軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 呪いとレプリカと十徳ナイフ

むかーし、昔、とある辺境の小さな村に、美しい少女がいた。

彼女はその美貌もさることながら、頭も良く、医学の知識を修め、さらに剣術の才能すら持つほどに多才であった。それでいて、穏やかで心優しい性格であり、村長の一人娘という立場もあって、常に皆の中心で誰からも好かれる、絵に描いたような理想的な少女であった。

彼女自身、これまでの生活に満足していただろうし、村で一番強い戦士の男と婚約が決まった事に対しても、特に不満は抱かなかったはずである。

しかし、ある日この村に少年の魔術士が訪れた時から、彼女の運命は狂い始める。

少年は、最近この村に強力なモンスターが出没するようになった為、その退治の依頼を受けて村へやって来たのだ。魔術の師より皆伝を受けたばかりの、魔術士としては新人であったが、若い熱意と正義感に燃える少年魔術士は、他の誰も危険度と報酬の見合わないこの依頼を自分の使命と感じて受けたのだった。

そして少年は村の戦士達と共に山へ分け入り、モンスター退治へ向かった。

しかし、このモンスターは自身が強力なだけでなく、悪知恵まで働くタイプであり、自身が率いる小型モンスターの群れを使って、少年と戦士達を奇襲した。

奇襲によって、戦士達は散り散りに壊走、少年は小型モンスターに詠唱を邪魔され、一度も攻撃できず、命からがら村へ逃げ帰ってきた。

重傷を負って帰った彼を、医学の知識を持つ彼女が治したが、その時の少女の心情は、このあまりにも無様な結果に、村人全員が落胆したのとほぼ同一のものであった。

傷は癒えたが、すでに少年は村で完全に信用を失っていた。

だが、少年は諦めなかった。

この少年は力こそ未熟であったが、その心に抱く正義感は、正しく御伽噺に登場する正義の魔術士と同じ、一度の敗北でその心が折れることは無かった。

村人の協力を一切得られない状況にも関わらず、少年は再びモンスターを退治すべく、一人で山へ入った。

無論、多くの群れを率いる強力なモンスターを退治することは出来ず、また傷を負って帰った。

彼女はまた少年の傷を治したし、村人は再び無様な姿を晒す少年を蔑んだ。

それでも、モンスターを倒し、村を救うことを決して諦めない少年は、傷が癒えるとまた一人で山へ入った。

また負ける、少女に傷を治してもらう、またモンスターへ挑む、何度もそれが繰り返された。

少年はモンスターとの戦いで徐々に力をつけ、小型モンスターの群れの数を着実に削っていった。

それでも、肝心のボスモンスターは健在であり、村人から見れば何も成果など上がって無いように見えたし、信頼の回復にも繋がらなかった。

だが、傷ついて帰ってくるたび、彼を癒し続けた彼女だけは、この諦めの悪い少年魔術士を見直すようになった。

いつも真剣で、ひたむきな彼の姿を見続ける少女が、それからさらなる思いを深めるのに、そう時間はかからなかった。

「いつもありがとう」

少年が傷を治してくれた彼女に礼を言い、何度目かのモンスター退治へ挑もうかという時だった。

「私も、連れて行ってくれませんか?」

一振りの大鉈を携えて、彼女が少年へ言った。

当然、少年は断った。

しかし、少女は頑なに同行することを願い出た。

曰く、村の為に一人でも戦い続ける貴方を助けたい、曰く、私も村を救うための戦いをしたい、曰く、剣の腕には自信がある、曰く、剣は持ち出さず鉈を持ってきたので村長にバレることもない――などなど、少女はよく回る頭をフルに使って、少年が断る言葉を片端から反論で潰していった。

「私も、連れて行ってくれますよね?」

ついに少年は折れた、少女のあまりの熱意によって。

が、この時点で少女はすでに、少年に強く惹かれており、本当はただ彼の助けになりたい一心で同行を願い出たのだった。

それは、翻って村の事など二の次ということ。

あるいは、すでにこの時から少女はおかしくなっていたのかもしれない、初めての恋によって。

「やった! 今日は大戦果だ!」

彼女が加わったことによって、戦力は飛躍的に増大した。

威力の高い魔法を放つためには詠唱が必要で、その時間を稼ぐにはどうしても自分を守ってくれる剣士や戦士が必要となってくる。

モンスターと戦闘で十分以上力をつけた少年に、たった一人の剣士が加わるだけで、普段の倍以上もの力を発揮したのは、半ば当然ともいえた。

さらに、少女も、詠唱中の少年を見事に守りきっていた。

大きいとはいえ、所詮は鉈であるにも関わらず、少年を狙う小型モンスターを彼女は全て一刀両断、その腕前は村の戦士達より格段に上であった。

少年と少女の二人は、その後は常に一緒に山へ入り、確実にモンスターを追い込んでいった。

「今日こそ、決着をつけよう――」

前回の戦闘では群れを壊滅状態にまで追い込み、最終目標であるボスモンスターにも手傷を追わせたほど。

少年は台詞の通りに決心を固め、少女と共に最終決戦へ向かう。

「や、やった――」

丸一日に及ぶ激闘の末、少年と少女はついにモンスターを打ち倒した。

少年は、長い苦難の果てに、漸く村を救うことができたのを喜んだ。

しかし少女は、村が救われたことでは無く、少年が喜んでくれたことに対してのみ喜びを覚えていたのであった。

この時、少女はすでに少年の事以外に何も考えることが出来ない、他の一切が無価値だと思うほど、狂った恋心を抱いてしまっていた。

村人には内緒で、少年と二人きりで戦い続ける日々は、少女の人生の中で最も満ち足りたものであったのだった。

二人は村へ戻り、少年がついにモンスターを討ち果たしたことを知らせる。

村長や戦士達をはじめ、多くの村人が集った広場で、討ち取ったモンスターの首を掲げて、少女は少年と共に戦った事を英雄譚の如く語った。

拍手喝采、村人は少年へこれまでの非礼を心から詫び、これほどの偉業を成し遂げた少年は、村長の娘である自分の新しい婚約者として迎えられる――迂闊にも、少女はこの瞬間までそうなると一切疑わなかった。

「そうか、モンスターを倒したなら、一応依頼料は払う。

だが、娘を危険なことに巻き込んだ事は許しがたい、すぐに村を出て行ってもらおう」

少女は、村長である自分の父が語った言葉の意味を即座に理解できなかった。

村からすれば、少年はすでに見直すことなど出来ないほど蔑まれており、漸くモンスターを退治して、村に完全な平和を彼がもたらしたとしても「今更遅すぎる」と文句をつけられるだけであった。

村長としても、依頼した報酬を払う、というだけでも破格の待遇だと思っている。

何より、皆から愛される彼女を、少年が危険な戦いに巻き込んだことを、村長だけでなく村人全員が憤っていた。

「そんな――」

なぜ、と口にこそだすが、頭の良い彼女が村人の心中をすぐに理解できないはずは無く、結局、少女はただ、理解したくなかっただけであった。

だが、少年が深く頭を下げて謝罪する姿を見て

「今までありがとう、さようなら」

と、悲しげな顔で言った少年の言葉が耳に届いた瞬間、少女の世界は反転した。

自分と彼を祝福する、これまで育った愛すべき村は、少年の心を傷つける、モンスターよりも許しがたい敵となった。

「許さない――」

最初に、父である村長の首を断った。

次に、婚約者だとかワケの分からないことを名乗る男の腹を裂いた。

後は、村人の姿をした‘モンスター’を視界に入るだけ辻斬った。

「絶対に許さない!!」

少年の魔法によって強化された大鉈は、これまで多くのモンスターを斬り、ついにはそのボスまでも屠ったことにより、僅かながらも魔力を帯び、並みの剣を超える威力を発揮する。

魔剣と化した大鉈を使いこなし、激情に駆られて人を斬ることに一切躊躇しない彼女を止められるものなど、この村には存在しなかった。

少女は目に付く限りの人を悉く惨殺した。

後に残ったのは、あまりに突然の惨劇に腰を抜かして動けない少年、凄惨な笑みを浮かべる血塗れの少女だけとなった。

「ど、どうして、こんな……」

地べたに座り込んだまま愛用の杖を握り締め、少女へと震えるような声をかける。

「どうして? 決まっているでしょう――」

少女は、皆を魅了した愛らしい笑顔で答えた。

「貴方を愛しているからよ」

かくして、愛と憎しみの念が篭る呪いの大鉈は誕生した。

少女にとって、守るべき世界は自分と少年の二人きり、それ以外は全て敵対者であり、人もモンスターも区別は無いが故に、無差別攻撃の呪いが宿るのだ。

「――っていう超ヤバい経緯がある鉈なんだって、コレ」

ゴブリンから鹵獲した呪いの武器である大鉈。

道具店での鑑定結果が出たので、こんなあんまり知りたくなかった血なまぐさい異世界昔話を知ることとなったのだ。

というか、鑑定ってそんな呪いが生まれる経緯まで判明するものだとは……いや、魔法って凄いね。

ちなみに、正式名称は『呪鉈「辻斬」』、刃に血を吸わせてさらに強化されると、名前も形状も変わるのだとか。

まったく恐ろしいレベルアップ機能だ、せめて経験値とかもう少しソフトな言い方をして欲しかった、刃が血を吸うって……

「で、こっちの黒いタクトは、ブラックバリスタっていう魔法を秘めた伝説の武器があるらしいんだけど、ソレのレプリカバージョンなんだって」

オリジナルのブラックバリスタとかいう魔法は、どんな城壁も貫通する黒い魔法の弩弓を撃ち出す、と伝えられている。

実際どんなもんなのかは分からないが、少なくともレプリカでは、俺が魔法で弾丸を発射するのとほぼ同一のモノで、タクトを通して散弾やライフルを行使するだけで通常以上の威力が出せるという、俺と抜群の相性を誇る一品だ。

「ナイフの方は『イフリートの親指』つって、一部の炎魔法が使えるようになるらしい」

タクトと一緒に宝箱に入っていたナイフの正体が、炎の魔法が宿るナイフだった、と言えば聞こえはいいが、俺が使える‘一部の炎魔法’ってのがアレで……

「えーと、小さい火を出すのと、虫が焼ける程度の威力の炎の結界が張れる、という二つしか使えないみたいなんだ」

炎魔法と言っても、実際はライター代わりと虫除け代わりにしかならんのだ。

実用的といえば実用的だが、あまりの低威力になんだかちょっと物悲しい。

「あと、道具屋から買った呪いの武器があるけど、うーん、これも実戦では使いどころが難しいモノでなぁ」

ストレートに剣とかなら良かったのだが、モノとしては『針』だからな、そもそも武器と呼べるのかどうかすら怪しいじゃねぇか。

まぁ、安かったからつい買っちゃったんだけどね……

「ねぇねぇクロノ」

「ん?」

「少年と少女はその後どうなったの?」

あんな残酷昔話でも、それなりに面白かったのか、リリィの興味を引いたようだった。

「あーそうだな――

二人仲良く、末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」

それから、ダガーラプターを始め、他のモンスターに襲われる事無く、無事にリキセイ草が自生している場所に辿り着いた。

「おお、結構沢山生えてるな、これなら袋一杯に持ち帰れそうだ」

リキセイ草は、ソレと知らなければ見落としてしまうような地味な草だ。

強いて特徴を挙げるなら、タンポポのようなギザギザした葉であるが、それでも花を咲かせるわけでもないので、他の雑草と大差ないように見えてしまう。

ただ、このフェアリーガーデンの奥地に生えているように、ある程度魔力の濃い環境でなければ育たないのだという。

人やモンスターだけでなく、草花にも魔力というのは影響を与えている、現代人の俺には中々理解しづらい感覚ではある。

「本当にこんなんが薬になんのかねぇ」

「この薬草はそのまま使ってもダメだよ?」

「そういえばニャレコさんもそんなコト言ってたなぁ。

薬草なんていえばHP10くらい回復してくれてもいいような気もするけど」

「えっちぴー?」

俺はリリィにHPの概念を説明しつつ、一口に薬草と言っても、ちゃんと煎じたり加工したりして薬にしなければ効果が出ないモノが多い、というニャレコさんの話を思い出していた。

リリィの言うとおり、リキセイ草はそれ単体では人体に使用しても何の治癒効果も無い。

薬学を専門的に修めて無くとも、こういった薬草そのままでも効果が有るか無いかということは、どこの農村部でも暮らしていれば自然と教えられるようで、知っている人は多い。

しかし都市の出身者ではポーションや傷薬の原料となる薬草はどれでも効果があると勘違いする人もいるのだという。

俺は完全に後者の無知なタイプであった、恥ずかしい。

「いいんだ、これから憶えていくから」

俺はイフリートの親指でリキセイ草を根元から刈っていく、勿論火は出さない、火事になったらどうする。

「ナイフとライターと虫除けが合わさったなんて、十徳ナイフみたいな多機能だな」

まるで炎の魔法のありがたみが感じられない、が、役には立っているのでイイコトにしよう。

「そういえば、リリィはどうやって草刈ってるんだ?」

魔法が無くとも常人以上の力を発揮する肉体を持つ俺でも、採取するにはナイフの方が断然早い。

リリィが素手でとるってのは明らかに効率悪そうだが、服すら着てないリリィがナイフや鎌なんて持ってるはずも無い。

ふとした疑問を持って、俺の背後で芋掘り体験をする幼稚園児の如く一生懸命採取に励むリリィの姿を観察してみる。

リリィが草の根元をその小さな掌で掴むと、パチパチと光が手の中に瞬く。

次には、もう草は根元から完全に分離しており、リリィが小脇に抱える袋へ放り込むだけ。

「レーザーで焼き切ってるのか……恐ろしい子」

リリィが素手でも問題なく薬草採取ができるのは、やはり魔法の力であった。

うーん、俺ももっと色々と応用利かせられるように学ばねば、魔法使いとして!

リリィのさり気無い魔法の使用法を垣間見て、俺は魔法使いとしてのスキルアップを決意したのだった。

ちなみに、リリィが自分で採取した薬草の袋は、自分の空間魔法で収納していたのを見て、またちょっと俺は凹むのだった。空間魔法は『影空間』を操る俺の専売特許だと思ってたのに……

あ、この後は特にトラブルも無く、クエストは無事に達成した。

きっちり三袋分とってきたので、リキセイ草エキス1000ミリグラム配合のポーションを1セット、依頼主である道具屋店主から進呈された。

しかし、ランク1のクエストではどうあっても怪我などしなさそうなので、ポーションを使うタイミングが思いつかない、とっておくのはいいけど、これ賞味期限とか大丈夫なんだろうか?