軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 暴走獣ドルトス

そこは、山の中でもかなり開けた場所であった。

警戒しつつ進み、列の先頭を行くニーノに、緑色の巨大なアメーバ状の生物が襲い掛かってきたのを皮切りに、周囲から次々と同様の巨大アメーバが現れたのが、およそ10分前のことだった。

「ただのスライムだ、適当に散らすぞ!」

おお、コイツがかの有名なスライムなのか、と呑気に感心している俺をよそに、イルズ・ブレイダーの面々は各々の武器を手に、スライムの集団と戦い始めた。

右に左にニーノがスライムを切り払い、その背後をクレイドルがカバーしつつ槍を振り回す。

前衛からやや遠い位置にいる、または左右から回り込むように動くスライムに対しては、ハリーが矢の雨を降らせて止める。

前衛の二人組みに、いよいよスライムが集団で殺到しようかというタイミングで、

「الجليد الباردة تجميد انتشار النار―― 氷結放射(アイズ・ブラスト) !」

詠唱を終えたアテンの魔法が発動する。

前衛に迫ったスライムの集団は、液状の体が徐々に凍結し始め、数十秒後には、ついにその動きを完全に止める。

剣と槍で軽く小突けば、凍ったスライムは粉々に砕け散った。

ここまでの流れで、丁度10分が経過し、今に至る。

「何て安定した戦いぶりだ――」

俺は、RPGで理想的なバランスのパーティーが雑魚モンスターの代表格スライムと戦うシーンを、実写バージョンで見せ付けられている気分になる。

何と言っても俺は荷物持ち、戦闘に参加しないのが前提条件のお仕事なので、こうしてのんびり観戦していても文句は言われない。

なので本来の目的通り、冒険者パーティーが戦闘においてどう立ち回るのかをじっくり観察中なのである。

俺も自慢では無いがモンスターとの戦闘は素人では無いと自負している。

が、それはあくまでも単独での場合、彼らのように、流れるような連携をとることは出来ないだろう。

モンスターでも、群れのように徒党を組んで襲ってくるタイプは多いが、やはり知性のある人型種族が編み出すチームプレイには敵わない。

イルズ・ブレイダーの個々人の力量が、それぞれランク2相当のものだとしても、こうしてチームとして戦えば、それ以上の強さを発揮しているというのが、この一戦だけでよく分かる。

「よし、逃げたな」

あんなナリでも危険を察知する本能はあるのか、スライム達が四方に逃げ去ってゆく。

「大した金にはならんけど、荷物持ちもいることだし、核を回収しとくか――」

と、ニーノがスライム討伐の証となる部位‘スライムの核’を手に取ろうとした時だった。

ズズン――

「地震、じゃないよな……」

何なんだ? と思うが、どうやら疑問を感じているのは俺だけの様で、他の面々は真剣な顔で音と振動が起こった方向へ目を向けた。

「向こうから来てくれるとは、探す手間が省けたな」

ニーノが再び剣を抜き、すでに槍を構えるクレイドルの隣に並ぶ。

「クロノ、ちょっと離れててな」

アテンがそれだけ俺に言うと、杖を振り上げ詠唱を始める。

その前では、矢を3本纏めて弓に番えているハリー。

全員、完全な臨戦態勢。

音と振動がどんどん接近してくるのを感じる。

この状況は、間違いなくアレだな――

「バァオオーーン!!」

甲高い鳴き声を上げながら、並んだ木々をものともせずにぶち破って、灰色の巨体が飛び出てきた。

一見すると象、大きさも動物園で見たことあるソレと同じ程度だが、こちらへ向かって一直線に猛進してくる姿は猪のようである。

最も象らしく見えるのが、特徴的な長い鼻、ついでに、マンモスのように毛で覆われ、牙も生えている。

だがその牙の形状はトナカイの大きく広がる角に似た独特な形状だ。

長い鼻、灰色の毛、牙、そして真っ直ぐ突進してくる行動、どれをとっても、事前に聞いていたものと一致する。

このモンスターこそ正しく、今回のクエストのターゲット、美味しい謎肉の正体、暴走獣ドルトスだ。

ヒュッ――ドスッ!

猛進するドルトスに最初の一撃を与えたのは、ハリーが放った矢であった。

三本束ねて同時に放たれた矢は、全てドルトスの頭部に突き刺さるが、その突進の勢いは全く衰えない。

すでに、前衛組みであるニーノとクレイドルのすぐ前まで、10トントラックのような巨体が迫る。

「アテン!」

「كيكو هيروشي منع تجميد الباردة درع الجليد الصلب―― 氷結大盾(アイズ・アルマシルド) !」

先ほどから詠唱を続けていたお陰で、アテンの魔法が即座に発動、ドルトスとニーノ達が衝突する直前、両者の間に氷の壁が出現する。

突如目前に現れた氷の防御壁、ドルトスにはそれを避ける術も無ければ、避ける気も無かった。

そのまま猛スピードで氷壁に正面衝突。

ドルトスの十二分に加速された突進の威力によって、氷壁は割れるような音と共に砕け散った。

しかし、氷壁を砕きはしたものの、ドルトスの突進は完全に止められ、また衝突したショックによって倒れこんだ。

「今だっ!」

砕け散った氷の壁を踏み越えて、ニーノとクレイドルがダウンしたドルトスへと襲い掛かる。

頭部を狙って、二人は二度三度と切りつけるが、その硬質な毛皮と分厚い頭蓋骨によって、致命傷を与えきれない。

ドルトスは唸り声を上げ、すぐさま復活する。

長大な牙を振り乱し、自身の頭部へ攻撃を加える二人を追い払う。

その牙には魔力を宿しているのか、風を纏い、旋風を巻き起こす。

「うおっ――」

突き上げられる牙が掠る、風を纏っているため、それだけで軽がるとニーノの体が吹き飛ばされる。

中空に投げ出されたニーノへ追撃をかけようとするが、クレイドルの刺突と、ハリーの援護射撃によって、ドルトスの動きを封じる。

「――っと」

空中で、正しく猫のように体勢を立て直し、軽やかに着地したニーノ。

再び剣を振り上げて、暴れまわるドルトスへと斬りかかって行く。

「コイツは久しぶりに大物だぜ、絶対に仕留めるぞっ!」

「「おおっ!!」」

威勢よく声を上げてドルトスへ向かってゆくイルズ・ブレイダーのメンバー、激闘を繰り広げるも、どこか楽しそうな彼らを、俺は少しだけ羨ましく思ったのだった。

「お疲れ様」

長い戦いが終わり、流石にぐったりと疲れた様子を見せるメンバーに、一人だけ元気な俺は声をかける。

「おう、疲れたぁー後は頼んだクロノー」

と、投げやりに言って、そのまま寝転がるニーノ。

そのすぐ傍には、地に臥せったドルトスの巨体、ニーノが武技を使って眉間を貫いたのが致命傷となり、絶命している。

それ以外にも、メンバーが各々の攻撃で与えた傷が、ドルトスの体に無数に残る。

モンスターは、ただの動物よりも生命力が強く、無惨にも思えるほど外傷を与えなければ殺しきることが出来ない、体が大きければ、尚更タフにもなる。

狩猟としては、外傷が多いのはあまりよくない倒し方かもしれないが、メインがあくまで肉なのでOKなようだ。

「頼んだっつっても、俺は解体の方法知らんぞ」

「そんなら空間魔法で持ち帰ったらいいじゃんねー」

「簡単に言うなよアテン、ここまでデカいと、容量ギリギリだぞ」

「え、ギリギリってことは全部入るん!?」

「多分な」

おおーとメンバー全員から感嘆の声が上がる。

おい、多分出来ると言っただけで、もしかしたら足の一本くらいは置いていかなきゃならないかもしれんのだぞ。

「いーからいーから、出来るんなら早くやっちゃって♪」

「お願いしますクロノさん、本来ならこの場で解体するんですけど、それだとやはり血の匂いに惹かれて他のモンスターが来る可能性もあるので」

「なるほど、移動できるんならそうするべきなのか」

「はい、よろしくお願いします、何なら報酬加算しましょうか?」

「そこまで言うなら、頑張ろうかな――影空間」

加算しなくても、これくらいはやるつもりだったけどな、くれると言うなら貰っておくぜ!

俺から延びる影が、ドルトスの体へ落ちる。

それから、限界まで影空間を構築し、少しずつドルトスを引き入れてゆく。

「くっ、重くてデカいと入れるのも一苦労だ……」

それでも、何とか納まりそう、一度入れてしまえば重さや大きさは関係無い、もう少しの辛抱だ。

「完了だ」

「おおークロノすごーい!」

ニョロニョロと俺の体にアテンの尻尾が絡んでくる、本人はスキンシップのつもりなのかもしれんが、大きな蛇に絡まれるというのは中々にゾっとする。

「ぐっ、離せアテン……」

「照れるな照れるな~」

「いや、本気で怖い」

「なんやとぉー!!」

兎も角、どうにかドルトスを仕留め、クエストの目的を達成することができたのだ。

「それでは、クエストの成功を祝って――」

「「乾杯!」」

イルズ村冒険者ギルドに、イルズ・ブレイダー+荷物持ちの声が響く。

イルズ村を経ってから5日目の今日、無事目的を果たして帰還した。

帰ったのは昼過ぎだが、報酬の受け取りやその他諸々の後始末に時間をとられ、夕暮れの今となって漸く、こうして酒瓶片手に卓をみんなで囲めるのだ。

勿論俺も飲む、なぜならこの世界に20歳未満にお酒を禁止する法律など存在しないからだ。

しかしながら、これも改造強化の恩恵(?)なのか、どれだけ飲んでもほろ酔い以上にならないことがすでに判明している。

「おー、飲んでるかぁクロノ~」

すでに顔が赤いアテンがニョロニョロと俺に絡んでくる。

「今回はクロノのお陰で色々捗ったし、クエストも大成功だったし、感謝してんだぞぅ」

「そうですね、またお願いしたいですよ」

「ああ、助かったぞ」

「まぁ、報酬分はきっちり働いてくれたな」

メンバー全員から賛辞が送られちょっと照れくさい。

「みんな、ありがとなっ!!」

けど、嬉しいのも事実だ。

例え異世界だろうと、どこだろうと、自分の働きが認められれば嬉しいに決まってる。

また少し、俺がこの世界に受け入れられたような気になる。

きっと、これから先もっと彼らのような人達と、知り合い、仲を深めていくことだろう。

けれど、この時頭に浮かんだのは、やはり異世界で最初の友人であり、相棒である、小さな彼女の顔だった。

「ああ、リリィに会いたいな――」