軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第323話 シャルロットの独断

「グリードゴアを見つけたわ」

イスキア古城で篭城が始まってより八日目、白金の月28日深夜、ついにサフィールの 僕(シモベ) がグリードゴアの姿を補足した。

空中モンスターに見つからないよう慎重に索敵用のアンデッド烏を飛ばし、それでも何体もの犠牲を出しながらも、今日この日、ようやくその任務を達成したのだ。

「ホントっ! どこにいるの!?」

「声が大きいわよ」

飛び上がるようなシャルロットの反応に、無表情のサフィールは注意を促す。

二人が密会している場所は、城内でも人気のない通路の端であるが、絶対に誰かが来ないという保証はない。

そしてこの事は、まだ他の誰かに聞かせるべき話題ではないのだ。

「それで、どこなのよ?」

ヒソヒソと内緒話をするに相応しいトーンに落としたシャルロットに、ちょっと呆れた顔でサフィールは応える。

「どこ、と言われてもイスキア丘陵にいるとしか言えないわよ。位置的には城と村の中間地点といったところかしら、そこにある池の畔でゴロゴロしてる姿を捉えたわ」

「ふふん、狙えない距離じゃないわね」

もしイスキア村をとっくに壊滅させて、さらに遠くの村まで進軍を進めていれば、流石に討伐に向かうのは諦めざるを得なかった。だがそれも杞憂に終わった。

「今から行く?」

「当たり前でしょ!」

これで鬱屈とした篭城作戦も終わりを迎えられると信じているのか、シャルロットの目は輝いている。

もっともシャルロットでなくとも、今の閉塞的な状況にはうんざりしている学生ばかりだろう。

初日ほど大規模な攻勢がないのは幸いだが、中途半端な数のモンスター部隊が昼夜を問わず襲来するせいで常に緊張を強いられる。

これでもなんとか死者は出さずにやってこれたのだが、今日か明日にでも本気で総攻撃を仕掛けられれば非常に危険だろう。

学生達は心身ともに、疲弊しているのだ。

「それじゃあ案内はつけるから、行ってらっしゃい」

どこか他人事のように言われ、少しだけシャルロットは不安そうな顔で返す。

「ねぇ、ホントに大丈夫なの?」

「大丈夫よ、シャルが一人で無茶しない限りはね」

「分かってるわよ。私だって一応、気配を消すスキルくらいは持ってるんだから」

どうやら自分で自分の不安を払拭したようで、そのままトレードマークの赤いツインテールを翻らせて踵を返す。

「外にラーちゃんを待たせているから、連れて行きなさい、シャルの言う事を聞くように設定してあるから」

「……ラーちゃん?」

微妙な困惑顔で振り返るシャルロットに、サフィールはクールな顔で切り返す。

「ラースプンのことよ、心強いでしょう?」

「はぁ、ラーちゃんね」

相変わらず妙なネーミングセンスを発揮する友人に、肯定も否定もしない曖昧な言葉を漏らしながら、

「ありがと、使わせてもらうわ」

それだけ言い残し、シャルロットは去っていった。

夜明け前のイスキア古城に、また一発の銃声が轟く。

撃ち出された弾丸は、愚かにもふらりと接近してきたケンタウルスの頭部を吹き飛ばす。

そうして、また一つ城の周辺にモンスターの死体が増えたことを、シモンは防御塔の窓から確認した。

「……はぁ」

小さな口から悩ましげに漏れる溜息は、ランク2のモンスターを仕留めた喜びなどない事を表している。

うんざり、という表現が適切だろうか。

最初こそ多くのモンスターを狙撃で仕留める事に防衛における大きな貢献を感じていたが、こうも連続的に湧き出ては射殺の繰り返しだと流石に単調な作業感を覚えてならない。

「交代まで、まだあと十匹は出てきそうだなぁ」

ぼんやりとそんな予想を口にしながら、手にする狙撃用ライフル、『ヤタガラス二式』に弾丸を装填する。

試作型ライフルは五発装填できるが、こうして高い場所から狙撃に専念できるのならば、一発装填でも威力と射程距離に優れるこちらを用いるのは当然の選択だった。

アルザス戦で大活躍してくれた『ヤタガラス』をストラトス鍛冶工房の力でより本格的な狙撃用に改良してある。使い心地は急造品の域を出ない初代の比ではない。

これを使って、夜空を照らす 灯火(トーチ) の範囲内に入る程度の距離にいるモンスターを撃つのは、シモンにとってそれほど難しいことではない。それこそ、作業である。

特別に夜目が利くわけでも、索敵魔法を使えるわけでもないシモンの役割は、ただ気まぐれに接近するモンスターを撃ち殺すだけ。

故に、暗闇の向こうに潜む敵の気配を、常時神経を尖らせて注意する必要はなかった。

もっとも、日の出こそまだだが空は薄っすらと白んできており、魔法の灯火の出番も終わろうかという時間帯であるが。

ここ数日、降ったり止んだりを断続的に繰り返す分厚い雨雲は、今も空を支配している。

今日こそ土砂降りになりそう、不思議とそんな予感がした。

「ふわぁ」

思わず欠伸が漏れる。

だらけている、というよりも、疲労が蓄積されているせいだろう。

シモンだけじゃない、それはこの防御塔に詰める他の生徒たちも同様である。

うつらうつらと船を漕いでいるエディなどは、真面目な委員長然としたシェンナにまたしても 短杖(ワンド) で小突かれていたりする。

おまけに、城の四隅に設けられた、この堅牢な石造りの防御塔内部は薄暗く尚更に眠気を誘う。

(しっかりしなきゃ、こういう時に襲われると、危ない)

自ら戒め、気を引き締める。

(けど、なんでモンスターは総攻撃を仕掛けないんだろう。的になるようにフラフラしてるのも多いし……もしかして、 寄生(パラサイト) でも全部を制御しきれていないのかな)

実戦に疎い錬金術師であっても、こうして前線に立っていれば嫌でも敵について考えを巡らせてしまう。

このモンスター軍団がグリードゴアの 寄生(パラサイト) 能力によって率いられているとの情報は、すでに全生徒が共有するところとなっている。

しかしながら、相手がどう動くか正確な予測が立つほど詳しく解明されてはいない。

果たしてこの中途半端な攻撃の連続は、何か深い思惑があっての事なのか、それとも指揮官の怠惰なのかは分からない。

なんにしろ、これのお陰で時間だけは確実に稼ぐことができているのだから、援軍を待つ篭城側からすれば幸いであろう。

そんなことをつらつらと考えながら警戒を続けていた、その時。

「ん?」

不意に、視界を人影が通り過ぎた――気がした。

反射的に銃口を向けていたが、眼下には先ほど仕留めたケンタウルスが転がるだけで、他には何者の姿も映らない。

「気のせい……じゃないよね……」

思い返せば、女子だった気がする。素早く駆け抜けた勢いで、長い髪の毛が翻っていたはず。

(もしかして、 寄生(パラサイト) された人かも)

グリードゴアと遭遇した撤退時においても、生徒には一人も犠牲者は出なかった。

だがしかし、殿を務めた教師達の多くは命を落としてしまったと聞いた。

だが、モンスターに捕まっていたとすれば、新たな宿主として利用される可能性は十分ありうる。

そして、それは自分達も同じであると注意は受けている。

もし 寄生(パラサイト) された場合、躊躇せずに仲間を殺せと。

(いや、今日まで防衛は上手くいってるんだ、そんなことにはならないよ、きっと……)

そんな事を思った瞬間だった。

「敵襲―っ!」

まるで夜明けと同時に目覚ましの鐘を打ち鳴らすかのように、開戦を告げる大声が轟いた。

「今度は西門の方か!」

「前衛組は急いで向かうぞ!」

漂っていた気だるい雰囲気が払拭され、俄かに緊張感が張り詰める戦場の空気へと様変わりする。

ついさっきまで眠そうだったエディも、愛用の長剣を掴んで真っ先に飛び出していく勢いだ。

「いや待て! 見ろ、こっちからも――」

目の良い射手クラスの生徒が、防御塔の迎撃用小窓から外を指し示す。

彼の指差す先には、なだらかな丘の向こう側から登り行く陽光。

「え、ちょっと、嘘でしょ……」

その朝日を背景に並び立つ、モンスターの大集団であった。