軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1051話 海底遺跡に集合

「むぅー、レキもナイトフレームと戦ってみたかったデース」

「先生に呼ばれたから諦めるの」

クロノ達が帝国軍の精鋭を集めて対戦人機の特訓を行う一方、レキとウルスラはフィオナのいるルーンへとやって来ていた。

二人の所属は第一突撃大隊だが、フィオナの弟子としても認められている。『アンチクロス』序列第一位にして魔王の伴侶、帝国軍の最大火力こと魔女フィオナにお呼ばれされれば、二人に拒否権はない。

もっとも、二人ともすでに加護の覚醒にはお世話となっているので、断る気もないが。フィオナがわざわざ声をかけてくる以上、そこには必ず意味がある……たまに美味いと評判の店に食べに行くだけの時もあるが。

「ところで、ココどこデス?」

「先生が独占してると噂の、ルーンの海底遺跡でしょ、多分」

パンデモニウムから転移で飛んだ先がここである。

第四階層に設けられた秘密の魔女工房は二人にとっては第二のホ-ムと呼ぶべき慣れた場所だが、ここは明らかにそことは違う。

魔女工房は随所までドワーフ職人が無駄に手をかけて内装まで仕上げているが、転移の魔法陣が輝くこの広間は、どこか殺風景で如何にも古代遺跡系ダンジョンといった風情である。

「ようこそ海底遺跡へ。君達がお嬢様の弟子、ウルスラとレキだね」

「誰?」

「あっ、ルーンのテロリスト」

「はっはっは、昔の話さ」

初めて海底遺跡へやって来た二人を出迎えたのは、ルーンを滅ぼしかけた最悪の魔術結社『払暁学派』のボスにして、今は司法取引によってフィオナの奴隷と化している、氷魔術師クーリエであった。

以前と変わらず、様になった騎士装束に身を包み、長身の麗人は小さな二人へ笑みを向ける。

「先生は?」

「もうすぐ来られるよ。その間に、軽くここを案内しておいて欲しいと申し付けられていてね」

「ウォーウ! 探検デーッス!」

好奇心全開で嬉々として飛び出して行くレキを、ウルスラは呆れた顔で、クーリエは実に微笑ましいものをみる表情で、それぞれ見送った。

「施設の説明は君が聞いてくれればいいのかな。一番弟子なのだろう?」

「先生が認めてくれているかは分からないけど」

「認めているさ。ナミアリア様だって、弟子など取らなかったのだから」

「いや誰」

知らない人の話をされても困る、と視線を向けても、クーリエはまるで気にした様子も無く微笑むのみ。

どうやら彼女は、フィオナとは正反対で、全て分かった上で知らんぷりや気づかないフリをする類なのだと、ウルスラは察した。如何にも隠し事の得意な大人の性質だが、連絡や報告に抜かりはないだろう。

肝心な情報伝達が頻繁に抜け落ちるフィオナの秘書代わりで、こういう大人がつくのは理に適っている。少なくとも、この場にいる限りは自分の苦労も半減だと思えた。

「それじゃあ、行こうか。まずはここのメインたる黒油生産プラントから紹介するよ」

一番弟子たるウルスラには、隠すことなど何もないとばかりに、クーリエは海底遺跡について詳しく説明していった。

「私もお世話になったこの黒油は、古代でも魔力エネルギー資源の一つとして利用されていたようだ。この遺跡を稼働させているメインリアクターも、精製した黒油から高純度エーテルへと変換するコンバーター式なんだよ」

「もしかして、停止している古代遺跡も、黒油を供給すれば動くモノがあるかもしれない……いや、あったから、『払暁学派』は複数の遺跡を拠点にできた」

「鋭いね、流石は一番弟子」

「先生から貴女達の悪名は聞いている。下手に古代遺跡に詳しいから、相手にすると面倒くさいタイプだって」

「嬉しいね、私のような凡人を語ってくれるだなんて」

ルーンが長らく、『払暁学派』を潰せなかったのも仕方がないとウルスラは思った。

古代遺跡の力は本当に厄介。リリィのお膝元であるパンデモニウムであっても、フィオナの魔女工房が滞りなく運営できているのだ。拠点の隠密性は抜群。

最初にこの海底遺跡を発見、掌握し、黒油の利用にも気づいた者は、よほどの幸運か天才なのである。

そして、その人物がフィオナの母親らしい、と聞けばさもありなんといったところ。

「その黒油はどうやって精製してるの」

「かつてはここも巨龍穴だったようでね。今ではやや大きい程度の龍穴といったところだけど……この地に集まる魔力と、ここで産出される特殊な油を、半エーテルの混合体にしたのが、黒油さ。勿論、ここの設備が無ければ、再現できない代物だよ」

「そんな貴重なモノを、噴火させるための爆弾だけに利用するなんて」

「お陰様で、私は悲願叶ってお嬢様が試練を超えるのを目にできたのさ」

不死鳥と一体化し、その力を制御しきって噴火した火山を巻き戻した。フィオナが行った偉業は、ウルスラでも一回聞いただけでは理解できないものだった。

だが魔導の探求のために、如何なる犠牲や代償を支払うことも厭わないのが、魔術師というものである。そういう点でいえば、クーリエは生粋の魔術師ということなのだろうと、ウルスラは納得した。

「さて、ご覧の通りにここは貴重なエネルギー生産設備なワケだが、残念ながら軍事基地ではない。魔王陛下が求める古代兵器の類は一切ないよ」

「確かに、古代では民間用だったみたいだけど……現代基準なら、十分に戦力化できるだけの設備が整ってるの」

元より巨大な黒油精製プラントである。施設の規模はかなりのもので、それに伴って様々な工業用設備も揃っている。さらには大型の潜水型の船舶が出入りするドックもあり、防衛設備さえ整えれば、すぐさま軍事基地として利用できるだろう。

実際、先日ルーンを襲った海魔軍がここから出撃していった事を鑑みれば、すでに現代基準での軍事施設としては立派に稼働していると言えよう。

「それに 人造人間(ホムンクルス) の製造設備もあるの」

「流石に気づいたかい?」

「パンデモニウムに住んでれば、人とホムンクルスの違いなんてすぐ見分けられるようになるの」

施設を回っている最中、当たり前のように作業員が行き交っているのをウルスラは目にした。

ここはフィオナが預かる海底遺跡であり、大罪人たるクーリエが特別措置として収監も兼ねて働くことが許されている、特別な場所。そんな場所に、ウルスラとレキでも初めて来たばかりだというのに、すでに何人もの人間が勤めているはずがない。

そしてフィオナが自分で必要だと判断したクーリエ以外に、この場に『払暁学派』の人員を配置するとは思えなかった。

ここにいるのは『払暁学派』の者でも無ければ、ルーンの人々でもない。海底遺跡の秘密を遵守できる、どこの所属でもない者達。

すなわち、ここで生産されたホムンクルスに他ならない。

「彼らは先代の頃から、ここの維持管理に勤めてくれているベテランさ。私も頭が上がらないね」

「帝国にリリィ女王が支配していないホムンクルスが存在するなんて……そんな昔からいるなら、彼らの主は誰になってるの?」

「安心したまえ、今はお嬢様に全ての管理権限は譲っているさ」

これでリリィの専売特許であったホムンクルス製造も、今ではフィオナも手にしたも同然。また一つライバルとの差が縮まったことは、フィオナ派閥にいる自分にとっては喜ぶべきことかもしれないが……帝国を真っ二つに割りかねない勢力となるのは、帝国の平穏を脅かす火種である。

思うものの、リリィもフィオナも全てクロノのため、で動いているからいいだろう、とウルスラは考えることを放棄した。そんな国家の安全保障まで、自分が心配することではない。

「さて、そろそろ時間かな。一緒にお嬢様のお出迎えをしようじゃないか」

「それならランチの用意もしておくの」

「すでに手配済みさ」

「ならよし」

やはり有能な秘書がいると助かる。心からそう思いながら、ウルスラは先導するクーリエの背を追った。

◇◇◇

「な、なんでこんなことに……」

太陽神殿の御子フィアラは、本日の予定を急遽変更し、海底遺跡へと来させられていた。

あの悪名高い『払暁学派』の本拠地と噂されていた、ルーン近海の底に建つ海底遺跡である。

「紹介します。こちらが私の弟子のウルスラです。こっちは弟子? のレキです」

「その前にもっと説明しなきゃいけないことがあるでしょう、姉さん」

どこか誇らしげに二人の子供の紹介から入るフィオナに、フィアラは抗議の声を上げる。

これでも御子として多忙な身である。そこをいきなりやって来て連れ出すというならば、

それ相応の理由がなければ理解も納得もできない。

せめて、まず何をしに来たのか、から説明して欲しいものだが、

「はぁ、いつもの不死鳥コースが良かったですか?」

「二度とやるな! 次はホントにもう噴火するから! あの不死鳥もう私達の顔覚えてますよ絶対!!」

フィオナが修行と称して、メラ霊山の火口に降りては、まだ完全に眠りにつかず溶岩の中で微睡でいる不死鳥と接触する狂気の沙汰に同行させられたのが、妹で御子のフィアラである。

確かに、己の生死どころか国の存亡をかけているだけあって、恐ろしく濃密な経験となって、フィアラの御子としての実力を大きく伸ばす成果を挙げているが……前に降りた時は、半目の不死鳥と完全に目が合った。

顔を覚えられたらもうダメだ。次はこちらの姿を見た瞬間に、また悪戯小娘共が来たかと怒りで動き出す可能性が非常に高い。

フィオナは間違いなくルーンを救った救世主だが、だからといって、一回救ったから一回滅ぼす権利を持つワケではない。

「まぁまぁ、今日は私達だけなので安全ですよ」

「何が安全なのよ……」

「まずは挨拶代わりに、軽い模擬戦から始めましょう――――準備はいいですか、レキ、ウルスラ」

「イエーッス!」

「はい」

フィオナの無茶ぶりには慣れているのか、完全に適応しているのか、弟子二人組があまりに素直に配置についているのを見て、フィアラは幼いのに苦労を重ねているのかと憐れみと共感を覚えてしまう。

どうせフィオナが言い出せば聞かないので、フィアラは模擬戦程度ならと渋々、二人の反対側につこうと一歩を踏み出したが、

「フィアラもあっちです」

「ええぇ?」

「クーリエもあっちについてください」

「畏まりました、お嬢様」

フィオナの指示で、四人が同じ位置につく。

配置は自然とレキとクーリエが前衛に、ウルスラとフィアラが後衛と、一端どころか今すぐランク5名乗れるレベルの即席パーティとなった。

そんな彼女達に相対するのは、フィオナただ一人のみ。

どうやら模擬戦は、一対四でやるようだ。

「ねぇ、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫さ。ここは海魔軍の大型を爆発させても耐えられる、実験用の特に堅牢な区画だからね。御子様の御心配には及びませんよ」

クーリエは親殺しの宿敵と言うべき人物だが、この状況下で恨み節をぶつける気はフィアラにはない。ここでこうしていることが、彼女にとっての罰であり償いであると、他ならぬルーンが認めているのだから。

自分の個人的な感情はさて置いて、フィアラは純粋に気になることを問うたのだった。

海底遺跡であるこの場所で、この面子を相手にすればフィオナもそれなりに力を発揮する。ならばその火力に、海の底にあるこの場所が耐えられるのかどうか、一抹の不安を覚えるのは自然なことだろう。

「……本当に?」

「安心してください、フィアラ。私もここ最近の修行で、かなり制御の利く魔法に洗練させることが出来ました――――今回は、それを試してみようと思って」

更なる疑惑を深める妹に、フィオナは姉らしく堂々とそう宣言し、手にした五分咲きの『ワルプルギス』を振るった。

すると、俄かに床面と虚空に真っ赤な炎の魔法陣が描かれ、

キョォオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

頭上には炎の肉体を持つ火の鳥『焔鳳』と、マグマの体でとぐろを巻く大蛇『炎蛇』が召喚される。

両者共にダンジョンの奥底で危険なボスモンスターとして待ち構えていてもおかしくない、強烈な灼熱の戦意を漂わせている。それでも今すぐ暴れ出していないのは、主たるフィオナがしっかりと手綱を握っているからに他ならない。

「分かりました、いいでしょう」

初めてフィオナと会った時に決闘した際にぶつけ合った、『焔鳳』と『炎蛇』よりも強力な気配を感じるが……それでも、本気でぶっ放さない限りは大丈夫か、とフィアラは自分を納得させた。

そして、10分後に後悔することとなる。

「ノォオオオオオオオオオオオオオオッゥ!?」

「まっ、まずいの、あそこからも水漏れてるのっ!!」

「ここの亀裂は私が氷で塞ぐ! その間に何とか応急処置を!」

「な、なんでこんなことに……」

ここに来た時も同じことを言っていた気がするが、そんなことは目の前にザブザブと降り注いでくる海水の滝を前には些細なことであった。

結果的に言って、壁に穴が空いた。フィオナのせいで。

お陰様で今、自分達は浸水を防ぐべく必死で走り回っている。

まるでルーン海軍のクルーにでもなった気分だ。被弾して浸水を許した艦内は往々として修羅場となる。まさかそんな海の男達と同じ気持ちを味わうことになるとは、とフィアラは遠い目をしながら、自分に出来る限りの処置を行う。

「あっ、いいこと思いつきました。土属性上級範囲防御魔法で、全体を覆いつくせばいいのでは?」

「絶対におやめくださいお嬢様! そんなことしたら、自重で完全にこの区画が潰れます!!」

「ああ、もうっ、姉さんは黙って何もしないでください!!」

「……すみません」

こういう崩れかけの場所を何とかするような状況下において、フィオナの魔法の強さはデメリットでしかない。

二人に怒鳴られて、流石にちょっとションボリしているが、今はそんなお気持ちを気にしている暇などない。またしても新たな亀裂が発生し、吹き上がった水柱でレキが吹っ飛んで行った。

まずい、このままでは本当に処置が間に合わずに沈んでしまう……

「皆さんはどれくらい水の中で息止めていられます?」

「おい、諦めんなよぉ!!」

御子には許されない荒れた口調になるほど切羽詰まりながらも、フィアラ達は暇そうに立ち尽くす戦犯魔女を傍らに、必死の復旧作業を続けたのだった。

◇◇◇

「――――さて、ランチも済んだことですし、そろそろ本題に入るとしましょうか」

「……」

あまりの疲労感にぐったりしたフィアラは、また何か姉貴が言い出しているのに、反応する気力も起きなかった。

浸水箇所の応急処置は、ギリギリで間に合い区画は現在、排水中。圧壊の危機は免れた。

途中でホムンクルスの復旧部隊が駆け付けてくれなければ詰んでいた。後は彼らに任せておけば、完全に元通りにしてくれるという。

そうして騒ぎが収まったのをいいことに、用意されていた昼食をのうのうと食べ尽くしてから、フィオナはこう切り出した。

「西のロンバルトという国が、帝国に宣戦布告しました」

「……ええ、知っています」

新たな国家存亡の危機を話題に出されれば、フィアラも真面目に取り合うより他はない。不死鳥つついてセルフ滅亡危機をしている事実には目を瞑って。

「同時に、北のオルテンシアも迫っています。そして、スパーダの十字軍も健在。帝国は今、三正面作戦を強いられる状況です」

ロンバルトの動きは、すでにソージロが探りに行っており、フィアラの元にもかの国が大規模な侵攻準備を進めていることは間違いない、との情報は届いている。

滅亡の危機を回避し、ファナコ姫と魔王陛下の婚約という慶事に湧いていたルーンに再び危機が迫るとあって、王宮はまたしても忙しくなっているようだった。

流石に外敵への対処となっては、太陽神殿の御子であるフィアラが矢面に立つことは無い。国防はルーン国王の役目であり、太陽神殿はいざ本土決戦の危機となれば、ルーン本島と周辺島嶼防衛のために、大規模結界の起動などの防衛作戦に従事することとなるが……少なくとも、海の上での艦隊決戦において、御子の出る幕はない。

精々、必勝祈願の祈りを捧げるくらいであろう。

「それなら、私などと遊んでいないで、ルーン王宮に出向いて作戦会議でもしていればいいのではないですか?」

「そういうのはネルのお仕事ですので」

確かに、この天然魔女がいちいち口を挟んでしまえば、ハナウ王以下、将軍諸侯も振り回されて困り果てるだろう。帝国軍との連携は、信頼と実績のネル姫様に一任するのが最善だとフィアラも納得した。

「今回の戦で、私はロンバルトの相手をすることになります」

「そうなんですか?」

「そうなのです」

念を押して欲しいのではなく、どういった戦略的判断でそうなったのかを聞いたのだが……理由はどうあれ、フィオナ本人がその気なら、誰にも意見は翻せない。

「それで、姉さんは私達を集めて特訓でもしようというワケですか」

「いいえ、これからやるのは、ただの特訓ではありません――――必殺技の特訓です」

「はぁ……?」

「しかも合体技です。フィアラ、私達の姉妹の絆があれば、必ずや成し遂げられます」

「えっ、私もやんの!?」

またしても何も知らずに巻き込まれることを、フィアラはこの瞬間に悟ったのだった。