軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第26話 普通の高校生の話

姓は黒乃、名は真央、17歳の男子高校生。

髪を染めたり、煙草を吸ったり、喧嘩したり、そんなコトはしないし、しようとするヤツも周りにはいなかった、実に平和な学生生活。

家庭環境も特別何かがあるわけでもない、両親は揃い、兄弟は姉が一人いるだけ。

悩みと言えば、来年に控える受験勉強と、文芸部で発行する部誌の締め切りくらいのもの。

規則正しく進む平穏な日常、それが俺の全てだった。

「けど、何だか分からんうちに、気がつけば知らない所にいたんだ」

この世界で最初に目を覚ましたのは、実験室でリングを装着される時だ。

くそ、思い出すだけでも最悪な気分になる、これからの人生アレ以上に最低な目覚めを経験することは無いだろう。

「体の自由を奪われて、俺は白い部屋ばかりの施設で、実験を受けた。

その結果、俺は黒魔法が使えるようになったし、体もやたら頑丈になった、この世界の言葉も分かるし、字も読み書きできるようになった」

俺は望みもしないのに一方的に力を与えられた。

今の俺が持つ力は、この世界においては、それなりに修行でもしないと身につかないものだろう。

それを一年に満たない期間でこの強さを得たのだ、その対価と言わんばかりに、肉体・精神両方とも苦痛続きだったがな。

「俺にある程度能力が備わったら、機動実験と呼ばれる戦いを強いられた」

無手のライトゴーレムから始まり、徐々に相手が強くなっていった。

そして、それに伴って俺も確かに強くなった。

「ある時の相手が……俺と同じ故郷の人間だった。

そうだと気がついたのは、殺してしまった後だったけどな」

あれ以来、自分の意思を完全に手放すようになった。

だからと言って、実験が終わるはずも無い、ただ、俺の気持ちが逃避するようになっただけのこと。

自分の意識が離れていても、体が行う経験は確実に俺のものにはなっていた。

「それ以後も、同郷の実験体と戦わされた、何人殺したのか、もう数は覚えちゃいないが、それでも確かに俺が殺した。

殺すたびに、また俺は強くなった――そうだな、火を噴くドラゴンを倒せるくらいの力は身につけた」

その頃には、もう自分の意識がはっきりする時間は無くなって来ていた。

俺の意識が、自我が、消え去ってしまいそうな、その瞬間だった。

「事情は分からないが、気がついた時、俺を拘束するリングが外れていて、実験室の床に転がっていた。

今にして思えば、俺の意識が少しずつ消えかけていったのも、あのリングの所為だったんだろう。

兎も角、俺を縛る元凶であるリングが外れたのは確かな事実だった。

俺は実験室にいるマスク共を殺して、迷わず逃げることを決めた」

結果として、ヤツラが実験によって与えたこの力のお陰で俺は施設を脱出できたし、その後もほとんど飲まず食わずでここまで辿り着くことが出来た。

サリエルさえいなければ、施設の脱出も何ら危険は無かったくらいだ。

「施設を逃げた俺は、兎に角ヤツラの目の届かないところへ行こうと思って、パンドラ大陸行きの船に乗り込んだ。

で、次に目を覚ましたら、リリィがいたんだ」

膝の上に座るリリィに、俺が抱える事情を語って聞かせた。

俺自身、何故、どうやってこの世界に連れて来られたのか、あのマスク共の正体が何なのか、肝心な部分は何も分からないのだが。

「クロノ……」

「いいんだリリィ、確かに辛かったけど、もう過ぎたことだ」

リリィにも詳しいことは分からないだろうが、それでも俺が実験施設でどれほどの思いで過ごしていたのか、理解できている。

今更慰めの言葉が欲しいわけじゃない、ただリリィには知っておいて欲しかっただけだ。

もっとも、リリィが傍にいてくれるだけで、十分以上の慰めになっているのだが。

「なぁ、リリィは別の世界から人を召喚する魔法みたいなのを知ってるか?」

「別の世界?

わかんない、でも 召喚魔法(サモン) はあるよ」

「モンスターを呼び出すヤツ?」

「うん」

「召喚魔法ってほとんどがソレなのか?」

「うん、モンスターとか使い魔とか呼ぶよ。

他のはわかんない」

「そうか……」

モンスターや使い魔を召喚する魔法は、機動実験の際に何度か見たことがある。

俺もあんな風に光り輝く魔方陣の中から召喚されたんだろうか?

しかしながら、俺やリリィが知る召喚魔法は、別の世界から呼び出すのでは無く、この世界の別な場所から呼び出すという効果でしかない。

「クロノ、故郷に帰りたいの? いつか帰っちゃうの?」

「ああ、帰りたい。

俺がこれまで生きてきた全てを、丸々残してここに来ちゃったからな――」

今更だが、俺が消えた元の世界では一体どうなっているんだろうか。

行方不明扱いなっているんだろうか、どちらにせよ、家族にはあまりに大きすぎる心配と迷惑をかけてしまったことに間違いは無い。

せめて、手紙の一つでも出せればマシなんだが。

「けど、俺も魔法について全く知らないわけじゃない、別の世界を行き来できるなんていうとんでもない効果の魔法がそうそう簡単に見つかるとは思わない。

だから、俺はしばらく、もしかすれば一生、この世界で生きていくことになる。

そん時は、まぁ末永くお付き合いを頼むよ、リリィ。

なんたってリリィは、俺がこの世界で出来た最初の友達だからな」

「うん! リリィ、クロノとずっと一緒にいるよ!」

「ありがとう、リリィ」

リリィがいてくれるなら、俺はきっとこの異世界でも楽しく生きていける、そう思えた。