軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第118話 捨て駒

翌日、初火の月4日、今日も早朝から火の玉砲撃が続いている。

「いっぱい魔術士がいるからってバカスカ撃ちやがって……」

ギルドの窓から外を眺めていると、対岸のさらに向こう側、白い十字軍とは異なる装いの一団がふとした瞬間に目に付いた。

あれは……

「傭兵ではないでしょうか?」

「うおっ!? いきなり現れるなよフィオナ」

いつの間にやら隣に立っていた魔女にも、どうやらあの集団は見えているようだ。

「けど確かに、あいつらは格好もバラバラで俺達みたいだな」

「ええ、パンドラ遠征にあたって共和国の冒険者も傭兵団に飛び入り参加して、十字軍の色々な部隊に雇われているのでしょう」

「そういえば、フィオナもその傭兵の一人だったな」

「正確には傭兵団に参加した一冒険者ですけど。

私の時はヴァージニア陥落間近といった状況でしたので、あまり人は集らなかったようですが」

「今は違う、ってか」

ダイダロスの広大な領地全てを支配しようと、本国から続々と十字軍の増援がやってきているこの状況、傭兵もその例に漏れずってことか。

「強いのか?」

「有名なところは強いですよ、正面から戦えば私達を簡単に打ち負かす程度には。

逆に言えばそれ以外はたかが知れています、所詮は数合わせの寄せ集めですよ」

「そうか、アイツらはどうなんだ?」

「強くて有名な傭兵団は、正規軍のように装備も揃えて旗を掲げます、それが無いという事は、凡百の傭兵団ということで間違いないと思います」

そこまで警戒するほど強い、というワケではなさそうなので一安心だ。

しかし、その寄せ集めの傭兵団一つで俺達くらいの人数になるんだ、少なくとも十字軍の歩兵軍団と同じくらいの脅威と成り得る。

「隠れる事無く真っ直ぐ向かってくるな、このまま突撃しようってのか?」

そう思った時、リリィのテレパシーを介して俺の頭の中に監視部隊から報告が届く。

「クロノさん、敵の傭兵団と思しき部隊が接近中です、もう対岸まで出て来ますよ」

この声はランク1の狼型モンスターのウィンドルを使い 魔(サーヴァント) として使役している 召喚士(サモナー) の男だ。

直接人員を村の外にやるには憚れる状況において、彼らのような召喚士は実に頼れる監視役である。

「こっちでも確認した、砲撃は続いているが、外に出るしかないな」

俺は一旦フィオナへ向かって問いかける。

「一昨日は十字砲火で蜂の巣にしてやったが、それを分かった上で捨て駒的に傭兵団を突撃させよう、と敵の司令官は考えると思うか?」

「厳しい戦況の矢面に立たされるのは傭兵の常ですからね、雇う側とすれば、よく戦って死んでくれたほうが都合良いのではないですか?」

「なるほど、よく参考になったぜ――」

テレパシーに集中して、ギルドに立て篭もる全ての冒険者へ通達する。

「――敵が来るぞ、戦闘配置につけ!」

「おおーっ! アレが噂の黒の 館(ブラックボックス) かぁ、ホントに真っ黒だねぇ!」

敵から矢と雷魔法の雨が降り注ぐローヌ川の河畔にあって、アイは呑気な感想を語る。

視界の先には、それぞれ好き勝手な装備をした統一感の無い傭兵集団が、丸太にしがみ付きながら川を渡る光景が見える。

一昨日に比べれば丸太という浮力を得られるアイテムがあるだけマシと言えるが、戦況の方はむしろ悪化していた。

魔族の射手は数こそ少ないが、撃ち出す矢はかなりの精度、雷の魔法は物理法則に従って今日も川面を通電し、多くの感電者を水底へ沈める。

そして極めつけは、

「なんだっ! おいっ、何に撃たれてんだよ!?」

「誰かシールド張れよっ! こんなん先に進めるかぁ!」

ギャリギャリと機械的な音を響かせながら飛来する無数の黒き弾丸。

その出所は二箇所、片方は黒尽くめの魔術士の男がタクトを振るたびに撃ち出され、もう片方は御伽噺に登場する死神そのままの風貌の魔族であるスケルトンが、妙な筒の先から発射している。

人間にとって一撃必殺の威力を持つ黒い弾丸が飛び交う十字砲火は、一昨日と同じく、真正面から突撃をしかける愚か者を瞬く間に屠ってゆく。

ただ、防御魔法や防御の武技を習得している一握りの者が、黒い嵐の中で僅かながらの命を永らえている。

「ほらほら、さっさと行けヤロウ共! 魔族ぶっ殺せぇーぎゃははは!」

こんな状況下にあって盛り上がってるのは大将のキプロスただ一人

アイが見立てたとおり、部下の命を本当に何とも思っていないことがこの場で証明された。

しかしながら、すでに川を渡り突撃に参加した傭兵にとって、キプロスの耳障りな笑い声など届いてはいない。

「んん? あぁ良かった、アイちゃんまだ突撃してなかったんだぁ」

いつものニヤけた表情のキプロスが、目ざとく川岸に立つアイを見つけて近寄っていく。

「うわっ」

これもまたいつも通り、あからさまにイヤな顔をするアイ、だがそれで退くようならそもそもキプロスは彼女に絡んだりはしない。

「いやー凄いねぇ魔族の攻撃、必死んなっちゃってさぁ、けどホント良かったわぁ、あんなトコにアイちゃん突っ込んじゃったら――」

ちらりと対岸を一瞥するキプロス、視線の先で名も知らぬ傭兵がまた一人血を噴出して倒れた。

「――フツーに死んでたっしょ、困るんだよねぇまだ手ぇつけてないのに勝手に死なれちゃさー、数少ない俺の楽しみなのにネ」

「そ、じゃあアンタが行ってきてアレどうにかしてきてよ」

ジト目でキプロスを睨みつつ、アルザスの正門を指差すアイ。

その先ではついに防御魔法が破られ、弾丸の釣瓶打ちを喰らい吹き飛ぶ魔術士の姿があった。

「いやいや、あんなトコに飛び込むとかマジでただのバカでしょ」

「はぁ? 突撃するっつったのアンタでしょ?」

「そりゃまぁノールズのおっさんから言われた仕事だし? やんなきゃ金もらえないしょ?

まぁ、もう結構な数死んじゃったみたいだから、そろそろ引き上げてもいっかなー、なんて」

これだけで金もらえるとか傭兵業チョロすぎ、とゲラゲラ笑うキプロスに、アイは軽蔑の眼差しを送ると同時に言ってやった。

「帰るんならアンタ一人で帰んなよ」

「え、なに? アイちゃんもしかして自分も突撃するとか言っちゃうワケ? 勘弁してよ、ほらほら、一緒に帰って俺とイイコトしよーぜ」

無遠慮に伸ばされるキプロスの手をひらりとアイが避ける。

「触んないでって言ってんでしょ、アンタと一緒に行くくらいなら、私はアッチの方がよっぽどマシ」

「おいおい、マジかよ、もっと素直になんなって――」

「じゃ、行こっかツミキ」

キプロスに別れの言葉もかけず、飼い猫のツミキを引き連れてアイは川へと向かった。

すでに背を向けているので、キプロスがどんな表情をしているのかは分からない、だがアイには彼の事など万事において欠片も興味が無い。

アイの進む先にはちょうどこれから川を渡らんとする傭兵の一団がおり、彼らと一緒に渡河するために丸太へと手をかけた。

「よっしゃ、行くぞっ!」

「「おうっ!」」

「おーう!」

勇ましい傭兵達の声と、どこか間延びしたアイの掛け声が唱和する。

そして未だ冷たさの残るローヌ川へ、勢い込んで漕ぎ出してゆく傭兵達。

上空からは未だ容赦なく矢と雷が、彼らの進撃を阻まんと降り注ぐ。

「うおっ、危ねぇ!」

完全に命中する軌道をとって迫ってきた矢を、アイの前に位置する男が左手に装備した 小盾(バックラー) で弾く。

「おおー、オジサンありがと!」

「オジサン言うな! つーかオメーも射手ならちっとはやりかえしやがれ!」

「あ、そぉ? そんじゃあ私、張り切って撃っちゃうよ!」

満面の笑顔で丸太の上へ器用によじ登るアイ、ちなみにツミキは頭の上。

アイはミニスカートから伸びる艶かしい両足でしっかりと丸太をホールドして、体勢を安定させる。

丸太がひっくり帰らないのは、計らずともしがみつく傭兵達が支えとなっているからである。

「そこから撃つのかよ」

「頑張って撃つから、前進よろしくぅ」

「重いっつーの」

「ひどぉーい!」

もういいからさっさと撃てよ、と言わんばかりに非難の視線が傭兵達からアイに突き刺さる。

「そんじゃ、行くよっ!」

戦闘に耐えられるかどうか怪しい、古ぼけた木の弓を構えたアイは、矢を番えてギリギリと弦を引き絞る。

「喰らえーい!」

いちいち煩い女だな、と傭兵達が感想を抱くと同時に、アイの弓から矢が放たれる。

ヘロヘロと頼りない軌道を描いて飛んでいく矢は、遥か明後日の方向に飛んでいった。

「期待してなかったけどな」

「ま、味方に当たんなかっただけ良しとしようや」

呆れたような男達の視線を受け、アイは「ぐぬぬ」と悔しがる。

「もういいから降りろ、どうせ近くに行くまで当たんねーだろそんなんじゃよ」

「えーっ、待って、もう一回、もう一回だけ撃たせて!」

「うるせぇ、いいからさっさと降り――危ねぇっ!?」

「ほえっ?」

と、アイが正面を向いた時には、すでに雷の攻撃魔法、『 雷矢(ライン・サギタ) 』が紫電を迸らせながら目前に迫っていた。

バチィイイン!

電撃が弾ける音と共に、

「あばばばーっ!」

モロに直撃したアイが丸太から転げ落ちる。

「おいっ、お嬢ちゃん!?」

「ダメだ、アイツ落っこちまった!」

間近で炸裂した雷は、傭兵達の体へ多少なりとも通電し、鋭い痛みと痺れを残す。

溺れないよう丸太にしがみつくだけで精一杯の彼らは、とてもアイを助けにいく余裕など無い。

さらに今いる場所は丁度川の中央付近、水深も足が届かないほどに深く、痺れた手足のまま放り出されたら川底に沈む運命を辿るほかないというのは明らか。

「くそっ、可哀想に」

川へ投げ出されたアイは、そのまま傭兵達の視線に見送られて、下流に向かってどんぶらこっこと流されてゆくのであった。