軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 最初の友人

「おじゃましまーす」

「どうぞ!」

小屋の扉を開けると、リリィが笑顔で迎えてくれる、ただそれだけで、俺は癒される。

しかしながら、今の俺の格好は濡れたパンツ一丁、感慨に耽っている場合では無い。

「クロノ、これ」

「ん?」

リリィが差し出してくれたのは、ふかふかした長方形の白い布地、タオルなのか?

「使っていいのか?」

「うん」

「ありがとな」

とりあえず、これで濡れたパンツを乾くまで穿いている必要性は無くなった。

タオルを腰に巻きつけて、脱いだパンツは外の枝に干しておいた貫頭衣の横にかけておくことにしよう。

タオルで頭を拭きながら、俺は考える。

「さて、とりあえず何処で服を手に入れるかな」

リリィはそもそも服を着ていないので、詳しいことは知らないだろう。

薬草を売りに行くという村まで行けば、一着くらい服は手に入るだろう、最悪布だけでも良い。

「なぁリリィ、近くにある村に服を売ってる店はある? あったとしたらいくらくらい?」

「?」

あ、ぽかんとした顔をしているぞ、二つ同時に質問したのは不味かったか?

「んーとね、道具屋さんに売ってると思う」

「道具屋さんって何を売ってる店?」

「んー、何でも!

服は分かんないけど、ヨロイは売ってるの!」

「鎧が売ってんのか、それは確かに何でも売ってるな」

日用雑貨だけかと思ったが、モンスターが出没する世界である以上、武具ってのは俺の世界よりも需要が高いのだろうな、村でも取り扱っているなんて。

「クロノ、あがって!」

「ん、玄関で立ち話もなんだからってか、お言葉に甘えて上がらせてもらおう」

玄関、とは言うが小屋の作りは西洋風なのか靴を脱ぐような場は無く、そのまま床が地続きなだけだ。

海外旅行をしたことが無い俺だったが、まさか異世界でこの靴を脱がずに家に上がる不思議な感覚を味わうことになるとは。

一応、軽く足についた汚れを払って一歩を踏み出す。

リリィは俺と同じく裸足で木の床をペタペタと歩いている。

身長が俺の膝くらいまでしか無いリリィを見ると、この小屋でも大きく見えるが、俺は無駄に育ったこのデカい体のお陰で少々狭く感じてしまう。

小屋としてはそこそこの広さはあるのだろうが、大きな書架や棚が並んでいるのをはじめ、木箱や謎の袋も積み上げられ、かなり圧迫感を憶える。

備え付けられているベッドと小さなテーブルだけが唯一生活感を醸し出している。

リリィが住むのに必要無いものが多そうだが、この小さな体で巨大な書架や棚を片付けろってのは無理な話か。

「すわって!」

キョロキョロと部屋を見回していた俺にリリィが呼びかける。

見れば、ベッドの上に飛び乗ったリリィが、白いマットを両手でぽんぽんと叩いている。

椅子は無いので、座るとしたら確かにそこしかない。

返事をしながらベッドに腰掛けると、マットのふんわりした感触に思わずうっとりする。

これまで固い床の上でしか寝てこなかったのだ、この柔らかさは贅沢すぎる。

と、浸っていると、

「お茶入れるから!」

いえお構いなく、と遠慮して言おうと思ったが、目をキラキラさせてやる気に溢れるリリィの姿をみると、

「ありがとう」

としか言えなくなる。

すでにタオルを借りてしまったし、このまま居座ると加速度的にリリィへの借りが増えていってしまいそうである、お茶はその第一歩な気がしてならない。

ごめんよリリィ、今は体と黒魔法以外に何も持たない俺だけど、いつかこの恩は十倍返しにするから!

堅く心に誓いながら、お茶を入れているリリィへと目を向ける。

「ふぅー!!」

リリィは火を噴いていた。

ドラゴンかよ! と立ち上がって突っ込みそうになったが、落ち着け、あれはただの魔法だ。

言葉の通り、リリィはその小さな口から高熱の火炎放射を小型の釜(?)へと吹き付けている。

炎を発する魔法を使うヤツは結構多かったが、人型なのに口から火を噴くのは始めて見たぞ、あれも妖精魔法なのか?

色々と疑問が湧いて来るが、あまりに一生懸命にお茶を入れる準備をしているリリィの姿に、声をかけることができない。

ここは大人しく待っているとしよう――

「できたよー!」

その声で、思索という名の浅い眠りについていた俺の意識が現実世界へと戻る。

テーブルの上に仁王立ちするリリィと、その前に置かれる湯気を上げて芳しい香りを放つカップがティーポットと並んで置いてある。

「おぉ、ありがとな」

小さな子供のようにしか見えないリリィが果たしてちゃんとお茶をいれられるのかどうか若干心配だったが、見事に用意できている。

カップに入っているのは紅茶だろうか? その色と香りからかなり近いように思われる。

「飲んで、クロノ!」

期待に満ちたリリィの眼差しを一身に受ける俺。

「おう、いただきます――」

と、カップに手をかけたのと同時に気がついてしまった。

「あれ、リリィの分は?」

テーブルには、俺が手をかけているカップの他には、ティーポットがあるのみである。

家主である彼女の分が無いのは、うっかり忘れてしまったのだろうか?

「一つしかないの」

「え、何が?」

「カップ」

「そうなの? どうして――」

言ってから、もしかしてお金が無いのか? だとしたら拙いことをうっかり聞いてしまったぞ、と後悔したが、

「誰も、来ないから。

でも、クロノが来てくれた、はじめて来てくれた、リリィとっても嬉しいの」

俺はもっと後悔した。

そうか、光の泉を追放されるってのはこういう事か。

もし村に暮らしていればこんなことも無かったんだろうが、妖精である以上リリィは森を離れられない。

だからこそ、最初から光の泉を追放されることさえ無ければ、普通の妖精と同じように、仲間達と毎日楽しく過ごせていたのだろう、辛いことも、悲しいことも無く、幸せなまま一生を送れた――

けど、こんなことは今俺が言うべきことではないな。

追放されたことを受け入れたのも、村に住まないのもリリィ自身が決めたことだ、それを否定するべきではない。

「俺がここへ招かれた友達第一号って事か、光栄だぜ」

「トモダチ?」

「ああ、なんと言っても俺達はゴブリンの大軍を相手に背中を預けて共に戦った仲だ、すでに単なる友達以上である事は間違いない!」

だから俺は、これまで頼れる人がいなかったリリィに、力を貸してあげられる最初の一人となる。

この異世界では無知もいいとこで大した力にはなれないだろうが、それでもモンスターの相手くらいはできる。

「うん、リリィ、クロノとトモダチ!」

この日一番の笑顔を見せてくれるリリィ。

けれど、この敵しかいなかった異世界で、心の許せる最初の友人が出来た俺の方が嬉しいのだと思う。

そう、彼女と出会えただけで、ここへ来て良かったと思えるほどなのだから。