軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第361話 第二の加護

「それじゃあ行くぜぇ! クロノぉおおおおお!!」

気合いの雄たけびをあげると同時に、カイは木剣を宙高く放り投げた。

アリーナから天井までは優に二十メートルの高さがあり、その半ば辺りまでブンブンと音を立てて勢いよく回転しながら木剣は飛んでいく。

いきなり武器を手放す奇行に一体どんな意味があるのかと考える間もなく、カイはその場で垂直に飛び上がる。放った剣を追いかけるように――というか、本当に追いついていた。

マジかよ、垂直跳びだけで十メートルも飛べるのか。武技を使ってるのか、それともこれが素なのか、なんにしろ、俺よりも身軽なことは確かだ。

ぶん投げた勢いが重力のくびきに囚われ、上昇から落下へと切り替わる瞬間に、カイは再び剣の柄を握っていた。

「 大断撃破(ブレイク・インパクト) っ!」

そうして繰り出される武技は、落下の勢いも加えて流星の如く上空より襲い来る。

別に剣は投げなくても、持ったままジャンプすれば良かったんじゃ……なんて考えている場合じゃない。アレはどう見ても受けるには危険な威力を秘めている。

回避一択――なのだが、気づいてしまった。俺のすぐ足元に、一人の親衛隊員が転がっている事に。

騎士候補生と思しき制服姿の男子は、木剣を固く握りしめたままぐったりしている。

まずい、俺が避ければコイツに直撃、しなくとも、余波に巻き込まれるのは確実だろう。

あの『 大断撃破(ブレイク・インパクト) 』ってのは、恐らく、アルザス戦で 重騎士(アーマーナイト) が繰り出してきた『 大断(ブレイク) 』の上位技だ。思い切り地面を叩けば、それだけでかなりの衝撃波が発生するだろうことは想像に難くない。

なら、この男子を抱えて回避するか。

いやダメだ、とてもそんな猶予はない。ちょうど抱き起したタイミングでカイの武技は俺の脳天に炸裂する。

ちくしょう、俺が受けて、少しでも威力を削るしかないっ!

「黒化っ!」

決闘するにあたって適当にチョイスしたノーマルサイズの木剣は、今の今まで握りっぱなし。戦いは『 雷撃砲(ショック・バスター) 』だけで全て片付いたから黒化もしてなかったのだが、くそ、さっさと済ませておくべきだったか。

内心で愚痴りながらも、迫りくるカイの剣を受け止めるべく木剣を掲げる。その一瞬の間になんとか、本当になんとか、黒化を完了させる。

「ぐうっ!」

フェイントも何も必要ない、ただその威力だけで叩き伏せるという意思を感じさせる強烈な一撃を、この頼りない黒化木剣で受ける。

両腕にかかる凄まじい圧力と共に、予想に違わず、バギリという破砕音が耳に届いた。

ちくしょう、やっぱり防ぎきれなかったか。

心の中で舌打ちしながら、全身を揺さぶる衝撃に耐える。木剣をぶっ壊して、勢いのままカイの武技は地面へと叩きつけられ、さらなる衝撃波が発生。

俺が庇った男子生徒は、よし、派手に吹っ飛んではいない。ちょっと転がったくらいだから、大丈夫だろう。

「 魔弾(バレットアーツ) ・ 雷撃砲(ショック・バスター) 」

反撃の用意くらい、黒化の片手間ですませてある。流石に 全弾発射(フルバースト) は無理だが、至近距離では回避不能、つまり避ける隙間がない密度で弾丸を繰り出すことは可能。

おまけに全弾、雷属性を付加した『 雷撃砲(ショック・バスター) 』だ。一挙にバラまかれた弾幕の隙間を、迸る紫電が埋め尽くす。さながら雷の投網。

武技を放った直後の硬直が発生しているカイに、これを避ける術も防ぐ術もない。

「おおっ!?」

一メートル未満の超至近距離を瞬く間に駆け抜けた電撃魔弾は、カイの分厚い胸板へ一塊となって直撃。その衝撃によって、筋肉質の大柄な体は軽々とぶっ飛んでいく。

電撃をくらえば、自然と痺れも追加される。さらに雷が強力になれば、純粋に 状態異常(バッドステータス) としての『 麻痺(パライズ) 』を与えることもできる。そう、あのグリードゴアのように。

ともかく、俺の『 雷撃砲(ショック・バスター) 』は『 麻痺(パライズ) 』が発動するほどの威力でも術式でもないが、あそこまで見事にクリティカルヒットすれば軽い手足の痺れは免れないだろう。

要するに、受け身も取れずにアリーナの地面に墜落する――

「っとぁ! うへぇ……シャルもいねぇのに電撃くらうとは思わなかったぜ」

事もなげに、カイは体操選手のように華麗な着地を決めて見せた。俺に吹っ飛ばされたのも演技の一環であったかのような、見事な姿勢制御。 猫獣人(ワーキャット) 並みの身軽さだ。

いや、驚くべきはそのタフネスか。その状態耐性の高さは、改造された俺に匹敵する。あるいは、普段からよほど電撃を浴びて鍛えられているのか。

「けど、コイツが黒魔法ってヤツか? へっ、大した事はねぇな」

あ、コイツ俺の黒魔法を地味とか思ってる顔してるぞ。ちょっとカチンとくる。『 炎の魔王(オーバードライブ) 』からの『 榴弾砲撃(グレネード・バースト) 』でも喰らわせてやろうかぁ?

まぁ待て落ち着け、熱くなるなよ俺。本来の目的を見失うな。まだ何も新たな加護を試していないんだから、勝負をかけるのはもう少し後でいい。

いや、違うな、勝負は一瞬でついてしまう。

「やっぱ狂戦士っつーからには、剣が一番だよな! っつーかお前、剣折れちまったけど、新しいのを用意するまで、待っててやってもいいんだぜ?」

「いや、いい。モンスターは武器を拾うまで待ってくれないからな」

「へぇ、流石はグリードゴアを素手で殺っただけある、すげぇ自信だな!」

いや、呪いの武器が手元になくて凄い不安だぞ本当のところは。

でもここは、こうして余裕ぶって応えなければいけないのだ。カイをその気にさせるのに、必要な誘い文句。

彼には渾身の一撃を繰り出してもらわなければ、意味がないのだから。

「ああ、俺が丸腰だからと油断するなよ。殺すつもりで、かかってこい」

さっきヘレンに言ったのと全く同じ、安い挑発の台詞。彼女はこれで激高したが――

「上等ぉ!!」

カイは凄い嬉しそうだった。ああ、戦闘狂ってやっぱり、こうだよな。

デカい木剣を振りかぶり、地面が陥没するほどの強烈な踏込みで駆け出すカイ。思わず見失ってしまいそうなほどの速さだ。たったの二歩でトップスピード、なんて加速度だよ。

「 魔弾(バレットアーツ) 」

黙って立っていれば疑念を持たれる。カイは論理的な思考で裏を読んでくる、というよりも、まず間違いなく直感で物事を判断するタイプだろう。

少しでも手を抜けば、過程をすっ飛ばして「何かある」と解答にたどり着く。

だから、牽制射撃も全力で。 掃射(ガトリングバースト) だ。

「ソレは効かねぇっつってんだろっ!」

分かってるさ。分かっているが、全くのノーガードでそのまま突っ込んでくるのは予想外だった。

一応は模擬戦の建前を忘れずに、いつもの疑似 完全被鋼弾(フルメタルジャケット) ではなく、当たっても衝撃だけですむ柔らか弾頭にしてはいた。

だが、普通の人なら頭部ヒットで一発昏倒。ランク4冒険者のヴァルカンだって、数百発単位でくらうと歩みが止まるほどだった。

なのにコイツは、弾丸の雨が本当にただの水滴であるかのような勢いでズンズン突き進んでくる。

流石はランク5、頑丈なことだ。

「 榴弾砲撃(グレネードバースト) 」

「危ねっ!?」

連発される黒い弾雨の中に、さりげなく一発だけ赤い榴弾を放つ。その大きさも、内に秘める威力も桁違いなので、別に紛れ込んでいるってほどでもないが。

しかし、いくらカイでもコレは回避を選んだか。

それにしても、ほとんどノーモ-ションで掃射中に撃ったというのに、事前に発射タイミングを知っていたかのような超反応だ。なにより、その反応速度についていける肉体が凄い。

トップスピードを維持したまま、ほとんど直角に曲がるように方向転換して見せたのだ。

直前で的を見失った 榴弾(グレネード) は、アリ-ナの壁にぶち当たるまでそのまま虚空を進み続けた。

「今のはちょっとヒヤっとしたぜ!」

轟音と共に噴き上がる赤黒二色の爆炎を背景に、再び進路を戻したカイが叫ぶ。

そこからもう三歩進めば、木剣が俺へと届く。必殺の間合いへ、天才剣士が踏み込む。

「これで終わってくれるなよぉ――」

最後の射撃。この一発だけ本気の疑似 完全被鋼弾(フルメタルジャケット) にしたが、予想に違わず回避された。

僅かに身をかがめたカイの頭の上を、魔弾は虚しく通り過ぎる。

多少は殺気がにじみ出た分だけ、察知もしやすかったのだろうか。

見てるこっちが惚れ惚れするほど完璧な回避行動だな。ただ避けるだけじゃない、次の攻撃に繋がるような体勢でいることが凄いのだ。

そう、すでにカイは会心の攻撃を放っている。この一撃で決着がついてしまわないよう願ってしまうほどに、強烈な威力の武技を。

「 極一閃(アルティマ・スラッシュ) !」

繰り出されたのは、横薙ぎの一閃。あまりの速さに切っ先は見えないが、武技に込められた魔力が輝くオーラとなって、神速の軌跡を彩る。

陽の光を照り返して輝く大海原のようなオーシャンブルーの斬光は、俺の黒凪と違って見惚れるほどの美しさだ。

その美麗な一撃はしかし、人を昏倒させるには十分な、というか、いくら木剣でも一般人なら余裕で殺せる威力出てるだろコレ。

ああ、ちくしょう、やっぱり怖いな。いくら自分で望んだとはいえ、こんなヤバそうな武技をノーガードのクリティカルヒットをもらうのは。

でも仕方ない、これが第二の加護を試すのに必要な行動なのだから。

第一の加護『 炎の魔王(オーバードライブ) 』は俺に腕力を与えてくれた。そして、第二の加護は――

「 鋼の魔王(オーバーギア) 」

鉄の如き防御を与えてくれる。つまり、硬化能力だ。

魔法には『 防御強化(プロテク・ブースト) 』、武技には『 硬化(ガード) 』という基礎的な防御技が存在する。どちらも結果的には魔力を全身にまとうことで硬化するのだが、俺が今使った第二の加護も原理は同じ。

ただし、その効果は天と地ほどの差がある。そして、単純な効果であるが故に、使い勝手も抜群。

俺が全身に廻らせた、疑似土属性の黒色魔力は鈍色のオーラとなって一度だけ瞬く。

発動は一瞬、効果も一瞬。だが、一撃を防ぐにはそれだけで十分だった。

「――はぁっ!?」

カイが驚愕の声を上げるのと、叩きつけられた木剣が俺の胸板で木っ端微塵に砕け散る轟音が同時に響く。

どれほど強力な武技だろうと、武器そのものが脆弱ならば破損するのは当然。ただの木剣では、どう頑張っても岩を砕くことはできない。

俺の肉体は岩よりも硬い鋼鉄と化したのだから、当然の結果。ダメージはない。それどころか、僅かな衝撃すら感じなかった。

いやしかし、本当に成功して良かった――と、喜んでる暇などない。

武器破壊を起こしたこの一瞬こそ、逃せば二度とやってこないだろう致命的な隙。ここで全力の一発を叩き込んで、勝負を決める。

「 炎の魔王(オーバードライブ) 」

手の甲に浮かぶ真紅の魔法陣が、怒れるラースプンの如き力をもたらす。

「歯ぁ食いしばれっ――」

灼熱の赤と破壊の黒。薄らと二色の螺旋を描く右腕が、がら空きとなったカイのボディに迫る。

流石に『 憤怒の拳(ラースインパクト) 』を使ったら、殺してしまう。だが、それでも『「 炎の魔王(オーバードライブ) 』は、カイをノックアウトさせるには十分な力を俺に与えてくれるはずだ。

「オラぁっ!!」

手ごたえあり。そう実感する時には、もう拳は渾身のストレートを振り切っている。

そして、目の前にあったカイの体も消えている。うめき声一つ残さずに、その身は高速で真後ろにぶっ飛んで行った。

背後の壁まで二十メートルはあったはずだが、その距離を失速することなく激突。コンクリートのように固く無機質な灰色の石壁に、カイの背中がめり込んだ。

アリーナに反響する轟音と、壁面に走る深い亀裂が、その衝撃の強さを物語る。

「……まだ、やるか?」

一秒、二秒、三秒――返答はない。

壁に埋まりかけたカイの体が、重力に引かれるままうつ伏せに倒れこんでいく。受け身どころか、腕がピクリとも反応しない無防備なままグラウンドに沈んだ。

「勝負は、俺の勝ちだ」

完全に気絶しているようだ、聞こえているはずもないが。

勝負という建前の実験は終わった。第三の加護まで試せなかったのは残念だが、それはまた今度の機会でもいいだろう。

そう、気を抜きかけたその時だった。

背筋に走る悪寒と共に、俺の第六感が警鐘を鳴らす。

これは、殺気だ。

「――っ!?」

反射的に振り向いた時には、すでに刃は目の前に迫っていた。

眩しい白銀の輝きを放つ剣。その刀身は波打つような曲線を描く形状。 純聖銀(フルミスリル) 製の、フランベルジュ。それは木剣と異なり、切るモノを確実に死に至らしめる本物の殺傷力を秘めている。

その美しい剣を振るうのは、これもまた同じ光を放つ白銀の鎧兜を身にまとった一人の騎士。

頭の天辺から足の先までミスリルに覆われた 全身鎧(フルプレートメイル) は、流線形のボディラインに、随所にあしらわれた紫色の装飾と、何とも優美なデザイン。

しかし、嘴のようなフェイスガードが開いた兜から覗く素顔は、美麗な甲冑を着るに相応しい美青年ではなく、死神のような髑髏であった。眼窩に灯る紫の光は、死せる体を動かす偽りの生命力が宿った証。

そう、コイツは『 屍霊術(ネクロマンシー) 』によって操られた、アンデッドの騎士だ。

正体が分かったところで、攻撃が止まるわけでもない。その一撃のタイミングはあまりに完璧。

首を狙った横薙ぎの一閃は、かがんで回避が間に合うほど遅くない。煌めくミスリルブレードは、バックステップで逃れられるほど短いリーチでもない。

第二の加護『 鋼の魔王(オーバーギア) 』は……無理だ、二度目の発動は間に合わない。

呪いの武器は手元になく、悪魔のコートも着ていない。打つ手なし――いや、たった一つだけ手段がある。

もしかしたら、この危機さえもお膳立てされたものかもしれない。そう勘ぐってしまうほどに、今の状況は相応しい。

この、第三の加護を試すのには。

「 雷の魔王(オーバーアクセル) 」

発動――そして、時は止まる。