軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第716話 シルヴァリアン・ファミリア

シルヴァリアンの一族は、カーラマーラというアトラス大砂漠のど真ん中が大迷宮の発掘品により栄え始め、街が興った最初期から名をはせていた。記録上では、カーラマーラで最古の家柄であり、迷宮都市設立にも大きく関わったとされている。

そんなシルヴァリアン一族は現在でもカーラマーラにおいて大きな影響力を有している。

表の顔は、三大富豪の一角、シルヴァリアン商会として。

裏の顔は、三大ギャングの一角、シルヴァリアン・ファミリアとして。

カーラマーラの表裏ともに大きな権勢を誇るシルヴァリアンの今代の当主は、アンナマリーという名の女性。

早逝した父親から当主の座を継いだ娘のアンナマリーは、まだ右も左も分からぬ箱入り娘の可憐な少女。

しかし、四十年の時を経て、今も尚当主の座にあり続ける彼女は、当時の面影は最早どこにもなく、そこにはシルヴァリアン一族の長として君臨する女王となっていた。

「――なにとぞ、なにとぞお願い申し上げます!」

故に、目の前で大の男が涙ながらに頭を地面にこすり付けて懇願する姿を見ても、アンナマリーはどこまでも冷めた目で見下すのみ。

目に眩しいほどの白い輝きで彩られた彼女の執務室には、この部屋の主と、涙の土下座を貫く男の二人のみ。

「聞き分けの悪い男は嫌いよ」

わざわざ人払いまでしてこの男、ファミリアの 上級役員(キャプテン) の話を聞いてやったというのに、その内容は全く組織のためにならない個人的なお願い事。

アンナマリーの冷たい物言いは、そのまま彼女の失望を現していた。

そんな自分のボスの反応を、曲がりなりにもキャプテンまで登り詰めた男が、察せないはずもない。それでも、彼は頭を下げて頼み込むより他はなかった。

「――けれど、簡単に折れる男はもっと嫌い。いいわ、貴方が個人的に動く分には認めてあげる」

「あっ、あ、ありがとうございます!!」

男泣きに泣きながら、キャプテンは顔を上げて感謝の言葉を叫び、執務室を辞去していった。

彼の願いを許したのは、決して情にほだされたからではない。単純に、ここは温情をかけた方が得になると判断を下したからに過ぎない。

他人の主義思想、人生、命そのものさえ、アンナマリーにとっては損得勘定を決める一要素。それは商人としてもギャングとしても、同じである。

「マム、お客様が参っております」

「この時間に来客の予定はなかったはずだけれど?」

扉越しに聞こえた執事の報告に対する返答には、ささやかな苛立ちが混じっていた。

アポなしで訪れるような輩など、よほどの礼儀知らずか、それを許さざるを得ないほどの人物である。どちらの場合においても、良い客人であることはない。

「リューリック・トバルカイン様がおいででございます」

「リューリックが!? 急いで通してちょうだい!」

かしこまりました、という執事の返事が届くよりも前に、ドーンと思い切り両開きの扉が開け放たれた。

「はっはっはぁー! もう来てるよ!」

「まぁ、リューリック! ああ、久しぶりね、会いたかったわ!」

「俺もだよ伯母さん!」

あまりにも無礼な入出をかましたリューリックだったが、アンナマリーは喜色満面で可愛い甥っ子の帰還を迎え入れる。

客人には礼儀を問うが、家族はその限りではない。

「あらあら、こんなに髪を伸ばして、髭まで生やしたのね」

「似合わないかな?」

「いいえ、ますます男前になったわ!」

「ありがとう! 伯母さんも相変わらず綺麗だよ。キスしてもいいかい」

「んもう、いけない坊やね」

「伯母さんが魅力的すぎるのが悪いんだよ」

などと言いながら、熱烈なキスを交わして二人は再会を喜び合った。

そうして、ひとしきりはしゃいでから、ようやく腰を落ち着けて話をする運びとなる。

「ガシュレー副団長も、久しぶりね」

「はっ、ご無沙汰しております」

ガシュレーは普段の黒いアスラ胴着ではなく、ファミリアの正式構成員の多くが着用している黒スーツを身につけている。

カーラマーラでは広く普及している正装だが、筋骨隆々の大男であるガシュレーが着れば、ギャングの用心棒にしか見えない。事実、その通りではある。

一方のリューリックは、バリっとした白いスーツを身に纏っている。着る者を選ぶ白スーツだが、長身痩躯の色男である彼には、あつらえたように似合っていた。

「戻ってきてくれたのね、リューリック。間に合って良かったわ」

「そりゃあ、一族の悲願が叶うかどうかの瀬戸際だったからねぇ。急いでラグナから帰って来たよ」

「ええ、ようやくモノリスをザナドゥから取り戻せる機会が巡ってきたわね」

「それで、あのジジイはもう?」

「まだ生きている。本当に、どこまでも生き意地の汚い男よ」

冒険王ザナドゥ倒れる、のニュースはカーラマーラで知らぬ者はいない。だが、その詳しい容体を知るのは、ごく一部に限られるだろう。

「それじゃあ、奴がポックリ逝ってくれるまで、久しぶりの故郷でゆっくりしようかなぁ」

「あまり羽目を外しすぎないちょうだいね。貴方はちょっと目を離した隙に、何人も女をひっかけて来るんだから」

「おいおいおい、昔の話はやめてくれよぅ伯母さん。俺はもう結婚したし、子供だっている」

「アヴァロンに放っておいたままでしょう。こっちに連れて来ても良かったのよ」

「いやぁ、不出来な息子でねぇ……アイツには向いてない。俺の跡を継いで、騎士団長なんてとてもさせられないよ」

「ふふふ、貴方も父親の顔をするようになったのね」

才能など関係ない。騎士団長として重要なのは、古の第二使徒カインの末裔である血筋なのだから。

そんな一人息子を、あえて関わらせなかった理由など、一つしかない。

いくら『白き神』より加護を授かろうとも、聖堂騎士の団長は茨の道。心優しい、たった一人の愛息子を、神聖なれど険しい人生よりも、何も知らぬまま安穏の生を謳歌して欲しいと、ただの父親としては願ってしまうのだ。

「いやいや、単にアヴァロンのアークライトとの繋ぎにしておくのが一番いいってだけだから」

「いいわ、そこまで言うのなら、そういうことにしておいてあげる」

「ありがとう。やっぱ伯母さんは優しいよ」

「何を言っているの、私たちは家族でしょう」

冷酷なギャングの女ボス、アンナマリー。彼女の心からの微笑みは、家族にのみ向けられる。

シルヴァリアンは商会としてもギャングとしても、先代の父親の頃とは比べ物にならないほど大きくなった。組織こそ拡大したが、その分、血のつながった家族も失った。

だから尚更に、今も影ながら自分を支えてくれるリューリックのことが愛おしい。

「それで、この甥っ子めは敬愛する伯母さんのために、何ができるかな?」

「準備は万端よ。聖堂騎士もほぼ全員、召集できている」

「おおー、まさか騎士団全員を率いて戦う日が来ようとはねぇ、感無量ってやつ?」

「それだけ大規模な戦いになる、いいえ、するのよ」

「内乱かぁ……いいねぇ、ワクワクするよ」

「ふふふ、別に私達が動かなくても、ザナドゥが死ねば、勝手に始まるわ」

今のカーラマーラは、そういうパワーバランスになっている。

ザナドゥは冒険者としては一流で、そして商人としても一流だったが……組織の長としては、二流止まりだったようだ。

カーラマーラの半分を支配する、と呼ばれる彼の興したザナドゥ財閥は、子供や孫の血族をはじめ、財閥の幹部などが、それぞれザナドゥ亡き後の遺産と地位の全てを手に入れようと、日夜暗闘を続けている。

絶対的なトップであるザナドゥがいるからこそ、財閥は一つの組織として成立しているが、このまま彼が倒れれば、そのまま分裂するだろうことは明らかなほど、様々な派閥が争い合っている。

そしてザナドゥが死んで遺産争いが本格的に始まれば、それぞれの派閥と繋がりのあるまた別の勢力、シルヴァリアン含む三大富豪とギャング、その他、大手商会や、ロックウェルをはじめとしたアトラス大砂漠周辺各国も、この機会にカーラマーラの利権にありつこうと首を突っ込んでくるだろう。

無数の火種がカーラマーラ中にばら撒かれ、火薬庫が無数に乱立しているような状況だ。いつ、どこで、どんなキッカケで大規模な戦闘がはじまってもおかしくない。

「ザナドゥが死ねば、オリジナルモノリスの操作権限は一時凍結される。そうなれば、あとはもう単純に、一番戦力を持ってる奴が奪い返せるというシンプルな状況よ」

「モノリスの秘密、知ってる奴って他にはいそうかい?」

「そうね、あからさまに嗅ぎ回っているのは『 黄金の夜明け(ゴールデンドーン) 』くらいかしら」

「聞いたことないけど、どこの組織?」

「冒険者パーティよ。ランク5で、今はカーラマーラで最強と呼ばれているわ」

「なるほどね、大迷宮に潜り続けて色々と知ったワケだ……これだから、強い冒険者ってのは厄介だよ」

そういった輩は、これまでもいないワケではなかった。

それでも、カーラマーラの勢力図が変わらずにあり続けるのは、余計なことを知り過ぎた者を排除してきたから。この迷宮都市が作られてから、代々のシルヴァリアン党首達がずっとそうしてきたのだ。

オリジナルモノリスの秘密を握るのは、シルヴァリアンだけで良い。

神託を賜るまでは、決してオリジナルモノリスに触れてはならない。

故に、シルヴァリアンの一族は代々、誰もオリジナルモノリスのある大迷宮の最奥まで辿り着かないよう監視し続けてきた。まるで、王家の墓を守る墓守のように。

しかし、それを掻い潜ってオリジナルモノリスの元まで辿り着いた者がいた。

それが、冒険王ザナドゥ。

シルヴァリアン一族に課せられた聖なる使命のためにも、一刻も早くザナドゥの手からオリジナルモノリスを取り戻し、再びあるべき姿に戻さなければらない。

「きっと神託の時は近いわ……ようやく、私の努力も実を結ぶのね」

「この時代に生まれたこと、神に感謝だね」

「そうね、このタイミングで十字軍が来たのも、正に神のお導きというものでしょう」

アーク大陸からやって来た侵略者、十字軍のことは、南の果てにあるカーラマーラにもその話は届いている。耳ざとい商人なら、誰でも一度は聞いている。

だが、直接的に接触した者は皆無であろう。

十字軍はダイダロスを落としたが、スパーダに負けてガラハド山脈を越えられない。

竜王ガーヴィナルが支配する王国から、十字軍の植民地と、その地方の内情が変わっただけで、パンドラ大陸の大勢にはなんら影響はしない……と、誰もが思っている。

「おっ、もしかして、伯母さんはもう十字軍と?」

「ええ、少し前に、確認したわ――アレは本物よ」

へぇ、とリューリックの口から、彼に似合わぬ熱い吐息が零れた。

それは、純粋な期待。少年のように熱烈な期待。

十字軍が真に『白き神』の加護を得た軍勢ならば、ことはカーラマーラで内乱を起こす自分達だけでは留まらない。

もしかすれば、失われし聖地奪還、パンドラ大陸の完全征服という歴史的偉業、いいや、数千年越しの悲願が成就するかもしれないのだ。

「なるほど、アークライトが入れ込むワケだ」

「十字軍との繋がりは、今は彼らに任せておきましょう。私達はまず、自分の故郷を固めることが第一」

「でも、その後は――いいねぇ、夢が広がるねぇ」

「そうそう、そのアークライトを通して、十字軍から遠き地の同胞へと支援をいただいているわ」

「へぇ、それはまたお幾らほど?」

「私には計りかねるわね。だからリューリック、これは貴方が勘定してちょうだい」

と、不意にパチンと指を鳴らすアンナマリー。

どうやら、その乾いた響きは執事を呼ぶための合図ではないようだ。

唐突に、部屋の中に浮かび上がる白い輝きを放つ魔法陣。

それが転移の魔法陣であることをリューリックは知っていたが、そこから現れた人型には、見覚えがなかった。

「なに、この鎧? 誰が入ってんの?」

部屋の中に立つのは、白い装甲が眩しい重厚な鎧兜。頭から足の先まで、完全に覆われた全身鎧である。

「 機甲鎧(ホーリーギア) 、と呼ぶそうよ」

「へぇ、そりゃあまた御大層なお名前で――ってコレぇ、もしかして、 古代鎧(エンシェントギア) じゃないのぉ!?」

興味本位に鎧を眺めていたリューリックが、その正体に気づく。

古代鎧(エンシェントギア) 。エーテルを動力として動く、騎兵の機動力と重騎士の防御力を誇る、古代兵器の一種である。

「いいえ、 古代鎧(エンシェントギア) を元に、十字軍が開発したモノだそうよ」

「マジか、自前でコレ作れるとか、十字軍の魔法技術ヤバすぎでしょ……」

「悔しいけれど、彼らの方が私達より進んでいることは認めざるを得ないわね」

「これ、何機あんの?」

「21機。その内、1機はバラして解析に回しているから、動かせるのは20」

「もうこれ今すぐカーラマーラ乗っ取れんじゃねぇの?」

「過信してはいけないわ。これらもまだ、完成系ではないそうよ」

いまだ試作段階にあり、本格的な量産には至っていないが、まとまった数を揃えて出してきたことは、それだけで驚愕すべきことである。

「うーん、いいねぇ……いいよコレ! 気に入ったよ、コイツを俺に使わせてくれよ伯母さん!」

「勿論よ、貴方のためにとっておいたのだから」

「ヒャッホウ、ありがとう伯母さん、愛してるぅ! よっしゃ、行くぞガシュレー、早速コイツを乗り回してやるぜ!」

「やれやれ、了解だぜ、団長閣下殿」

そうして、リューリックはガシュレーに鎧を運ばせ、子供のように上機嫌で部屋を飛び出して行ったのだった。

カーラマーラ郊外。

どこか陰鬱とした街並みの中で、どこにでもありそうな大衆酒場は、今日も変わらずそれなりの客入りで営業中……と見せかけて、実質、本日はシルヴァリアン・ファミリアの貸し切りとなっていた。入口付近でたむろしている男達も、窓辺の席で外を眺めながら飲んでいる客も、全員がシルヴァリアンの構成員。

だが、今夜は彼ら構成員の労いの宴ではなく、主賓は別にいた。

「あらぁ、もしかして私が最後だったかしら?」

そして、場末の酒場には似つかわしくない、白い法衣に身を包んだその女性も、ここに招待された客の一人である。

淡い緑の髪を結い上げ、知的に眼鏡をかけた綺麗な、けれど温かな笑みを浮かべる若い女。華奢な体に纏うのは、白衣と呼ばれる、人々の傷病を癒す治療院を営む神官が着る専用の法衣である。首から下げたエメラルドの小さな宝珠は、パンドラ神殿に認められた正式な『 治癒術士(プリースト) 』の証。

つまり、彼女は治療院に務める本物の治癒術士なのだ。

しかし、この場には急患が出たから駆けつけたワケではない。

「いえ、お気になさらず。どうぞ中へ、キャプテンがお待ちです、ヒルダ様」

「はぁーい」

シルヴァリアンのガードマンを顔パスで酒場へと踏み入った治癒術士ヒルダは、興味深げにしげしげと中を見渡した。

予想通り、主な客は顔見知りばかり。

端っこの席で、ガツガツと豚のように飯をがっついているのは、豚のように肥え太った体をした、豚のように卑屈な性格の、『豚鼻』と呼ばれる男。

犬より鋭い嗅覚と、風魔法による臭気吸収などで、相手がどこに逃げても、隠れても、必ず見つけ出してくれる。キモいしウザいし汚いが、その追跡術は確かなので、同業者からはよく声をかけられている。

壁際で杯を片手に静かに佇んでいるのは、『透明』と呼ばれる、男か女かもよく分からない覆面の人物。

独自の光魔法で本当に透明になれる隠行術を持ち、愛用のボウガンで音もなく対象に毒矢を狙撃する、実に堅実なスタイルの暗殺者だ。常日頃から気配遮断の武技を発動しているので、彼、あるいは彼女、の存在に気づいているのは、ヒルダ含め、僅か数名だけだろう。

カウンター席で店主を相手に駄弁っている赤いローブの中年男は、『炎上』と呼ばれる炎魔術士。上級は勿論、 原初魔法(オリジナル) の火属性攻撃魔法の使い手だが、防御や支援など攻撃以外の魔法は一切使えない、火力至上主義者である。その惜しみない火力と、人も物も燃やすのが大好きな性格から、毎回必ず対象以外の範囲まで巻き込み延焼させるので、現場で彼の姿を見かけたら、誰もがそっと立ち去って行く。

それから、ど真ん中の席で片っ端から構成員を呼び集めて、何やら説教、いや、演説しているらしいのは……初めて顔は見たのだが、最近、噂になっている『ピンク』と呼ばれる人物であると分かった。

自称、正義の味方。自称、ランク5冒険者。全身ピンクのスーツに、フルフェイスのメットを被った、誰が見てもピンクと呼ぶより他はないほど、ピンク色の目立つ女である。

変態的な装備ではあるが、腕前の方は自称するだけあって、かなりのものらしい。金さえ積めば、どんな汚い仕事も請け負ってくれると評判だ。ただし、スタイルだけはやけにいいので、興味本位で夜のお相手を依頼しても、1億積んでもNGらしい。

「へぇー、超一流ではないけれど、それなりの面子は集めているのねぇ」

他にも、中堅やベテランといった面々が結構な人数、揃っている。見かけない顔もちらほら見受けられるが、それでも、駆け出しの新人といったような者は一人もいない。

シルヴァリアンの 上級役員(キャプテン) が一人で呼び集めるなら、最大限といったところである、

そして、居並ぶメンバーの顔ぶれを見て、ヒルダはこの中で自分が一番強い――

「あらあら、『錆付き』まで呼ぶなんて、よっぽど殺したい相手がいるのねぇ」

二番目に強いことを確信する。

酒場の柱の影に、ぼんやりと立ちすくんでいる、ボロボロのローブで全身を覆った人物。深く被ったローブの奥には、錆びついて赤茶けたフルフェイスのヘルムだけが覗く。

『錆付き』と呼ばれる彼だけは、腕前だけなら間違いなく一流どころに食い込む。しかし、それ以外に問題があるので、彼を投入できる条件が揃った依頼でなければ、まず呼ばれることはない。

「ううーん、今回の依頼はなかなか競争率が高そうかなぁ」

そう独り言を零しながら、手近な席に座ったヒルダは――通称『子殺し』と呼ばれる、依頼の際には関係無関係を問わず、必ず子供を殺す、趣味と実益を兼ねて殺し屋をやっている女である。

最後の招待客としてやって来たヒルダが席についた直後、依頼主であるキャプテンは今回のターゲットを伝えた。

「――アッシュと呼ばれる、黒髪の男だ」

奴隷商船ホワイトウィッシュ4号船が帰港の途中に流砂の海から拾ったという、黒い髪の大柄な男。鍛え上げられた肉体から、労働奴隷か剣闘奴隷としてそこそこ良い値がつくだろうと、気絶したまま牢に入れていた。

だが、その男はかなりの実力を持つ魔術士だった。

船が帰港した直後に起こった揉め事に乗じて、船長を殺害し、子供の奴隷一人を連れ、仲間と思われる少女二人と共に逃亡。

事前に奴隷商船のことを嗅ぎまわっていた仲間の少女が、レキとウルスラという最近カーラマーラで活動を始めたばかりの冒険者であることは分かっていた。

事件が起こったその日の晩には、シルヴァリアン・ファミリアは報復に動き、彼らが潜伏しているスラムのアパートを襲撃――だが、甚大な被害を被った上に、全員の大迷宮への逃亡を許す。

そして、ここでシルヴァリアン・ファミリアの女首領アンナマリーは、さらなる報復を行うよりも、手を引くことを選択した。

他の敵対組織とは何の繋がりもない、本当にただ強い力を持つだけの一個人。無理を押して殺したところで、守った面子と失った損害では、後者の方が遥かに大きいと、損得勘定には聡いアンマナリーは考えた。

故に、手出し無用と決まったが……今回の依頼を呼びかけたキャプテンは、それを良しとしなかった。奴に殺された船長は、彼にとってはずっと昔からシルヴァリアンでやってきた弟分、いわゆるひとつの盃を交わした義兄弟という関係だから。

アンナマリーに直談判し、個人で復讐を行う分には、責任を追及しないとのお言葉をもらったキャプテンは、こうして、呼べるだけの殺し屋達を集めたのだった。

「奴は十人のガキ共を連れて、第一階層に潜伏している。コイツが抱えているガキ諸共、殺せ」