軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話

このくだらない騒動は、陛下付きの侍従が私たちを探してきた事で強制的に終了した。

「申し訳ありませんでした」

陛下の執務室へ向かいながら、ダグラス様とライニール様お二人に謝罪を述べた。情けなくて、恥ずかしくて、なにより申し訳なくてもう居た堪れない。

「いやいや、あれはお前のせいじゃないだろう」

「そうですよ。それに、私だって冷静に対処が出来なくて却って騒ぎを大きくしてしまいました」

心なしかしょんぼりとして見えるライニール様。なんて珍しい。

「いいえ、ライニール様があのようにおっしゃって下さったからこそ、私のこの症状がアレのせいだと説得力を持たせることが出来たのです」

そうでなければ、アレの独りよがり劇場のせいで大きな疑いが残ってしまう所だった。何より、私がもう少し上手くあの馬鹿を躱すことが出来ていたら、あんな騒動にならずに済んだというのに、最近の私は本当に駄目駄目が過ぎて落ち込む。

「それにしても、なぜ団長には平気なんでしょうね」

「さぁ?」

「そりゃ決まっているだろう。口では違うと否定していながらだな、心の中では俺が兄同然だと認めているからだろうが」

「兄同然というよりは、手のかかる弟という感じですけどね」

むかっ腹は立つものの否定しきれない所が悔しい。実際、父や実兄は大丈夫なのだ。その理屈で言うと、私がダグラス様を無意識のうちに身内同然として認めているということにはなるのだけれど、ものすごく不本意である。

信頼しているか、してないかで言えば信頼はしている。けれど、それを言えばライニール様だって同じように信頼しているのだ。だが身体はライニール様を拒絶してしまう。違いを考えるなら、付き合いの長さだろうか。

「そもそも、ダグラス様が面白半分に変な事を言うからラウルが馬鹿なことを言い始めたのですよ。分かっていますか?」

「あー、それは本当にすまんって」

すまん、で済まさないで貰いたい。

「いやしかし、あれが噂の独りよがり劇場か……。初めて見たが強烈だな」

「今日のは格別に酷いです。体力も気力も持っていかれましたよ……はぁ」

「全くです。いつもは態度だけで言葉少なく察して下さいと言わんばかりの物でしたから、あんな素っ頓狂な事を言い出すのは私だって初めてです」

確かに素っ頓狂だった。言い得て妙過ぎる。

「『凍てつく氷の刃』だったか。何だそりゃ、なぁ?」

「『刃』と『矢』が混合してましたよ。統一感全くないですよねぇ」

「しかも極めつけは『天からの使命』ですからね。アレって勇者か何かでしたっけ?」

あー、思い出しても笑えるけど、同じだけ腹立たしさも込み上げる。

「それにしても、ライニールはよく平気だったな」

それは私も思った。あんな台詞を間近に聞いて、よく吹き出さず冷静でいられたな、と本気で尊敬する。私には無理っぽい。

「私には笑いより呆れの方が強かったですね。これが自分と同じく部隊を率いる者なのか、とね」

ふぅ、と力ないため息を吐いたライニール様。

「あんなでも仕事は出来たんだがなぁ、前回の件だって俺は大したフォローをすることなく、あいつの指示だけで解決したと言っても過言ではなかったんだが……うむむ」

団長としては悩ましい所なんでしょうけれど、私としても今日のラウルの有様を見る限り、騎士として有能だというのは疑問に思う。宝飾紛失事件で心を入れ替えると思いきや、どうやら買い被りだったようだと思わざるを得ない。

「きちんとけじめは付けたと聞いていましたが、あれは納得をしていないようですね」

「未だに話をしたいというくらいですから、残念な事にそのようです」

もうこれ以上何を話しても私の考えは変わらない、と宣言したのに、なぜにまた『お話』とやらをしたいのやら。

「ラウルが、というより『ご厚意』とやらなんだから、納得していないのは王弟妃だって話なんだろ?」

「なんて面倒な……」

はぁぁ、と深いため息しか出ない。

「自分の株を下げてまで尽くす様はいっそ潔いくらいだが、このままではな……」

王弟妃とラウルの件が悩ましい案件なことには違いない。余計な真似をしないで、素直に大人しくしておけばいいものを。

「アレも焦っているのでしょう。ですが随分と下手を打ったものです」

「公衆の面前でやらかしましたからね。焦ったからといって何が変わる訳でもないのに、馬鹿ですよね」

「まぁ、おかげで処分が下しやすくなりましたよ」

王弟妃宮での事なら問題にはならなかっただろうけれど、ここは王宮のど真ん中。それにも関わらず、馬鹿な真似をしてくれた。先日第4部隊隊長の座から降ろされるという処分を受けたばかりなのに、また処分を受けるつもりなのかと本当に馬鹿以外の何物でもない。

「とは言ってもな、ただでさえ人手不足だというのに、頭が痛ぇ……」

第4部隊の再編制時に少なくはない数の騎士が除隊、もしくは見習いへと降格されたので人員が足りなくなっているのだ。ダグラス様が頭を抱えてしまうのも分からないでもない。

「あぁ、そう言えば一人近い内に復帰出来る騎士がいますよ」

「お、誰だ?」

猫の助けも欲しいくらいなのだろう。ダグラス様の顔が輝く。

「おそらく数日中に報告が上がるでしょうが、第2部隊から一名復帰希望がきましたから」

「あら、もしかして……?」

思い当たるのは一人だけ。

「ええ、その予想は正しいです」

「まぁ!」

思わず、私の口からは歓喜が零れていた。

その騎士とは、私の部屋に押し入った際にダリル・ブレイスに襲われた騎士のことだ。

「それは良かったですわ。中々復帰しないから心配していたのです」

私が悪い訳ではないが、少なからず彼が負傷する要因の一部であることには変わりはない。怪我は大したことがないとは報告を受けていたけれど、その割には復帰する気配がなくて、どうしたのかとずっと気になっていたのだ。

「先日、見舞いへ伺って確認してきましたので間違いはありませんよ」

本当に良かった、と胸を撫でおろす。

「どうやら、何の抵抗も出来ず昏倒したことにひどく落ち込んでいましてね、療養をしなければならないと言うのに隠れて訓練をしていたのですよ」

「え!?」

何の為の療養か。

「おぉ、向上心溢れる若者だな!」

「そこ感心する所ではありませんからね!」

ダグラス様の脳筋め。療養というのは身体を回復させる為であって、訓練する為のものではない。

「それが結果的に不調をきたしていた身体の改善に繋がったと言うのですから、怒っていいのやら、呆れればいいのやら……」

「さすが俺の部下だな」

「今の直属の上司は私です」

まったく、と苦笑をするライニール様。口調は呆れていながらも、どこか楽しそうだ。

「その成果として、声をかける前に私の存在に気付くようになったのだから、大したものではありますけどね」

「気配を読むのが上手くなったということか?」

「さぁ。それは教えてくれませんでしたが、遠くに居た私の存在に真っ先に気付いたのは間違いないですね」

「ほう。それはなかなか興味深いな」

同じようにダグラス様も楽しそう。一体どんな訓練をしたのか気になるのだろう。

「私もたまに遠くに居るライニール様に気付く事がありますよ」

気配なんて読めませんけどね。

「おや。それはそれは」

「あ、本気にしてませんね。たまにライニール様の香水が風に乗ってくるので分かる時があるのですよ?」

「確かにライニールはいつも良い匂いがするな」

「身だしなみの一つですから」

同じ近衛騎士なのに、この違い。しかもダグラス様はその長である団長なのに、もう少し身だしなみを整えるべきだと思う。

じとーっとした私の視線に、何を言いたいのか悟ったのだろう。

「俺がライニールのように良い匂いをさせてたら気持ち悪いだろうが」

「それ自分で言います?」

想像してみても、良い香りのするダグラス様なんて思いつかないけれども。

「俺は石鹸の匂いで十分だ」

「……石鹸のような良い香りだったらいいですけれど、ダグラス様はたまに汗臭いですよ」

本当にそれは気を付けた方が良いと思う。特に陛下と共に王妃宮に来る時になんかは特に。

「そんなに臭いか?」

「たまに、ですけど臭い時があります」

王妃宮はいつもいい香りがするように整えているから、たまに汗臭いダグラス様が凄く目立つ。それが良い、と悶えている一部の使用人がいたりするけど、ごめん。私には理解が出来ない。

「あー……、……すまん」

子供のようにしょんぼりするダグラス様に、私とライニール様は顔を見合わせ小さく噴き出した。

「とりあえず、今は陛下のもとへ急ぎましょう。随分と時間を無駄にしてしまいましたから、陛下が待ちくたびれていますよ」

「違いねぇな」

「全ての責任はアレに押し付けてしまいましょう」

それが良い、と3人で笑った。