軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1001話 魔王の加護

キーンコーンカーンコーン

鐘の音と共に、ネロは一瞬だけ飛んでいた意識が戻って来る。

「ここは……」

教室、のような一室だ。

見慣れない造りと物がちらほら目に映るが、壁一面の大きな黒板と教卓、そして綺麗に整列された机と椅子の並びから、ここがいわゆる学校の教室であることはすぐに察せられた。

アヴァロンのアカデミーでも、王立スパーダ神学校でも、教室の造りに大差はない。

夕焼けのような赤い光に照らし出された、うす暗い教室内。こんな場所に自ら足を運んだ覚えなどないし、なにより寸前まで見ていたのが大草原の戦場の光景であることを、ネロははっきり認識している。

瞬間的に、自分の居場所が変わった。まるで古代遺跡で稀にある転移の罠でも踏んだかのような感覚だが、

「……なるほど、これがお前の 次元魔法(ワールドディメンション) ってことか」

「ああ、ようこそ俺の世界へ」

ネロが振り向きみれば、そこには黒衣の魔王クロノが座っていた。

教室の後ろ、一つだけ置かれたただの椅子に腰を掛けている。その姿は、制服に着替えず神学校で授業を受けている時と何ら変わらぬ、気負った様子のない佇まい。

城の玉座にあるような魔王の威風など、まるで感じられないが、

「くだらねぇ、こんなモンが魔王の加護なのかよ――――『 聖剣(ブレイドスキル) ・紅蓮』」

横薙ぎに真紅の一閃がネロより放たれる。

轟々と燃え盛る火炎の波は、椅子に座るクロノは勿論、さして広くもない教室全てを薙ぎ払う。

木製の机と椅子、はためく白いカーテン、見たことのない言語で書かれた掲示物。クロノの作り出した世界、全てを否定するように灼熱の炎の聖剣が焼き尽くす。

あっという間に焼け落ちて行く教室だが、それは綺麗に灰とか化すよりも前に、空気に溶けるかのように儚く消え去って行った。

そうして後に残ったのは、黒と赤、ただ二色の空間。

大地は黒い水面のよう。一歩踏み込めば、沈むことはないが、ゆるやかな波紋が広がって行く。

空は真紅。燃えるように真っ赤な空は、夕日のような美しさはなく、ただ鮮血を思わせる禍々しさ。

殺風景の極地と言えるような、ただ赤い空の向こうに黒い地平線だけが続く、虚しい空間にネロは立っていた。

「悪いな、ここにはまだ、何もない」

再び声のする方へ目を向ければ、焦げ跡一つないクロノが立っている。

「 次元魔法(ワールドディメンション) は神域の再現、あるいは術者の心象風景を映すらしいが……まだ今の俺には、あの教室しか映らないようだ」

「なら、ここが魔王ミアの神域か?」

「いいや、どこでもない、ただの空地だよ」

ただの空地。皮肉でクロノがそう言っているワケではなさそうだと、ネロは感じた。

それは言葉を信じたのではなく、己の体感がそう示しているのだ。

「ただ俺を逃がさないためだけに、こんな場所をわざわざ用意したってのか」

ネロの苛立たし気な言葉と共に、白銀のオーラが迸る。

この身に駆け抜ける白色魔力に、一切の淀みがない。魂の奥底から、無尽蔵に湧き上がって来る感覚にも、全く変わりはなかった。

次元魔法(ワールドディメンション) を使う最大のメリットは、使徒の加護を封じる弱体化だ。クロノがこの次元魔法を発動させたのも、それが狙いだろうと思ったが……この空間には、一切の弱体化が働いていない。

なるほど、ここは確かに空地だ。

黒き神々の加護も、白き神の加護も、何も遮ることはない、何者の領域でもないのである。

「第十三使徒ネロ、お前のために用意した場所だ。ゆっくりしていけよ」

「そうだな、ただ一刀で斬り伏せるのもつまらねぇからな」

クロノの言葉に嘲笑と共に返しながら、ゆっくりと刀を構える。

一対一の対人戦。ならば大軍を薙ぎ払う巨大な刃は必要ない。美しき聖なる刀の刃へと、ネロは白色魔力を集約させてゆき――――煌めく白刃と化した時、

「『刹那一閃』」

「『黒凪』」

蒼白の閃光と紅黒の残光が同時に弾ける。

クロノの手には、最も愛用する呪いの大鉈、『絶怨鉈「首断」』。

この程度では揺るぎもしないか、と認めながら古代鎧のブースターを噴かせた。

「『 千里疾駆(ソニックウォーカー) 』」

得意とする移動強化武技とブースターの加速も乗せた超高速で、ネロは間合いを詰める。

だが、その動きを黒と赤、二色の瞳は正確に追っていた。

「――――はっ、大口を叩いた割りに、こんなモンかよぉ!」

白と黒の乱舞。あるいは剣舞。

常人には耐えられない超高速の三次元機動で、縦横無尽の剣撃を振るうネロに対し、クロノは的確に『首断』を振るって凌ぐ。

数多の残像を残しながら飛び回り、駆け回り、あらゆる方向から斬りかかって来るネロの攻撃を、その場に留まったまま捌き続ける。

『聖霊刀「神白星」』と『絶怨鉈「首断」』。互いの愛剣による斬り合いをしばしの間続けた後、先に動いたのはやはりネロであった。

クロノは防戦一方ではあるが、ただ斬るだけでは押し切れないほどには堅実に守っている。しかし戦いとは総合力。純粋な剣の腕前のみで決まるわけではない。

そしてネロはただの剣士ではなく、魔法剣士。魔剣を操ってこそ。

「コイツもその鉈一本で凌げるかよ――――『 聖剣(ブレイドスキル) ・疾風迅雷』!」

右手に握った『神白星』に、嵐が纏われる。

風の聖剣『疾風』と雷の聖剣『迅雷』の同時発動。相性のいい属性同士を組み合わせた双属性の 聖剣(ブレイドスキル) が、この『疾風迅雷』だ。

刀身に渦巻く竜巻は真空の刃を無数に隠し、さらにはバリバリと強烈な紫電が弾ける。一振りすれば、風の刃と雷の槍が同時に襲い掛かるだろう。

「『 聖剣(ブレイドスキル) ・流水白雪』」

さらに左手を伸ばせば、凍てつく白いレイピアが現れる。

透き通った水晶のような氷で形成されたレイピアから真っ白い冷気が迸り、その中で幾つもの水球が雲のように浮いていた。

「この俺の二刀流に、ついて来れるか」

振るわれる刃は二つ。されど飛び交う斬撃は各属性四つ分。

『疾風迅雷』より、幾つもの風の刃と雷撃が。『流水白雪』からは氷の細槍と高水圧によって光線のように撃ち出された飛沫が飛ぶ。

前方の空間を圧殺するような属性攻撃を前に、クロノはただ一言だけ呟く。

「『 魔剣(ソードアーツ) 』」

足元から音もなく浮かび上がって来るのは、黒一色の長剣。

何の変哲もない、どこの国、どんな街でも買える、量産品に過ぎない鉄のロングソード。兵士にも冒険者にも馴染み深いその剣は、クロノにとっても同様だった。これが一番、よく馴染む。

四つもの属性攻撃の嵐を前に、クロノはただ十本の黒化剣に命じる。

「斬り払え」

魔王の命に従って、黒き剣は嵐と吹雪を切り裂く。

だが所詮は量産品の剣を強化しただけ。風刃、雷撃、氷槍、水流を前に、真っ向から撃ち合えば、けたたましい音を立てて、儚く黒い破片が散る。

刃は欠けども、剣は折れず。

黒化剣は全ての攻撃を凌ぎきり、宙に残り続け、その切っ先を敵へと向け続けた。

「そんな手品みてぇな技だけで、防ぎきれるかよぉ!」

間髪入れずにネロは追撃を放つ。先よりもさらに威力と数を増した四属性攻撃がクロノに襲い掛かる。

対してクロノも同様に黒化剣を飛ばし迎撃。今度こそ耐久限界を超えて砕け散る剣が続出する中、影から再び補充して、10本の数を維持していた。

時折、黒化剣の守りだけで対応しきれない分は『首断』で防ぐ。戦況は変わらず、クロノは防戦に徹していた。

「どうした、こんなとこまで来て、やってることは安物の剣を飛ばすだけか? 俺はようやく、体が温まってきたところだぜ」

これだけの猛攻を前に、よく防いでいるとは思う。以前の自分ならば、揺るがないクロノの様子に焦りを覚えたかもしれないが、使徒となった今は違う。

湧き出す魔力は無限。体は更に濃密な白色魔力が巡り、繰り出す技の威力を上昇させてゆく。同じ技でも、自分自身が強くなれば、理屈の上では際限なく強化が出来る。

そしてネロは使徒となってから、まだ一度も本気を出していない。自分でも、どこまで上限があるのか見えないほど。強さの底が抜けた。あるいは、半端な無力感に苛む天井が崩れたのだ。

つまらない閉塞感など忘れ、あるのは全てを超越したという開放感。そして最強という名の自由。

魔王を名乗るクロノが、どれだけ強くなろうと関係ない。まだ余力を残しつつ粘っているようだが、それもいつまで続くか。

今の自分の力を知るいい機会だ。ゆっくりと試させてもらおう。クロノの実力と、そしてそれを上回り続ける、己の力を。

「簡単に吹き飛ばされるんじゃねぇぞ――――オラァッ!!」

大振りで放った二刀より、威力と範囲の増した攻撃が巻き起こる。

クロノはいまだ黒化剣で防いでいるが、剣が砕ける速度は上がって行く。当然だ、それだけネロの技の威力は上昇しているのだから。

「ははっ、いいぞ。これが神の力……俺が本当に欲しかった、真の力だ!」

ネロの攻撃は、さらに大きく、激しく、圧倒的な暴力となって吹き荒れる。

かつての自分では、決して辿り着けない領域に至っているという確信。強さに限界などない。今この瞬間も、まだ威力が上がり続けている。

恐らく、ミサやマリアベルよりもさらに大きく使徒としての強さを引き出せていた。無尽蔵の白色魔力は、怒涛のように供給され続け、魔王の血筋を引く優れた肉体はそれを受け止める最高の器となっている。

「欠片も残さず消え去れ――――『 聖剣(ブレイドスキル) ・紅蓮深山』」

左手の『流水白雪』から、瞬間的に火と土の聖剣へと切り替える。

磨き抜かれた大理石のような質感をした幅広の刀身は、刃というより鈍器のよう。しかしそこに浮かぶ刃紋は赤々と輝くマグマによって彩られ、灼熱の切れ味を与える。

炎熱を纏った巌の大剣『紅蓮深山』を、ネロは大跳躍の勢いをもって、漆黒の大地を割らんばかりに叩きつけた。

ドッ、ゴゴゴゴゴォ――――

途轍もないインパクトと共に、黒い地面が瞬間的に沸き立ち、火柱と溶岩が吹き上がった。

さながら小さな噴火口と化した着弾点、そのど真ん中にクロノを確かに捉えている。

最早、小手先の剣飛ばしなどでは防げない、絶大な衝撃と灼熱を叩き込んだ。直撃すれば、如何にクロノが頑丈な肉体を誇ろうとも、骨の欠片も残らず消え去る……と、ネロは自身の有言実行を疑わなかった。

それほどの手ごたえが、確かにあったのだ。

「……なるほど、強いな」

威力だけなら、アイを超えている、などと呟きながら、クロノは平然と溶岩地帯と化した大地の真ん中に立っていた。

身に纏った悪魔の黒ローブには焦げ跡一つなく、その凶悪な容貌に煤の一筋もない。

ただ、自らの立つ足元だけに十本の黒化剣で囲うように突き立て、地面を伝わる熱を防いだようだ。クロノの立っている場所だけが、ぽっかりと孤島のようにマグマの海に黒い大地を残していた。

「何故だ……どうして使徒でもないテメェが、こうも平然としてられる……」

ただの人間では決して至ることができない、神に選ばれし使徒にしか許されない領域の戦い。その渦中にあって、クロノは最初と変わらぬ佇まいを貫いている。

奴の強さなど、とうに超えたはず。

それだけの力がこの身に宿っているという実感もある。

無限に上がり続ける力の高揚感で、ネロは今この瞬間まで気づけなかった。自分が上機嫌に叩き込んでいた数々の攻撃が、クロノに対して全くダメージが通っていないという紛れもない事実に。

「それが魔王の加護なのか! この俺が、ようやく手に入れた最強の力を……お前も簡単に手に入れやがって!!」

使徒と同じ力。無限の力を神から授かった、それ意外に考えられなかった。

瞬間的に湧き上がるのは、ただ、怒り。

こんな力がありながら、本当に自分が欲した時には、その一欠けらも貸すことなく、俺を、いいや、リンを見捨てた。そのくせ、クロノにだけはこうも容易く力を授けた。

許されない。許してはならない。

こんな理不尽。不平等。

まるで初心に立ち返ったような気さえする。こんなふざけた理を変えたくて、魔王になりたかった――――けれど、その境地に至ったのは、俺ではなくクロノだった。

ネロは再び、残酷な現実を突きつけられた気がした。お前は選ばれなかった。神に選ばれたのは、お前ではなく別の男だったのだと。

「お前には、そう見えるのか。これが使徒と同じ力だと」

「そうじゃなきゃあ、何だってんだよ……この俺と並ぶなら、使徒以外にはありえねぇ!」

魔王ミアから、無限の黒色魔力を魂から供給されている。

故に、クロノの強さもまた、上限がない。使徒にのみ許された、限界突破の神の領域へと、奴は足を踏み入れている。

そんな風にネロが解釈したのだと、クロノも察していた。

「……馬鹿だな、お前」

だから笑った。笑ってしまった。

「そんな都合のいい力が、許されるはずがないだろう」

悲しいほどに滑稽だ。

けれど、許さない力を、現実に得てしまったネロに、もうこんな当たり前の理屈も通じないだろうとも。

だから、こんなことになってしまった。数え切れぬほどの犠牲と悲劇を積み重ねた、馬鹿げた戦いを起こしてしまったのだ。

「だからお前は、もう許されない――――」

これから俺は、お前を殺す。

戦いを初めて、ついにクロノの凶悪な二色の眼光から、殺気が放たれた。

「――――先に 世界の理(ルール) を破ったのは、 白き神(オマエ) の方だ」

故に、世界の理に反した力でもって、 使徒(ネロ) を殺す。

冥暗の月24日――――否、時刻はすでに零時を超え、25日。

「メリークリスマース!」

そう言って俺の前に現れたのは、古の魔王ミア・エルロード。

黒い制服に、巨大な漆黒のマントを靡かせて、小さな魔王は満面の笑みを浮かべていた。

「……まさかお前も抱いてくれとか言い出さないよな」

「ごめんね、僕には七人の嫁と七百七十七人の愛人がいるから」

直前までの状況が状況のせいで、自分でも素っ頓狂なことを言っちまったと後悔する。

落ち着け、ここは恐らく夢の中。

何かと因縁がつきがちな異世界での12月24日だが、今年は特に何もなく平穏無事に終われるだろうと思ったところに、サリエルが反逆してリリィ達を焚きつけて、今夜は寝室に全員集合と相成った。

俺も退くに退けず、リリィ、ネル、フィオナ、と3タテしてから、名実ともに夜伽最強の座を得たサリエルと本戦が始まり……ともかく、なんやかんやで存分に致してから眠りについたはずだ。

そして、目覚めるとハッピーな感じでクリスマスを祝うミアがいたわけだ。

無論、ベッドの上ではない。ここは夢の中に違いないのだが……ただの夢というワケではないことを、他でもない俺自身がよく知っていた。

「どうして、ここにいる」

赤い空。黒い大地。

それだけ。ただそれだけが広がる、虚しい空間だ。

「『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』――――これが君の得た魔王の加護だ。僕が現れるのに、こんなに都合がいい場所はないよ」

そうだ、これが七つの試練を超えて、ようやく俺が形にした力。

魔王の領域を生み出す 次元魔法(ワールドディメンション) 、それが『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』だ。

「発動した覚えはないんだが」

「そこはホラ、半分は僕の力だし?」

なるほど、現れようと思えば、いつだって現れることが出来るというワケか。

今日みたいに変なタイミングで来られるとイヤだなぁ……

「もう、ちゃんと僕だって空気を呼んで来るんだから。それに神様だからね、ここぞという時しか、出てこないさ」

「勝手に心を読むな……それで、今がそのここぞって時なのか?」

「次の相手は、第十三使徒ネロ。彼に挑む前に、もう少し練習しておきたいんじゃないかと思ってね。いわゆる、僕からのクリスマスプレゼントってやつ」

それでプレゼントは僕だよって言いたいワケか。

なるほど、確かに、本物が相手をしてくれるなら、願ってもないことだ。

「ふふ、いい魔法だよ」

「フィオナに比べれば、出来損ないの次元魔法だ」

そう、ここにはまだ何もない。

俺自身を強化する力や環境、あるいは使徒を封じるような効果も。今のここは、まだ単なる空地でしかない。

ただ空間を隔離しているだけ、という意味においては通常の 空間魔法(ディメンション) の中に入るのと、あまり違いはないだろう。

「うん、何もない空地。ソレがイイんじゃあないか」

クスクスと小悪魔のような笑みを浮かべるミア。

加護を与えた張本人だ。『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』の仕組みなど、俺よりも詳しく知っているに違いない。

「本当は、ミサを相手に試すつもりだったんだが」

「幸か不幸か、使わずに済んだものね」

リリィの嫉妬を乗り越えて、無事に全ての試練を終えた後、俺はずっと考えていた。

揃った七つの加護。これで何が出来るのか。

最初は、それぞれの加護を使いこなすことに集中した。獲得したはいいものの、使いこなせているとは言えないのも多い。特に『 光の魔王(オーバーリミット) 』は、反動がデカすぎて、強力だが使いどころが難しい。加減するのはもっと難しい。

けれど、七つの加護が全ての力ではない。七つ揃ったからこそ可能とする何かが、必ずあるはずだ。そして、それこそが白き神の使徒を倒すための鍵になるのではないか。

なにせ、使徒はアイを倒せば終わりではない。奴は第八であり、サリエルが抜けても、まだ半分以上の使徒が本国シンクレアには残っている。

中でも第二使徒アベル、第三使徒ミカエル、第四使徒ユダ、第五使徒ヨハネス、この四人は伝説の勇者パーティと呼ばれる、最強の使徒達だ。サリエルをしても、彼らは明確に格上の実力を持っていると断言していた。

力が必要なのだ。コイツらが出張って来ても、勝てるだけの力が――――そう思って、密かに編み出したのが、この『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』だ。

次元魔法として形になったのは、本当に最近の話。ヴァルナでの戦いで、何とかミサを相手に試すことができるかもしれない、といった状態であった。

結局、俺は罠に嵌って追い詰められ、ミサとはロクに刃を交えることもなく、戦いは終わってしまった。

だから正直、『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』が使徒に通用するかどうか、まだ俺自身も確証が持てていない。

「だから僕が来てあげたんじゃあないか――――解放、『 終焉神鍵(エンデ・デア・ヴェルト) 』」

うわっ、コレを見たのは黄金魔神カーラマーラと相対した時以来か。

普段は腰に下げられた 短杖(ワンド) に見えるが。一度それを抜けば、螺旋状に回転しながら、大きな赤い 光刃(フォースエッジ) を形成する光の剣と化す。

まるで壮大な宇宙戦争に出て来るようなビームソード系のSF武器。やっぱカッコいいな、ソレ。

「シアに倣って、僕も心行くまで君に付き合ってあげよう。さぁ、どこからでもかかって来るといい」

「そうか、ならここは一つ、胸を貸してもらおうか、魔王の大先輩」

呼びかければ、たとえ夢の中、神域の中であろうとも、静かに『首断』は現れる。

サリエルもヴァルナで加護の新たな力に目覚めた時、『暗黒騎士フリーシア』が夢の中で相手をしてくれたのだと言っていた。

実際、俺達みたいな奴らには、意味深な予言よりも、こうした実戦形式の方が分かりやすいし、ありがたい。神へと至った英雄の力を、存分に体験させてくれ――――そんな俺の戦意に呼応するように、体から、いや、魂の奥底から力が湧き上がる。

凄まじい量の黒色魔力が、溢れんばかりに体中に満ちて……それはオーラと化して放出される。

使徒と同じように、抑えきれない力の発露が、赤黒い不気味なオーラとなって全身から吹き上がった。

「凄ぇ力だ……」

「そう、これが使徒の力。世界の理を破って手にする、人には許されざる力だよ」

俺は今、使徒と同じ領域に立っている。

自分の鍛錬の末ではなく、ただ神より与えられるがままの力を宿しただけ。

「こんな力をポンと貰ってしまったら、そりゃあ人格も歪むわ」

しみじみと、そんなことを思ってしまう。

俺が超人的な力を持ちえたのは、あの地獄の人体実験があったからに過ぎない。望んで得た力ではない。どれほど強力だろうと、俺はあの苦痛を忘れない。

けれど、そうでもなければ、こんなに強い力が自分のモノになってしまうと、人は容易く力に溺れるだろう。それほどの万能感と開放感、世界の頂点に立ったかのような気分だ。

「けれど、ここは空地。世界の理にも、神の理にも反しない。だからこの場所に、限界は存在しない――――白き神が理に反して力を与えた分、僕らもまた、君に力を与えよう」

そう、これが、これこそが『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』の真髄。

何のリスクも対価もなく、願えば得られる神の力。それが使徒の強さ。

そしてそれと同じ真似を、世界と神のルールに縛られた黒き神々は決して出来ない。するワケにはいかない。そうしてしまえば、世界でも滅びるのだろう。

けれど、この『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』で作り出した空間は、黒き神々が守るべき世界ではない、全く別の空間。故に、ここがどうなろうと、世界には関係がない。

だから使える、神の力を。ここでは無制限に、黒き神々が、俺にとっては、魔王ミアが無限の力を与えてくれる。

使徒が白き神から引き出したのと、ちょうど同じ分だけ。

この場所に立つ者は、常に同等の加護が与えられる――――それが『 黒の魔王(オーバーエルロード) 』、唯一にして絶対のルールなのだ。

「この場所に、理不尽な力の差は存在しない。さぁ、正々堂々と勝負しようか」