軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第350話 第一回エレメントマスター緊急会議

「というワケで、第一回エレメントマスター緊急会議を始めるわよ」

「議題は、私たちが不在の間、クロノさんがアヴァロンのお姫様をベッドへ連れ込んだ件について」

「いやいやいや、待て、ちょっと待ってくれ」

和やかな雰囲気でお土産話に花を咲かせるはずだったラウンジは今、ピンと張り詰めた緊張感漂う危険地帯と化している。

椅子に座った俺の対面には、白プンローブを着たままわざわざ少女へと変身したリリィと、室内なのに何故か『アインズ・ブルーム』を握ったままのフィオナが仁王立ち。二人とも、今すぐランク5モンスターと戦えるくらいの気迫が感じられる。

だが、ここには強敵となるモンスターなどいるはずもなく、俺だけが部屋の真ん中にぽつんと用意された椅子に座らされ、二人と対峙しているのだ。

俺が座っているせいで、ちょうどフィオナと同じくらいの目線の高さ。なんだか自分だけ身長が縮んだような、いや、ようは威圧感があるってことだ。

「ええ、待ちますよ。クロノさんが洗い浚い吐いてくれるまで」

「ねぇクロノ、素直に全部話してくれるよね?」

嘘ついてもテレパシーですぐに分かるんだからね、と暗にリリィの目が語っている。ヤバい怖い。

っていうかなんだ、なんだよコレ! もう新たな試練が始まったっていうのかよ!?

この絶望的な気配はどうしたことだろう。こんな地獄に叩き落されるなら、まだグリードゴアと戦っていた方が気は楽だぞ。

「クロノ?」

「あ、あーえっと、これはな……」

そうして俺は、台詞を噛み噛み、冷や汗かきかき、そりゃあもうしどろもどろの必死になりながら、話した。全てを話した。

ネルとの出会い、魔法を教えてもらったこと、料理を教えたこと、『 呪物剣闘大会(カースカーニバル) 』の出場、勝利、右腕の負傷と治癒。そして、イスキア古城での戦い。

フィオナの言うとおり、洗い浚い、全部ゲロった。

なんていうことだろう、面白おかしい、かつ、二人に自慢できるような大活躍をしたと

思っていたのに、まさか、こんな気持ちで語ることになろうとは……

「――とまぁ、ネルとはそういうワケで仲良くなったんだけど」

「ふーん、なるほどね」

「なるほど、そういうことでしたか」

「良かった、二人とも分かってくれ――」

「クロノ、無防備すぎ」

「クロノさん、無防備すぎますね」

あれ、なんでだろう、完全に誤解は解けたと思ったのだが、全く予想の斜め上をいく台詞が返ってきたぞ。しかも二人とも、示し合わせたかのように全く同じ反応。やはり、その視線は冷たいまま。

「お、おい、無防備すぎるってなんだよ」

無防備なのはどちらかというとネルの方だろう。俺みたいな男を相手に、最初からほとんど警戒心なく接触してきたし、何よりも、こう、距離感が近い、物理的に。パーソナルスペースが十センチくらいしかないんじゃないか。

「そんなんじゃダメよクロノ、近づいてくる女には、もっと警戒心を持たなくちゃ」

「ええ、どんな下心を持っている分かったものじゃないですからね」

「いや、それってどちらかというと女性側の警戒なんじゃ――」

ダン、とフィオナの杖が床を打つ。やめてくださいフィオナさん、怖いですソレ。

「いいクロノ、女はね、モンスターなのよ」

なにその男はみんなオオカミなんだぜ理論。でもリリィの目はどこまでも真剣だ。

「クロノさんほどの男なら、格好の獲物ですね」

それは褒められているんだろうか。フィオナの見下すような目つきのせいで、全くそんな気はしないのだが。

「でも、俺には特別モテた経験はないんだが」

今日のパレードで、白馬の王子様ことネロが女性達からキャーキャー言われていたが、あれが正しい意味でのモテる、という状況のはず。

ミアちゃんとの練習虚しく、黄色い声援どころじゃないあの静寂っぷりは、どう考えても女性達のハートを射止めてはいない。むしろ、ドン引きといった有様じゃないか。

「私はクロノの魅力を一番よく知っているけれど――」

「いえ、私だってクロノさんの魅力を知ってますよ」

「客観的にみても、クロノは男としてかなり魅力的な要素を備えているわよ」

そ、そうなんだろうか……俺としては、イマイチ信用できない褒め言葉である。身内びいきされているだけなんじゃないかと。

「まず、その優しさ。もう、ドがつくほどのお人よしといってもいいくらいよ」

「私が派手にフレンドリーファイアしても怒らずに許してくれますし」

まぁ、自分でも短気な方だとは思っていないが、それでもキレたら平気で人殺しするような男だぞ俺は。あの実験施設のマスクどもや、十字軍兵士なんか、もう数え切れないほど殺戮した。

それとフィオナ、俺がフレンドリーファイアをくらっても、確かに怒りはしないが、怖くはあるんだぞ。

「そして、強い。クロノを倒せる人なんて、早々いないわ」

「私のフレンドリーファイアを喰らっても、全然平気ですし」

確かに、俺もそう簡単に負けないはしないという自信はある。それこそ使徒か、あるいはリリィとフィオナがタッグを組んで本気で戦いを挑まれたら、もう無理だけど。

というかフィオナ、俺だってダメージを喰らえば普通に痛いんだぞ。勘違いしないでよね。

「身長も高いし、体つきだって、スパーダ騎士なんて目じゃないほど鍛え上げられてるわよね」

「イイ体してますよクロノさん。この場で脱いでくれてもいいんですよ」

高い身長は唯一、俺が男として自慢できそうなポイントだとは、普通に高校生やってた頃から思ってはいた。まぁ、顔のお陰でより恐怖感と威圧感を増す効果しかないわけだが。

それに俺の体は、実験生活で強制的に作り上げられたようなものだからな。今なんて特に体を鍛えてはいない、むしろ魔法の研究ばかり。だから俺は黒魔法使いなのだ。

あと、フィオナのさりげないセクハラ発言はスルーで。

「それに、顔だって――ああ、うん、私はとってもカッコいいと思うけれど、好みの分かれるところよね」

「ええ、子供が見たら泣くくらいには恐ろしいですね」

「うおーやっぱりそうかよ、ちくしょぉー!」

流石のリリィも、俺の凶悪フェイスにはフォローしきれなかったようだ。

ああ、顔を合わせるたびに恐怖に慄いていた白崎さんのうつむき顔が懐かしいぜ。

やっぱりリリィとフィオナ、それとネルも、容姿についてはかなり寛容な特殊パターンだったに違いない。俺は何よりもまず第一印象で躓くから、本当にありがたいことである。

「ともかく、クロノには表面的なものだけでも、これだけ魅力があるのよ。強い男が好きなスパーダの女性なら、特にウケがいいでしょうね」

「勿論、私もリリィさんも、そんな要素だけでクロノさんと一緒にいるわけではないのですけれど」

ああ、それくらい、俺だって分かっているさフィオナ。俺にとっても、二人はやっぱり特別だ。

「でもね、全ての女性が私とフィオナみたいに、本当にクロノのことを分かってあげられるわけじゃないのよ」

「どんな下心があるか分からないって、そういう意味ですよ。クロノさん、女性の方から接近されれば、警戒することなく、当然のように優しく対応するのでしょう」

そ、それは……失礼のないようにとは心がけてはいるつもりだ。それにまぁ、俺だって男だし、女性から声をかけられたら悪い気はしないさ。

「そしてクロノは、一度仲良くなったらそう簡単に見捨てることはしないでしょ?」

「そうやってクロノさんの好意につけ込まれる危険があるのです」

好意といっても、常識的な範囲での対応しかしないと思うのだが。友達だからといって、ほいほいと大金を貸したり、連帯保証人になったり、犯罪の片棒を担ぐ、なんてことするはずない。

「まぁ、二人の言いたいことは分かるよ。そりゃあ世の中、善人ばかりじゃないからな」

むしろこの異世界では、悪人の方がのさばっているくらいだ。勿論、それ以上に良い人との出会いもあったし、また、別れもあった。

「そう、そうよね、クロノだってそれくらい常識として理解はしているわよね」

「でもクロノさんは、やっぱり無防備ですね」

え、結局そこに戻ってくるのか。イマイチ理解ができない、俺の一体どこが無防備だったというんだっ!?

「この際だからはっきり言うけれど、あのネルとかいうアヴァロンのお姫様、怪しいわよ」

「……は?」

険しい表情で断言するリリィに、思わず間抜けな声が漏れた。

「ほらリリィさん、やっぱり警戒心ゼロでしたよ」

意味が分かってないのは俺ばかり。リリィとフィオナは、あの優しいネルの何をそんなに警戒しているのだろうか。

「でも、それも仕方ないかもしれないわね。だってクロノは、元々この世界の人じゃないんだから」

「そうですね、ニホンとかいうクロノさんの故郷では、貴族も奴隷も存在しない社会らしいですから」

「……もしかして、ネルが王族ってのが、まずかった?」

二人揃ってふぅ、と小さな溜息をつく。計ったようなタイミング、見事なコンビネーション。果たして、その解答は。

「その通りよ。王族なんていう最上階級の人物と、周囲に認められない歪な形で関係ができてしまったのは、非常に危険な状態なの」

「え、でもウィルは――」

「アレは大丈夫よ」

「あの人は大丈夫ですね」

なにその反応の違い。これも人気格差ってヤツですか? っていうかリリィ、アレって言ったぞ……

「ウィルハルト王子は信頼しても良い人物よ。ちょっと空想癖と妄言の症状が出ているけど、あれでいてちゃんと妄想と現実の区別はついているわ」

「テレパシーって、本当に便利な能力ですね」

そうか、ウィルの灰色の頭脳はいつの間にやらリリィのテレパシーチェックを受けていたのか。この事は黙っておこう、エレメントマスターだけの秘密ということで。

「でも、あのお姫様は……ほとんど見えなかった、何を考えているのか、ね。彼女もテレパシー能力を持っているんでしょう」

「ああ、リリィほどじゃないけどな。直接、体に触れないと感情が読めな――」

「触れたんですか?」

「え?」

「クロノさんに、触れたのですか?」

そう問いかけるフィオナの目は、酷く、マジだ。いつもの眠そうな目が少しばかり見開かれているようで、黄金の瞳が爛々と輝きを放っている。

次の瞬間には、手にする 長杖(スタッフ) で炎の攻撃魔法をいきなりぶっ放しそうなほどの威圧感。

「そりゃあ、まぁ、手は握ったよ。お陰で『 腕力強化(フォルス・ブースト) 』は習得できたし、第一の加護だって覚醒する基にもなったんだ。ほら、凄いんだぜ、この『 炎の魔(オーバードラ) 』――」

「そういうことじゃ、ないんです……」

苦痛にでも耐えるかのように、フィオナはさっと顔を逸らし、搾り出すような声でそんな言葉を残す。

「落ち着きなさいよ、フィオナ」

「……すみません」

一体何がそんなにショックだったとでもいうのか、フィオナは顔をトレードマークたる三角帽子を深く被り、表情を見せない。

珍しいフィオナの取り乱しように、やや驚かされる――というか、プレゼントした指輪が壊れて、殺人鬼ジョートが死んでも杖で叩き続けたあの姿が脳裏を過ぎり、少しばかり背筋に悪寒が走る。

「クロノの記憶を、その時に探られた可能性があるわ」

まさか、ネルがそんなプライバシーを土足で踏みにじるような真似をするはずがない。だが、そう信じられるのは、彼女と付き合いのある俺だけ。

「でも、それは今更確認しようがないわ。今度からは気をつけてね。私以外のテレパシー能力者には」

「そういえばリリィさん、私の頭も探ろうとしたことありましたよね」

冷静さを取り戻したフィオナが、さりげなく苦言を呈す。勿論、リリィは華麗にスルー。

ともかく、事前にテレパシー能力があると分かっていながら、読み取れる状態になってしまったことが不注意だったのだ。流石に、リリィのようにただ目の前に立つだけで頭の中を読み取れるほど強力なテレパシー能力者だったら、せいぜい、 精神防御(マインド・プロテクト) の 魔法具(マジック・アイテム) を装備しておくくらいしか打てる手はない。

いやでも、ネルがテレパシーを使ってくれたからこそ、俺でも 現代魔法(モデル) の術式を理解することができたわけだし……

「クロノはあのお姫様をそれなりに信頼してるみたいだけど、問題は二人だけの関係には収まらないのよ」

それが、リリィがさっき言っていた「周囲に認められない歪な形で関係」ってことか。

「すまん、何ていうか、今の今まで完全に失念していたよ……俺、 神学校(ここ) じゃあ「凶悪な触手男」か「 黒き悪夢の狂戦士(ナイトメア・バーサーカー) 」だもんな……」

そんな明かにヤバそうな肩書きの男が、麗しのお姫様とお友達なんて言っても、誰が納得するよってことだ。他人事だったら、俺も「とんでもねーな」と思うに違いない。

「クロノさんにあの忌々しい不名誉な噂がなかったとしても、ただの冒険者の男が、アヴァロンのお姫様に近づいたというだけで、大きな反感を買うことになるでしょう」

確かに、その反応は容易に想像できる。というか、やっぱり今までそんな事を考えもせず、省みることもなかった俺がバカだったんだ。

言い訳にしかならないが、リリィとフィオナがいない寂しさのせいで、俺は無意識的にもネルの存在に甘えていたのかもしれない。

「ねぇ、クロノ、私がいない間に、誰かからいやがらせとかされなかった? もしあったらすぐに言ってね、懲らしめてあげるから」

「ええ、爆発させてあげますから」

「あーいや、それは大丈夫だから、今のところ」

そ、そういえば、食堂事件の直後には、この二人が相当ヤバいお怒りようだったな。仲間思いなのは嬉しいが、もしかしたら、冗談ではなく本気で暴走するんじゃないかというような気配だから、ちょっと恐ろしくもある。

とりあえず、上靴に画鋲が入ってたり、机に落書きされるくらいの嫌がらせレベルだったら、二人には黙っていよう。まぁ、神学校には上靴もなければ、個人の机もないのだが。

「でもやっぱり一番の問題は、あのお姫様がクロノにどんなちょっかいをかけるか分からないってことよね」

「ちょっかいって……迷惑どころか、ネルには助けてもらってばかりなんだが」

「いいえ、リリィさんが真意を探れなかった以上、何を企んでいるのか分からないんですよ。例えクロノさんを陥れるつもりなんかなくても、この先、ふとしたキッカケで機嫌を損ねたり、恨みを買ったりすれば、最悪、不敬罪で処刑されます」

で、でた……不敬罪で処刑……やっぱりその可能性って、あるんだな……

「そうでなくても、王族の地位があれば冒険者一人の人生を破滅させるなんて簡単なことなのよ」

俺の脳裏に、アリーナで「下がれと言っているでしょう! 反逆罪で処刑しますよっ!!」と叫んだネルの姿がよぎる。

確かに、人生の破滅どころか、終焉を迎えさせることだってできる。口先だけの命令一つで、いとも簡単に。

あのクリスなんとかいうお嬢様は大丈夫なんだろうかと、今更ながらに思う。

「本人がその気なら確実に、その気じゃなくても、周囲が曲解して暴走なんてことも十分にあり得るわ」

「冒険者ギルドを利用できなくなるくらいなら、まだいいですよ。しかし、アヴァロンから指名手配されたら、もう十字軍と戦うどころの話じゃなくなりますからね」

「そ、それは……マズいだろ」

「ええ、マズいのよ」

「マズいですよ」

ヤバい、今まで俺はそこまでの危機感を持ってなかった。ネルが王族であるというのを、真の意味で実感できていないのだろう。せいぜい、高校のクラスメイトの女の子が凄いお金持ちの家庭、くらいの認識なんじゃなかろうか。

「だからクロノはやっぱり、身分差に疎いのよ」

「王族や貴族に対しては、適切な距離感というのがあるものです。それをクロノさんが、私たちと同じようにお姫様と仲良くしてしまったら……ダメです」

そ、そうか……俺はようやく、二人がここまで怒って、いや、怒ってはいないな、なんかこう、凄い真剣になってた理由が分かった。

「ごめん、俺が不注意だったばかりに、余計な心配をかけさせてしまったな」

最初はてっきり、二人がいない間に俺が女をベッドに連れ込んでたと誤解されてヤバい、とか思ったのだが……ちくしょう、なんてバカな勘違いだ。

リリィとフィオナはどこまでも、俺の事を心配してくれていただけだというのに。

「いいのよ、クロノが分かってくれたんだから」

「それに、これからはもう私たちがずっと、クロノさんのお傍から離れないので、安心してください」

二人の顔に、ようやく優しい微笑みが戻る。

「ありがとう。俺もこれからは、もっと気をつけるよ」

こうして、改めてパーティメンバーのありがたさを実感したところで、第一回エレメントマスター緊急会議は終わりを迎えたのだった。