軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第172話 討伐クエスト×5

「昨晩はお楽しみでしたね」

翌朝、『猫の尻尾亭』の食堂にて、ジト目で睨むフィオナを前に大そう気まずい思いをしている俺がいた。

「いや、その……スマン」

情けない謝罪の言葉しか出てこない。

同罪のはずのリリィに支援を求めてさりげなく視線を向けるが、

「ん~、うぅ~」

と、コックリコックリ小さな頭をゆらゆらさせて船を漕いでいる、どうやら未だ夢の世界から抜け出すことが出来ないようだ。

「私を差し置いて、夜中まで遊び呆けるとは……私を、差し置いて……除け者にして」

「だから悪かったって! 本当に済まない! 雰囲気に流されてリリィと二人だけで夜遊びしてきてごめんなさい!!」

とは言うモノの、ぶっちゃけフィオナの存在を完全に忘れていたのは紛れも無い事実。

昨日の晩、広場前でリリィとのわだかまりを解いた後は、一ヶ月ぶりの満月の夜ということで、夜の街へ遊びに繰り出したのだ。

流石は大都会スパーダ、歓楽街の規模もかなりのもので、男女が静かに酒を飲み明かせる洒落たバーのような店まであったりする。

勿論、夜の街に付き物のいかがわしい店舗も多くあるが、そっちの18禁ゾーンには足を踏み入れていない。

そんなこんなで少女リリィと共に、多少値は張るが美味い酒と料理をつまみながら、今からちょうど一ヶ月前、まだ妖精の 森(フェアリーガーデン) の小屋で過ごしていた頃のように、ゆっくり穏やかな時間を心行くまで楽しんだのだった。

そう、このパーティーメンバーであるフィオナを差し置いて、である。

「お二人が夜遊びに興じている間、私は子供のようにすやすやとベッドで眠っていたのです、全く残念でなりません」

実はフィオナが手紙の差出人がリリィだと知っており、俺に黙って協力していたのだとか。

だから謎の敵が現れる可能性などない事が分かっていたので、広場へ先行して警戒するという役目など果たさず、フィオナはリリィを見送っただけ、後はずっと宿で待っていただけなのだ。

「今度はちゃんと誘うから、いや、今日は俺のおごりで飯食わせてやるからさ、な、許してくれよ?」

「……今日からクエストに行くのではなかったのですか?」

「ん、それならまたの機会でも――」

「いえ、クエストなど明日でもいいでしょう、あんなのは何時でも出来ますし」

なんだ、自分で言ったくせに凄い手のひらの返しようだな。

まぁいい、とりあえずリリィも寝不足な様子だし、クエストの期限も余裕はある、出発は明日でも問題ないだろう。

本当に問題なのは、

「クロノさん、今日はスパーダのグルメを食べつくしますよ」

俺の財布が財政破綻しないかどうか、という事だ……

さらに翌日、初火の月16日、俺は宿の食堂――では無く、スパーダの開け放たれた巨大な正門前に立っている。

勿論、これからクエストに向かう為だ。

昨日、食いしん坊魔女フィオナの食い倒れグルメツアーinスパーダの途中で、ギルドに立ち寄り晴れて正式に『エレメントマスター』のパーティ登録をしておいた。

これでクエストに向かう準備は万端、俺は一刻も早くこのクエストを成功させて報酬金を受け取りたくて仕方が無い、財布の軽さ的に考えて。

「よし、それじゃあ行くか!」

「おー」

「うぅー」

と、気だるげなフィオナはいいとして、リリィに元気が無い、というよりややご機嫌斜めだ。

「どうしたんだよリリィ?」

「……なにもないよ」

と、明らかに何かある風に、俺の足元にしがみついてくる妖精。

ダメだ、やはりちゃんと話してくれなければ俺には彼女が抱えている悩みが分からない。

「いきなり別行動になってしまうのが寂しいのではないですか?」

だが、以外なところで答えを教えてくれる人がいた。

空気の読めないことに定評のあるフィオナである、いや、別に昨日散々におごらされたから腹いせにディスってるワケじゃないぞ。

「そうなのかリリィ?」

「んー、うん、リリィ、みんな一緒が良かった」

胸にキュンキュンくるいじらしい様子でそんな事を言われるが、

「ごめんな、パーティでクエスト行くのはまた今度だ」

今回はリリィのワガママを聞く訳にはいかない。

俺達はこれからクエストに向かうわけだが、ランク1モンスターの討伐依頼が5つと、かなりの数の同時受注である。

一つ一つのクエストは素手でもクリアできるようなものだが、モンスターの生息地域が異なる為、パーティで順に回っていくよりも単独で手分けしてこなした方が圧倒的に早く終わる。

十字軍が攻め込んでくるまでに、どれだけの時間的余裕があるのか判らない以上、こんなところで時間をかけたくは無い。

「ううん、ごめんなさい、リリィちゃんと頑張るよ!」

「そうか、期待してるぜリリィ!」

リリィはこれでいてちゃんと事情は分かってくれている、なんて良い娘なんだろうか。

「じゃ、コレがリリィの受注書な」

俺は取り出したクエスト受注書を、はじめてのお使いに向かう子供に買い物メモを渡すような心持ちでリリィへ差し出す。

ちなみにその内容は、

クエスト・スライム討伐

報酬・10000クラン

期限・受注から一ヶ月

依頼主・冒険者ギルド

依頼内容・スライム5体の討伐。規定数以上の討伐で追加報酬有り。

と、中々そっけない、事務的な依頼内容が記されている。

このスライム退治のようなクエストは、特別に依頼する者がいなくとも、人が住む生活圏の安全保障の為、常に提供されるタイプである。

こういったモンスター退治による安全の確保は、軍も演習がてらに行っているようだが、何と言ってもモンスターの絶滅とは縁遠い驚異的な繁殖力を持っているのだ、冒険者も協力して行う事でようやくモンスターが人里まで降りてこないようにできるのだ。

ちなみに今回受注した討伐クエストは全てこのタイプである。

どの冒険者でも確実に受注する事の出来るクエストであるが故に、ランクアップのための試験的な条件として適当なのだろう。

「ラティフンディア大森林に最近スライムが増えてるらしい、だからリリィの行き先はそこだな」

スパーダ周辺の略地図を三人で囲い、改めてその地理を確認する。

ラティフンディア大森林はスパーダの北西に広がる、その名の通り広大な森林地帯である。

その深部から正式にダンジョン指定となるが、浅い部分にもランク2までのモンスターが徘徊しているらしい、同じ森のダンジョンである妖精の 森(フェアリーガーデン) と比べたら危険度のランクは上だ。

と言っても、リリィの実力からいけば、危険度ランク2程度の大森林の浅い場所など大したリスクは無い。

「目標達成したらすぐ戻ってきてもいいけど、恐らく俺達の帰りが遅いだろうから、1日くらい追加報酬狙いで退治し続けてもいいと思う」

「うん、スライムいっぱい倒してくるよ!」

そんなワケで、リリィの受け持ちはスライム退治クエスト1つだけ。

別に優遇したわけではなく、単純にラティフンディア大森林ではこのスライム退治しか達成できないからだ。

他の4つは、それぞれガラハド山脈の北部と南部に対象モンスターが生息している。

「フィオナはガラハド南部のウィンドルとダガーラプターを頼む」

「はい、任されました」

こちらもリリィのスライム退治と同じ報酬、期限、討伐数となっている。

1体ごとの強さは異なる、例えばダガーラプターはスライムに比べて個体能力は高いが、その分スライムは大量発生しやすく、同じ5体を倒すにしても戦闘状況の危険度にそれほど差異は無い。

もっとも、上手く事を運べばやはり個体能力が低い相手の方が倒しやすくなってくるのは事実ではあるが。

「俺はガラハド北部のゴブリンとプンプンを担当する」

「ぷんぷん?」

「ぷん?」

真面目な話をしていたはずなのだが、この『プンプン』というやたらポップな発音のモンスター名によって、

「クロノさん、これは高度な異世界ギャグというヤツですか?」

ふざけていると思われてしまったようだ。

っていうか異世界ギャグってなんだよ、俺がこっちから見たら異世界である日本出身だからって、変な感性持ってるわけじゃないぞ。

誤解を解くべく、プンプンについての釈明を始める。

「これ受注書には熊兎って書かれてるけど、プンプンって読むらしいんだ」

「そうなんですか、パンドラには不思議なモンスターが一杯ですね」

不思議なのは名前だけだけどな。

一応はモンスターリストで熊兎、もといプンプンについて調査済み、読んだ限りでは他のモンスターと大差ない平凡な生態だ。

「ぷーん、ぷん?」

そう、変なのは名前だけなのだ。

「とにかく! これを全部達成すれば俺達は全員ランク2だ、さっさとクリアしてどんどん上を目指していくぞ!」

おおー! と、今度こそ元気な声が返ってきた。

「よし、それじゃ皆それぞれ頑張ろう、出発!」

そうして、俺達三人は別々な方向へ歩き出す、それぞれの戦場に向かって。