になっている、という感じ。

適当な外観ではあるが、 上級(ハイ) と名のつく通り、それなりの魔力量を宿した存在である。ゴブリンではとても歯が立たない相手だろう。

特に痛覚のないエレメンタルは恐怖心というものを知らない。そして、そんなロボットのように恐れ知らずなエレメンタルが土属性だと、石と鉄の頑強な体を持つことになるわけで。

つまり、斬撃、打撃、貫通、と大体の物理攻撃に非常に高い耐性を持つのである。

「こういう時、ウルスラの『ドレイン』は便利だよな」

「うん、エレメンタルは私にとってはカモ」

ウルスラが『 白夜叉姫(アナスタシア) 』の白い腕を一振りさせれば、『 上級元素土精霊(テラ・ハイエレメンタル) 』はゴロゴロと分解されるように体が崩れ去って行く。

魔法生命としての力を失えば、肉体となる岩や鉄の塊はバラバラになる。体に宿る魔力をダイレクトに吸収できる『ドレイン』は、奴らにとっては即死級の威力を誇る。

現れた『 上級元素土精霊(テラ・ハイエレメンタル) 』はほぼウルスラ一人で一掃された。

「ウゥー、レキの出番は!?」

「安心しろ、まだ来るぞ」

崩れ去った残骸の向こうから、また別の人型が現れる。

サイズはハイエレメンタルと同程度の2メートル前後だが、そのシルエットは比べるべくもなく洗練されていた。

「キュオオォ……」

呼吸音のような音を漏らしながら、しなやかな動作で歩いてくるが、生物ではない。

頭部のない人型。濃いグレーの体はマッシブに隆起しているが、それは筋肉ではなくゴムである。

「コイツがラバーゴーレムって奴か」

これも第三階層でよく出現する定番モンスターだ。

エレメンタルのように、岩や鉄をベースとした体を持つのが一般的なゴーレムだが、ゴムで出来ているのがコイツだ。無機物で体を構成できるんなら、ゴムでも何でもOKなのは当然かもしれない。

「自然のモンスターってよりは、ここで作られたロボットみたいだな」

ラバーゴーレムの体はゴムだけでなく、金属の骨格があるという。外観もエレメンタルが進化したというよりは、しっかりデザインされたような印象を受ける。

シンプルながら無駄のない工業チックなデザインというべきか。頭の代わりに、胸元に赤く光る一つ目とか、ロボットアニメに登場する敵の量産機とか言われても納得できそう。

「とりあえず、撃ってみるか――『 魔弾(バレットアーツ) 』」

「とりあえず、吸ってみるの――『 白夜叉姫(アナスタシア) 』」

「ノォー! また二人だけでぇー!」

そう言うなよ、レキ。

案の定というべきか、ランク3に分類されるラバーゴーレムは、俺の放った弾丸を喰らっても、多少よろめくだけで、大したダメージは通らなかった。

続くウルスラのドレインも、魔力吸収に対して構造的な耐性を持っているようで、それなりの時間、吸い続けなければ機能停止まで追い込めなかった。

「あのゴム人形とは相性が悪いの」

「古代の技術で作られたっぽいからな。何か防ぐような機能を持ってるんだろう」

「どんどん増えて来てるデスよ!」

ラバーゴーレムの最初の一体はゴリ押しで倒したが、お仲間がゾロゾロとやって来ている。

おまけに、後ろの方から『 上級元素土精霊(テラ・ハイエレメンタル) 』のおかわりと、ついでとばかりに『サンドレイス』という砂の亡霊みたいなモンスターも入り混じっていた。

俺達の立つ場所は、空っぽの倉庫みたいな建物の中。ここを通り抜けようとしたところでエンカウントだったので、入り口辺りに敵が湧くと、完全に退路が塞がれる形となる。

「ラバーはレキ、その他はウルスラが担当だ。俺が援護する」

「了解」

「イエーッス!」

元気よく飛び出して行くレキに 魔剣(ソードアーツ) をお供につけ、背後の方は、 魔手(バインドアーツ) で足止めだけできれば十分か。

これだけで、後は二人が上手く片付けてくれるだろう。

立ち塞がるゴーレムやエレメンタルをスクラップにしながら、第三階層を突き進む。

この階層はまだマッピングが進んでいるので、かなり正確な地図もある。お蔭で、ほとんど迷うことなく目的地までやって来ることができた。

「確か、この辺が出現ポイントのはずなんだが」

謎の工場や倉庫が立ち並ぶ景色から、ここは幾つもの道路が立体交差する、高速道路のインターチェンジみたいな地形になっている。

道路なのか、レールなのか、それとも別の設備なのか。ともかく、トラックも余裕で走れるほどの幅を持つ道が、縦横に走っているのだ。

道の上はコンテナの残骸や瓦礫が散らばっており、見通しはあまりよくない。もし俺が車を持っていても、ここを走りたいとは思わないな。

「特に何も見えないの」

「マイマイいないデース」

そんなにすぐ見つかるとは思ってはいないが、他のモンスターの姿が見えないのは少しおかしい。情報によれば、ここはモンスターの出現率が高いエリアのはず。

だというのに、これといって気配は感じられない。

「場所を間違った、ってことはないよな」

「ああー、いた!」

あらためて地図を広げ直したその時、レキが道路の端から身を乗り出して叫んでいた。

危ないだろ、と思うが、別にレキは十数メートルくらい自由落下しても問題ない体である。

「見つけたのか?」

「あれ絶対マイマイデスよ!」

ちょうど俺達がいる場所の下を通る道路上に、ソレはいた。

なるほど、確かにデカいカタツムリといった姿である。軽自動車くらいの大きさだ。

しかし、体の方はヌメっとした軟体動物特有の質感ではなく、どうやらラバーゴーレムと同じゴム質のようだ。

そして、その背にある大きな殻は、くすんでいるものの、確かに白金の輝きを放っている。プラチナムに間違いない。

ちなみに殻は、巻貝のように渦を巻く形ではなく、コンテナのような立方体であった。

「よし、ツイてるぞ。ちょうどターゲットが一匹だけだ」

それも、カタツムリのようにノソノソとスローペースで道路を這って進んでいる。こんなの発見だけしちゃえば、後はもう楽勝だろう。

と、思っていた矢先のことである。

「なんだ、急に速度が上がった?」

奴が歩いている道路へと俺達が降り立つと、明らかに進む速度が上がった。

全力で走り始めた、というよりは……何だ、体が少し浮いている?

フワリ、とマイマイの体が浮遊感を感じさせる挙動をとった直後――急加速。

車がアクセル全開にしたような猛スピードで走り始めた、っていうか、あのスライド移動は、

「なんだよアイツ、ホバークラフトかよ!?」

あんな高速移動するなんて聞いてねぇ、何がマイマイだよ!

「急いで追うぞ!」

「クロノ様、敵」

「そこら中から来るデス!」

それはまるで、危険を察知して逃走を始めたマイマイが警察に助けを求めたかのようなタイミングである。

道路の向こう側から、瓦礫を跳ね除けながら幾つもの人影が現れる。

それはここに来るまで散々、相手をしてきたラバーゴーレムなのだが、下半身に足はなく、大きな浮き輪のような形状になっていた。

「ラバークラフターなの」

「ホバークラフト流行ってんのか?」

ともかく、ホバー走行で移動するラバーゴーレムの亜種である。なまじ機動力がある分、ノーマルの奴らよりも厄介そうだ。

「レキ、ウルスラ、ラバーの相手は任せられるか?」

「任せて、クロノ様はマイマイを」

「ゴー!」

全力で逃走を始めたマイマイに追いつき、殻を傷つけず捕獲するのは俺が適任だ。

レキとウルスラのことは心配ではあるが……彼女達は俺が一方的に守るだけの子供ではない。同じ冒険者パーティの仲間だ。だから、こういう時は、信じて任せるべきだ。

そう心得て、俺は全力疾走で逃げるカタツムリを追いかけはじめた。

「はぁー、疲れた……」

ホバーで爆走するカタツムリを必死で追いかけ、どうにか 魔手(バインドアーツ) で絡め取り、捕獲に成功。

足さえ止めてしまえば、体当たり以外に攻撃手段のないマイマイを捕まえるのは楽なものだ。とりあえず『 封冷撃(コールドシール) 』で凍らせて、影空間へと放り込んである。

「クロノ様、お疲れ様」

「プラチナムマイマイ、ゲーット!」

ひとまず、クエストの目標達成を喜ぶ。

苦労はしたが、発見も早く済んだので、さほど時間はかかっていない。

「帰る時は転移で戻れるのは楽だよな」

「うん、まだ時間はあるけど」

「もう一匹マイマイ探すデス?」

「いやぁ、アイツと追いかけっこするのはちょっと……」

どうやら本当に逃げるマイマイがラバー共を呼んでいるようだ。追っている最中、妙な叫び声と共に、微弱だが魔力の気配を察知した。

この辺にモンスターが多いのではなく、マイマイが呼んでいるから多く感じるのだ。

全く、仲間を呼ぶコマンド持ちってことは、ちゃんとモンスター情報に明記しておいてくれよ。

ともかく、今回は上手くいったものの、マイマイの増援能力は少々、危険だ。レキとウルスラは問題なく現れたラバークラフトを撃退してくれたが、次はさらに数が増えるかもしれないし、より強力なタイプが来るかもしれない。

うーん、このクエは美味しいと思ったんだけどな。やはり、そう上手くはいかないか。

「折角だから、少しここを探索してみるか」

「オーケー」

「了解なの」

これからも、第三階層でクエストをする機会は多いだろうからな。少しでもフィールドに慣れておいてもいいだろう。

そうして小休止を済ませてから、第三階層の探索を開始した。

結果的に言えば、大したモノは見つからなかった。

倒したゴーレムやエレメントの中に、そこそこの値段で買い取ってくれるらしい金属パーツがあったことと、マイマイのように資材を輸送していると思しきコンテナを背負ったゴーレムから、銅と銀のインゴットを少々、入手したくらい。

まぁ、子供達へのお土産代+今夜の晩飯代くらいにはなるだろう。

「明日は別なクエストを探してみるか」

「クロノ様がいれば、第四階層の探索も不可能じゃないの」

「イエス! レキ頑張るデスよ!」

「そう焦らなくてもいいだろう。第四階層に挑むなら、二人の装備を強化してからでも――」

などと話しながら、帰還用の転移魔法陣がある広場へと向かっている最中であった。

「――『 黒壁(ウォール) 』」

俺とレキとウルスラ、三人分の壁を張った瞬間、カツン、と乾いた音が黒い壁を叩く。

見れば、そこには矢が落ちていた。

矢じりは緑っぽい粘液に塗れており、どう考えても毒矢である。

「待ち伏せか。ゴーレムじゃあないな――『 黒風探査(ウインドサーチャー) 』」

煙幕のように黒い煙が四方へと散る。煙から黒い疾風となって周囲一帯へ駆け抜けてゆき、そこに何者がいるのか俺へと教えてくれる。

「前に二人、そこの屋上に一人、後ろに二人だ」

大ざっぱに敵の位置と人数を伝える。

すでにレキもウルスラも武器を手に、臨戦態勢をとっている。というか、別に俺が壁を

張らなくても、二人は十分に対応できる動きを見せていたが、念のためというやつだ。

「チイッ、勘の鋭いヤローだ」

毒矢の狙撃を防がれ、奇襲の効果はないと悟ったのか、前方に陣取る襲撃者は堂々と姿を現した。

若い人間の女で、手に短弓を持っている。アレで毒矢を撃ったのか。

「黒仮面アッシュの噂は伊達じゃないってか?」

「第一階層で遊んでる間抜けかと思ったけど、なかなかやるんじゃない」

喋りながら、後ろからも襲撃者は出てくる。

こっちも女だ。ただし、片方は猫の獣人っぽい。

チラリと確認すれば、左側の屋上に陣取る一人の方も女性らしいシルエットが見える。

どうやら、全員女性のようだ。

「お前ら、シルヴァリアンの奴らか?」

「あんなのと一緒にすんじゃないよ。ウチらは『 超新星(ルルゥ・スターズ) 』さ」

知らない奴らだ。

しかし、いきなり毒矢を射かけてくるような連中なら、盗賊の類と見ていいだろう。

「プラチナムの殻を置いていきな。それで見逃してやる」

「身ぐるみ剥がないだけありがたく思いな!」

どうやら、俺達がマイマイを捕まえたことを知っているようだ。捕獲したところを見られて、目を付けられたといったところだろう。

しかし、このストレートな恐喝。彼女達は自分らの方が優位だと思っているのだろうか。

いや、問答無用で襲ってこないところを見ると、これで交渉しているつもりなのかもしれない。

俺が彼女達に脅威を覚えるのであれば、殻を引き渡してこの場は切りぬけるという行動も選択肢には入るのだろうが……

「――『 雷撃砲(ショックバスター) 全弾発射(フルバースト) 』」

バリバリと迸る、黒紫の雷光。

全方位へ放たれた『 黒雷(エンドボルト) 』の弾丸は、命は奪わずとも気絶させるには十分すぎる威力をもって、『 超新星(ルルゥ・スターズ) 』を名乗る賊へと襲い掛かった。

彼女達は五人それぞれ、俺の攻撃に反応してみせたが、それまでだ。防ぎきる手段もなく、かといって回避の余地もなく、三発以上はその身に命中。

「ギャッ!」

という短い悲鳴を残して、五人全員、仲良く地面へと倒れ伏した。

先にそっちが撃ったんだ。文句はないだろう。

「じゃあ行くぞ、レキ、ウルスラ」

「クロノ様、トドメ」

「こういう奴らは、生かしておいたら根に持ってまた襲ってくるの」

レキは大剣を抜き、ウルスラは薄らとアナスタシアを纏わせている。

口だけじゃない。二人の殺意は本物で、そうすることにまったく抵抗はないと感じさせる。

今まで、彼女達はそうやって来たのだから。

「こんな雑魚に構うな。さっさと帰るぞ」

問答無用で、俺は二人をそれぞれ脇に抱え込んだ。

「ウォウ!」

「むー」

二人は若干、不満げではあるが、抵抗はしなかった。

雑魚に構うな、なんてカッコつけたことを言ったが……つまるところ、俺はこの子達が人を殺すところを見たくなかっただけだろう。

分かっている、俺も二人も、とっくに人を何人も殺して、その手は血で汚れきっていることは。

それでも俺は、余計な殺人を重ねるつもりはない。二人にも、できるだけ殺して欲しくはない。必要ならば、代わりに俺がやる。

「身ぐるみは剥がないでおいてやる、ありがたく思え」

そんな捨て台詞を残して、俺は二人を抱えたままその場を立ち去った。