軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第706話 ダンジョン生活(3)

「今日からここが、みんなの新しい家だ」

「ウォウ! すっごい広ぉーいデぇース!」

無邪気に喜びながら、広々とした一室に子供達と一緒に駆け込んでは、はしゃぎまわるレキ。十人で追いかけっこできるほどには広いからな。

「設備も生きてるし、汚れもそれほどでもない。おまけに地下室とは……流石はクロノ様、完璧な物件なの」

無邪気に遊ぶレキとは対照的に、ウルスラは相変わらず冷静に状況を理解してくれていた。流石というべきはウルスラの方だろう、正に俺がここを選んだ理由を上げている。

「本当に、よくこんな場所を見つけられたの。ここまで好条件が揃っていれば、とっくにセーフゾーンとして利用されているはずなのに」

「ギガスっていう倒しても旨味のないボスみたいな奴が居座る場所だったからな。第一階層を漁る奴らは、まず近づかないらしい」

「ギガスの名前は聞いたことあったけど……なるほど、そういうことなの」

ギガスをワンパンでブッ飛ばした俺は、隅々まで校舎を探索した結果、ここが隠れ家に相応しいと決断を下した。

誰も入る者がいないお蔭か、校内はほとんど荒れておらず、多少埃っぽい程度。ゾンビも一体も見当たらなかった。その代わり、やはりお宝は勿論、これといって目立つ物資もない。どこもガランとした空き室で、教室と思しき部屋に机と椅子が備え付けられている程度だった。

だが、物はないけど設備はしっかり残っている。

灯りはちゃんと点く。特にスイッチを押した覚えはないが、真っ暗な部屋でも踏み込めば自動的に光が灯る。電灯、ではなく魔力で動いているのだろうが、天井に設置されている四角いパネルが蛍光灯のように過不足なく光を発して室内を照らしてくれる。

灯りの他にも、水場では蛇口としか思えない管から水は出るし、トイレも水が流れるし、シャワールームまであった。ちゃんとお湯も出ることは確認済み。

さらには広間の隅には、テレビのように映像が映る例のヴィジョンが設置されていた。

適当に弄ってみると映像が流れ始め、どうやら普通に利用することができそうだ。こんなテレビの一つでもあれば、子供達の退屈もいくらかは紛らわせることができるだろう。

なんでも、あの白崎さん似のアイドル少女は大人気で、ウチの子達も大好きなのだとか。

それにしても、ゾンビの徘徊する廃墟の街のくせに、電気と水道のインフラが生きているのはどういうことなんだと思うが……少なくとも、古代遺跡であるカーラマーラの大迷宮ではこれが当たり前らしい。

人が生活していたと思しき場所では、灯りや水などがきちんと確保されていることが多い。お蔭で、ダンジョン攻略をするにあたっての休憩地点として活用されている。たまに完全に停止しているところもあるらしいが、この学校はまだちゃんと古代遺跡としての機能が生きているのは、ありがたいことだ。

それから、ここを隠れ家として決める強い後押しとなったのが、今、レキが子供達と追いかけっこして遊んでいる大広間、シェルターとでも呼ぶべき立派な地下室が存在することである。

校舎一階から、結構長い下り階段を降りた先に、この地下室のある階層があった。今いる大広間と、小部屋が幾つかと、倉庫のような部屋。それから、トイレもある。

地上にある校舎でも暮らすには十分だが、この地下室ならば子供達がどんなに騒いで遊んだりしても、誰にも気づかれる心配はない。

この地下シェルターの如き階層に籠っていれば、ギャングにもゾンビにも見つかることなく、安全に生活を送ることができるだろう。

「ひとまず、住む場所は確保できたが、生活するなら色々と必要だな」

「うん、せめて人数分の布団と枕は欲しいの」

短くて一ヶ月、長ければ三ヶ月ほどの期間をここで過ごさなければならないのだ。住環境を整えるために、寝具を始め必要なものは多い。

夜逃げの準備をしていたお蔭で、ある程度の荷物こそ持ち出してはいるが、その大半は貴重品、食料品、医薬品、それと少々の衣類だ。元々は貨物船に密航する数日間だけ、耐えられるだけの準備しかしていない。

俺の方も『 影空間(シャドウゲート) 』の中に充実したサバイバル用品が揃っているとはいえ、あくまで個人用。寝袋十人分など、流石に用意されてはいない。

「買い物にいくにしても、砂嵐がもう少しおさまってからじゃないと無理だしな」

一寸先まで砂色一色となっている砂嵐が轟々と渦巻いているのを見たのは、つい今朝がたのこと。

カーラマーラは大嵐が到来した期間中、ずっとあの状態が続く……というワケではない。これも古代遺跡の恩恵というべき、砂嵐を防ぐ結界機能があるらしい。

しかし、即座に起動して砂嵐を防ぐことができるのは、『テメンニグル』の突き立つ中心から半径2キロほど、カーラマーラ中心部。富裕層の住む地域のみ。

スラム街含むカーラマーラの全域まで覆い尽くすだけの結界が機能し始めるには、三日ほどはかかるという。露骨な差があるものの、それでも都市全域が砂嵐を防げるだけマシだろう。

そういうワケで、街を出歩くなら早くても明後日からとなる。それまでの間、固いコンクリートみたいな床の上で雑魚寝というのも可哀想だが……

「大丈夫、大抵のモノは現地調達でなんとかなる」

「そうなのか? その辺に都合よくベッドと布団が落ちているとは思えないが」

「再生されるのは、食品やアイテムだけじゃない。その建物にある家具もそう」

「そうか、なるほど、綺麗なところから丸ごといただいてくればいいワケか」

この街は全てが荒れ果てた廃墟ではなく、物資が湧くリスポーン現象が起こった場所は、建築物含めて綺麗に再生される。普通はわざわざ回収しない、家具などの大型の物品なども、持ち出そうと思えば持ち出すことが可能だ。

考えてみれば当然のこと、ここはオープンワールドでゾンビの徘徊する街でサバイバルするゲームの世界ではなく、リアルの異世界である。目の前に存在する物は全て、利用できるのだ。

「クロノ様は高度な 空間魔法(ディメンション) も使えるから、ベッドをそのまま回収することも簡単」

「よし、それじゃあちょっと集めてくる」

今夜寝る時までには、人数分の寝具を揃えよう。

「それなら、私も一緒に行くの」

「俺一人で大丈夫だ。先にみんなと夕飯を済ませておいてくれ」

ギガスを倒して学校を制圧したのが昼過ぎだった。それから、子供達を率いて第一階層を慎重に行進して、ここへ無事に辿り着いたのがついさっき。ダンジョンの中でも昼夜の概念があるのか、空はすっかり日が暮れて暗くなっており、夜の時間帯へ突入している。

子供達も昨晩の脱出劇に続き、今日の移動もあって、疲労が溜まっているだろう。もう夕飯だけ済ませたら、すぐに寝た方がいい。

「それじゃあ、クロノ様のご飯は」

「俺のことは気にしなくていい。さっき、カロブも食べたから」

「アレを食べたの」

「栄養だけは満点らしい。とりあえず十分だから」

気遣い無用、とばかりにそう言い残して、俺はさっさと出て行くことにした。ウルスラの俺を気遣う気持ちは十分に伝わるが、今は自分の体を労わるよりも、少しでも頑張るべき時だ。

すでにして、俺の体は不眠不休でも一週間ぶっ続けで活動できるだけの人外のスタミナを宿している。だから、子供達のためのベッド探しくらい、なんてことはないさ――などと、カッコつけた気持ちで出発したのだが、結局、やや埃っぽいベッドしか発見できずに、あまり気持ちよい寝心地をプレゼントすることはできなかった。

ごめん、みんな。明日はもっと良いのを探してくるから、今夜はこれで我慢をしておくれ……

翌朝。冥暗の月3日。

俺はレキ、ウルスラ、クルス、の保護者役三名を集めて、本日の予定を話すことにした。

「とりあえずベッドは急いで集めて来たけど、他に必要な物があれば言って欲しい」

今日は本格的に第一階層を探索して、充実した隠れ家生活を送るための物資を集める予定である。

「と言っても、ここは設備が充実しているから、それほど必要なモノはないの」

「シャワーまでついてるなんて、夢のマイホーム!」

「いや、定住しないけどな」

今まではシャワーの一つもないような部屋を借りていたのだろうけど、きっと俺達ならすぐに良い部屋に住めるくらい稼げるようになるさ。それもこれも、無事にカーラマーラを脱出してからの話だが。

「クルスは、何かあるか?」

「えっ、あ、えーっと……タンスとか、食料を備蓄するための冷蔵庫とか、ですかね」

レキやウルスラと違って、過去の俺と面識のないクルスは、あからさまに視線を逸らして、余所余所しい感じ。まだ俺の顔を直視してくれるほど、慣れてはいないようだ。

それでも、ちゃんと意見を述べてくれるあたりは、しっかりしていると思う。

彼はこの中で最年長で、しかも男子である。クルスとは早めに打ち解けておかなければいけないだろう。

「タンスはいくらでもありあそうだが、冷蔵庫か……」

やはり、魔法で冷やす方式なのだろうか。そんなのあったかな。昨日の探索では、それらしきものは見当たらなかったが。

「ここは部屋が沢山あるから、氷の 魔法具(マジックアイテム) で丸ごと冷凍倉庫にする手もあるの」

なるほど、そういうのもあるのか。

その辺で見つからなかったら、カーラマーラでその氷のマジックアイテムとやらを買い求めてもいいだろう。

食料はそこそこあるが、ウルスラ達が準備していたのも、俺が保管していたのも、日持ちする保存食ばかり。毎日そればかりを食べるのは、不可能ではないが精神的によろしくない。俺だけならいいけど、子供達には少しでも美味しいモノを食べさせてあげないと。

どの道、こんな地下室でほとんどを過ごすことになるのだ。ストレスはできる限り、抑えられるようにしたい。

「ここで料理をするなら、調理器具も必要になるの」

「食器も欲しいよね。全部、アパートに置いてきちゃったし」

「みんなで食べるから、大きいお鍋が欲しいデース」

キッチンまわりも整える必要があるか。サバイバル調理器具も所持はしているが、所詮は最低限。レキの言うように、子供とはいえ十人もの人数分を調理するなら、鍋も相応のサイズのものがいるだろう。

「シャワーあるから、タオルもいるし、石鹸も……ああ、そうなると洗濯のことも考えないと……」

古代遺跡の素晴らしいインフラ整備のお蔭で水回りは保証できているから、シャワーに洗濯と、水を使うことに問題はない。

そうだ、洗濯とは別に、普通の掃除も必要だから、清掃具も一式揃えないといけないだろう。

うーん、何だか、いざ考え始めると欲しい物がどんどん増えて行く。まるで初めての一人暮らしをする時のようだ。一人暮らし、したことないけどな!

「――よし、大体のことは決まったな」

ほどほどに話し合い、おおまかに必要なものをメモっておく。

今日はメモした物を探しに第一階層を探索。手に入らなかったものは、砂嵐が結界で止み次第、買い出しに行く。

「それじゃあ、ちょっと行ってくる」

「行ってくるの」

「ヘイヘイ、なんでレキがナチュラルにお留守番の流れデスか」

当たり前のように俺について来る態度のウルスラに、レキが絡んでくる。

いや、そもそも俺は一人で行くつもりだったんだが。

「私がクロノ様に同行するの」

「レキが行くデス!」

「いや、二人とも留守番で」

「それはダメなの」

「ノン!」

「えぇ……」

何だこの不毛な話し合いは。三人の意見が三人とも平行線じゃあないか。

「俺は二人とも残ってくれた方が安心できるんだが」

「ううぅー、レキも一緒に行きたいデス!」

「ふっ、仕方がない、ここは私が同行するメリットを理路整然と説いてやるの」

と自信満々に、レキには敵わないが確かに膨らみかけている胸を逸らして、ウルスラが言い放つ。

「私は第一階層のオススメ探索ポイントの情報を知っているの」

「よし、ウルスラ、一緒に行くか」

「ノォーッ!!」

速攻で俺がウルスラに折れたせいか、レキが涙で絶叫からの、思いっきりダイブして抱き着いてくる。感情と行動が直結している、犬みたいな子だな。

「ううぅ、レキだってクロノ様の役に立つデスぅ……」

「ふふん、力自慢なだけのレキにできることはない。自分の無力を噛みしめるがいいの」

「煽るなよ、ウルスラ」

割とレキがマジ泣きしてるぞ、可哀想だろうが。

「今回は情報の方が大事だから、ウルスラに同行してもらう。レキはちゃんと、砂嵐が晴れたら二人で買い物に行こう。約束だからな」

「イエス、イエス! 約束デスよ!」

「え、ちょっと待って、約束ってなに」

攻守一転、今度はレキが勝ち誇った顔で、困惑するウルスラを横目にしている。

「それじゃあクロノ様、ウル、行ってらっしゃいデス!」

「ああ、行ってくる」

「約束ってなんなの、クロノ様ぁーっ!」

そこはかとなく漂う修羅場の気配に、俺は気付かないフリをして、今日も元気に廃墟の街へ繰り出すことにした。

「……スラッシャーの館?」

「そう、ここを狙うのがベストなの」

ウルスラが色々とメモの書き込まれた彼女自前の第一階層マップを開いて、これから攻略するオススメポイントを示してくれる。

拠点としている学校から、距離はそれほど遠くない。やや中心部に位置したポイントである。

「この辺は高級住宅街のようになっていて、スラッシャーの館は危険度の高さから、どこの奴隷も物資回収コースから外されている。館はかなり短い周期で再生していて、そこにある家具も高級品らしい。勿論、他の物資もそのままいただけば、それなりの稼ぎになるの」

なるほど、ギガスを倒せるだけの力を持つ俺なら、他の人が忌避するような場所でも難なく攻略できるというワケだ。

こんなに楽をしていいのか、と思うが、第一階層を余裕で攻略できる実力者なら、さらに実入りのいい第二階層、第三階層、とどんどん先に進むから、わざわざこんなところは狙わないという。ただし、ギガスの城よりは収穫が見込めるので、定期的に挑戦者は現れるようだ。

「で、『スラッシャー』ってのはどういう奴なんだ?」

「カマキリみたいに、両手が刃物になっているゾンビ系モンスター」

なるほど、ゾンビゲーにも、たまにそういう奴いるよな。

詳しく説明を聞けば、スラッシャーは両手が剣、鎌、斧など形状はまちまちだが、斬れ味鋭い刃物になっており、ランナーを越える素早いスピードで襲い掛かってくる、ゾンビの亜種としては厄介な部類に入る奴だ。

しかもギガスのように単体ではなく、大抵は数体で群れており、ある程度の連携もしてくる。その上、出現するのは基本的には屋内で、天井や物陰に潜み奇襲も狙ってくる始末。

うん、ゾンビゲーだったら確実に中盤以降に出てくる強敵タイプの雑魚だな。

「一度だけ、スラッシャーとは戦ったことがあるの。私の『 白夜叉姫(アナスタシア) 』も通じるし、レキも正面から斬り合って勝てる程度。クロノ様の敵じゃない」

「期待に応えられるように頑張るよ。ところで、そのアナスタシアっていうのが、ウルスラの使ってる、あの白い霧みたいな魔法なのか?」

「そう、効果は『 吸収(ドレイン) 』」

「なかなか強力な能力だな。名前も何かカッコいいし」

「本当に、全部忘れてしまっているの……『 白夜叉姫(アナスタシア) 』と名前をつけてくれたのは、クロノ様なの」

寂しそうな顔で、ウルスラは語る。

かつて、自分の体に宿る魔法の力をコントロールできず、ずっと使わないようにしてきたこと。けれど俺の指導のお蔭で、制御する術を身に着け、今では意のままに操れるほどにまで熟達したと。

「……すまない、ウルスラ。まだ、何も思い出せないみたいだ」

「ううん、いいの。いつかきっと、クロノ様の記憶は戻るから」

寂しい思いをさせたのは俺の方なのに、こっちが気遣われる言葉をかけられてしまうとは。

俺としては、綺麗さっぱり記憶喪失になっているからこそ、自分の身に起こっていることがそれほど悲劇的に思えない。大切なモノを失っているはずなのだが、それが何なのか全く分からないからこそ、不安も焦燥も湧きようがないのだ。

大切な思い出を忘れられたと彼女を悲しませてしまう方が、俺にとっては問題である。

「それじゃあ、クロノ様はやっぱり自分の魔法のことも忘れているの」

「ああ、そうだな。身に覚えのない魔力の感覚もあるし、かなり忘れていそうだよ」

パイルバンカーの時に迸っていた赤い魔力オーラなど、特にそうだ。やはり全く身に覚えはないのだが、アレも間違いなく過去の俺が身に着けた新たな黒魔法の力である。

「私が知っている同じ魔法でも、名前が違っていた」

「そうなのか」

「うん、黒色魔力の弾丸を撃つ攻撃魔法は『 魔弾(バレットアーツ) 』。黒化した剣を操作するのは『 魔剣(ソードアーツ) 』と呼んでいた」

それはまた、何とも俺が考えそうなネーミングだ。

「他には、爆発する『 榴弾砲撃(グレネードバースト) 』もある。ギャングから逃げる時に、大勢を相手にしても撃ってなかったから、もしかしてこれも忘れてしまっているのかと思っていたけど」

「その通りだ。今の俺には、爆発させるタイプの黒魔法を習得した覚えがないんだよ」

まさか、そんな便利な範囲攻撃魔法を使えるようになっているとは。頑張ったじゃないか、昔の俺よ。

「それから」

「まだあるの?」

「うん、一番気になったのは……接近戦をしないこと」

「昔の俺、そんなに接近戦ばっかりしてたんだ」

「元々、レキのように大型の武器を振るって戦うのが基本スタイルだった。黒魔法は強力だけど、オマケというか、メインで使っているようには見えなかったの」

おいおいおい、俺が黒魔法メインじゃないとか、どういう経験をしたらそういうバトルスタイルに行きつくんだ。

黒魔法は俺が機動実験を生き残るための唯一の手段であり、俺が持つ最大の力だ。

それをオマケ程度の運用で、武器を振る剣士や戦士のような戦い方がメインになるとは……よっぽど、強力な武器を持っていたのだろうか。

黒魔法よりも遥かに強力な魔法の武器とかがあれば、確かにそっちをメインにした戦い方になってもおかしくはない。聞けば『武技』という魔法とは異なる接近戦用の技もあるらしいし。

機動実験でも武器を使う奴の中に、時折、魔力の籠った強い一撃を放ってくることがあったが、多分、ああいうのが武技なんだろう。てっきり、パイルバンカーと同じような攻撃魔法の一種だと思っていたが、同じ魔力を使った攻撃法でも、系統が異なるようだ。

過去の俺も、武技を身に着けていたのだろうか。

「今すぐ剣士のような戦い方が上手くできるとは思えないな。当面は、黒魔法を鍛え直す方向でいくよ」

「私にできることがあるなら、何でも協力するの」

「ありがとな。記憶喪失の俺じゃあ、魔法はウルスラの方が先輩だろうし、頼りにさせてもらうよ」

「ふふん、任せて欲しいの」

頼られることが嬉しいのか、自信気に応えるウルスラが微笑ましい。

「ところで、アレが『スラッシャーの館』で間違いないか?」

「うん、ここがそうなの」

お喋りしている間に、俺達は目的地へと到着した。

目の前には、木々が生い茂った広大な庭と、その先に不気味にそびえる大きな洋館が立ちはだかっていた。

うーん、これはバイオなハザード感が漂う、雰囲気満点の洋館だ。

だとしても、実質、弾薬無制限でアサルトライフル撃ち放題、ショットガン、アンチマテリアルライフルもあるよ、という状態なら、さほど怖さも感じない。

「それじゃあ早速、泥棒させてもらおうか」

「根こそぎいただいてやるの」

奪う気満々の俺達は、真っ直ぐ正面玄関をぶち破り、スラッシャーの館へと突入を果たした。