軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第146話 エレメントマスターVS第八使徒(3)

生きてる。

致命傷は負ってない、手足が吹っ飛んだわけでもない、五体満足、体はなんとか動く。

「ぐっ、う……」

濛々と黒煙が立ち込める中、軋みをあげる体に活を入れつつどうにか起き上がった。

煙が晴れないので視界はほぼゼロだが、自分の姿くらいは確認できる。

ちくしょう、愛用の『悪魔の 抱擁(バフォメット・エンブレス) 』が影も形も無い。

今の俺は丈夫なだけで何ら魔法の効果など宿していない、黒いシャツに革のズボンを穿いただけの一般人と同等の格好だ。

黒ローブは今の一撃によって、とうとうダメージの許容限界を超え、灰となって消滅してしまった。

「今まで、ありがとな」

リリィの小屋にあった宝箱から入手して以来、今日までの約3ヶ月間ずっと世話になった相棒に心から感謝の言葉を送る。

防具として最後の最後までしっかり役目を果たしてくれた『悪魔の 抱擁(バフォメット・エンブレス) 』、コイツを着てなければギリギリで死んでいたな。

「それで……どうなったんだ?」

多少焦げちゃいるが、しっかりと二つの足で立ち上がり、正面を見据える。

吹き抜ける風によって爆発の煙が霧散してゆき、足元から順に視界が晴れていった。

俺は爆風によって何十メートルも吹っ飛ばされたのだろう、爆心地に直撃した第八使徒アイは、果たしてどうなったか――

「……なんだ、アレは?」

ほぼ黒煙がおさまり、凄まじい爆発の威力を証明する直系100メートル級のクレ-ターが確認できる。

俺はその淵に立っていて、ここから中心地点である場所まで一切遮るものなく見通すことが出来る。

そして、クレーターの中心に大きな黒い塊があるのを、俺の目は確かに捉えた。

「モンスターか?」

少し近づいて見れば、その黒い塊、いや、ブスブスと未だに熱を感じさせる黒焦げの物体は、どうやら獅子のような姿をしていることが分かる。

蹲っているような格好で、正確な大きさは測りかねるが、およそ全長は10メートル以上ありそうな巨体だ。

一体なんだコイツは? アイはどうなった、このモンスターがアイなのか?

疑念を抱きつつも、警戒するために『呪怨鉈「腹裂」』を取り出して構える。

「クロノ! 大丈夫!?」

と、そこでクレーターの外側から叫ぶリリィの声が届いた。

フィオナの声が無いのは、恐らく魔力切れで倒れているからだろう。

「大丈夫だ、ちゃんと生きてるぞ!」

未だ少女の姿を保つリリィが現れる、どこか煤けて見えるのは、俺に 妖精結界(オラクルフィールド) をかけてくれたため、自分の身を守ることが出来なかったからだろう。

そんなリリィがこちらへ駆け寄ろうとしその時、生気を感じさせずに倒れ伏している謎の獅子のモンスター、その大きな口元が僅かに動くのを見た。

「まだ生きてるのか!?」

それは正しい意味での問いかけではなかったが、

「――いやぁ、危なかった」

答えは返ってきた。

「ツミキちゃんが庇ってくれなかったら、死んでたよアタシ」

倒れているモンスターの巨大な口が一気に開かれる。

その鋭い牙の並ぶ獰猛な口腔より、一人の少女が姿を現した。

「流石にビックリした、封印器に 妨害(ジャマー) かけてくるヤツなんて始めてだよ」

如何にも面白そうに微笑み、何事も無かったかのように、第八使徒は再び俺の前に立ちはだかった。

炎による負傷は皆無、先とほぼ変わらぬ様子のアイ。

唯一の変化は、綺麗な金髪を二つに結ったツインテールから、髪を下ろしたストレートヘアになっている点。

それはつまり、力の封印が完全に解けている事の証であった。

「くっ、マジかよ……」

互いの距離は10メートルも離れていない、それにも関わらず、濃密な魔力の気配が俺の肌を刺すように刺激してくる。

全ての封印が解かれ、その身に纏う白銀のオーラが明らかに密度を増しており、それ以外にも、何とも形容しがたい、見えない圧力のようなものも感じられた。

これは、拙い、『 黄金太陽(オール・ソレイユ) 』で仕留め切れなかったことも拙いが、使徒を本気にさせてしまったのがなによりも拙い。

「逃げてクロノ!」

響き渡るリリィの声と共に、俺の背後から追い越すように光の玉がアイ目掛けて飛んでいった。

呆然と見ているわけには行かない、俺は兎に角、相手から距離を置こうと全力で後退を始める。

だがその一歩を踏み出した時、アイが目にも止まらぬ速さで、あのボロい木の弓を構えた。

「逃がさないよ、この一発で終わりにしてあげる――」

リリィの放った幾つもの光の玉は高速で敵に迫る、1秒もしない内に距離はゼロとなり爆発するだろう。

だが、その刹那の間に、アイはいつの間にか形成された一本の矢を放った。

「――『 光矢(ルクス・サギタ) 』 付加(エンチャント) 『 神聖元素(アイテール) 』」

放たれたのは、先にも見た白く輝く光の矢、そのはずだが、矢から発する光がぼやけて、いや、矢が存在する空間そのものが歪んでいるかのように、はっきりと目に見えない。

妙なエフェクトのかかった『 光矢(ルクス・サギタ) 』を放つと同時に、木の弓が木っ端微塵に砕け散った。

矢の発射に耐えられなかった、恐らく本当に見た目通りにボロいだけの弓矢だったんだろう。

そんな事を思った時点で、ついにリリィの放った光の玉は着弾。

眩い閃光と土煙を上げて、弓を放った体勢でいるアイの姿を隠した。

使徒の実力を思えば、それほどダメージにはならないだろう、だが今はそれよりも、アイが放った‘よく見えない’『 光矢(ルクス・サギタ) 』の行方を気にするべきだ。

「くっ、リリィ狙いか!?」

『 光矢(ルクス・サギタ) 』は正面に立つ俺を大きく迂回するように、背後に立つリリィに向かって飛んでいく。

光の矢がぼやけて見えにくいが、飛来する速度そのものはそれほどでは無いので、はっきり目で追うことができる。

「こんな遅い攻撃――」

リリィが自身に向かって迫り来る『 光矢(ルクス・サギタ) 』を迎撃するべく、いくつもの光弾を高速で撃ち込んだ。

矢一本という的そのものは小さいが、リリィの高い命中力と自動追尾機能を持つ攻撃が、目で追える速度で真っ直ぐ飛ぶ物体に対して当てられないワケが無い。

飛来する目標に次々と殺到する光弾が連続的に閃光を伴う小爆発を巻き起こす。

しかし、

「――ウソっ、下級魔法のくせにっ!」

光の下級攻撃魔法でしかないはずの『 光矢(ルクス・サギタ) 』は、リリィの攻撃をものともせず、軌道すらずらすことなく飛び続ける。

「避けろリリィ! その攻撃はヤバい!」

アイが放ったのはただの『 光矢(ルクス・サギタ) 』じゃない、俺は確かに、ヤツが「アイテール」という‘何か’が 付加(エンチャント) されている意味合いの言葉を聞いた。

「っ!?」

回避行動にリリィが移ったその瞬間、光の矢はそれに反応したように急加速。

しかも、リリィが跳んだ方向へ急旋回し軌道修正した。

「自動追尾能力か!」

この速度、この機動性能、回避は不能。

リリィに残された手段は、

「 妖精結界(オラクルフィールド) 全開っ!」

防御のみ。

ズドドドドッ!!

「リリィーっ!?」

『 光矢(ルクス・サギタ) 』では有り得ないほどの大きな爆発が巻き起こる。

眩い破壊の光が弾けると共に、リリィの小さな体が吹き飛んで行くのが見えた。

そんな、まさか、リリィが――いや落ち着け、手足に欠損は見られないし、大量に出血している様子も無い。

『 妖精結界(オラクルフィールド) 』は破られたが、エンシェントビロードのワンピースがリリィの身を守ったはずだ。

吹き飛ばされたリリィはそのまま地面を滑るように転がってゆき、ようやく動きを止める。

反応が無い、もしかして衝撃で気絶したのかもしれない。

「妖精ちゃんの心配してる場合じゃないよ、アタシの攻撃はまだ終わってないんだからね」

アイが言い放ったその言葉の意味は、少しばかり視線を上へ向ければすぐに理解できた。

「なっ――」

見上げれば、リリィを襲った『 光矢(ルクス・サギタ) 』は、変わらず矢本体を歪ませた状態のまま、今度は俺目掛けて迫り来るのが目に入った。

リリィをブッ飛ばした爆発だけでその効果を終えたわけではない、どうやら本当に‘一発’だけで終わらせるつもりらしい。

「ちくしょう、 魔弾(バレットアーツ) !」

左手にタクトを握り、リリィと同じように『 光矢(ルクス・サギタ) 』を迎撃するべく魔弾の弾幕を浴びせかける。

だが、やはり効果はないようで、何発も命中しているにも関わらず、矢はターゲットをロックオンしたミサイルの如き正確さで俺目指して飛び続ける。

全力で後退しつつ魔弾を撃ち続けるが、抵抗虚しく距離はあっという間に詰められてゆく。

回避は不可能だ、だが果たして、俺にこの攻撃を防ぎきれるのか? リリィの『 妖精結界(オラクルフィールド) 』ですらあっさり破れたのだ、俺の防御魔法なんかで――いや、諦めるな、やるしかないんだ!

「おぉおおおおお、 黒盾(シールド) っ!」

タクトを握った左手を前に掲げて、最大硬度でシールドを展開。

迫る『 光矢(ルクス・サギタ) 』、俺は両足を踏ん張ってインパクトの瞬間を迎える。

ギャリリリ――

甲高い不気味な音を立てながら、矢の先端が黒色魔力の盾に阻まれる。

着弾ではあるが、爆発はしない、そのまま壁にドリルで穴を開けるかのような勢いで、歪んで見える光の矢は黒盾に食い込んでくる。

その拮抗は一瞬で破られる、矢は当然のように盾を貫き、その先へ進む。

未だ前へ振り上げたままの左手、そこに握られているタクト、『ブラックバリスタ・レプリカ』が、矢が纏う‘歪み’に触れた瞬間、握りの部分まで粉々に粉砕してしまった。

砕け散るタクトの破片が一つ一つ見えそうなほど、時間がスローモーションで流れていっている感覚。

迫る矢、阻むものは無い、その先にあるのは俺の顔、より正確にいうなら、この光景を映し出している瞳に向かって迫ってきている。

「くっ!」

それは反射なのか、それとも別な意思なのか、この僅かな刹那の間に右腕が動いた。

矢と俺の前に、黒い壁、いや、それは黒い刃、『呪怨鉈「腹裂」』を挟み込み、刀身の腹で受ける最後の防御と成す。

ギャリリ――

1秒前にも聞いたのと同じ音、矢は、呪いの武器である鉈の硬い刃に阻まれつつも、その前進を止めるものを一切許さないかのように、進み続ける。

削られる、まずは鉈を覆う黒色魔力のコーティングを、0,2秒もかからない。

さらに削る、今度は呪いを秘めた刀身を。

『呪怨鉈「腹裂」』は呪いの武器、つまり魔法の武器である、魔力を宿すことで刀身の硬度は通常の鋼とは比べ物にならないほど高い。

だが、それでも、この、

バギンっ!

矢を止めることが出来ない!

「っ――」

愛憎の怨念を宿す黒き刃を、光の矢が貫通する。

今度こそ、俺を守るモノは何も無くなってしまった。

止められない、止める手段など無い。

だから、俺にはもう、矢が俺の視界にどんどん接近してきて、この目を、左目に突き刺さるまで、ただ見ていることしかできず、

ドズッ

「がぁああああああああああああああああ!」

光が、俺の左目に飛び込んできた。

完全に眼球を貫かれた、痛い、激痛、だが――耐えられないほどじゃない! まだ、死ぬほどじゃない!

「あ、あああ……」

矢は俺の左目に真っ直ぐ突き刺さり、ようやくその動きを止めた。

生を認識できる時点で、そのまま貫き脳にまで達していないのだろう。

だが当然、視界の左半分が見えない。

健在な右目だけが映す景色には、俺の左目に突き立っているのだろう白い光の矢が見えた。

俺はすでに握りだけとなってしまった『ブラックバリスタ・レプリカ』の残骸を放り捨て、刺さった矢を掴む。

すでに空間を歪ませて見える不思議なエフェクトも消えており、さらに光属性のはずだが触れても確かな物質の感触があり、高熱も感じることはなかった。

『 光矢(ルクス・サギタ) 』というより、白色魔力を固めたサリエルの『 杭(サギタ) 』と同じようなものか。

「う、おぉおおおおおおお!」

ほんの僅かな躊躇を振り切って、一息に矢を抜き放った。

左目の奥で、何かがブチブチと千切れる感覚、眼孔が瞬間的に押し広げられる感覚、どちらも二度と経験したいと思えないほどおぞましい感触を経て、

「ぐぅおお……お……」

突き刺さった眼球ごと、光の矢を抜ききった。

「はぁ……はぁ……」

矢に突き刺さった自分の目玉など見ようという気にはならなかった、反射的にそのまま矢を投げ捨てた。

空っぽになってしまった眼孔に、半ば無意識的に『肉体補填』でドロリとした黒色魔力を流し込み、そのまま押し固めて失った眼球の代わりとする。

それも所詮ただ肉体を、傷口を埋めるためだけのモノ、ガラス玉をはめ込んだのと同じように、そこに映るはずの景色を俺に見せる事は無い。

「はぁ……」

今考えるべきことは、失った目のことではない、未だ立ちはだかる敵、使徒、アイのことだけだ。

残った右目だけで、いつの間にかすぐ前までやってきていたアイを睨む。

「ごめんね、ちょっと本気出しちゃった」

ペロリと小さく舌を出して、少しだけバツの悪そうな表情のアイは、まるで悪戯が見つかった子供のようだ。

この距離なら、矢の穴が空いただけでまだ壊れてはいない『呪怨鉈「腹裂」』が届く。

だが、動けない、鉈を握る右腕がピクリとも反応しない。

決してイカれてしまったワケじゃない、この至近距離にあって攻撃する隙、タイミングが全く無いからだ。

くそっ、動けよ、相打ち覚悟でもいいから、攻撃するんだ。

リリィは気絶、フィオナは魔力切れ、戦えるのは、もう俺しかいないんだぞ!

「そんなに睨まないでよ、勝負は悪魔さん、じゃないや、クロノくん達の勝ち、ってことにしてあげるからさ」

「どういう、つもりだ……」

「どうもなにも、アタシの弓は壊れちゃったし」

両手を前に突き出して、開いた手のひらをひらひらするアイ、その動きはやはり子供っぽいコミカルさを感じさせる。

「どっちかが死ぬまで勝負をつけない、なーんて言って無いし、クロノくんも無駄に死にたくはないでしょ? っていうか、ツミキちゃんに助けられちゃったし、アタシの反則負けもあるっていうか? まぁ、そんな感じ」

今の俺には、呼吸と瞬きする以外に動くことが出来ない。

コイツの言うコトに対して、首を縦に振って肯定する気も起きなかった。

「ふふふ、今日の決闘は本気で死ぬかと思ったし、ツミキちゃんも死んじゃったしで、かなりハードモードだったけど、楽しかったよ」

ありがとね、と言いながら、気安く俺の肩を叩くアイ。

俺は反射的にその手を振り払った。

「んもー、そんなに怒らないでよねー!

でも許してあげる、三人ともよく頑張ってくれたしね、だから――」

その瞬間、アイから迸る白銀のオーラに混じって、圧倒的な殺意が奔った。

「――手ぇ出しちゃダメだからね、ミサ」

その殺意は、俺ではない、別の誰かに、そう、今気づいた、俺のすぐ後ろに立っている何者かに送られているのだった。

「なんか苦戦してるみたいだったから、折角助けにきてあげたのに、それはないでしょ」

「だ、誰だ……」

ゆっくりと振り向くと、見たことの無い少女の姿。

「第十一使徒ミサ、この私が殺してあげるんだから、感謝しなさいよねっ!」

新たな使徒を名乗る者が、そこに立っていた。