軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 ゴブリン退治(2)

「クロノ!」

「リリィ、危ないからちょっと後ろに下がってな」

ゴブリンという種族自体猿のように身軽だが、それを越える脅威の跳躍力でその場から飛び上がる。

「ライフルっ!」

宙に舞うゴブリンへ向けてライフルの連射を浴びせるが、不自然なほどの動きで、ほとんどの弾丸を大鉈で叩き落す。

何発か身を掠めるように当たるも、まるで痛みは感じておらず、変わらぬ速度で大鉈を振るい続ける。

これは完全に息の根を止めないと、いつまでも襲い掛かってくるタイプだぞ。

着地したゴブリンと俺の距離は3メートルほど。

目前にまで迫り、大鉈から発せられる『呪い』としか言い様の無い禍々しい力を肌で感じる。

「自動剣術」

接近した敵の足止め用にと背後に控えさせていた黒化した木の枝を操る。

もし、相手が並程度の武器であったなら、木の枝でも防げただろうが

「ギョアッ!!」

呪われた大鉈の前ではあっさりと両断される。

前後左右、合わせて4本の黒化棒は、何度かゴブリンの体を打ったり突いたりするが、ダメージが通っている様子はまるで無い。

棒と斬り合っている隙をついてライフルを撃つが、超反応で弾かれるか回避される結果に終わる。10秒もすれば、4本全て斬り捨てられ、ゴブリンは一直線に俺へ飛び掛ってくる。

「くっ、シールド!」

展開された黒色のシールドは俺の脳天を唐竹に割るはずだった一撃をなんとか防いでくれた。

自分のアンチマテリアルを重ね当てしてもひび一つ入らない今の俺が誇る最高硬度のシールドだったが、大鉈の凶刃はその半ばまで切り裂いている、もう一発受け止めたら割れるなこれは。

「散弾」

が、もう一発受け止めるつもりなど無い。

至近距離で散弾を喰らったゴブリンは軽々と宙を飛んで吹っ飛ばされる。

相当数の弾丸がその身を穿ったはずだが、呪いの効果である程度肉体も強化されているのか、未だ五体満足であった。

吹っ飛んでいる最中に、空中で猫のように体勢を立て直し、軽やかに着地する血まみれのゴブリン。

再び俺へ斬りかからんと、一歩を踏み出した瞬間、その足に黒い棒の切れ端が纏わりつく。

「ギッ!?」

黒化棒を斬り捨てて無力化できたと思っただろうが、二つや三つに分割されたくらいじゃ自動剣術は解けない。

サリエルには全く効果が無かった虚の突き方だが、呪いの武器で頭がイカれたゴブリン相手には有効だった。

足をとられ、顔面から思いっきり転倒するゴブリン、しかし、大鉈はしっかり握られその手からは離れない。

「アンチマテリアル」

それまで高速で飛び跳ねていたゴブリンだが、転んでくれたお陰で正確な狙いがつけられる。

さらに転倒状態ではろくに大鉈を振ることは出来ない、腕の構造を無視してまで一閃することは、いくら呪いの武器でも不可能だ。

放たれた弾丸は、強化された腕をものともせずに撃ち貫き、完全に吹き飛ばす。

大鉈が握られたまま、ゴブリンの右腕が地に落ちる。

「ライフル」

腕が落ちるのと同時、放ったライフルはゴブリンの眉間へ吸い込まれるように命中し、血と脳漿をぶちまける。

「ふぅ、やっぱり接近戦は怖いな……」

使い手を失えば、如何に呪いの武器とはいえその威力を発揮する事は叶わない。

いや、独りでに動いて斬りかかったりしてこないよな? と考えるが、大鉈が発す黒いオーラは治まっている。

「一応回収しておくか」

拾われたりして、またあの凶暴化ゴブリンの相手をするのは御免だ。

「クロノ、だめ! 危ない!」

言いつけどおり、ちゃんと後ろで大人しくしていたリリィだったが、俺が大鉈へ近づくのを見て静止の声を上げる。

まぁ、呪いの武器を手にしようってんだ、普通は止めるよな。

「ああ、多分大丈夫だからリリィ」

俺は全く躊躇せず、大鉈の柄に手をかけると、その瞬間、

――憎――殺――愛――死――

「おおっ、これはちょっと懐かしい感覚だぜ……」

拘束のリングによって、頭の中に強制的に思念を流し込まれるのと同じ感覚だった。

身の毛もよだつ愛憎の思念が脳内に溢れる。

「五月蝿いぞ、大人しくしてろ――黒化っ!」

ゴブリンが手にした時と同じように、黒いオーラを噴出し始める大鉈に、さらに暗い俺の黒色魔力を上書きする。

思った通り、この大鉈に宿るのは俺と同じく黒色魔力、だが、その魔力量は圧倒的に俺の方が上。

どれだけの怨念を込めたか知らないが、絶対的な魔力量の差によって、俺をゴブリンのように狂わせ支配することは出来ない。

要するに、俺と大鉈の相性が良かったってことだ。

「ク、クロノ?」

「な、大丈夫だったろ」

はっはっはっは、と笑いながら大鉈をペン回しのように片手でくるくる回して遊ぶ。

俺にそんな器用さは持ち合わせて無いが、呪いの武器の追加効果である、その武器を使う技術が上がる効果によって、大鉈は自分の体の一部であるかのように扱うことができるのだ。

「呪いは?」

「ん、もう恨めしい声は聞こえ無いぞ。

でもリリィは触ったらダメだぞ、俺がコレを扱えるのは相性が良いってだけだからな」

「そうなの?」

「そうなんだ」

「そうなんだぁ」

呪いの大鉈を手にしても、一向に変わる気配の無い俺に、漸くリリィが安堵の笑みを見せる。

しかし、ゴブリンの屍が散らかる所で二人笑いあっている場面ってちょっとシュールじゃなかろうか。

「おっと、忘れるところだった、まだゴブリンは残ってるんだよな」

気がつけば、未だ戦意の衰えないゴブリン共が、囲むように俺へと迫ってくる。

流石に警戒しているのか、四方に散ってじりじりと距離を詰める作戦に切り替えたようだった。

俺としてはそれでも問題無く戦えるが、リリィも包囲の内側に入ってしまったら危険だ。

「リリィ、今の内に――」

下がれ、と言おうとした瞬間、飛来する風切り音を耳にする。

しまった、弓矢を撃たれたか。

見上げれば、前方の上空から降り注ぐように何十という数の矢が目に入る。

散弾で全て迎撃しきれるだろうか、ダメでも、手にする大鉈で俺の体に命中する軌道の矢は弾けるだろう。

どちらにせよ、先にシールドを半壊させられた所為で即座に再構築が出来ない。

今は、リリィを脇に抱えて迎撃した方が確実に安全――

「んんー!」

「あれっ!?」

地面に立つリリィを抱き上げようとしたが、気づけばいつの間にかリリィは俺の肩へと乗っていた。

短い両腕を前方に突き出し「んー」と目を瞑って唸るリリィ。

「ええーい!!」

気合一閃、リリィの可愛らしい雄たけびと同時、その淡く光る白い体がより一層の強い輝きを発する。

「うおっ、眩しっ!?」

次の瞬間には、紅葉のようなリリィの掌から、光の帯が何本も放たれた。

「なんだ、ビームか!? ビームなのかっ!?」

リリィによって上空へ撃ち出された幾本もの光は尾を引きながら、縦横に不規則な軌道を描いて迫り来る矢の群れへ飛び込む。

飛来する矢の何倍も速く軌道するリリィの光は、一本で複数本の矢を消滅させる。

「まさか、自動追尾してるのか」

しかも、高速で飛翔する矢をターゲットにしてだ。

そう呟いた時には、俺達へと迫っていた矢の雨は上空で残らず消滅し、迎撃の役目を終えた光も霧散して消えていた。

「……すげぇ」

俺のライフルや散弾が玩具に思えるほどの高性能魔法だ。

すごいぞ、妖精ってな皆このレベルの魔法を使えるのか、そりゃゴブリン相手なんて余裕だろうよ。

「えへへ」

俺の尊敬の眼差しを受け、リリィが肩に座りながら照れ照れする。

顔が近い、可愛さも三倍だ。

「はっ!」

いつまでも和んでいる場合では無い、未だ戦闘中、一息で斬りかかれるほどに距離をつめつつあるゴブリンの包囲の中だ。

「俺もカッコイイとこ見せないとな」

リリィを優しく抱いて地面へ降ろすと、右手に大鉈を握り、左腕には装填を始める。

「リリィ、槍持ちは俺が絶対に近づけさせない、けどその間にまた弓を撃たれるだろうから、そっちの相手を任せてもいいか?」

リリィの戦闘能力は最早疑うべくもない、この状況下では協力した方が断然有利だ。

「まかせてっ!」

細い眉をきりりと上げ、自信に溢れる顔のリリィ。

「よし、任せたぜっ!!」

言うと同時、正面のゴブリンへ向かって俺は駆け出す。

銃を元にした黒魔法での中・遠距離での戦いが俺にとっての基本戦術だが、接近戦は全くできないワケじゃない。

常に距離をとって戦えるほど、あの機動実験は生易しく無かったさ。

ま、返り血を浴びるほど相手に肉薄するのは怖いことに変わりはないのだが。

「――散弾!」

前方に固まる三体のゴブリンを散弾で始末する。

それぞれ手にしているのは、槍とナイフと錆びた剣。

まずは錆びた剣を手にとる。

「黒化――自動剣術」

瞬時に黒化で錆びた剣を操作し、投げ捨てる。

再び空いた左手が、同じ要領でナイフを掴み黒化、さらに投げ捨て今度は槍を手にする。

「貫け」

瞬く間に黒化した3つの武器は、俺の背後に回って斬りかかって来るゴブリンへ向けて投擲する。

その間、後ろは振り返らず、さらに正面から同時に飛び掛って来る二体のゴブリンを、呪いの大鉈で纏めて両断。

「おおおっ、すげぇ切れ味だ!」

ゴブリンが手にする武器も、革の鎧も、肉も骨も、一切の抵抗無く刃は滑り込む。

これなら鉄板でも紙の様に切れそうだ。

黒化武器は威力も上昇するが、これほどまでの切れ味を実現した刃は今まで見たことが無い、すげぇぜ呪いの武器!!

「でやあっ!」

更に襲い来るゴブリンを、大鉈で次々と一刀両断していく。

俺に剣術の心得など全く無いが、身体強化の上に大鉈の扱い技術上昇効果によって、時代劇に見る侍のように華麗な剣舞を可能とする。

「どどーん!!」

俺の後ろで、この壮絶な斬り合いの修羅場に不自然極まりない愛らしい叫び声が聞こえた。

多分、リリィが魔法を撃ったんだろうなぁ。

大鉈の一閃を防ぐ刃ごとゴブリンの首を斬り飛ばした時、洞窟の入り口に展開していた弓持ちのゴブリンが纏めて光の柱に飲み込まれていくのが視界の端に映った。

本当にリリィの妖精魔法は凄いな、俺もいつかビームとか撃てるようになるんだろうか?

「――お前で最後だっ!」

脳天から股下まで綺麗に真っ二つにして、取り囲むゴブリンは全滅となった。

周囲には、最早数え切れないほどゴブリンの死体が転がる。

どの死体も胴、頭、手足の何れか又は全てが欠損した、酷い有様である。

お陰で出血も凄まじいもので、あたり一面血の池地獄と化している、ついでに俺の浴びた返り血も結構なもんだ。

元々白かった服は汚れによって黒くなってはいたが、今は返り血によって赤黒い、より最悪なカラーリングへと成り果ててしまっている。

こんな殺戮現場にあって、そんな感想しか出ない俺は相当感覚がイカれたようだが、血塗れの俺を見てもにこにこ笑顔で出迎えるリリィを見れば、まぁ悪くは無いかなと思えてくる。

「弓を片付けてくれてありがとな」

「頑張ったの!」

「ああ、一撃だったもんな! リリィは凄いぜ」

「えへへー」

テレながらも誇らしげなリリィであった。

「さて、大体は片付いたけど、まだ洞窟の中に残ってる奴らがいるんじゃないか?

どうする、入って始末してくるか?」

「んーん、もういいの」

「そうか?」

「うん――」

そうして、本日三度目のリリィの大発光。

弓持ちの群れを一掃したと思われる光の柱が、洞窟の入り口近くに突如として出現し、そのまま崖を撃つ。

あの光の柱が如何なる攻撃力を秘めているのか、見た目ではよく分からなかったが、崖の斜面は大爆発を起こして、洞窟の入り口を埋める崩落が発生する。

洞窟内に隠れていたゴブリンが、何体か慌てて外へ飛び出してくるが、降り注ぐ岩によって残らず押しつぶされてゆき、砂礫で埋められていく。

「……あーあ」

崖崩れが治まると、洞窟の入り口は塞がれ、まだ中に残っているだろうゴブリン諸共、完全に生き埋めにしてしまった。

一発の魔法で、さっさと殲滅を完了したリリィであった。

「かえろ、クロノ」

ちょっと呆然としていたが、リリィに裾を引っ張られて我に返る。

「あ、ああ、そうだな、帰るか」

「うん」

よちよち歩きながら上機嫌に森へ歩いていく小さな後姿を眺めながら、俺はリリィを絶対に怒らせないようにしよう、と堅く心に誓ったのだった。