軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第282話 無銘(ネームレス)(1)

「もしかしてネル、迷子になったんじゃ……」

現地集合の約束だったのだが、試合の開始時刻になってもネルは『 大闘技場(グランドコロシアム) 』に現れなかった。

大いに心配ではあるが、流石にクエストを放棄してまで探しに行くわけにはいかない。

時間ギリギリまで正面ゲート前で待ってから、仕方なく俺は一人で会場入りし、諸々の手続きを経て選手控え室までやって来た。

控え室、と言っても野球のベンチのように、そこからマウンド、ではなく戦いの舞台となるアリーナが見渡せる場所である。

冒険者ランクに関わりなく、全ての選手はここに集っている。様々な装備で身を固めた面々が何十人と揃っているのは、さながら冒険者ギルドのロビーのようだ。

しかし、呪いの武器を求めるだけあってか、異様な風体の者が多い。

特に、一番前のベンチに堂々と陣取っている黒いウェディングドレスみたいな、ド派手なデザインの全身鎧を装備しているお嬢様は目立つ。

いやだって、あの人、凄い金髪縦ロールなんだから、絶対にお嬢様だろう。語尾に「ですわ」とかつけるに違いない。

小脇に抱えているポップコーンを食べる姿も、どこか気品に満ちているように思える。

さらに、その隣に座っている男も中々の異彩を放っている。

装備こそ俺と似たような黒コートだが、ソイツの顔はなんとドクロデザインの仮面で覆われているのだ。

ついでに、腰から刀を下げているので、あの戦闘狂の吸血鬼を思い出させる。

まぁ、アヴァロンの王子様も刀装備だったし、そこまで珍しい武器ってワケじゃないのだろう。

さて、そんな気になる選手のことはさておいて、『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』はすでにして始まっている。

今はちょうど第二試合の真っ最中。呪いの剣を振るう人間の男を相手に、ハルバードを持ったリザードマンが奮戦している。

アリーナはグラウンドのように硬い土の地面だけが広がる場所で、遮蔽物もなく、ひたすらに相手との真っ向勝負である。

だだっ広い円形のアリーナで、ただ二人だけで戦う様は少しばかり迫力に欠けるかもしれないが、それはこの先、派手な武技や激しい攻撃魔法の応酬となるようなハイレベルのバトルによって補われるのだろう。

まぁ、俺はその前に試合を終えてさっさと帰る予定なのだが。

「やれやれ、 無銘(ネームレス) に当たるなんてツイてないね、僕も君も」

ふいにかけられた声の方へ向くと、俺が座る 長椅子(ベンチ) の横に、一人の青年が長い脚を組んで腰掛けている。

長めの金髪に青い瞳、その鼻筋の通った如何にも色男な風貌は、長い耳が無くとも実にエルフらしいといえる。

その細身に纏う白銀の 軽鎧(ライトアーマー) は 聖銀(ミスリル) をあしらっているのだろうか、冒険者というよりも王子様とでも言ったほうがしっくりくる優美な装いだ。

この人は確か、次の第三試合に出る選手だったと思う。

さらにその次、第四試合が俺の担当なので、気まぐれに声をかけてきたといったところだろうか。

「 無銘(ネームレス) ってなんですか?」

無碍に追い払うほど気が立っているわけでも緊張しているわけでもないので、俺は試合を横目にしながら率直な疑問をぶつける。

「なんだい君、そんなことも知らないのかい? ははっ、これはとんだ素人だね」

嫌味な笑いも、顔がかっこよければそれなりに絵になるものだな。

素人扱いされるのは慣れている。一々腹を立てることでもないので、そんなことを呑気に考えた。

「そんな様子じゃ試合の結果は決まったも同然だけど、まぁ、折角だから教えてあげるよ」

それは所謂、冥土の土産というヤツだろうか?

いや『黒髪呪縛「棺」』お前のことじゃない、呼んでないから、嬉しそうに頭の中で「ご主人様ぁ~」って連呼するのはやめてくれ。

さりげなく黒化を強めてヒツギちゃんを黙らせつつ、解説を続けてくれる親切な色男エルフの声に耳を傾ける。

「いいかい、呪いの武器と言っても必ずしも名前があるワケじゃあない。普通の武器と同じ、ピンからキリまで、業物から無銘まであるということさ」

「 無銘(ネームレス) は呪いの最低グレード、ということですか?」

「飲み込みは良いみたいだね。嫌いじゃないよ、そういう人は」

優雅に微笑む色男。だが俺の心は乙女ではないので何とも感じないが。

「鑑定しても名前が判明しない、ようは、その武器が吸った血の量がまだまだ少ない、呪いの武器の子供みたいなものさ。使い続ければいつかは進化して銘がつくかもしれないけれど、何年先になるかわかったものじゃない。気の長い話だね」

自分はそんなものを使うつもりはない、と断言するような物言いである。

まぁ、俺も一からコツコツと呪いの武器を育てようとは思わないが。強くなるまで、使徒が待っていてくれるはずもない。

「そうですね」

「だろう? これは来年まで待つか、サプライズに期待するしかないね」

闘技場で大会、なんて言うからトーナメントを思い浮かべるのだが、この『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』では、選手が戦うのは一回のみだ。

主催者側が選手の実力に応じて対戦カードを組むらしい。

ただ、見世物として盛り上がるように組み合わせを熟考するのは、ハイグレードの呪いの武器と高ランク冒険者同士で、俺のような平均以下の者はほとんどランダムで決められているようだ。

ランク3は立派な職業冒険者を名乗れるが、やはり特別扱いしてくれるのはランク4からであるらしい。一流と二流の壁は厚い、ということか。

それはさておいて、結局のところ、第四試合の俺も相手は 無銘(ネームレス) の武器ということになるようだ。

鑑定しても名前なし、ということはゴブリンから奪ったあの『呪鉈「辻斬」』よりもグレードが低い、呪いが弱い武器であるということは確定的に明らかだ。

うーん、やはりそう簡単に強い武器は手に入らないようだな。

そういう残念さをこのエルフも感じているのだろう。来年に期待するとは、次こそ良い武器と当たりますようにという意味だ。

だが、サプライズってなんぞ?

「剣闘では乱入やら連戦やらのサプライズバトルは当然だろう? 商売人のモルドレッド会長なら、盛り上げるために‘わざと’そういう演出を仕込むだろうね」

なるほど、筋書きのあるプロレスみたいなものか。

まぁ、命懸けで戦う選手からすれば堪ったものではないだろうが、詐欺紛いの事を平然と行うあのデカいスケルトンならば、喜んで指示するだろう。

だが、そのサプライズを自分から望むとは、

「随分と自信があるんですね」

「うん、まぁね」

よくぞ聞いてくれました、というような満足気な笑みをニヤリと浮かべるエルフ。

「君も冒険者ランクは3のようだけど――」

俺の胸元には銀色に輝くギルドカードが下がっている、見れば分かる。

「僕は三年でそこまでランアップしたのさ」

ほう、それはまた随分と長い苦労の年月を重ねたものだ。

「そう、たった三年で、だよ」

「へ、へぇ……」

そこは自慢ポイントだったのかよ。

だが、初対面の人に無礼を働くわけにもいかないだろう、適当な相槌を打って誤魔化しておく。

まぁ、俺だってリリィとフィオナがいなかったら、ランクアップに時間はかかっただろうし、あまりバカにはできない。

「けど、戦いの実力と呪いの武器を扱うのには、また別の才能が必要なんだけど……分かるかな?」

「体質みたいなものですよね」

これはギルドの受付嬢と、アヴァロンのお姫様のお二方からたんとご高説を賜っているのでバッチリだ。

「そういうことさ。だから類稀な剣の才を誇るこの僕でも、呪いの武器は敬遠していたんだけど――」

と、ここがキメどころ、と言わんばかりに金髪のロン毛をバサリと掻き揚げる。

きっと少女マンガだったら、このシーンでは大ゴマで背景にキラキラしたエフェクトがかかっていることだろう。

「――どうやら、天は二物を与えてしまったようだ」

「じゃあ、呪いの武器を扱えるんですね」

意味ありげな視線を流し目で寄越してから、エルフは手にする剣を鞘からゆっくりと引き抜く。

「見たまえ、綺麗な剣だろう?」

「 聖銀剣(ミスリルソード) ですか」

刀身全てがギラギラと白銀の輝きを発しているのを見れば、ロクな鑑定眼のない俺でも即座に判別できる。

というか、どこかで見覚えのある剣なんだが……

「ああ、これは確かに 聖銀剣(ミスリルソード) さ。ただし、呪いが憑いている」

ふむ、呪い憑きの 聖銀剣(ミスリルソード) といえば、モルドレッドのミスリルメッキのパチモンソード詐欺を思い出――あっ、そうか、コレあの時のやつと同じだ!

「この剣を握ると聞こえてくるのさ、刃に秘められた恨みの声が……けど、僕はその声に狂わされることはなかった。むしろ、哀れみを覚えたものさ」

いや、まさか、こんな自信満々に言ってるんだから、あのパチモンではないだろう。偶然の一致だと信じたい。

「そんな僕だからこそ、あのモルドレッド会長もこの剣を譲る気になったんだろうね。彼は言っていたよ、これこそが強い心を持つ者の才能だ、とね」

うわぁ、これは間違いないぞ。このエルフ、確実に呪いの武器詐欺に引っかかってるよ。

どうする、これはキレられることを承知で、教えた方がいいんじゃないだろうか。事は命に関わるわけだし――

「おっと、試合が終わったようだね。僕の華麗な活躍の後に出る君は少しばかり哀れだけど、まぁ、精々頑張って」

と、一方的に言い残し、さっさと退席していく色男。

間に合わなかったか。

仕方ない、彼だって立派な冒険者だ。命の覚悟をもって戦いに臨んでいる以上は、どんな末路を辿ろうと全て自己責任だ。

多少の罪悪感はあるものの、余計な親切心を出した所為でかえって恨まれる可能性もあったのだ、冒険者としては何も言わないのが正解だろう。

「けど、ネルもエリナも止めた理由が分かったよ」

アリーナを見れば、満身創痍のリザードマンが対戦相手から奪った呪いの剣を手にして、勝利の雄叫びと言わんばかりに声を張り上げていた。

だが、次の瞬間にリザードマンの様子は一変。

正しく狂ったのだろう、野生のモンスターと同じように言語にならない鳴き声をあげながら、虚空に向かって剣を振り回し始める。

呪いの制御に失敗した、つまり、とり憑かれてしまったのだ。

そして、この『 大闘技場(グランドコロシアム) 』に詰め掛けた客達は、歓声をあげてその無様な様子を喜んで見物している。

「何とも、悪趣味な大会だな」

やはり試合が終わったらさっさと帰ろう、俺はそう心に誓った。