軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1046話 四帝会談(1)

「どうもぉ、こんちゃーっす。十字軍代表、第八使徒アイちゃんでーっす!!」

スパーダの玉座で胡坐をかくアイの姿が浮かび上がると同時に、俺はついリリィに視線を向けて問うてしまう。

流石のリリィも予想外の事態に、渋い表情を浮かべている。少なくとも、今すぐシャットアウトするような事は出来なさそうだ。

それを向こうは分かっているようで、アイはどこまでも余裕の態度。

姿だけ見れば、精悍なアイゼンハルト王子の肉体をしているので、玉座にあっても見劣りしない風格は漂うが……どこまでも軽いおちゃらけた態度は、国を背負う重責など気にも留めない、自分勝手な使徒らしい。

気に食わないが、そのエゴを貫き通す理不尽な力を持つからこそ、使徒なのだ。

「くふふ、フツーはこんな秘匿回線に割り込むなんて無理だけど……こっちにはジュダスのお爺ちゃんがいるからねぇ。ちょっとくらいの無茶はできるのさ」

にゃっはっは、と笑い声を挙げるアイに、思わず自分の顔に怒りが滲むのを自覚してしまう。

ジュダス。その名を出されたら、俺もちょっと冷静ではいられない。

「どこの道化が出しゃばって来たかと思えば……我が軍を前に尻尾を巻いて逃げ出した、十字軍の最強とやらではないか」

「おおおっ、コレがハイエルフの女王様! ホンモノ!? すっげぇ、おっぱいデッカ!」

最強を自負する使徒のくせに、あっけなく逃げ出したよなとエカテリーナに指摘されるも、アイはまるで気にした風もなくキャッキャと喜ぶ。

しかしエカテリーナが、妙に女好きらしいコイツがはしゃぎたくもなるほどの巨乳美人であることもまた事実。リリィも成長すれば、いつかこれくらいになるのだろうか。

「おいおい、ただの賑やかしが出て来るには少々早いのではないか? アイとやら、貴様どの面下げて、この帝を名乗る者のみが揃う場に現れたのだ」

「ほぉーん、確かにぃ、オッサンの言う通りだ。ここにおわすは押しも押されぬエルロード帝国皇帝陛下、アイちゃん史上最も熱いボスキャラこと、ホンモノ魔王クロノくん。そして期待通りのおっぱい美女なハイルエルフクイーン、北の女帝エカテリーナちゃん。そしてオッサンは、えっと、性欲大帝だっけ?」

「おお、何と嘆かわしい、西で余ほど紳士的な男はおらぬと言うのに。そこな魔王はあらゆる美姫を集めに集めておるというではないか」

急に流れ弾飛んできたんですけどぉ……なんかちょっとエカテリーナの視線が冷たくなったような気がするんだが? これ完全に冤罪なんだが??

「それじゃあ、文句があるなら名乗らせてもらおうかな――――我こそは、スパーダ十字教国の王にして、パンドラを征する剣帝アイゼンハルトなるぞぉ!」

「ふざけんな、スパーダ十字教国ってなんだよ」

「ここはアイちゃんもソレっぽいの名乗りたいじゃん? で、このアイゼンハルト君は剣王の息子じゃん? 過去最強の肉体を得たアイちゃんは、王道を行く王様プレイをすると決めているのだった。ふん!」

「彼奴は何を言っておるのだ。支離滅裂な戯言をほざくただの狂人か」

「いやはや、中々に面白いではないか。この者からは、並々ならぬ欲を感じるぞ――――だが、言葉の意味を聞くならば、旧知の仲にあるらしい魔王に問うのが早いであろう」

完全に汚物を見る目でアイを見下すエカテリーナとは対象的に、ザメクは鋭く目を光らせている。

俺に説明しろ、と分かりやすく振って来るが、使徒の情報は出来るだけ拡散しておいた方がメリットがある。別に使徒を倒してくれるなら、誰だっていいし、どんな方法でも構わない。

「第八使徒アイは、アイと名がつく者の肉体を乗っ取る能力を持っている。そうしてコイツは長きに渡って、使徒として生き続け、自由気ままに戦いの道を歩んできたようだ。そして今コイツが奪っている体は、正真正銘、本物のスパーダ第一王子アイゼンハルトのものだ。以前は新人冒険者のような少女の体を使っていた――――もしアイと戦うつもりなら、アイの名が入る奴だけは、絶対に連れて行くな」

「ああぁっー、もう、酷いよクロノくぅん、アイちゃんの秘密ネタバレしちゃうなんてぇ!?」

「転生能力、か……おぞましい寄生虫めが」

「ほぉう、ソイツは何とも興味深いのう。これも白き神の加護というヤツか」

強欲なザメクは転生してでも長寿を得られる力が欲しいのか。まぁ、白き神はどう足掻いても、魔族に力を貸すことは無い。無いものねだりも極まることになるだろう。

「それで、アイ。お前はわざわざ俺達を茶化すためだけに、ジュダスにハッキングの真似事をさせたのか」

「そんなことないよー、ほらこの場って、パンドラの命運を左右する人が揃う、重要イベントじゃん! だったら十字軍代表として、アイちゃんも顔を出してあげないと」

「十字軍の総司令官は他にいるだろう」

「ちょっと待って、もうすぐ来るから――――おーい、アルスくーん、こっちこっち」

コイツ、十字軍総司令官アルス枢機卿を呼び出しやがった。

俺達が副官を連れているのを見て、すぐに真似したといったところか。アイなら単なる見栄えのためだけに、平気で総司令でも呼びつけるだろうな。

「私が十字軍総司令官、アルス枢機卿です。パンドラを支配するお歴々の前に立ち、光栄の至り」

アイの隣に現れたアルスは、思ったよりも若い長身の男だ。掘りの深い精悍な顔立ち。身に纏った純白の法衣。その出で立ちは、年若くも十字軍を率いる総司令としても、枢機卿としても、相応しいと思えるだけの風格が漂っている。

不躾にも突然アイに呼び出されただろうに、彼の表情は万端の準備をした上でこの場に臨んでいるかのような、泰然としたものであった。

随分と出来た人物のようだな。だが、俺にとっては素直に尊敬はできない相手だ。

「お前がアルスか。サリエルが世話になったそうだな」

「はい……第七使徒サリエル卿には、格別のお力添えをいただきました。今の私があるのも、全ては彼女のお陰」

「そうか、この場で感謝の言葉でも受けてもらおうか?」

「御戯れを。第七使徒サリエル卿は、すでに魔王クロノ、貴君の手によって討たれました。我らが守護神たる第七使徒は、もうこの世のどこにもおりません」

なるほど、今更合わせる顔もないということか。

若くして枢機卿まで昇り詰めた人物だ。どの道、情でどうこうできる余地はありはしない。

サリエルとて、俺が命じれば何の躊躇もなく、この男の心臓を貫くだろう。

「ちょっとアルスくん! アイちゃんを差し置いてクロノくんと魔王っぽい話しないでよ。なんかバカみたいに見られるじゃん!?」

「これは出過ぎた真似を致しました。申し訳ございません」

コイツ今更、知的に見られたいとか思ってんのかよ。この場に出てきて一言目で道化認定されてるし、無理だろどう考えても。

そしてアルスは理不尽なお怒りを受けても、眉一つ動かさずに静々と下がる。使徒のワガママなど慣れっこか。

「それで、もう茶番は終いか? いつまでもこんな下らぬ見世物を続けようと言うならば、とても付き合いきれぬが」

「はっはっは、そう急くな女帝よ。本題はこれからではないか、のう、魔王」

「その通りだ。この場を借りて、俺は改めてエカテリーナ女王とザメク王に願いたい――――共に十字軍を討伐して欲しい」

この場にアイが現れたのは、かえって良いパフォーマンスとなったかもしれない。

ひとまず俺としては、ストレートに二人の王に同盟の打診をする。

まず通ることは無いだろうし、それぞれ十字軍と組まれるのが俺の最も嫌な展開だと見抜いてもいるだろう。

しかし、これほどふざけた調子でアイが現れたなら、たとえブラフであっても「十字軍と組む」とは言い出さないはずだ。そして恐らくは……アイもそれを受けたりはしない。

「魔王クロノ、貴様はこんな道化如きを消すのに、我らが力を借りようと言うのか?」

凍り付くようなエメラルドの瞳が俺を射貫く。

なまじオルテンシア軍はアイ含む十字軍を容易く退けている。その脅威度は低く見積もっており、帝国の方にこそ警戒を向けているのは明らかだ。

その判断を言葉だけで翻せるとは思えないが……それでも、言わずにはいられない。

「十字軍と使徒を、決して侮ってはならない。海を渡った先にあるアーク大陸シンクレア共和国、奴らの本国は非常に豊かな大国だ。パンドラに渡った兵士など、総戦力の極一部。そして何より、想像を絶する加護の力を持つ、より上位の使徒も控えている」

サリエルが明確に、第七使徒であった自分よりも遥かに格上と評した、勇者パーティだ。

シンクレアが総力戦の構えを取り、第二使徒アベル率いる勇者パーティまでもが動けば、今の帝国の総力を上げてもどこまで対抗できるか分からない。

「そして、アイがこの場に顔を出せたように、奴らもまた古代魔法を操る術を持っている。エカテリーナ女王、戦人機を持っているのが自分だけ、などとは思わぬ方が良いだろう」

「この私を古代兵器だけの女と侮るか」

「イオスヒルトがどういう女神か、ミアから直々に聞いているからな。決して侮ったりなどしない」

「そう、か……ならば、この私の野心の理由にも、すでに貴様は勘付いていると」

いいえ、勘付いてません。野心に理由なんてあったのか……

思いはするものの、ここで素直に白状してはあまりにも間抜けである。

ここは不敵に笑って誤魔化すの一択だ。

「ここまで語れば分かるだろう。十字軍はただ数が多いだけの大軍ではない。使徒という神の理に反するほど強大な力を授かった個人に、古代魔法の解明も底が知れない。現代における軍事力を支える要素を全て兼ね備えた、恐るべき侵略者なのだ」

「なるほどのう、確かにここに顔を並べた連中は、古代兵器一つで容易く蹴散らせるようなモノではない。いずれも己が軍勢を育て、英雄を抱え、古代の叡智も手に入れておる。ぶつかり合えば、お互いただでは済まぬであろう――――」

ザメクは長い髭を撫でながら、上質な酒を煽ったように感じ入った表情でそう語る。

この男もまた、俺が説明するまでもなく、いずれの軍も強大だと理解している。決して自分だけが有利なアドバンテージを誇り、一方的に蹂躙できるなどと甘い考えはしていない。

「――――なればこそ、己が手で勝ち取るに相応しい!」

「大陸の覇を競い合うなら、十字軍という外患を取り除いてからでも遅くはないはずだが」

「一理はあるが、すでに最初の相手は魔王クロノ、貴様と決めておるのだ」

「……退く気はない、か」

「いいや、先に魔王を征すのは、この私だ。安心せよ、そこな俗物と道化などと、我が気高きオルテンシアは手を取り合うことは決してない。私が誰よりも先んじて、アスベルの山を超え、アヴァロンへ攻め入ってやろう」

「ふん、クロノくんを倒すのはこのアイちゃんなんだから、運命の戦いをするより前に負けるなんて、許さないんだからね!」

「どいつもこいつも、好き勝手言いやがる」

結局は思った通り、同盟どころか不可侵条約さえ無理な有様だな。

国のトップがここまで俺を相手することに乗り気な以上、多少の利益や道理で説得する余地もない。

魔王の名前が持つ意味が大きすぎるのか。勝手に人を最大のライバルみたいに敵視しやがって、いい迷惑だ。

「余は女帝ほどのこだわりは無い故。ただ立ち塞がる相手を倒してゆくのみ――――そして、ここにいるのが余の誇る無双の剣、ロンバルト最強の勇者よ!」

まるでこの世界で唯一無二の至宝を自慢するかのように、ザメクは副官として隣に立たせていた少年を紹介する。

最強の勇者、と豪語しているが……てっきり、ただのお気に入りの侍従か何かだと思っていた。それほど、その少年は幼く、場違いな雰囲気だ。

「ロイです! 僕の聖剣は誰にも負けません!」

なんだか目に眩しいほどの純真さだ。

威勢よく啖呵を切っているものの、とても己の腕に自信がある実力者には見えない。

だが俺の隣にいるリリィのように、見た目と強さがイコールではないことは嫌と言うほど思い知っている。

だが何よりも気にするべきは、このロイと名乗った少年は黒髪黒目であることだ。

「まさか、異邦人か?」

「よく言われますけど違います!」

他でもない、本物の異邦人である俺がストレートに問うたが、ロイ少年は嘘偽りなどないとばかりに、真っ直ぐ見つめて否と叫んだ。

「両親は」

「いません!」

「ロイに身よりはない。なぁに、気にすることなど何もないぞ。余のロンバルトに異邦人、魔王と同郷の者など一人もおらぬわ」

もしロイの両親が日本人だったとしても、とっくに死んでいるってか。

確かに、そこまで気にするほどのことでもないか。俺には何を差し置いても異邦人を保護する、というほどの義務は無い。無論、見つければ放ってはおかないが。

だが恐らく、ロイは日本人と関係はない。確かに黒髪黒目ではあるが、その容貌は海外のティーンモデルみたいに愛らしい。見事に日本人離れしている。

「へぇー、ふぅーん、こんなチビっ子が最強なんて、アイちゃんちょっと信じられないなー?」

「むっ」

あからさまなアイの挑発に、ロイは分かりやすく眉根を寄せて不機嫌な表情を見せる。

ちょっと挑発されれば乗る。本当に純粋な子供らしい反応。そしてザメクに、それを止めるような素振りはない。

「じゃあ、そのご自慢の聖剣とやら、見せてみなよ。白き神に選ばれしモノホン使徒が、目利きしてあげようじゃないかね」

「ならば見よ、これが僕の聖剣――――『サロスダイト』!!」

正眼の構えをとったロイの両手に、俄かに虹色の光が輝き、次の瞬間には神々しいオーラを纏った一振りの長剣が握られていた。

「むむむぅ……なるほどぉ……アルスくんどう思う?」

「少なくとも白き神の祝福を授かったものではありませんね。ですが、大いなる力を秘めているのは確かでしょう」

「うむ、大いなる力を秘めていると感じる! ロイくん、合格!!」

「よし!」

なんだこの茶番、と思っているのはエカテリーナも同様のようだ。しかし、つまらなそうに視線を逸らすでもなく、その冷めきった翡翠の瞳は油断なく、ロンバルトが誇る聖剣を捉えていた。

そして俺も、ロイの握る聖剣には、どこか感じ入るところがある。

「なぁ、リリィ、もしかしてあの剣――――」

「どうかしら、私には分からないわね。やっぱりテレパシーが無いと不便だわ」

ふむ、ただ見るだけではリリィでも断定はできないか。だが恐らく、間違いないだろうという確信が俺にはあった。

「伊達に最強を名乗っちゃいない。あの剣は恐ろしく強い力を秘めていることは、間違いないな」

「それって自慢の相棒より?」

「試してみるさ。もし戦場にあの子が出て来るなら……相手をするのは俺が一番いいだろう」

「はっはっは、ソイツはいい! 余が誇る聖剣の勇者、魔王のお眼鏡に叶ったと見える」

俺が本気の目を向けていることに、ザメクはいたく満足そうに笑い飛ばす。

聖剣の勇者、か。魔王を名乗っちゃいるが、俺は勇者に討たれるつもりはさらさら無い。

「西の子供自慢はもういいか? ならば次は、その小娘も紹介してやってはどうだ、魔王」

「紹介が必要か? 妖精女王リリィの名は、俺などよりも大陸に轟いていると思っていたが」

「はて、つい最近まで眠っていたものでな。魔王の噂も先ほど聞いたばかりなのだ」

そんなにリリィが気になるか。

俺がリリィに似ていると思ったように、エカテリーナもまた自分に似ていると思ったのかもしれない。

なにせリリィは、妖精女王イリスに認められている。授かった加護の強さで言えば、パンドラでも最高峰。実は使徒と同レベルくらいになってるかもしれないほどだ。

それを察しているならば、俺よりもリリィの方を警戒しているのも頷ける。

「そうか、なら挨拶くらいはしておこうか」

「リリィだよー」

手の内は一切明かすつもりはない、と言わんばかりに能天気な幼女のフリしてリリィはニッコリ笑顔で言い放った。

「リリィ、妖精女王を継ぐ者よ。お前は本当に、その男の下にいて満足か」

「ふふっ、よく分かんなーい」

「それがお前の選択か」

「リリィはずっと、クロノと一緒にいるよ」

同じエメラルドグリーンの視線が交差する。

親子のようにすら見える二人だが、まるで不倶戴天の仇敵同士が睨み合っているという方がしっくりくる。

「妖精ちゃんも久しぶりぃー。随分と立派になって……成長、したんだね」

「次は負けないからねー?」

全く空気を読まずに茶々を入れてくるアイに、リリィが笑顔で答える。

冗談ではなくマジレスだ。別に俺はサシでお前を倒したいワケじゃないからな。俺とリリィとフィオナの三人で、今度こそ完膚なきまでフルボッコにしてやりたい気持ちの方が強いくらいだ。

次は負けない。すなわち、次に俺達『エレメントマスター』と会った時が、お前の最期だ。

「ふぅむ、やはり女の考えることはよく分からんのう。あの女帝めが、何を確かめたかったのか、ロイよ、分かるか?」

「僕も全然分かりません!」

正直、俺もよく分からん。だから俺に振るなよ、ザメク。

無駄に鋭い目つきによる威圧が功を奏したか、何の追及もされることは無かった。

「それで、アイ、お前はどうするつもりだ」

「どう、って言われてもぉ」

「オルテンシアは誰よりも先んじて帝国を攻める。ロンバルトは前に立ち塞がる者を倒す。エルロード帝国はスパーダに居座るお前らをさっさと叩き潰したい。俺達のスタンスはすでに明らかとなった。その上で問いたい、アイ、お前はどうする」

ふざけたアイのことだ。ここで真面目腐って答えたとしても、気が変わったで何を仕出かしてもおかしくない。

だが、聞くだけは聞いておいた方がいいだろう。わざわざ自分から首を突っ込んだ。ここまで話を聞いて、どうしたいかくらい言えよ。

「うーん、そうだなぁ――――」