軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第699話 小さな人質

「げぇっへっへぇ、ようこそぉ、お嬢ちゃん達、白き希望の船、ホワイトウィッシュ四号船へ!」

甲板に投げ込まれた煙幕が、吹きぬけて行った突風、いや、これは間違いなく風魔法だな。それによって吹き散らされた後、大勢の部下を引き連れて堂々と大柄な男が現れた。

タラップを降りて下船する寸前で伏せっていた俺は甲板の隅っこに位置して、煙幕が晴れた今、状況はよく見える。

「アイツはこの船の船長なのか?」

「ただの船長じゃねぇよ。ウチのはなぁ、シルヴァリアン・ファミリアの役員でもあんだよ」

なるほど、分からん。

だが、何となく勢いで一緒に伏せさせたチンピラ男の解説のお蔭で、あの男が船長であることは確定した。

ホワイトウィッシュ、などと言うくせに微塵も白さを感じさせないボロ船だが、船長の格好は妙に小奇麗ではある。海賊映画に登場する船長、みたいな感じではないな。

紺色のストライプのスーツみたいな格好に、派手に羽飾りのついた白い毛皮のコートのようなものを羽織っていて、どっちかというとギャングのボスみたいな出で立ちである。

年齢は皺の出始めた中年で、体格は良さそうだが、その分腹も出ているドッシリした体型。顔には一筋の傷痕と、少々の火傷の痕があり、どこからどう見ても堅気の男には見えない面をしている。

だが、注目すべきは如何にも悪役染みた気配を発する船長ではなく、奴が右手に握った鎖……その先に、一人の小さな女の子が繋がれていることだ。

「リリアンっ!」

「良かった、まだ無事なの」

煙幕を散らされた結果、すでに甲板に上がり込んできていた乱入少女二人の姿は、明らかとなっている。

そして二人のリアクションからして、どうやら目的はリリアンと呼ばれる、船長に捕まっている幼女の救出だと思われた。

「おい、あの女の子は何なんだ? 何故、捕まっている」

「ああ、出航前に船長が買い込んだんだよ。首輪つけて連れてんだ、理由はお察しってもんだろ?」

つまり、ロリコンか。いや、ペドフィリアと呼ぶべきだろうか、あんなに小さな子を相手にしているとなると。

わざわざ鎖のついた首輪をかけ、薄汚れたシャツ一枚を着せて、従わせているのだ。少なくとも、ペットのようにただ可愛がるだけ、という扱いではなさそうだ。

全く、反吐が出る。

「まさかとは思ったが、ふへへっ、本当に船に乗り込んでくるとはなぁ。いい度胸してるぜ、お嬢ちゃん」

「リリアンをさっさと離すデス!」

「大人しく解放すれば、命だけは助けてやるの」

甲板の真ん中で、金髪娘が大きな剣と斧の二刀流を構え、褐色娘は杖を掲げて、薄らと白い霧のような魔力を纏わせている。

「おっとぉ、そういうのはコッチの台詞だぜ……わざわざこんなガキ一匹を助けに来たんだ、大事なんだよなぁ、コイツの命が!」

「ううっ!」

鎖を引っ張り上げ、その先に首輪で繋がれた小さなリリアンは体ごと持ち上がり、苦しげな呻き声を漏らす。

まずい、あんな幼児に手荒な真似をすれば、本当に取り返しのつかないことになるぞ。

「武器を捨てろ。魔法も使うな。テメーらが何かするよりも前に、俺がガキを殺す方が早ぇってのは、見りゃあ分かんだろが、ああ!」

ドスの聞いた大声で怒鳴りながら、船長はこれ見よがしにギラついた 短剣(カトラス) を、リリアンの首先に突きつけた。

「ぐっ、うぅ……グルル!」

「待って、ダメなの」

金髪娘が目を血走らせた憤怒の表情で、今にも飛び掛からんばかりの気配を見せるが、相方の褐色娘が止めている。

そりゃあそうだ、ここで怒りのままに飛び出しても、船長がリリアンを殺す方が早い。何より、取り巻き達がそれとなく船長の身を守る様に武器を手にして、中には杖を持って防御魔法を発動しかけている奴もちらほら混じっている。

ただ正面から斬りかかるだけでは、手下の守りを突破することもままならないだろう。

有効な人質と、充実した護衛。この状況を揃えた時点で、船長の勝ちは決まっていた。アイツが全く取り乱した様子がないのは、あの二人の少女がカチコミをかけてくることを最初から見越していたような雰囲気もする。

だとすれば、勝負は最初から決まっていたのだ。

「なぁ、あの子らが船長をぶっ殺して、女の子を攫って逃げたら、その先どうなる?」

「決まってんだろ、ファミリアの役員に手を出されりゃあ、黙っちゃいられねぇ。この街にいる限り、四六時中付け狙われることになる」

「他に追う者や、保護する者はいないのか」

「兄ちゃんマジで世間知らずかよ。このカーラマーラで憲兵に頼ろうなんて奴ぁ一人もいねぇぞ。アイツらは金でしか動かねぇ傭兵みたいなもんだよ。それもとんだ怠け者ときたもんだ」

「そうか、それを聞いて安心した」

流石に、いきなりお尋ね者になるのは御免だからな。

逃げても、追いかけてくるのが奴隷売買を生業とするギャングみたいな奴らだけというなら、まぁ、何とかなりそうな気がする。返り討ちにしても、心も痛まなそうだし。

「おい、どうしたぁ! さっさとしねぇと、ガキが死ぬぞコラぁ!!」

そう怒鳴りつけながら、さらに鎖を持ち上げる船長。

首輪に釣られて、リリアンは首吊りのような格好となり、必死につま先を伸ばしてバタついている。

円らなエメラルドの瞳に、苦しさと恐怖からくる涙を堪えて、それでも彼女は言っていた。

「お、姉ちゃん……逃げ、て……」

助けて、ではなく、逃げてと、そう彼女は言っている。

強い子だ。

子供ながらに、命の危機だと分かっているはずなのに、それでも、あの子は助けに来た少女二人のことを心配している。

その優しさに、健気さに、そして何より勇気に、俺のくだらない迷いは全て吹き飛ぶ。

「ああ、今助けるさ――『アンチマテリアル』」

黒色魔力と、そして抑えつけた怒りを込めて形成させた、漆黒の疑似 完全被鋼弾(フルメタルジャケット) 。

音もなく手元に浮かんだ黒き弾丸は二発。

万全を期して、ここは二発同時発射の狙撃でいこう。

「あ? 兄ちゃん、何だよソレ――」

ドンッ! とチンピラ男の台詞をかき消す激しい発射音を轟かせて、二発の弾丸は疾走する。

「いつまで待たせやがる! 黙ってんじゃあねぇぞこのクソガ――ぶべぁ!?」

一発は、船長の頭を貫く。

台詞の途中で顔が弾けたものだから、変な声を漏らして一瞬で首なし死体と化す。

子供を人質にとる、その非道は残りの人生全て費やしてでも償ってほしい所業であるが、今は緊急性を考慮して、速やかな射殺を選ぶしかない。悪党に安らかな即死は勿体ないが、精々、地獄で苦しんでくれることを祈ろう。

この距離で、この見通しの良さ。ヘッドショット一発で仕留める自信はあったが、万が一に備えて、二発目の方は船長がカトラスを握る左腕を吹き飛ばしている。

計算通り、リリアンを傷つけることなく、腕ごとその凶器を遠ざけることに成功した。

俺の黒魔法『アンチマテリアル』は、サラマンダーの鱗など、頑強な防御を誇るモンスターを相手にするためのものだ。何の強化も魔法もない人間の肉体など、紙切れのように容易く吹き飛ばす――のだが、何故だろう、俺が思っていたよりも、遥かに強い威力になっている気がする。

怒りで魔力のコントロールを誤ったか。いや、適量だと思ったんだが……いやいや、そんなことより、もうすでに事を起こしてしまった以上、一秒の猶予もなく動き出さなければいけない。

アンチマテリアルをぶっ放すと同時に駆け出して、甲板を全力疾走で突っ切る。

俺を止める者は、誰もいない。

船長の頭が突然弾けて死んだ、という目の前の状況を部下達が認識するよりも前に、俺はリリアンの下へと到着。たかだか数十メートルの距離、俺の脚力なら一秒もかからず踏破できる。

「――っと」

船長の手から解放されたリリアンを回収。

ぐったりと床に倒れ込んでいる小さな体を抱き上げようとしたところで、そういえばまだ俺の両手に手錠がかけられたままだったことに気づき、力任せに破壊。一瞬でバツっと鎖は千切れ飛ぶ。本当に脆い手錠だ。コレも安物か。

一秒未満で自分の手錠を外し、今度こそリリアンを拾い上げる。米俵のように肩に担ぎそうになったが、ちょっと体勢的に可哀想かなと思い直し、抱っこに変更。

そうしてリリアンを抱っこで確保した辺りで、船員共はようやく突っ込んできた俺の存在に気づいたようだ。すでに臨戦態勢ではあった奴らが、武器を振り上げ動き出そうとしていた鼻先に、煙幕の黒魔法を炸裂させる。

「『 黒煙(スモーク) 』」

「ぶぉおおおおっ!?」

「お、おい、何だコイツは!」

「そんなことより、船長がやられた! どうすんだオイ!?」

黒々と煙るカーテンの向こうで、慌てふためく船員達の声が聞こえる。そのまま暫く、言い合っていてくれよ。

奴らを後ろに残し、俺は一足飛びに甲板の中央で硬直を余儀なくされていた、リリアン救出に乗り込んできた勇気ある二人のお姉ちゃんの前に降り立つ。

「嘘……」

「ど、どうして……」

信じられないモノを見た、という心の底から驚愕の表情を浮かべながら、金髪娘と褐色娘が、俺をまじまじと見上げている。

まぁ、こんな絶体絶命のピンチに、見ず知らずの怪しい野郎がいきなり助けに飛び込んで来れば、理解も追いつかないか。これでヒーローらしく仮面とマントでもつけていれば、カッコもついたのだろうか。それはそれで不審者かも。

「ここから逃げるぞ。逃走ルートは決まってるか?」

「こ、こっちデス!」

「ついて来て」

よしよし、流石に港に乗り込んでくるだけはある。ちゃんとここからの逃げ道は決めていたようだ。

とりあえず二人に聞いてみて正解だな。俺が適当に逃げ出したら、行き止まりでした、という可能性はある。

しかし、ここから脱出した後は、どうするか。

ようやく始まった俺の自由な異世界生活だが、いきなりトラブルに巻き込まれたというか、突っ込んで行ったというか、そんな感じである。今後の身の振り方をどうするか、人生経験に乏しい俺には、全く想像がつかない。

けれど、何とかなる、いや、必ず何とかする。そう根拠のない決意だけを抱いて、俺は思ったよりも速く走っていく二人の少女の背中を追いかけた。

砂漠の港を後に、薄暗い通路を抜け、何やら光る魔法陣を潜り、そして気付いたら俺は、廃墟の街を走っている。

「ここがカーラマーラなのか?」

だとすれば、随分と寂れた街ですね。ちょっと想像と違うんですけど。

「ここは大迷宮の第一階層デス!」

「雑魚しか出ないから、余裕なの」

走りながら、二人の少女が自信満々に答えてくれる。

大迷宮の第一階層、とはまた随分とゲームチックな単語が出たもんだ。ここは本物のダンジョンとか、そういうアレなのだろうか。

「雑魚、ってあそこでウロついてる如何にもゾンビみたいな――」

「ゾンビ、デス!」

そうか、やっぱアレはゾンビなのか。

骨だけのスケルトンとか、悪霊みたいな半透明の奴らは機動実験で相手にしたが、あのテの腐った肉体のアンデッドというのは初めてだ。

とりあえず、撃ってみるか。

ドンッ! と音を立てて『アンチマテリアル』よりは威力を落とした『ライフル』を発射。一回り小さな弾丸にはしているが、人体を破壊するには十分な威力のはずだ。

ノロノロと動くだけのゾンビなら、楽に頭が狙える。進行方向、100メートルほど先に4体ほどたむろしているのを、全て頭部に狙いを定めて放った。

「流石なの」

綺麗に四つの頭部が弾け飛ぶ様を見て、褐色娘が言ってくれた。何故か誇らしげである。

「ところで、どこに向かっているんだ」

「まずは近くのセーフエリアに入るデス」

「積もる話は、それからということなの」

セーフエリアというからには、この廃墟の街を彷徨うゾンビが入って来れない場所があるのだろう。

それに、俺としてもいい加減に事情説明を聞きたい頃だ。せめて、お互いに自己紹介くらいは済ませたい。現状、知ってる唯一の名前は、俺の首にギュっとしがみついているリリアンちゃんだけである。

そうして、道中のゾンビを適当に片付けながら、廃墟の街を走ること十五分ほど。

ほとんど崩れていない、頑丈そうな鉄筋コンクリートのような五階建てのビルへと、俺達は入って行った。

一階から二階へ通じる階段は完全に崩れており、上階から垂らされた縄梯子を登って二階へ登る仕掛けとなっている。フラっとゾンビが現れても、登ってこられないようにするためだろう。

窓はどこも木材などで塞がれており、外からは見えないようにもなっている。

うーん、こうして見ると、ゾンビ映画で主人公達が立て籠もる建物みたいだ。セーフエリア、と言っていたが、決して聖なる魔法でゾンビを近づけないギミックがあるとかではなく、単純な構造的にゾンビ対策がされている建造物、というだけのようだ。

まぁ、こんな場所でも、大声で騒がない限りは大丈夫だろう。

建物の最上階の5階まで上がり、俺達はやっと一休みといった体勢に入る。

「ようやく、落ち着いて話ができそうだ」

ふぅ、と一息つきながら、俺はずっと抱っこしていたリリアンを下ろし――下ろ、なんだ、下りてくれない。頑なに俺の首にしがみつき続けて、全然離れる気配がない。

「大丈夫だから、ほら、お姉さんの元に戻りなさい」

「……うん」

物凄い渋々といった様子で、リリアンが離れてくれた。

そんなに名残惜しそうな顔をしないでくれよ。ここから移動する時は、また俺が抱っこするから。

そうしてリリアンは二人の姉貴の下へとトコトコ歩いていく。

「リリアンッ!」

「ああ、本当に良かったの……」

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

三人で抱き合う、感動の再会である。

うんうん、良かったな。事情は全く分からないけど、手助けをしたことに後悔はない。

美しい姉妹の……本当の姉妹なのだろうか? 髪の色も目の色も肌の色も、ついでに耳の形も微妙に違って、共通点はみんな可愛いというくらい。

ともかく、リリアンが二人とも「お姉ちゃん」と呼んでいるので、姉妹ということでいいだろう。

そんな彼女達であるが、これで全てハッピーエンドというワケにもいかない。あのチンピラ男が言っていたように、何とか言うファミリーの役員でもある船長を殺した以上、あの組織から追手がかかるのは間違いなさそうだ。

せめて、この子達の安全が保障されるまでは見届けたい。

もっとも、たまたま居合わせただけの完璧無関係な俺がこの先も付き纏うとなると、彼女らからすると御免かもしれないが。

とりあえず、その辺の今後のことまで含めて話はしておくべきだろう。

そんなことをつらつらと考えながら、俺は黙って麗しい姉妹の再会シーンを眺めていた。

さて、ひとしきり感動をわかちあったところで、二人の少女は嬉し涙を拭いながら、いよいよ俺へと向き直る。

「まずは、名乗っておこう。俺は黒乃――」

「クロエ様っ!」

「クロエ様ぁー!」

と、微妙に違う名前を呼びながら、金髪娘と褐色娘の二人が、俺に思いっきり抱き着いてきた。

「く、クロエ……?」

「会いたかった、ずっと、ずっと会いたかったデェーッス!」

「もう、会えないかと思ってたの……」

ちょっと待て、何だこの感動の再会シチュエーションは。それはさっき、君らとリリアンでやっただろう。俺は関係ない。

というか「クロエ様」と呼んでいる辺り、どう考えても、この二人は俺のことを別人だと勘違いしているようだ。

マジかよ、この凶悪フェイスな奴が俺の他にもう一人いるとは。世の中にはよく似た顔の人間が三人いるとは言うが、異世界を含めればさらにもう三人いるってことだろうか。

「いや待て、ちょっと落ち着け、人違いだ」

「ファッ!?」

「そんな、嘘なの!」

「本当だ、俺の名前はクロノで、クロエじゃない。ほら、よく顔を見て見ろ。そのクロエという男とは似ているかもしれないが、きっと別人だ」

「むぅー、ムムム……」

「うーん、コレは……」

真実を確かめようと、真剣な眼差しで金髪娘の赤い瞳と、褐色娘の青い瞳が俺の顔面をまじまじと見つめてくる。若干、恥ずかしい気もするが、誤解を解くためには、このあまり人様に見せられない顔も、しかと見せつけてやろうじゃないか。

「やっぱりクロエ様に間違いないデス! チューッ!」

「この顔、この香り、間違いないの。チュッ」

右の頬と左の頬、二人の少女がそれぞれ唇を落とされる。

おい、クロエとやら、年端もいかない少女にこんな真似をさせるとか、さてはテメぇ、ロリコンだな……

「ちょっ、待て、一回離れてくれ、落ち着け」

黙っていたら、そのまま熱烈にチュッチュされ続けたので、焦って二人から離れる。

「あーっ、もっと、キスミー!」

「感動の再会。もっとチューさせるべき」

「だから、俺はクロエじゃない、クロノだ!」

まずい、このまま状況に流されて、名前も知らない未成年二人と不純異性交遊など、許されるものではない。許されないのはクロエという野郎であって、俺は断じて、子供に手を出すような最低な真似はしないぞ。いくら、二人が将来有望な美少女だとしてもだ。

「ど、どういうことデスか!」

「クロエ様、もしかして……私達のこと、覚えてないの?」

流石に、ここまで拒否れば二人も俺の言葉に耳を傾けてくれた。

俄かに表情が曇る二人には悪いが、ここで嘘をついても仕方がない。俺はありのまま、真実を語って聞かせてやろう。

「いいか、俺の名前はクロノ、黒乃真央だ。ついさっきここに来たばかりで、君達二人とは、今日、初めて出会った」

そう、俺はあの研究施設を脱出してきたばかりで、この異世界において顔見知りといえば、あのお喋りなチンピラ男くらいなものだ。他には、誰にも会ってない、言葉を交わしていないのは間違いない。

「そんな……どう、して……クロエ様、レキのこと、忘れちゃったデスかぁ……?」

うっ、ヤバい、金髪娘がマジ泣きし始めている。

凄まじい罪悪感だ。嘘でもいいから「覚えているに決まってんだろ!」と言いたいところだ、後がないので絶対に嘘はつけない。

仕方がない、これは不幸な勘違いだったんだ。俺はただの通りすがりでトラブルに首を突っ込んだけの男であり、彼女達が再会を望むクロエではない。

「覚えてない……忘れた……そう、そういうことなの」

わんわんと泣き出してしまった金髪娘とは対照的に、褐色娘は何かを閃いたように顔を上げ、俺に向かってビシっと指を突きつけた。

「分かった、クロエ様は――記憶喪失なのっ!」